リメディアル英語教育における チャンツの効果 いわき明星大学 教養学部地域教養学科 川井 一枝 [email protected] 本日の発表の流れ 1. はじめに(チャンツとは?) 2. チャンツを用いた実証研究 3. 課題 2015/8/28 日本リメディアル教育学会第11回全国大会 英語部会 2 1. はじめに Carolyn Graham “Jazz Chants ” から「チャンツ」へ • Carolyn Graham が考案、Jazz Chants (1978)を出版 • NY大学で英語を教える傍ら、ジャズピアニストとしても活躍 • 渡米してきたL2学習者が仕事帰りに楽しく学べるよう工夫 • アメリカ標準英語の聞く・話す技能 • 機械的な模倣と反復練習に変化(オーディオリンガルの改訂版) • 談話能力や文法知識をも強化することを意図 • 感覚・知覚・身体の動きなど全てを使う言語教育・言語学習 Graham (1983), 瀬川(1995) 他 2015/8/28 日本リメディアル教育学会第11回全国大会 英語部会 3 1. はじめに Carolyn Graham “Jazz Chants ” から「チャンツ」へ ジャズチャンツで用いられている多くのチャンクは、あらゆる年齢、英語能力の学習者 にとって役立つものであり、また一人ではなくクラス全体での反復練習は学習者の不安 を減少させる。 Richard-Amato(2003) Acton (1984) の体の動きを取り入れた体系的な発音の練習は運動感覚を鍛え、英語の ビートまたは強勢拍リズムに焦点をあてた練習になる。このリズム練習に着目したのが ジャズチャンツ、この練習がうまくいけば、学習者の読むスピードは徐々に上がり、単語 を1語ずつ読むことが克服される。教室内でダイアログを掛け合いで練習することはお 互いに良い刺激になり、単語を置き換えて自分自身のチャンツを作ることも学習者に とっては良い活動になる。 Celce-Murcia, Brinton & Goodwin(1996) 2015/8/28 日本リメディアル教育学会第11回全国大会 英語部会 4 1. はじめに Carolyn Graham “Jazz Chants ” から「チャンツ」へ • 日本では、Jazz Chatns for Children(1979)出版以後、私立小学校や 民間の児童英語教室などを中心に広まる。 • その後、日本の児童向けに作った独自のチャンツも多数出版される。 ①英米の伝承唄 (nursery rhymes) を編曲したもの ②リズム習得、単語・構文の導入を目的として作詞作曲したもの • 現在では、GrahamのJazz chantsだけではなく、教材や練習方法も含 め「チャンツ」と総称されている。 • ラジオの英語学習番組や公立小学校の外国語活動でも多用されて いる。 2015/8/28 日本リメディアル教育学会第11回全国大会 英語部会 5 1. はじめに Carolyn Graham “Jazz Chants ” から「チャンツ」へ 英語の指導(学習)に取り入れる目的として ①発音能力の向上 ②リスニング能力の向上 ③単語や構文の習得(記憶の保持) ④学習意欲を促進(楽しい・不安を減少させる等情意的な面) ⑤異文化理解を促進(使用教材によるが) 2015/8/28 日本リメディアル教育学会第11回全国大会 英語部会 6 しかし、実証的な研究が少ない • 日本では、チャンツ=子どもの英語指導というイメージがあり、 高校生や大学生以上の指導ではあまり使われない。 • 小学生はコントロールもデータの収集も難しい。 (外国語活動の必修化により、最近は集まりつつある) • 音声に関する評価や分析方法は様々で何が良いのかわからない。 • そもそも「リズム」ってどう評価するの?など曖昧な事が多い。 • 発音指導に時間を割けない=重きを置かない? • 「通じる英語」が「通じればいい英語」になっている? 2015/8/28 日本リメディアル教育学会第11回全国大会 英語部会 7 2. チャンツを用いた実証研究 1.川井(2009)から 対象:成人(30‐40代)14人 期間:11週間 方法:40分間ほどチャンツに合わせてパラレルリーディング 評価:母語話者による印象評価 結果:発音能力(音読)・リスニング能力に前後で有意差あり しかし、会話における効果は得られず、自動化したスキルにまでは至ってい ない。 2015/8/28 日本リメディアル教育学会第11回全国大会 英語部会 8 2. チャンツを用いた実証研究 2. Kawai (2014)から 対象:大学1年生・専門学校1年生52名 期間:5週間 方法:英語の習熟度を3群に分けてチャンツを15分間練習 評価:音響分析でinter-stress interval の持続時間を計測 ⇒ リズム習得の指標=発音能力の向上とした。 結果:全ての群に前後で有意差有り(リスニング能力・発音能力) 特に英語の習熟度が低い学習者の伸びが顕著であった。 2015/8/28 日本リメディアル教育学会第11回全国大会 英語部会 9 3. まとめと課題 ・先行研究からも、チャンツは子どもや英語の習熟度が低い学習者(リメ ディアル教育を必要とする者)に効果的という報告がある。 ・成人の場合は、発音のポイントを明示的に指導してからチャンツを用い て練習する方が効率的・効果的 ・情意的な面の効果もあり、L2WTCを高める効果があるのではないか? しかし、 ・使う英文の素材が限られる。 ・最初はいいが、飽きさせずに練習を長期間持続させるのが難しい。 2015/8/28 日本リメディアル教育学会第11回全国大会 英語部会 10 引用文献 • 川井(2009)「成人英語学習者に対するチャンツの効果」『東北英語教育学会研究紀要』第29号, 33-45. • 瀬川(1995) 「Jazz Chants」『現代英語教授法総覧』215-220. 大修館 • Celce-Murcia, Brinton & Goodwin(1996) Teaching Pronunciation: A Reference for Teachers of English to Speakers of Other Languages, pp.291-318. Cambridge University Press. • Graham(1983) An excerpt from Jazz Chants. In Oller,J W Jr. and Richard-Amato (eds.) Methods that Work: A Smorgasbord of Ideas for Language Teachers, pp.305-308. Newbury House. • Kawai(2014)“Effects of Chant Practice on Acquisition of Stress-Timed Rhythm: A Comparison of Three English Proficiency Levels”, 『Tohoku TEFL:JACET東北支部紀要』第5号, 12-26. • Richard-Amato(2003)Making It Happen: From Interactive to Participatory Language Teaching. Longman, 198212. 2015/8/28 日本リメディアル教育学会第11回全国大会 英語部会 11
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