組織の再編

2015年春学期
「企業のしくみ」
第15回 組織の再編
樋口徹
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シャープ、取締役に「大部屋制」導入 日航などに
倣う(日本経済新聞 2014/1/9 電子版)
シャープは1月中旬をメドに取締役ら幹部が1つの部屋で執
務する「 大部屋 制」を導入する。高橋興三社長や銀行出身
の役員らが席を並べて情報を共有し、経営の意思決定を速め
る。大部屋制は日本航空などが採用して経営再建に一定の効
果を上げており、シャープも倣うことにした。
8人いる 常勤取締役 のうち、財務や企画担当取締役ら
大半が同じ部屋に入る。これまで使っていた 個室 は原則と
して使用しないようにする。
シャープは企業規模が大きくなるにつれ 縦割り 意識が強
まり、 液晶 事業への過剰投資を止められず、経営悪化を招
いた。企業 風土 の改革に経営陣が率先して取り組む。
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2-3-1 組織横断的な活動(p.37)
プロジェクトチーム
• 特定の任務を遂行するために 組織横断的 なグループを編成
することが必要な際には、「プロジェクトチーム」が結成される。
• プロジェクトチームは、 製品開発 やコスト削減などの特定任
務を果たすために設けられる。必要な分野の専門家が幅広く集め
られ、一時的に、チームを組んで任務を遂行する。
• 歴史上、最も有名なプロジェクトチームはアメリカ航空宇宙局
(NASA)が行った アポロ計画 (Apollo Program)である 。
※アポロ計画は、人類を月に送るために1961年に決定され、1972年まで続い
た。1969年に有人宇宙船のアポロ11号が月への着陸に成功した。
※有人の宇宙船を月に着陸させるためには、当時の最先端の技術を多様な
方面から集める必要があった。
• プロジェクトチームは、当初の任務を遂行あるいは断念した時点で、
解散 となる。企業のように組織内から集められた人員は、その
任務の完遂後には、それぞれの事業部(部署)に戻る。
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タケダ機械、全部門のシステムを統合
(2014/6/3日経新聞電子版)
(PTの設立目的)
20年ほど前に構築したものが多いという今のシステムのまま経
営を続けると業務効率化が難しい上、顧客の要望に迅速に対応
できない可能性がある。このためシステムを刷新することにした。
鋼材加工機メーカーのタケダ機械は 2016 年をめどに社内全
部門のシステムを統合する。1億5000万円程度を投資する。受注
などの情報を迅速に社内で共有できるようにして、製品の 納期
や 開発 の期間を短縮する。売り上げや経費支出の動向もオ
ンラインで集約できるようにする。顧客企業への対応力を高めな
がら業務の効率化も進め、利益を確保しやすい経営体制の確立
を目指す。
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タケダ機械、全部門のシステムを統合(続き)
(PTの課題)
営業、製造、開発、管理など全部門のシステムを入れ替え、デー
タのやり取りをできるようにする。現在は各部門がパソコンとサー
バーで独自のシステムを構築している。部門間では 紙 で打ち出
すなどして情報をやり取りしなければならない形になっている。
社長を含め13人のメンバーでプロジェクトチームを立ち上げ、現在
は各部門から業務上の詳細な 課題 を吸い上げている段階。新
システムをどのような機器、ソフトで構築するかなどは今後、詰める。
新システムに移行すると例えば、 営業 部門に入った具体的な
受注や顧客企業からの 要望 などの情報が、製造や開発の部門
にすぐに伝わるようになる。
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タケダ機械、全部門のシステムを統合(続き)
同社が製造を手掛ける加工機は鋼材の大きさによって種類が
異なるなど、1機ごとに 特注品 的な性格を持っている。受注に
関する情報が営業から製造、開発などの部門に迅速に伝われば、
機械製造に必要な部品を早めに調達、確保できるなど納期、開発
期間短縮に向けたメリットが大きい。
新システムでは会社で保有する部品の名称や個数、価格といっ
たデータを各部門で共有。現在、同社の標準的な納期は3、4カ
月で、製品の開発には1年半から2年ほどを要しているが、新シス
テムへの移行によりこれをできるだけ短縮する。
売り上げ、 経費 支出など 財務 情報もオンラインで集約で
きるようにし、管理部門の業務効率化につなげる。特定の部門で
以前使ったデータも共有化できるようにする。
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マトリクス組織
• プロジェクトチーム以外にも、組織横断的な活動を意図した組
織として、「マトリクス組織」という組織形態がある。マトリクス
組織は、プロジェクトチームと違って、 恒常的 な組織形態
である。マトリクス組織の構造は下図のような形状をしている。
• 縦割り状態の組織に対して、
職能という 横串 を通す
ことによって、トップの意向を
各事業部に反映させること
や事業部間の バランス
を採ることなどを期待する
ものである。
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マトリクス組織の特徴
• マトリクス組織では、現場の構成員は、事業部と職能の 2人
の長(ボス)から指示・命令を受けることになる。
• このことによって、現場の構成員が戸惑う事態が発生すること
が予想される。事業部長からの指示・命令は当該 事業部
の利益を重視したものが多い一方で、 職能 の長からはトッ
プの意図や事業部間のバランスを重視したものが多くなる。時
には、縦と横からの指示・命令内容が相反する事態が生じるこ
とがある。
• 整然としたマトリクス組織を組織全体で構築・運営するのは難
しい場合が多い。したがって、事業部を超えた連携の効果が大
きい経理、調達、研究開発などの部門に限定した 部分的
なマトリクス構造を採用する企業もある。
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2-3-2 細分化した部門の統合(p.39)
社内分社(カンパニー)制
• 今日、事業の多角化が進んだ巨大企業が多数存在。事業部
の数が 増え 過ぎた場合、マトリクス組織のように、職能に
よる横串によっても、各事業部をコントロールすることが困難
となる。
※なぜなら、一人の人間が管理可能な人数と同様に、事業部の数に関
しても管理限界が存在すると考えられるからである。さらに、多様な事
業を 画一 的にコントロールしようとした場合、新たな無理や無駄が
生まれる。
• しかし、社内の資源が事業部ごとに細分化されている状態で
は、社内の資源を最大限活用することはできない。そこで、仮
想的に会社を複数に区分する社内分社( カンパニー )制
が登場。
• 「社内分社(カンパニー)制」は、多数の事業部の中から、比
較的類似している事業部を集約して一つの 会社 のように
扱うものである。
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社内分社制のメリット
• 類似の事業部を集約することによって、各事業部に細分化さ
れていた人材や技術などの資源をある程度 組織 として活
用することができるようになる。
• これによって、単独の事業部で行うには荷が重かった新製品
の 開発 や 市場開拓 などにも取り組めるようになる。
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液晶頼み、見えぬ成長 シャープ、固定費削減 「稼ぐ力」手つかず
日経新聞電子版 2015年5月15日
経営再建を目指すシャープが14日に発表し
た中期経営計画は 固定費 の削減を柱とす
る内容にとどまった。主力取引銀行からの計2
千億円の金融支援で財務を立て直すとともに5
千人規模の 人員削減 や給与カットで年間
285億円の収益改善効果を見込む。ただ、10月
の カンパニー制 導入を目玉に据える事業
のてこ入れは具体策に乏しく、成長戦略は見え
ない。
抜本的な構造改革と位置づける社内分社に
よって、10月にできる「コンシューマーエレクトロ
ニクス」「ディスプレイデバイス」など5つのカン
パニー。それぞれに販売会社や工場をぶら下
げ、 自律的な経営 ができる体制にする。
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液晶頼み、見えぬ成長 シャープ、固定費削減 「稼ぐ力」手つかず(続き)
ただ、具体策として盛り込まれたのは「オセアニア
とカナダのテレビ 事業終息 」くらいで、高橋社
長の「不採算事業からの完全撤退」「もはや 聖域
は設けない」という言葉に説得力はなかった。
今回の再建計画の取りまとめに向けて、シャープ
は計 6千億円 以上の融資を受けるみずほ銀
行、三菱東京UFJ銀行の主力2行の協力を最も重
視した。策定作業に入った1月以降、幹部は主力
行詣でを重ね、両行の協力姿勢が変わらない
決着点 を模索した。
当初、銀行が求めたのは 不採算事業 の撤
退や大幅縮小を含む抜本的な改革。実際、シャー
プは電子部品の三原工場(広島県三原市)やテレ
ビの栃木工場(矢板市)など国内生産拠点の閉鎖
を検討した。
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液晶頼み、見えぬ成長 シャープ、固定費削減 「稼ぐ力」手つかず(続き)
最終的に盛り込まれなかったこれらの施策について、高橋社長は「三原工場、
栃木工場の撤退は全く考えていない」と述べた。ただ、電子部品の生産拠点の
再編については「主力の福山工場(広島県福山市)は生産を効率化するため
(第1~第3工場から)第4工場に 集約 していく」と明言は避けたものの、3
工場の閉鎖を検討していることだけは示唆した。
中途半端な印象がぬぐえない再建計画だが、16年3月期の V字回復 の
青写真はできている。15年1~3月期に液晶在庫評価減として295億円の損失
を計上。さらに液晶や電子部品などの生産設備で995億円を減損処理した。減
価償却費が減ることで16年3月期の液晶事業の業績は大幅改善を見込む。
ただ、液晶は主戦場である中国市場は 価格競争 が激しく、顧客開拓では
苦戦が続く。今回の再建計画に盛り込んだリストラ効果も長続きは期待できな
い。2兆8千億円弱の売上高を18年3月期に3兆円に引き上げるには早期に
液晶頼み から脱する、稼ぐ力を育成できるかにかかっている。
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2-3-3 外部組織の活用(p.40)
組織の一部を別組織に変更する要因
①組織の 合理化 あるいは 独立採算の徹底
巨大な組織の一部が非効率であった場合には、そこから出された欠損
は補填(内部補助)される。それによって、当該部門に対して効
率化への 動機づけ が十分に行われないことがある。
それに対して、非効率部門を別組織に変更した場合には、甘えが無くな
り、 改革 や改善が行い易くなり、合理化を徹底することできる
ようになる。
②管理上の負担軽減
巨大組織を管理するには莫大な労力と多大な管理費用が必要となる。
特に、事業領域あるいは文化が大きく異なっている事業部間では、水と
油のように調和しないこともあり、 画一的 な管理では無理が生じる。
③組織内部で 蓄積 した知識やノウハウおよび 保有 する資源を外部
で活用するために、組織の枠を超えて、活動できるようにすることを
目的として別組織に変更されることもある。
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特定部門を別会社(子会社)に変更した場合の変化
• 下図の左側のC部門が赤字だとしても、他のA部門とB部門から損
失の 補てん を受けられ、存続することができる。しかし、別会
社に変更された場合には、 倒産の危機 が生じ、抜本的な改
革や徹底した改善努力を誘発し易くなる。
• 別会社になる前には、会社全体のルールが制約となってできな
かったことも果敢に挑戦できるようになる。さらに、 会社 の枠を
超えた取引を自由に行えることにより、新規の顧客の獲得や経費
の削減が進むことも考えられる。
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2-3-4法律に基づく会社組織の再編(p.42)
関連する主な法令
• 会社が状況に応じて、事業譲渡(譲受)、会社分割、合併、 「 グループ
経営管理」などを行って、会社組織の再編を行うことがある。
• このような会社組織の再編は、法律上の手続きに則って進めなければなら
ない。 会社法 において、会社組織の再編のおおよそが規定されている。
• 特に、グループ経営管理に関しては、 市場支配力 の過度の集中を防
ぎ、公正かつ自由な競争を促進するために、「私的独占の禁止及び公正
取引の確保に関する法律」 ( 独占禁止法 )によって、制限されてい
る。
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別組織化の手法
• 事業譲渡 (譲受)によるスリム化(拡大):
会社間の営業財産の一部移転である。例えば、戦略的な観点
からある事業部を譲渡(譲受)する意思決定を行った場合には、
その事業部の譲渡(譲受)先を探し、その事業関連の工場や
設備などの営業財産の譲渡(譲受)を行うことになる。
\\\\
• 会社分割
:
特定の事業や部門を別会社に分離独立させることである。新
しく会社を設立し、その会社に、営業財産に加えて、当該部門
の権利や権限を移転する。当然、義務なども移転させることは
認められている。
• 合併 :
複数の会社が一つになることである。合併には、 新設 合併
と 吸収 合併がある。新設合併では、複数の会社で新たに
会社を設立し、他の会社が解散・消滅する。吸収合併では、存
続する会社がある一方で、その他の会社は解散・消滅する。
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グループ経営管理
• グループ経営管理とは、グループとして力を最大限発揮するた
めに、 資本 において親子(親会社-子会社)関係にある複数
の会社を統制・管理することである 。
• グループ経営の中心となる会社(本社)は、連結決算書類の作
成だけでなく、 グループ全体 の企画・戦略立案と各企業
間の 調整 などを行う役割を有する。
• 特に、本社の総資産に対して、子会社の株式の取得価額が過
半となっている場合には、そのような本社は 持株会社 と呼
ばれる 。持株会社は保有する資産の状況から、株式の所有を
通して子会社を 支配 することを目的とする会社とみなされ
る。
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純粋持株会社と事業持ち株会社
• 持株会社には、「 純粋 持株会
社」と「 事業 持株会社」がある。
• 純粋持株会社は、右図のような形状
をしており、対外向けの生産・販売
などの事業をあまり行わずに、子会
社の活動を 支配 することに専念
している会社である。
• それに対して、事業持株会社は、持
株会社自身が相当規模の 事業
を行ないながら、子会社を支配して
いる会社である。
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2-3-5 会社組織の変遷(p.44)
• 会社組織構造の変遷について、整理したものが下図である。
• 下図では、会社組織の形態を 事業 の幅と 管理 のタイプの2軸から各組
織の位置を捉え直している。
• 横軸の事業の幅は保有する 事業 の数や多様性を意味している。会社が成
長するとともに、事業の幅が多様になる傾向がある。
• 事業の幅が多様化するのに伴って、 中央集権 と 分権 のバランスがど
のように維持されてきているのかを示している。
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組織構造の変遷
• 事業の幅が狭い時点では、 中央集権的 な組織構造で全体
を適切に管理することは可能である。
• しかし、事業の幅がある程度広がると、中央集権的な構造では、
適切かつ迅速に多様な状況( 市場 )に対応することが困難と
なる。そこで、分権的な 事業部制 組織が登場する。
• しかし、さらに事業の幅が広がると、事業部制組織の弊害も大きく
なり、会社としての一体感を保つために、縦割りの事業部制組織
に 横串 を入れた マトリクス 組織が出現する。
• さらに、事業の幅が一層広がると、横串が長くなり過ぎ、横串で会
社全体をコントロールするのに無理が生じるようになる。そこで、
社内分社 (カンパニー)制を採用し、複数の事業部を集約して
管理するようになる。
• それでも、効果的かつ効率的に対応できない場合は、 グループ
経営管理などが行われるようになる。
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