障がい者虐待防止・対応に関わる法の理解 弁護士 佐藤 力(さとう つとむ) 講師紹介 弁護士・社会保険労務士・行政書士 《経歴》 茨城県出身 法政大学法学部法律学科卒 大阪大学大学院高等司法研究科修了 静岡綜合法律事務所(~2008年12月) 法テラス福岡法律事務所(~2012年3月) 法テラス島根法律事務所(~2013年6月) 《所属事務所》 佐藤力法律事務所 〒690-0006松江市伊勢宮町大同生命ビル3階 TEL0852-67-1007 FAX0852-67-3421 障がい者虐待の問題 「助けて」といえない 虐待を受けやすい 訴えることが困難 →水戸事件(水戸地判平成16年3月31日 判決判タ1213号220頁)、宇都宮病院 事件(宇都宮地判決昭和61年3月20日 刑月18巻3号196頁)など →生存権(憲法25条)、幸福追求権 (憲法13条)の点からも問題。 障がい者関係法令の動き 2011年 8月 障害者基本法改正 2012年 6月 障害者総合支援法成立 2013年 6月 障害者差別解消法成立、障 害者雇用促進法が改正 2014年1月20日「障害者権利条約」を 締結(同2月19日に発効) 障害者虐待防止法 「障害者虐待の防止、障害者の養護者 に対する支援等に関する法律」 障害者の尊厳、自立、社会参加を守り、 障害者の権利を擁護し、併せて虐待を してしまった人を支援することで、将 来の虐待を防止するための法律 平成23年6月24日公布、平成24年10月 1日施行(法施行後三年後に見直し) 障害者虐待防止法の特徴 「障害者」とは? 障害者基本法に規定する「障害者」 →身体、知的、精神障害(発達障害を 含む)その他心身の機能の障害がある 者であって、障害及び社会的障壁によ り継続的に日常生活・社会生活におい て相当な制限を受ける状態にある者 →手帳の有無は問わない 障害者虐待防止法の特徴 法律における「二つの柱」 ① 早期発見義務と通報義務 →通報の対象は「家庭」、「施設」、 「使用者(職場)」 ※高齢者虐待防止法との違い →「学校」「保育所」「病院」は? ② 養護者支援 さまざまな虐待の形態 暴力的な行為(身体的虐待) 暴言、無視、嫌がらせ(心理的虐待) 食事を与えない、必要な介助・サービ スを行わない(放棄・放任) 勝手に資産を使う(経済的虐待) わいせつな行為(性的虐待) 虐待の判断に当たって 虐待者側の「自覚」を問わない 本人の「自覚」も問わない 親や家族の意向が本人のニーズと異な る場合がある 虐待の判断はチームで行う →一人で背負いこまない 通報先と通報 「家庭」「施設」については、市町村 の障害者虐待防止センター 「使用者」(職場)については、市町 村の障害者虐待防止センター又は都道 府県の障害者権利擁護センター 「虐待を受けたと思われる」障害者を 発見したときに通報義務がある →刑法(秘密漏示罪)、個人情報保護 法によって通報は妨げられない 家庭における虐待の通報 虐待の発見 通報 市町村 ■ 事実確認(立入調査等) ■ 措置(一時保護、後見審 判請求) 施設における虐待の通報 虐待の発見 通報 市町村 報告 都道府県 ■ ■ 監督権限の適切な行使 措置等の公表 職場における虐待の通報 虐待の発見 通報 通報 市町村 通知 都道府県 報告 労働局 ■ ■ 監督権限の適切な行使 措置等の公表 虐待対応について Q;私はグループホームで相談員をし ています。グループホーム内でいじめ が行われているようです。 どのように対処したらよいのでしょ うか? 虐待対応について A;グループホーム内のいじめは虐待 に該当する可能性がありますので、障 害者虐待防止センターへの通報を検討 しましょう。 並行して、精神的ケアや関係機関の 連携による環境調整、生活支援なども 行う必要があります。 →対応を怠ると、福祉施設等が法的責 任を負う場合もある。 虐待対応について Q;私は市役所の福祉課で職員をして います。私の担当区域で知的障がいの ある方がいるのですが、同居している 男性から金銭を搾取され、消費者金融 に借金もしているようです。 しかし、本人に自覚がないため対応に 苦慮しています。 虐待対応について A;まずは生活費の確保を考え、口座 の解約、債務整理、生活保護申請など を考える必要があります。また、成年 後見制度など金銭管理も検討する必要 があります。 経済的虐待か否かの判断や対応は困 難な場合が多く(同居人でない場合な ど)、弁護士など専門家との連携は不 可欠であると思います。 虐待対応について Q;私は地域で民生委員をしています。 実は数年前から、私の担当区域で生活 をしている統合失調症の方が、ゴミ屋 敷のような家で生活をしています。 家族はいるようですが、連絡をとっ ても相手にされず、どうしてよいのか わかりません。 虐待対応について A;障害者虐待防止法はいわゆるセル フ・ネグレクトについては直接対象と していません。また、ゴミとはいうも のの、本人の財産であるため法律上の 対応には困難が伴います。また家族の 扶養義務にも限界があります。 しかし、ゴミ屋敷の背景には消費者 被害などの法的問題が隠されているこ とも多く、丁寧な見守りと弁護士との 連携で対応できるケースもあります。 虐待対応について Q;私は社会福祉法人で障害者の入所 施設を運営しています。 入所者の方で浪費がひどく、金銭管 理ができない方がいるので施設で金銭 管理をしたいと思っています。しかし、 経済的虐待と言われるのが心配です。 また判断能力がない場合に、管理者が 後見人になることは法律上可能でしょ うか? 虐待対応について A;例え障害があっても個人の財産権は 保障されなければなりません。 やむを得ず管理の必要がある場合には、 本人との契約に基づき(判断能力が必要)、契約 書・預り証の作成、ガイドラインや規則 の制定周知、出納帳による管理などを行 うべきと考えます。なお、施設管理者が 法定・任意を問わず後見人になるのは形 式的には可能ですが、利益相反や経済的 虐待とされる危険があるため注意が必要 です。 虐待対応について Q;昨年、同僚の施設職員が障害者の 方に暴行を加えているのを発見したの で、市に虐待の通報を行い、施設には 監査が入り、改善勧告がなされました。 すると、施設から突然損害賠償を請 求され、さらに解雇するとも言われま した。どうすればいいのでしょう? 虐待対応について A;虚偽であることを認識していたり、 過失があるような場合でない限り、損 害賠償責任は負わないとされ、刑法上 の秘密漏洩罪や個人情報保護法違反な どにも問われません。 また、正当な通報をした職員を解雇 したり、降格などの不利益扱いをする こともできません。 障害者差別解消法 「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮 の不提供」が禁止※ 差別を解消するための取組について政府 全体の方針を示す「基本方針」を作成 行政機関等ごと、分野ごとに障害を理由 とする差別の具体的内容等を示す「対応 要領」・「対応指針」を作成する ※ 民間事業者における「合理的配慮の 提供」は、努力義務となります。 →平成28年4月1日施行 弁護士との連携 司法ソーシャルワーク 研修会・学習会の講師 債務整理、消費者被害への対応 検討会議への出席 成年後見人など →気軽に相談できる体制を →裁判だけではない 島根県弁護士会の取り組み 高齢者・障がい者のための無料電話法 律相談について 対象は高齢者(おおむね65歳以上)、障がい者 (手帳の有無は問いません)及び家族・支援者 日時;毎週火曜日 13時30分~16時 参考資料 日本弁護士連合会高齢者・障害者の権 利に関する委員会編「障害者虐待防止 法活用ハンドブック」(民事法研究 会) 障害者福祉研究会編「逐条解説障害者 虐待防止法」(中央法規出版) 池原穀和編著「精神保健福祉の法律相 談ハンドブック」(新日本法規) 実践成年後見No43(民事法研究会)
© Copyright 2024 ExpyDoc