中国の不祥事企業はなぜ減らないのか

中国民営企業における
独立取締役の監査・監督機能
-中国企業の不祥事はなぜ減らないのか?ー
1
中国塾 2016年2月20日
[email protected]
中国民営企業における不祥事企業の特徴
・深せん上場企業の不祥事企業は、2011年は4
5社、2012年は67社、2013年は76社と
増加(深せん全上場企業1618社のうち3年間で
延べ11%が不祥事企業)。
・ST企業、国有企業を除いた61社の民営企業で
は、製造業が28社、医薬製造業9社。
<単独による不正取引が多い>
・ 1人のみ処分されている企業は18社(2人から4
人が26社、5人から9人が6社、10人以上が9
社)。
・独立取締役も処分された企業11社
・独立取締役だけが処分された企業1社(研修無受講で就
任)
<私欲による不正取引が多い>
2
・2001年「独立取締役制度の確立に関する意見書」
=独立取締役2人設置、うち1人は会計士、専門委員
会の過半数を独立取締役が占める等、英米並みの
企業統治制度⇒しかし、その後も、民営企業は不祥
事企業が増加
 「会計士資格保有者1人を設置しなければならない」
い」規定を、不祥事企業の9分の1社が順守していな
ない。
●独立取締役の研修(30時間)の義務化、研修後試
験合格者のみ就任可能(世界で最も厳しい規制)
●監査委員会の独立取締役の監査機能は?不正経
営者への抑制効果はないのか?
●中国における法律の規制は、全く無意味なのか?
3
深せん証券取引所民営上場企業の不祥事企業
不祥事データ
100
件数
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
4
2001年独立取締役制度設定後も増加
2)独立取締役の監査の弊害になる構造問題
<国有企業>
・大株主支配構造
・業務執行者と監督者
・所有と経営の分離
・内部者支配構造によ
る不平等な報酬とイン
センティブ
・取締役会の機能の形
骸化
<民営企業>
・独裁的経営体質による外
部者の監査・監督機能の限
界
・実質的権利者の支配構造
による企業内の他の経営陣
の影響力の低下
・実質的な監督者の不在
・政府の影響力
民営企業:政府の関与+独裁経営者の悪影響
5
独立取締役の実効性の有無と背景
<人材>
・独立性が高く影響力のある人材の確保
・多忙な兼任者においては情報収集の困難
・独立取締役(社会的地位)を保持したい
・経営者、政府に独立的な意見をいいづらい
<法律>
・監査役との監査機能の役割の重複
・独立取締役の影響力、決定権、責任の明確
化
・情報公開等の企業統治への市場への影響 6
民営企業の企業統治:独立取締役の実態解明
1)監査委員会における独立取締役の監査能力
2)独立取締役の監査の弊害になる構造問題
3)業種別民営企業の独立取締役の監査機能
=民営上場優良企業91社の監査委員会の調査
=効用関数による大株主支配型構造、分散型構造
4)独立取締役による不正経営者への抑制効果
=回帰分析による不正取引企業(61社)、優良企業
(89社)の独立取締役、会計士の比率の差
=究極の所有者構造における不正経営者への抑制効果
=企業と独立取締役へのアンケート・ヒアリング調査か
7
ら独立取締役の客観的評価
1)監査委員会における独立取締役の監査能力
民営上場企業91社と国有上場企業23社を対象に分析
(外国人投資家の投資が可能な上海・深せんB株市場の情報公
開量が多く時価総額の大きい企業から各業種10社ほどを選択
・国有経済が絶対的な支配地位を保持すべき=銀行業8行、保
険証券業11社(国有:銀行業3社)
・国有資本の参入可能=農産物分野8社、物流1社(国有:農
作物1社)
・国有経済の支配を一層強化=電力会社2社、医薬製造分野9
社、新エネルギー4社(国有:物流1社、鉄道2社、高速道路社
5社、電力分野5社、タクシー・交通2社)
・国有経済が撤退すべき=果汁分野9社、観光業分野10社
・国有経済の参入撤退が自由=製品製造業10社、造船・専門
製造業2社、建築業・原材料分野の20社(国有:電気機器の製
8
造メーカー4社)
国有経済の構造調整
国有経済の処遇 分類基準
業種例
所有制形式
国有独資公司
国
有 絶対的な支配
経 地位を保持す
べき業種
済
国家、社会の安全にかかわる業
種、自然独占業種、公共財及び
サービスを提供する業種、ハイ
国防軍事工業、航空工業
社会公共安全設備、電子情
報、郵便通信、マスコミ新
テク産業の重要中核企業、国民
聞、造幣、<金融>たばこ
が
支
配
す
べ
き
経済の命脈に関係する業種等
国家の支配なしでは公共サービ
スの提供、社会安定に影響し、
投資の規模が一般に比較的に大
きく、建設の周期も比較的に長
く非国有経済が参入しがたい分野
支配地位を保
持すべきだ
が、非国有資
本の参入可能
能な業種
業
国有経済の支
長期的な発展に対し有意義であ
種
配を一層強化
るが、国有経済の発展水準が不
しなければならない 十分であり、国有経済の一定の
業種
支配力を保持し、かつ、その他
の社会資本の投入を誘導すべき
である分野
国有経済が撤退
企業の規模は小さいが、発展の
すべき業種
可能性が高く、技術力が低くて
もよい分野。労働集約型業種、競
国有経済の参入
撤退が自由な業
種
電力、<鉄道運輸>と航空運輸 国有持株絶対
科学研究と総合技術サービ
支配公司
ス、公共設備サービス、水
利管理と地質探査、衛生体
育と社会サービス、教育、
芸術<農産物><物流>等
情報産業、電子及び通信設
国有持株絶対
備製造業、<新エネルギー>産
業<医薬製造><交通運輸電
信>、専用設備製造、軽紡工
業用設備製造、基礎科学研
究と総合技術サービス等
絹製品業、小型用
品製造業、ラジオテレビ設
備修理等、<食品製造及び加
支配公司
寡頭独占及び
競争独占
争激化産業、民営で効率、競争力を 工業>、繊維品製造業等、小
高める必要のある分野
売業、飲食、<観光業>
一般的な競争の分野
化学原料<製品製造業>、農
林漁業に関する製品製造、
電子製品製造業、交通運輸
設備製造業、<建築>、非義務
国家株式参加
公司、株式合
作、混合所有
制
国家株式参加 9
公司、株式合
作、混合所有
大
政
府
の
関
与
小
政府関係者でない会計士(独立取締役)の比率
業種別国有支配業種
分野
会計士/独取
非政府/会計士独取
<絶対的支配地位保持業種>
銀行
37%(3/8)
12%(1/8)
会計士比率平均:45%
保険
25%(2/8)
12%(1/8)
非政会計士比率平均:16%
証券
75%(3/4)
25%(1/4)
<保持だが参入可能業種>
農作物
80%(4/5)
20%(1/5)
会計士比率平均:56%
鉄道
33%(1/3)
33%(1/3)
<支配一層強化業種>
医薬製造
57%(4/7)
57%(4/7)
会計士比率平均:69%
新 エ ネ ル 100%(4/4)
ギー
非政会計士比率平均:61%
電力
50%(1/2)
50%(1/2)
<撤退すべき業種>
観光業
50%(5/10)
50%(5/10)
会計士比率平均:50%
果汁
50%(4/8)
25%(2/8)
<参入撤退自由な業種>
製造
80%(4/5)
80%(4/5)
会計士比率平均:73%
建築
65%(13/20
60% (12/20)
非政会計士比率平均:28%
75%(3/4)
監査機
能が最
も高い
業種=
政府の
関与の
最も少
ない業
種
非政会計士比率平均:38%
非政会計士比率平均:70%
10
監査委員会に取締役の影響が少ない業種
国有経済の処遇
分野
取締役の非構成員企業
/全体の企業数
<絶対的支配地位保持業種>
銀行業
50%(4/8)
非構成員企業(取締役が監査委員会の 保険業
構成員でない)比率の平均:58%
証券業
25%(2/8)
<保持だが参入可能業種>
農作物
100%(5/5)
非構成員企業の平均:65%
鉄道業
33%(1/3)
<支配一層強化業種>
医薬製造業
100%(8/8)
非構成員企業の平均:83%
新エネルギー
100%(4/4)
電力
50%(1/2)
<撤退すべき業種>
観光業
30%(3/10)
非構成員企業の平均:65%
果汁
100%(8/8)
<参入撤退自由な業種>
製造業
100%(5/5)
非構成員企業の平均:88%
建築業
75%(15/20)
100%(4/4)
取締
役の
影響
力が
最も
少な
い=
政府
の関
与が
最も
少な
11
い業
種
監査委員会における創業者及びその家族の影響力
国有経済の処遇
分野
絶対的支配地位
銀
保
業 行
持業種
保
業 険
証
業 券
農 作
保持すべきだが
物
参
入可能業種
物流
支配一層強化業
医
薬
種
製
業
新
エ
ネ
ギール
電力
撤退すべき業種 観 光
業
果汁
参入撤退自由業
種
製
業 造
建 築
家族系取締 家族系独立 家族系取締役/ 家族系独立 創
役/企業
取締役/企
監査委員会
取締役/監査 業
者
業
委員会
の
25%(2/8)
13%(1/8)
13%(1/8)
13%(1/8)
影
響
が
62%(5/8)
38%(3/8)
13%(1/8)
13%(1/8)
大
25%(1/4)
25%(1/4)
25%(1/4)
25%(1/4)
き
44%(4/9)
非公開
11%(1/9)
非公開
い
=
政
0%(0/3)
0%(0/3)
0%(0/3)
0%(0/3)
府
11%(1/9)
0%(0/9)
0%(0/9)
0%(0/9)
の
関
25%(1/4)
25%(1/4)
0%(0/4)
0%(0/4)
与
が
0%(0/2)
0%(0/2)
0%(0/2)
0%(0/2)
最
30%(3/10)
10%(1/10)
0%(0/10)
0%(0/10)
も
少
22%(2/9)
0%(0/9)
22%(2/9)
22%(2/9)
な
12
い
10%(1/10)
0%(0/10)
0%(0/10)
0%(0/10)
業
55%(11/20)
5%(1/20)
15%(3/20)
15%(3/20)
3)業種別民営企業の独立取締役の監査機能
・政府所属者でない会計士資格者の独立取締役の比
率が高い企業の多い業種:政府の関与が少なく監査
能力がある⇒「参入撤退自由な業種」 「一層強化す
べき業種」
・独立取締役に一任し、取締役が監査委員会の構成
員でない構造問題が少ない業種⇒「参入撤退自由な
業種」 「一層強化すべき業種」
しかし⇔創業者及び家族が監査委員会の構成員であ
る業種⇒「参入撤退自由な業種」
13
監査委員会にて監査能力があり、政府、家族による構
造問題がない業種:「一層強化すべき業種」のみ
株式保有比率(集中型S社と分散型B社)における構
造問題
上海市国有資産監督管理委員会
(100%)
上海市国有資産監督管理委員会
(100%)
A集団公司(100%)
A実業集団(60%)
B集団有限公司(18%)
監査
役4人
B社(26.5%)
S社
・政府保有18%
取締
取締 取締 取締
・会長が0.55%、会長の親族0.42%、 取締
28%
27% 26.5%
5%
3%
0.33%保有
・2011年から2013年の売上、報酬
は増加、分配は減少(2013
時)
・政府26.5%
・会長の報酬が著しく増加(会
・常に5~10人の取締役・元取締役
長の独裁的経営)
が保有
・取締役13人、独立取締役3
・会計士の独立取締役(兼任1社)が
人
監査委員
14
・監査委員の会計士独立取締役
は8社兼任
分散型民営企業は独裁経営者の影響ない 14年12月15日に上海市にて2社取締役などにヒアリ
ング
S社とB社の独立取締役の監査機能
S社(支配型)
4人の独立取締役に政府所属者
なし、平均兼任数1.5社
 3人の独立取締役には業績促進
効果を期待、1人は法律専門、
企業統治を期待
 研修は1ヶ月前、3時間、取り
締まりや会の資料は数週間前に
配布
 監査委員会に政府の構成員は存
在せず
 独立取締役は、紹介者(会長)
との利害関係は多少あるが、他
15
の取締役とはなし(会長は株式
株式分散型企業は、創業者、政府の影響を受けにくい
保有なし)
独立取締役には経営アドバ
イザーとして業績促進効果
を期待
 研修は就任直後、1時間
 取締役会の資料は1週間前
に配布されている
 監査委員会には政府からの
監査役4人、取締役(家族
系)が構成員

B社(分散型)

4)独立取締役による不正経営者への抑制効果
・回帰分析による61社の不祥事企業、89社の優
良企業の独立取締役、会計士の比率・ヒアリング、
アンケート調査から実態把握
<独立取締役の研修の義務化>
・独立取締役は、就任決定後、研修を受講すること
が法律で定められている⇒合格者のみが就任できる。
・再任者も2年ごとに研修の受講が必要。
・研修受講をせず就任した場合⇒処分され名前を公
表される。
・研修内容は主に法律、経営戦略、監査・監督機能
⇒監査・監督機能についても指導されている。
16
企業名
長春高新
技術産業
不正
取引
規模
(万
元)
2,900
広東万家
楽
1.7億
紫光古汉
8,000
新疆中基
实业
1億
浙江宏磊
銅業
5億
長沙通程
2,000
万
四川浩物
机电
約2
億
東方鉄路
0
冠福家用
1億
浩物股
1000
万
振東製薬
3000
万
独立取締役が処分された不正取引内容
・61社のうち独立取
処分
独
会
取
監
会
秘書
内容 立取 長
締 査役 計士、 (兼)
締役の処分は11社、
締役
( 役
財
務
副
数年で増加
)
3
1
5
3
1
(1)
私的
ー独立取締役の処分
流用、
情報
内容は「公表のみ」
未公
開
がほとんど(証券取
4
1
6
0
0
1
不正
取引、
引所HPにて)
情報
未公
ー証券監督管理委員
開
1
1
3
0
1
0
虚偽
会管轄下の罰金の支
記載
払い命じた例は稀
1
1
9
3
3
1
虚偽
記載
(2005年、5万元、
4
1
4
3
1
1
資金
2014年、3万元)
流
ー研修未受講で就任
3
1
4
0
0
0
情報
公開
した独立取締役の処
3
1
9
7
6
1
不正
分が1人
取引
・アンケート結果で
1
0
0
0
0
0
情報
公開
は「独立取締役は処
3
1
5
0
1
0
不正
取引、
分を受けない」とい
情報
開示
う意識→研修中の交
17
3
1
9
1
0
1
情報
公開
流もなく周知されて
2
1
1
2
0
0
不正
いない
取引
業種別不祥事企業(深せん市場・香港市場)
深せん61社
数
%
香港
42社
数
%
1社
0.023%
絶対的な支配地
位を保持すべき
業種
2社
0.03
%
非国有資本の参
入可能な業種
2社
0.03
%
7社
0.16%
支配を一層強化
すべき業種
19
社
31%
5社
0.12%
撤退すべき業種
8社
13%
11社
26%
参入撤退が自由
な業種
31
社
51%
15社
36%
香港市場
では、独
立取締役
の監査機
能が高い
業種=不
祥事企業
は少ない
18
家族の影響が多い業種が不正取引企業が多い
4)独立取締役による経営者の不正に対する抑制効果
不祥事企業(61社)
優良企業(89社)
独立取締役の比率/取締役
58%
75%
会計士の比率/独立取締役
30%
27%
独立取締役の比率が高いと抑制効果がある。
会計士の比率は関連性なし
不正金額
処分人数
処分回数
独立取締役比率/取締役
関連性なし
関連性なし
関連性なし
会計士比率/独立取締役
関連性なし
関連性なし
関連性なし
取締役の政府所属比率
独立取締役の政府所属比率
不祥事企業
32%
42%
優良企業
32%
33%
不祥事企業は政府所属の独立取締役の比率が高い
19
(不祥事企業は時価総額も小さく英語版の年報、財務諸表なし、中国語年
版には監査委員会の情報公開なし)
独立取締役による究極の所有者への抑制効果
スカイワ―ス社
76.61%
中華薬業生物化学社
21.59%
2.95%
45.88%
Board Seat ratio
0.04%
0%
La porta’s deviation
73.66%
24.29%
Moral hazard 1
0.038%
2.12%
Moral hazard2
0.04%
0%
株価変動率
9倍
15倍
配当金額(1株当たり)
0.04-0.17
0
取締役人数
6人
独立取締役人数
3人
会計士(独立取締役)
0人
キャッシュフロー権(収益受
取権)
コントロール権(支配権)
業績悪化時
5人(07年)→2人(11
年)
3人(07年)→1人
1人
なし(株価・配当連 取締役のみ報酬減少
動なし)
20
株価・配当連動性
あり
あり
コントロール権収益:究極の所有者だけしか受け取れない利益、キャッシュフロー
権収益は、株式保有者が株式配当から得られる収益。ディックなど(Dyck and
Zingales 2001)。 La Portaの計算式に基づき算出。
1-4)独立取締役による究極の所有者(60%以上の
保有)の抑制効果
スカイワ―ス社
中華薬業生物化学(東麟)
 創設者と妹の2人が取締役
取締役2人(夫婦)の株
で株式保有は61.52%
式保有数が69%
 取締役2人、創設者とその
 取締役6人のうち1人が政
娘が会計士、非政府所属
府、報酬金額はTCL,ハイ
アールの次に高い
 会計士の独立取締役は政府
所属者ではない。
 独立取締役は3人とも非
政府だが、会計士なし
 取締役の報酬は6倍の差が
あり不平等。
⇒監査委員会に取締役は構
成員でないが、監査能力な ⇒監査委員会に会計士(家
い独立取締役が形式的な監 族)と取締役が構成員
査
・2社とも内部株主集団の割合が外部株主集団の割合より大きいため、経営者を

抑制するモニタリング効果がない(報酬・株価・売上・配当金)
21
・コントロール権収益獲得コストを増加しても抑制効果につながらず、効用最大
化のためコントロール権収益を追求し横領効果の行動を選択しやすくなるといっ
た、外部株主集団の役割が果たしづらい構造になっている
究
極
の
所
有
者
へ
の
抑
制
効
果
は
あ
ま
り
な
い
企業&独立取締役へのアンケート・ヒアリング調査結
果から独立取締役の客観的評価
ー対象者:
上海市の独立取締役(民営企業26社、国資24社)、を対象
に2013年1月から2013年5月末まで45問のアンケートを実
施後、電話・メールでのヒアリング。
ー質問項目:
・独立取締役、就任決定後の会社研修説明会について17
問
・会社研修説明時の独立取締役の監査・監督機能等につ
いての役割説明等について11問
・独立取締役だけの会や出欠等について10問
・取締役会での資料配布時期や反対意見発表等について
22
7問、合計45項目。
主な質問と回答(相違点)
民営上場企業
2-11
研修時期「直前直後」
研修時の担当者「取締役」
研修時の重要人物紹介者「取締役」
経営陣の業務内容の説明「非常に」
企業内の党(政府)組織の紹介「半数」
0%
42%
77%
8%
88%
2-16
研修時の追加希望内容「政府の影響」
27%
0%
3-2
3-5
独立取締役の役割「監査・監督機能」
監査・監督の役割説明「比較的十分」
再任の説明「全くなし」
8%
100%
4%
50%
71%
25%
3-11
自主的習得方法「政府セミナー」
38%
0%
35%
0%
38%
42%
50%
50%
2-1
2-3
2-6
2-9
3-4
4-7
5-1
5-7
独立取締役だけの食事会「1度も出席な
し」
取締役会資料配布時期「1週間前」
取締役会反対意見の発言「全くしない」
国資上
場企業
21%
25%
58%
13%
0%
23
独立取締役のアンケート質問項目と結果
2-1「初めての企業研修(説明会)はいつ?」
民営:「3ヶ月前」27%、「1~2ヶ月前」54%、国有:「3ヶ月前」29%、「1~
2ヶ月前」25%、「直前・直後」21%。
3ヶ月前までの実施は、就任企業について事前に調査する十分な時間があ
。
るが、直前・直後の実施は形式的と考えられる
2‐3「研修時において説明担当者は誰か?」
民営:「取締役」42%、「創業者」27%、「株主」15%「CEO・CFO」15%。
国有:「CEO・CFO」50%、「取締役(国資委)」25%「株主」が25%。
国有企業の独立取締役は直接政府から指導されている
2‐11「研修時に企業内の党組織を紹介されたか?」
民営:「企業内の政府関係者の半数を紹介された」88%。国有:「数人、
紹介された」29%、「全員」4%、「1人も紹介されていない」67%。
企業内の政府:工会(労働組合)より、国資委の影響力のほうが大きい
24
2‐16「研修時に追加で説明して欲しい内容は」
民営:「独立取締役の権限」35%、「重要内容の決定者」35%、「政府の
民営企業の独立取締役も自ら政府との人脈関係を築きたいと考えている
民営企業の独立取締役は、経営アドバイザーとして求められている
民営・国有企業ともに独立取締役の研修中に監査・監督の説明をしている
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4‐7「独立取締役だけの食事会に参加しているか」
民営:「参加したことがない」35%、国有:「1年に1回参加」46%、「こ
れまでに1回だけ参加」54%
民営企業は独立取締役が団結しておらず、影響を与えにくいと思われる環境
5‐1「取締役会での資料配布時期はいつか」
国有:「1週間前」50%、「2週間前」50%
民営:「1週間前」38%、「数日前」38%
数日前に配布する民営企業は、独立取締役に監査・監督機能を期待していない
5‐6「専門委員会での発言はどれくらいか」
民営・国有:「比較的多い」100%
5‐7「取締役会における反対意見があった場合の発言は」
民営:「全くしない」42%、「少ない」58%、国有:「全くしない」50%、
民営・国有ともに独立取締役は、企業内の構造問題があり、監査等の影響を与えにく
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い
民営上場企業&独立取締役へのアンケート・ヒアリン
グ結果
・民営上場企業は独立取締役に対して、「監査・監
督機能」の役割があることを説明している。
・民営上場企業は独立取締役に対して、経営アドバ
イザーとしての役割を求めている。
・企業から監査機能を求められていると思うことも
あるが、構造問題もあり、独立的意見を発言できな
いことが多い。
⇒政府の関与、独裁的経営者の影響があり、独立取締
役の監査・監督機能の弊害になっている。
・独立取締役の多くは、経営者や政府の紹介であり
独立性が低い。
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ヒアリング結果からみる民営企業の独立取締役の行動要因
・「国有企業の独立取締役は、国資委に任命された株式代表の
職務怠慢、国資株式持株の利益損失懸念⇒管理職の給料、
利潤分配、投資計画の合理性まで注意
⇔民営企業の独立取締役は、経営者や株主、情報開示、信頼
性、関連企業、取引先との関係だけに注意すればいい⇒構
造問題は国有企業のほうが複雑
・「中国の独立取締役の報酬は、取締役の最大70分の1と低く、
責任を問われることは少ない」⇒日本の社外取締役のような
責任限定制度がない⇒責任に対する意識が低い
中国の「会社法」は、取締役の義務について最低限の原則的な規定
しか置いておらず(59条~63条)、制裁については規定していない。
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民事賠償責任に関しては、規定がほとんどなく、司法解釈さえない
ため、上場会社が違法責任を問われるケースは少ない。
研修時の独立取締役の監査・監督機能の説明
「独立取締役は企業の違法行為を知った時点で証監
会、国資委に訴えることができる。また、取締役
会で拒否権を行使すれば、独立取締役の責任は追
及されない。独立取締役は、取締役会で一部の議
案について議決権があり、議案に問題があれば拒
否権を行使でき、棄権も可能である」
「実際に独立取締役が拒否権を使行すれば、経営陣
に圧力をかけることになり、拒否権や棄権などを
行使しようと試みた独立取締役は辞任に追い込ま
れた例もある」
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政府、家族の圧力が監査・監督機能の弊害に
結論
民営上場企業において、独立取締役が監査・監督としての機
能を発揮しているのは一部の業種のみ
ー深せん市場では、医薬製造・新エネルギーなどの業種⇔不祥
事企業が比較的多い)
ー香港市場(時価総額が大きく世界的に有名な企業が多い)で
は、独立取締役の監査能力のある業種=不祥事企業が少ない
(機能)

独立取締役の比率が高いほうが不祥事企業になりにくい。
 優良企業では独立取締役の監査機能の効用がある場合、不祥
事企業にはなりにくい
しかし、株式保有比率が高く、経営者の影響力が多い企業では、
効用がみられない。

⇒企業への規制は強化
●独立取締役の政府関与に対する規制が少ない
30
(監査役は政府関係者が兼任することを禁じている)
●集中型株式保有から分散型株式保有に移行
<不祥事企業への取締りの強化>
・不祥事企業は証券取引所、証券監督
管理委員会に内容を公表される
・上場企業を監督する証券取引所の権
限が2015年から強化(専門人によ
る調査部署が新設、銀行口座の調査、
凍結、閉鎖などの処分も可能に)
・不正取引の内容が複雑で刑事事件等
の重罪の場合は証券監督管理委員会が
調査
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<独立取締役向けの研修内容と機関>
1)証券取引所、30時間(4日間)、約
1500元、参加者約200人、合格者の
み修了証明書授与(名簿に登録)後、就任
可能、名刺交換、交流の規制強化
2)政府指定の大学(企業内研修と位置付
け)、研修内容、講師、研修内容の計画を
政府に提出後、講義、収賄、人脈作りの場
にならないよう集会の規制強化
3)取締役学会(英米、日本の取締役協会
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とは異なる)
⇔民営の人材育成機関はなし
御清聴ありがとうございました
柏木理佳
[email protected]
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