障害のある教員の語りから浮かび上がる 「合理的配慮」をめぐる課題 松波 めぐみ (まつなみ めぐみ) (公財)世界人権問題研究センター 照山 絢子 (てるやま じゅんこ) 筑波大学図書館情報メディア系 羽田野 真帆 (はたの まほ) 常葉大学健康プロデュース学部 本報告の目的 「障害のある教員」についての先行研究は少ない 「教育」研究といえば障害児に焦点をあてるもの 「障害のある教員」を対象とした研究の重要性 調査方法 インタビュー調査 13名の障害を持つ教員を対象(教歴1-30年) 勤務先種別 担当教科 地域 障害種別 性別 1 高等学校 英語 関西 視覚障害 男 2 盲学校、養護学校(退職) 国語 関西 視覚障害 男 3 聴覚特別支援学校(ろう学校) 体育 関東 聴覚障害(ろう) 男 4 聴覚特別支援学校(ろう学校) 国語 関東 聴覚障害(ろう) 女 5 中学校 数学/特別支援学級担任 東北 脳性まひ 男 6 小学校 特別支援学級(情緒)担任 関東 聴覚障害(難聴) 男 7 高等学校 実習助手 中国 発達障害 男 8 高等学校 数学/人権教育担当加配 関西 性同一性障害(GID) MtF GID 9 定時制高校 英語/1年生学級担任 関西 肢体不自由 男 10 視覚特別支援学校(盲学校) 関西 視覚障害(全盲) 女 関東 聴覚障害(難聴) 女 東北 聴覚障害(ろう) 男 関東 発達障害(未診断) 男 11 12 13 英語/高等部2年生学級担任 肢体不自由部門/高等部Ⅱ課程担任(国 特別支援学校 語) 聴覚特別支援学校(ろう学校) 理科 小学校 (以前の勤務校では担任も) 今回は「合理的配慮」に関わる語りを分析 合理的配慮をめぐる論点① 理解・認識のギャップ • 障害のある教員にとって既知の情報 • 教育現場全体としてはまだ的確な理解はない • 障害のある教員と管理職や同僚教員との間に温度 差が見られる 合理的配慮をめぐる論点① 放送が始まった時に必ず、ろうや難聴(の先生)の近くに いる聴の先生は、「ろうの先生に伝えてくださいね」って (いうことを放送の冒頭で流している)。それから放送の 内容が始まる。(けれども)例えば、「今から何々先生来 てくださーい」って言っても、聴こえる先生が聞いたら、 「分かりました」っていうけれども、どうやってろうに伝え るかっていうのは忘れてる(ことが多い)。(中略) 放送担当の先生が、勝手に自分で判断して、「これはろ うには伝えなくていいな」っていうのを言ってしまうので。 …それで結局自分たちに伝わってない、なんていうこと もある。情報保障の意味っていうのが、ちょっとずれてる。 ちゃんと理解してもらってない。 合理的配慮をめぐる論点① 合理的配慮の意味として、例えば、「運動会のときに足 の遅い子がいて、かわいそうだから、かけっこを1234っ て順位をつけるのをなくした」っていうようなことが(合理 的配慮だ、という話が)ありますよね。 合理的配慮をめぐる論点② 要求しにくさ • 合理的配慮を要求するかどうかは、状況に即して判断される • 理念や制度では割り切れない現実も • 「配慮」を求めることを自粛させうる様々な不可視の要因が存 在する 合理的配慮をめぐる論点② なるべくその場を穏便に済ませるっていうか。…学校の 先生っていうのは、「こじらせないように」が鉄則なので。 …もうひとつは、自分自身も、こちら(が)障害者だからっ て、聴覚障害だからって(いうことが)、だぶってるのもあ ります。それは、正直に言ってしまえば(あります)。ただ でさえ、お世話になってるんだから。そういうちょっと、深 いところで、自分(は)思ってるのかもしれないですね。 合理的配慮をめぐる論点③ 新たな問題 • 障害を持つ教員が「何らかの配慮や支援をしてあげる対象」 として客体化される • 一人ひとりの働きやすさが損なわれてしまう可能性 • 一人一人の職業人としての専門性や個性を十分に尊重する ということが軽んじられる危険性 合理的配慮をめぐる論点③ 一番大きいのは、授業の中で受け持った子供たちに、必 要な力を身につけさせるっていう、これが一番大きいです よね。だから、その上にたった上で初めて、「じゃあ障害者 として、何ができるの」っていうことが前提になります。です から、そういう意味では、「障害者ありき」というよりは、ま ず、「教員としての、自分のありき」で。 むすびにかえて 理想 現実
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