西大阪延伸線 都市計画事業 許認可処分取消請求事件 1 • 大阪地裁 平成20年3月27日判決 • 原告 本件事業地の周辺に居住・通勤する者 • 被告 大阪府 • 概要 西大阪延伸線を敷設する事業の認可の取消 しを、周辺住民等が求めた。 ⇒請求棄却 2 原告の主張 • 「本件事業認可には、その前提となる都市計 画決定に騒音に関する環境影響評価その他 の手続等に誤りがあるほか、本件事業認可 そのものにも実体的、内容的な瑕疵があるか ら違法である」 3 本件都市計画事業について • 西大阪延伸線… • 阪神西大阪線西九条駅(高架駅)と近鉄難波駅 (地下駅)を結ぶ約3.4kmの鉄道 • 高架構造・地表式・地下式で構成される計画 • 大阪市は平成14年に都市計画都市高速鉄道に 西大阪延伸線を追加する旨の都市計画変更決 定を行った(都市計画法87条の2第1項、15条1 項5号、同法施行令9条2項2号に基づく) • 平成15年度から平成20年度までを工事期間、平 成21年度に供用が開始される予定 4 事後調査報告書より 大阪市交通局より 5 争点 • ① 付近住民の原告適格の有無 • ② 本件事業認可の前提となる都市計画変 更決定の適法性 6 ①原告適格について • 都市計画事業の事業地の周辺に居住又は勤 務する者のうち、当該事業が実施されること により、騒音、振動等による健康又は生活環 境に関わる著しい被害を直接的に受ける恐 れのある者は、当該事業の認可の取消しを 求めるにつき法律上の利益を有し、その取消 訴訟について原告適格を有するというべきで ある。 7 ①原告適格について • 法律上の利益を有する者…当該処分により自己の 権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、ま たは必然的に侵害されるおそれのある者をいう • 「処分の取消しを求める訴えは、当該処分又は裁判の取消しを求 めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができ る」(行政事件訴訟法9条1項) • 処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益の有無を判断するに 当たっては、当該処分又は採決の根拠となる法令の規定の文言 のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分に おいて考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。 …害されることとなる利益の内容及び性質並びに害される態様及 び程度も勘案するものとする。」(同条2項) 8 「法律上の利益」の解釈 • 「①「法律上保護された利益」説と、②「法的な保護に値す る利益」説の2つがある。①説は通説であり、判例は一貫 して①説をとる。」(櫻井・橋本、2007) • 「①説は、処分の相手以外の第三者の原告適格を判定す る場合、その第三者が主張している被侵害利益が、当該 処分の根拠法令において、行政庁が当該処分を行う場合 の処分要件とされていると読みとれるか、という解釈技法 を用いてきた。」(同上) • 「具体的な取消訴訟の原告適格を判断する際の考慮事項 として、①処分の根拠となる法令の趣旨及び目的②処分 において考慮されるべき利益の内容及び性質③処分の根 拠となる法令の目的を共通にする関係法の趣旨及び目的 ④処分が違法にされた場合に害されるおそれのある利益 の内容及び性質並びにこれが害される様態及び程度を基 本とする。」(村田・岸本、2009) 9 ○当該法令 • 都市計画法 • 環境基本法 • 環境影響評価法 • 大阪府環境影響評価条例 • 大阪市環境影響評価条例 ・・・都市計画事業の認可は当該事業が都市計画に適合して いることを基準として行うこと、都市計画は環境基本法に 基づく公害防止計画に適合するものでなければならない、 これを担保するために所定の環境影響評価の手続きが法 律及び条例によって定められている。… 事業に伴う騒音、 振動等によって、住民に健康又は生活環境の被害が発生 することを防止し、良好な生活環境を保全することも、その 趣旨及び目的とするものと解される。 ⇒原告適格はある (ただし、一部の原告については否定した) 10 • 「本判決は、小田急訴訟の枠組みに沿って原 告適格を判断しているが、新たに環境基本法 と環境影響評価法を関係法令として位置づ けたことが特徴である。」(大久保、2010) • (一部の原告で原告適格が否定されたことに 関して)「個々の住民の個別の事情を勘案し て実態に即した検討が行われた。」(村田・岸 本、2009) 11 ②都市計画変更決定の適法性 • 都市計画を決定する行政庁の広範な裁量にゆ だねられているというべきである。 • 当該決定又は変更の基礎とされた重要な事実 に誤認があること等により重要な事実の基礎を 欠くこととなる場合、又は、事実に対する評価が 明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において 考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその 内容が社会の通念に照らし著しく妥当性を欠くも のと認められる場合に限り、裁量権の範囲を逸 脱し又はこれを濫用したものとして違法とすべき。 (最高裁第一小法廷平成18年11月2日判決)←小田急線の裁判 12 ②都市計画変更決定の適法性 原告側により以下の問題点が指摘された。 西大阪延伸線の • 必要性 • 需要予測の甘さ • 地下化の検討がされていない • 環境影響評価 裁判所はこれらに対して、「事実の基礎を欠いたり、判 断の内容が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くよ うな違法があったとはいえない」とした。 ⇒大阪市が本件変更決定をしたことには、裁量権の範 囲を逸脱し、又はこれを濫用したとして違法となるとい うことはできない。 13 環境影響評価について (1)鉄道騒音の予測モデル「森藤式」の独自の改変 (2)実測データ等の間違い、恣意的な取り扱い ↓ • (1)採用が予定される騒音対策を前提として、実 測値による検証が十分にされている限り、所要 の補正がされることは容認している • (2)計測方法に誤りがあったが測定結果にはほと んど影響は無い。測定点が少ないことや異常値 として除外したことは予測モデルの検証が十分 にされているため、上記指摘は理由が無い。 14 • 環境影響評価についての原告の指摘に対し、 「本判決では、『・・・本件評価書は、十分に事後 的な検証に耐えうる』のであって、技術指針の趣 旨に反しないとしている。しかし、行政内部での 透明性ではなく、外部に対する透明性の視点か らは、疑問がないわけではない。」(下山、2010) • 本件工事施行認可取消訴訟の控訴審判決では、 本件評価書に一部過誤があることを認めている が、本件認可に裁量権の逸脱・濫用は認められ ないとしている。(高橋、2009) 15 感想 • 騒音等の健康に著しい被害を及ぼすと一般に認めら れている被害については、処分の第三者の訴えで あっても原告適格が認められやすいことがわかった。 他の環境被害についても広く認められるようになる傾 向にあるようだ。 • 環境影響評価については、いい加減な調査をしたと 受け取られておかしくないものであったと思った。事業 が始まってから違法と判決を下すのでは混乱をきた すおそれが多く、認可の段階で厳密に審査される必 要性が高い。 • 評価の技術的な誤りを裁判で審査するのは現状では 困難であるように思った。 16 参考文献 • 櫻井敬子・橋本博之 「行政法」 p274~275 弘文堂 2007年 • 村田哲夫・岸本孝之 判例地方自治318 p4~8 2009年8 月 • 大久保規子 判例地方自治326 p73~74 2010年3月 • 下山憲治 最近の重要環境判例[環境法研究35] p17~ 23 2010年10月 • 高橋信行 自治研究85巻7号 p120~142 2009年7月 図 • 大阪市交通局 路線図より http://www.kotsu.city.osaka.jp/general/eigyou/top.html • 大阪都市計画都市高速鉄道西大阪沿線に係わる事後調 査報告書(平成17年) 17
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