第5回 カリフォルニア臨床心理大学院カウンセリングルーム主催セミナー ~芸術の秋に 芸術療法を学びませんか~ 日本人の心に寄り添うわらべうた -新しい音楽療法としての価値を探る- 講師:森 明日佳 (CSPP 8期) 慶應義塾大学大学院附属研究所研究員 本日のアジェンダ 芸術療法とは 芸術療法いろいろ ピックアップ!音楽療法 <ワーク1> 日本人に適した音楽療法 (参考1)日本の音楽いろは わらべうたの働き (参考2)わらべうたの対象年齢 わらべうたの活用例 <ワーク2> 子どもに適した心理療法として 音楽療法とわらべうた療法 まとめ (おまけ) 芸術療法とは 「精神医学・臨床心理学・心理学の発展 の経過を辿ると,人間の表現活動や創造 行為,いわば芸術的なあらゆる分野の所 産をそれぞれまとめ上げ,それらを心身 のケア並びに治療に役立てる試みが連綿 となされている。この治療学をわが国に おいては芸術療法として一括して呼ぶ」 日本芸術療法学会名誉会長 医学博士(精神科) 日本における芸術療法の先駆者 徳田 良仁 芸術療法いろいろ 造形(絵画・粘土・陶芸・書道・箱庭・コラージュ) 音楽(鑑賞・演奏・創作) 心理劇 詩歌(鑑賞・創作)((自由詩・短歌・俳句・連句・川柳)) 舞踏 柴・田中(1993) ピックアップ・音楽療法1 <定義> 音楽療法は対象者に音楽を聴かせたり,一緒に演奏 したりすることで,対象者の心に生じる心理的変化, それに伴う身体的変化に着目した療法。 山脇・根津・椎塚(2009) 音楽療法とは,リズムに乗って体を動かしたり,メ ロディを口ずさんだり,身体の中でメロディを反芻 したりすることで人の情動に働きかけ,感情を交流 させるものであり,自発的に他者と関わる欲求が育 つことを目指したもの。 堀内(2011) ピックアップ・音楽療法2 <効果> 生理的 認知症進行抑制,声量増大,食欲増進, 血圧・心拍数低下 心理的 自己実現感覚の獲得,ストレス軽減 社会的 対人関係の拡大,集団活動の円滑化, 楽しい雰囲気の創造,会話・交流促進 <ワーク1> 聴いてみよう! やってみよう! 色んな音楽!! ♪♯♭・・ その心は・・・・? 聴けば良いのか?! モーツァルトよりバッハ派の人はどうするんだ?! 日本人に適した音楽療法 コダーイ・ゾルターン(洪・教育家他) 「自国の民族音楽を基礎に」 カール・オルフ(独・作曲家) 「音楽は母国語から出発する」 小泉文夫(民族音楽学者) 「自国の民族音楽は出発点なのです」 小学校学習指導要領 「わらべうたや日本古謡の持つ良さや楽 しさは,むしろそれぞれの土地で伝承さ れ親しまれてきたものにこそ,味わいの あるものがある」 (参考1)日本の音楽いろは -わらべうた・唱歌・童謡についてー 「わらべうた」・・・特定の作者が存在せず,地域の子どもの間で 自然に発生し,遊びの中で歌い継がれ,口頭で自発的に伝承されて きた,日本語に即した歌。 「唱歌」・・・明治5年の学制発布により,教科の中に置かれ現れ た言葉。学校で子どもたちに教え歌わせるため「文部省唱歌」が生 み出された。歌詞は文語体。軍事,徳育,勇気,忍耐,偉人,教訓 などが含まれる。旋律は欧米の民謡や讃美歌を借用。 「童謡」・・・明治維新後の,政府が作り出し主導した,西洋音楽 重視の音楽教育から生まれた「唱歌」に異を唱え,子ども達の成長 のために良い歌をと,大正時代に詩人や作曲家や画家が作った歌。 純真な童心をそのまま映す,子どものための美しい歌。 歌詞は口語体。日本の旋律と西洋音階が混在。 わらべうたの働き 発達 心 対人関係能力,自己認識,自己統制促進… 体 平衡感覚,瞬発力,敏捷性,巧緻性… 知 理解力,判断力,集中力,想像力,忍耐力… 治療 音楽療法,ダンスセラピー, タッチセラピー,遊戯療法 わらべうた“療法”として活用の可能性!! (参考2)わらべうたの対象年齢 小泉文夫(民族音楽学者) 「特に小学校低学年の音楽教育に日本古来 のわらべうたを導入すべきである」(文部 省への提案) 園部三郎(音楽評論家) 「わらべうたが効果をあげるのは就学前の 幼児や小学校低学年の児童である」 わらべうたの活用例1 A小学校での声の出せない低学年児童の事例 じゃんけんうた“たけのこめだした” 「えっさえっさ えさっさ」声が出る 読売新聞(2001/3/7) B障害児通園施設での幼児たちの事例 <自閉傾向にある幼児Xの事例> 呼びかけに無反応だったが,他クラスの遊びにも参加するようになる。 <極小未熟児,水頭症,歩行訓練中の幼児Yの事例> 他者との交流が一方的,大人への不信感が見られたが,皆の動きを模 倣し,集団遊びができるようになり,大人に安心して体を預けるよう になる。歩行器を支えに,初めて立って歩く。 <知的発達に遅れのある幼児Zの事例> 一人遊びのみしていたが,他者との関わりを持つようになる。能動的 な意思・挑戦心を発揮するようになる。 和田(2011) わらべうたの活用例2 「コダーイ・システム」 昭和42年頃から継続されている,乳幼児の保育にわらべう たを用いる運動。音楽教育家の羽仁協子がハンガリーの 「コダーイ・システム」を日本に持ち帰ったことで起こる。 昭和46年に羽仁は「コダーイ芸術教育研究所」を設立した。 4つの批判 ・メロディーや歌詞の固定化(地域性の喪失) ・遊びの画一化 ・ハンガリー音楽の理論を用いた教育(拍や音階の差異) ・現代制作された,わらべうた“風”の歌の混在 和田(2008) <ワーク2> 地域に根差すわらべうた 皆さんの出身地はどこですか? 子どもに適した心理療法として 子どもの治療に用いられるものの例 箱庭,絵画,積み木,もぐら叩き,折り紙,粘土,ピンポン, トランポリン遊び,ボール遊び,人形遊び,ごっこ遊び, 砂遊び ⇒「遊戯療法」が主であり「芸術療法」も含まれる 芸術療法のベネフィット 非言語的精神療法は,言語能力の未発達な子どもに有効とされる。 芸術療法のリスク 「箱庭療法」「絵画療法」など,芸術的・美術的要素を含む治療法に は,クライアントに「芸術的(or 綺麗な)作品に仕上げよう」とい う,意識的・無意識的な衝動が働く可能性がある。「自分の内面をあ りのままに表現する」ことから逃れようとする,「防衛機制」が働く。 ⇒「音楽療法」も同様のリスクを持つ 音楽療法とわらべうた療法 自信がない 苦手 難しい 下手なのは恥ずかしい 音楽療法 リズム感がない 音感がない 間違えちゃいけない 上手じゃないと 真面目 真剣 わらべうた療法 五線譜も 音符もない カンタン 正解がないんだ 自由なんだ 遊びみたい 治療っぽくない 笑顔 まとめ 人は十人十色。響く音楽も人それぞれ。 自国の「わらべうた」は,民衆の心の故郷。 特に子どもに 特にその地域の曲を え? 私の持ち味ですか? そうですねぇ・・・ 「壁の低さ」,ですかね。 (語:わらべうた) 遊び心を 大切に+ Happy Halloween!! Trick or Play?! 参考文献 柴眞理子・田中朱美(1993). 精神病院入院中の患者に対するダンスセラピーの展開とその 検討 人体科学 2(1), 37-47. 徳田良仁(2000). 芸術療法の現在-日本の現況と海外の動向- こころの科学(特別企画: 芸術療法) 日本評論社 92, 10-17. 松井みさ(2005). 創成期の童謡とその音階についての一考察 中国学園紀要 4, 107-110. 中山ヒサ子・武田秀勝(2008). 病院において音楽療法が異なる立場の人に与える影響への 一考察 札幌大谷短期大学紀要 38, 19-24. 宮田 知絵 (2008). 伝承わらべうた“かごめかごめ”に関する学際的手法による研究 創発 : 大阪健康福祉短期大学紀要 7, 75-85. 和田幸子(2008). わらべうたを用いた保育実践の意義と課題 生活科学研究誌 7, 219-232. 大森由美子(2009). 高齢者の音楽療法 : 介護老人保健施設における事例を通して 東海 学院大学短期大学部紀要 35, 17-24. 高橋方子・猪股千代子・佐治順子・西村亜希子・川村武・仁田新一(2009). 音楽療法の効 果を高めるための音楽療法士の関り 宮城大学看護学部紀要 12(1), 31-41. 山脇一宏・根津知佳子・椎塚久雄(2009). 6-8 音楽療法と感性(6.感性の産業応用,<特集> 感性情報学) 電子情報通信学会誌 92(11), 996-997. 堀内詩子(2011). 言葉をとおしての発達支援-保育場面での音楽と,親子教室での音楽療法 的関わりの比較検討から- 心理社会的支援研究 1, 87-95. 和田幸子(2011). わらべうたを用いた障害児保育の実践 三学出版. 室町 さやか (2013). 幼児教育におけるわらべうたの意義と指導法 〜 コダーイ・メソッド に鑑みて 〜 千葉経済大学短期大学部研究紀要 9, 45-54.
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