証券化と債権譲渡ファイナンス

「証券化と債権譲渡ファイナンス」
をめぐって
どう受け止めどう理解するか
成城大学 福光 寛 [email protected]
2016/5/15
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今回の報告:高橋正彦『証券化と債権譲渡ファイナンス』
NTT出版,Dec.2015, 433p.の論点を金融学会に問うもの
• 証券化に代えて債権譲渡ファイナンスに着目。
導入と総論といえる1章。金融論的関心を論じた2章、証券化法制
の展開を追った3章、倒産法制をまとめた4章、会計との関係を論じた
5章、6章として税制、今後の形態を論じた7章と内容は幅広い。
• 旧著と比較した場合、章編成を比較すると(次頁参照) 「債権譲渡
ファイナンス」の定立(全体の中から特定の面、一定の内容を取り出
して立て定めること)に傾注。この新たな概念の提起、定立とともに、
法学と経済学の融合を試みた点は画期的で高く評価できる。
• 大垣尚司『金融と法』有斐閣, May2010 と比較して、あくまで法学の
研究書として成立するように書かれているのではないか? (なおこ
こは法学部の先生に評価を譲るべき点)
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高橋正彦氏 略歴 1954年生まれ 1976年東大法学部第2類(公法)、1977年同
第1類(私法)卒 同年日本銀行入行 1997年日本資産流動化研究所調査部長
2000年横浜国立大学経営学部助教授 2001年同教授 2006年横浜国立大学博
士(学術)乙255号 新旧2著の目次編成の比較
「証券化の法と経済学」NTT出版初版
2004 増補新版2009 以下は初版から
「証券化と債権譲渡ファイナンス」NTT
出版2015
はしがき
第1章 証券化と金融システム
第2章 証券化と金融法制
第3章 証券化と倒産法制
第4章 証券化と会計
第5章 証券化と税制
終章 証券化の法と経済学を目
指して
はしがき
第1章 債権譲渡ファイナンス
第2章 証券化と金融システム
第3章 証券化と金融法制
第4章 証券化と倒産法制
第5章 証券化と会計
第6章 証券化と税制
第7章 証券化と債権譲渡ファイナ
ンスの新たな展開
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「債権譲渡ファイナンス」という上位概念の定立p.10 →
この言葉は法学(民法)と経済学(金融論)の融合を示唆している
• 新著の意義:債権譲渡ファイナンス概念の定立にある
• 「債権譲渡ファイナンス」という、新たな上位概念の定立を提案した
い。・・・従来、このように包括的な概念が意図的・明示的に用いられ
ることは、ほとんどなかった。P.10
• 超低金利が続いていることなどから、・・・我が国の証券化商品の発
行額は低迷を脱せず、発行残高も減少傾向にある。・・・一方、こうし
たなかで、証券化に限らず、債権譲渡ファイナンス全体に視野を広
げると、かなり異なった様相が表れてくるはずである。P.10
• 下線は討論者(福光)によるもの(以下同じ)。この最後の部分が問
題意識:課題設定を示していると思われる。
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債権譲渡ファイナンス論
という書物のもう一つの側面
法学、経済学、会計学を合わせて金融論を
展開する試み/これまでの経済学ベースと
は異なる金融論の理論的枠組み を示して
いるのではないか
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債権と債権譲渡 について pp.3~4
• 債権:特定人(債権者)が他の特定人(債務者)に対して、一定の行
為(給付)を請求することを内容とする権利 p.3
• :物権とともに財産権の主要なもの p.4:他人(債務者)の行為を介し
て、将来において財貨を獲得する、人と人との関係 p.4
• 債権債務関係の当事者を変更する:債権譲渡
• 債権譲渡:売買、贈与,代物弁済、譲渡担保、信託などによって、債
権者が、債務者に対する債権を、同一性を維持したまま債権譲受人
に移転し、新債権者となった譲受人の債務者に対する債権とするこ
と p.4
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指名金銭債権の譲渡 pp.5~6
• 金銭債権:一定額の金銭の給付を目的とする債権 p.6
• 指名金銭債権:債権者が特定している金銭債権
• 様々な契約(売買、賃貸借、請負、委任など)によって発生する 指
名金銭債権 p.6
譲渡の有効性: 意思主義+対抗要件
• 当事者間(旧債権者と譲受人)は合意:債権譲渡で可能 しかし債務
者および第三者に対しては対抗要件が必要 p.5
• 債務者に対しての対抗要件(債務者への通知、または債務者の承
諾) p.5
• 第三者に対しての対抗要件(通知または承諾が確定日付のある証
書をもって行われること) p.5
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金融とは pp.6~7
法学と経済学に共通する定義の模索に注目
• 経済学の観点から、金融とは、
「自己の利益とリスクにより、資
金または購買力を他者に融通
または移転する、異時点間の資
金取引」・・・(貸し手から見れ
ば)借り手・・・の依頼を受けて、
その信用・・・リスク等の諸リスク
を負いながら、自己の購買力を
移転すること p.6
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• 金融について、購買力の融通・
移転の態様に着目すると、①移
転型金融(貸借、出資)、②留保
型金融(売掛、分割払い、クレ
ジットカード、リース)、③補完型
金融(保証)、④派生型金融(デ
リバティブ、金銭債権譲渡)など
に分類することができる p.7
• 下線は福光
• 金銭債権譲渡は、先行する取
引から派生する金融取引といえ
る p.7
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法的概念である金銭債権譲渡と金融論との融合
pp.6~7
• 法的な概念である金銭債権譲渡を経済的な側面からみれば、債権
者の下に固定・滞留していた資金を広義で流動化する機能を有して
おり、それが金融取引に相当することは、定義上、当然のこと(大垣
尚司への参照指示あり) p.7
• 銀行預金:(金銭)消費寄託契約に基づく、預金者(債権者)の銀行
(債務者)に対する指名金銭債権 p.6
• 銀行貸出: (金銭)消費貸借契約に基づく、銀行(債権者)の借り手
(債務者)に対する指名金銭債権 p.6
• 法的概念による金融取引の説明の試みといえ、経済学徒には極め
て刺激的(福光)
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金銭債権譲渡形態の金融取引(表1) pp.7~8,11~12を福光が表
にまとめた。この分類表は金融実務への造詣の深さがもたらした詳細な
分類といえ 興味深い(福光)
金銭債権譲渡の形態をとる具体的な金融取引
経済的機能
1 代物弁済として行われる債権譲渡
債権回収機能
2 ファクタリング(売掛債権等の指名金銭債権の弁済期前買取り)
換価機能
3 手形割引
換価機能
4 シンジケートローン
(発展型)換価機能
5 バルクセール
(発展型)換価機能
6 第三者に金銭債権の管理・回収を行わせるために、債権譲渡の形
態をとる取引
取立て機能
7 金銭債権(売掛債権等)の譲渡担保
担保機能
8 金銭債権の流動化・証券化(真正譲渡ないし真正売買形態)
資金調達機能
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債権譲渡形態の金融取引の重要性が高
まっている p.9
• 1) 将来債権譲渡を含め、債権譲渡形態の金融取引が多様化して
きている
• 2) 中小企業金融などの分野で、政策当局が債権譲渡を活用した
新たな資金調達手段を推進している
• 3) 企業決済等の分野で、電子記録債権の利用が拡大している
• 4) 民法改正論議のなかで、将来債権譲渡を含む債権譲渡に関し
て白熱した議論が行われてきた
• 債権譲渡形態の金融取引・・・ミクロ的には企業金融の多様化や順
便化、・・・マクロ的には・・・金融システムの安定にも資する
• → 債権譲渡ファイナンスの定立 pp.9-10
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「債権譲渡ファイナンス」という上位概念の定立p.10 →
この言葉自身が法学(民法)と経済学(金融論)の融合を示唆
• 「債権譲渡ファイナンス」という、新たな上位概念の定立を提案した
い。・・・従来、このように包括的な概念が意図的・明示的に用いられ
ることは、ほとんどなかった。P.10
• 超低金利が続いていることなどから、・・・我が国の証券化商品の発
行額は低迷を脱せず、発行残高も減少傾向にある。・・・一方、こうし
たなかで、証券化に限らず、債権譲渡ファイナンス全体に視野を広
げると、かなり異なった様相が表れてくるはずである。P.10 下線は
討論者(福光)によるもの(以下同じ)
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債権譲渡ファイナンスの分析視角(表2)p.10を福光が表にまとめ
た。このように債権譲渡に分析視角を広げることで、退潮にある証券化をめ
ぐって、実は活発な動きがみられるというのが高橋氏の主張ではないか。
債権譲渡人
民間企業か
(大企業か中小企業か)
公的機関か
対象債権
指名金銭債権か
手形債権か
電子記録債権か
対象債権
既発生債権か
将来発生債権か
債権譲渡
:返済償還の引当て
真正譲渡(売買)か
:対象債権の資産価値
(実質)担保取引か
:調達者自身の返済能力
債権譲受人
SPVか
(SPCか信託か)
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それ以外か
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新たな区分法(表3)により見えてくる課題
・・・・・・高橋大会報告要旨の一部を福光が図表化
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将来債権・譲渡担保
(診療報酬債権担保融資)
将来債権・真正売買
(将来の売掛債権 事業の証券化
プロジェクトファイナンス)
既発生債権・譲渡担保
(中小企業向け売掛債権担保融資)
既発生債権・真正売買
(通常の金銭債権の証券化)
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債権譲渡ファイナンス意義付け p.12
• 金銭債権譲渡は、企業の危機時の取引から、正常業務のなかの資
金調達取引へと、徐々に変容してきた・・・正常業務のなかでの金銭
債権譲渡取引の重要性については、一般の認識が定着しつつある
p.12
• 債権流動化・証券化は・・・どちらかといえば大企業向けの資金調達
方法といえる。これに対して、債権譲渡担保は、・・・受信者である債
権譲渡人の信用力に加え、当該債権すなわち第三債務者の信用力
を引当てとした担保であるため、多くの中小企業にとっても、融資機
会を得られやすいという利点がある。p.12
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高橋 債権譲渡ファイナンス論のメッセージ
• 現状の資金余剰や超低金利の下では・・・敢えて手間暇とコストをか
けて証券化による資金調達を行う動機が乏しくなっている。pp.391-2
• 企業等の活力を保ち、ある程度の経済成長を維持するためには、…
証券化を含む債権譲渡ファイナンスなどの活用により、金融仲介や
資金循環における多様性とアベイラビリティを高めていくことが重要
になる。P.392
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高橋報告:
どう受け止めどう理解するか(1)
• 高橋は債権譲渡という金融取引の重要性は高まっているという問題
意識のもと、「債権譲渡ファイナンス」という新たな概念を提起、定立
した。
• 確かに将来債権と既発生債権の区別は重要であり、これを取り込む
には、債権概念で議論することが有効かもしれない。
• 債権譲渡で説明できることが多い反面、これを従来の資産証券化と
置きかえたときに、これまで説明されていた多様な内容が、うまく説
明できなくなることに戸惑いもある。たとえば、資産を圧縮して効率
化するといった側面。あるいは、証券という形態に置き換える側面。
証券の機能も問題は譲渡だけではない。
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高橋報告:
どう受け止めどう理解するか(2)
• 債権という言葉で、おそらく、さまざまな行為を取り込みやすくなるこ
とは、もう一つの注目点である。たとえば 保険。オプション。
• 高橋が示した債権譲渡ファイナンスの展開方向は魅力的で、金融論
の武器にこれを加えたい誘惑は強い。
• 以上の問題を離れて、金融論の学徒として証券化だけでなく金融取
引という現象についての法学の言葉と問題意識を学習することの重
要性。それを我々が学習し、自分の知識の体系に取り込むことの重
要性について、私自身はなんの疑いももっていない。
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