裁判員制度と日本の刑事司法 ー公判審理のあり方を中心にー 東京大学 大澤 裕 1 はじめに ○裁判の参加する刑事裁判に関する法律(裁判員法) 2004年5月21日成立/2009年5月21日施行 (2011年12月末まで) 終局判決人員 裁判員に選任された者 (補充裁判員に選任された者) 3,173人 18,326人 6,401人 ○裁判員制度の趣旨・機能 ・裁判員法1条: 「司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上」 ・公判審理の変化 2 これまでの日本の刑事裁判 ーいわゆる「精密司法」ー ○「十分な捜査と慎重な起訴」/「詳密な審理・判決」 詳密な審理・判決(←裁判官の責任感・勤勉さ) ・犯罪と犯人性 ・犯行の動機・経緯・背景事情・情状 書面の多用 厳格な起訴事件の選別 ・起訴基準=高度の犯罪嫌疑 ・起訴猶予裁量(刑訴法248条) 開廷間隔 十分な捜査 2 これまでの日本の刑事裁判 ーいわゆる「精密司法」ー ○供述調書等の書面の多用→公判外での精読 ①争いのない事実:同意書面(刑訴法326条) *取調べは要旨告知(規則203条の2) ②争いのある事実:証人尋問 ・相反供述と検察官調書(刑訴法321条1項2号後段) ・証人尋問の公判調書への記録 ○開廷間隔(月1~2回の開廷) ・公判調書の利用 ・弁護士の業務形態:個人経営/民事事件中心 3 裁判員裁判と公判審理 ○裁判員裁判 ・裁判員の主体的・実質的関与の必要 ・わかりやすく、負担の少ない公判審理 公判廷で直接心証形成:「目で見て耳で聞いてわかる審理」 ←裁判員による公判外での書面精読の非現実性 詳細さの反省 ・公訴事実と重要な間接事実 ・重要な量刑事実 争点中心の審理 連日的開廷による 集中的審理 3 裁判員裁判と公判審理 ○争点の明確化 公判前整理手続 検察官 ・証明予定事実の提示 ・証拠調べ請求 被告人・弁護人 ・証拠意見の提示 ・主張/証明予定事実の提示 ・証拠調べ請求 検察官 ・証拠意見の提示 ○検察官請求証拠の開示 ○類型証拠の開示 検察官請求証拠の証明力を判断するた めに重要な一定類型の証拠 ○被告人側請求証拠の開示 ○争点関連証拠の開示 被告人側の主張に関連する証拠 3 裁判員裁判と公判審理 争点明確化の障碍=検察官と被疑者側の準備の落差 ○起訴後の弁護人選任=防御準備のスタート *被疑者国選弁護制度の不存在 ○第1回公判前の証拠開示の不備 *検察官請求証拠の開示(刑訴法299条) *検察官手持ち証拠の開示は検察官の裁量 2004年刑事訴訟法改正 公判前整理手続における 証拠開示の拡充・整備 *類型証拠 *争点関連証拠 被疑者国選弁護制度の整備 *防御準備の早期化 *防御の一貫性 3 裁判員裁判と公判審理 ○争いのある事実の証拠調べ ・証人尋問・被告人質問→争点中心の尋問・質問 ○争いのない事実の証拠調べ ・同意書面→全文朗読/朗読に準じた要旨告知 *朗読に適した書面の準備 検察官による「簡にして要を得た」調書作成 抄本化/「統合報告書」化 ・人証利用の積極化 *被告人質問の先行 *検証調書・鑑定書等の作成者による説明 3 裁判員裁判と公判審理 ○連日的開廷による集中的審理 判決 人員 開廷回数 2回 3回 4回 5回 6回以上 平均開廷 回数 総数 3173 82 1384 1034 363 310 3.9回 自白事件 1971 77 1142 573 122 57 3.5回 否認事件 1202 5 242 461 241 253 4.7回 判決 人員 総数 3173 (%) 自白事件 1971 (%) 否認事件 1202 (%) 実審理期間(第1回公判~終局) 2日 56 1.8 54 2.7 2 0.2 3日 953 30.0 857 43.5 96 8.0 4日 794 25.0 554 28.1 240 20.0 5日 324 10.2 154 7.8 170 14.1 ~10日 ~20日 ~1月 764 24.1 284 14.4 480 39.9 173 5.5 18 0.9 155 12.9 24 0.8 3 0.2 21 1.7 ~6月 6月~ 33 1.0 15 0.8 18 1.5 52 1.6 32 1.6 20 1.7 3 裁判員裁判と公判審理 裁判員裁判(~2011年末) 裁判官裁判(2008年) 裁判員裁判対象罪名事件 平均審理期間 (受理~終局) 平均公判前整理 手続期間 平均審理期間 (受理~終局) 平均公判前整理 手続期間 総数 8.4月 5.6月 7.1月 3.4月 自白事件 7.2月 4.8月 5.6月 2.8月 否認事件 10.3月 7.0月 9.1月 4.3月 4 変化の意義 ○日本の現行刑事訴訟法 1949年1月1日施行 ・起訴状一本主義、伝聞法則→捜査と公判の切断 ・公判の当事者主義化 ・「公判中心主義」 ○これまでの日本の刑事裁判 ・「調書裁判」「公判の形骸化」という批判 ○裁判員裁判 ・公判の活性化/事実認定の場としての公判 4 変化の意義 裁判員経験者の評価 審理内容の理解のしやすさ(全事件) 2009年 70.9 2010年 23.8 63.1 2011年(1~6月) 28.6 60.3 0% 20% 理解しやすかった 30.9 40% 普通 60% 理解しにくかった 80% 不明 4.0 1.3 7.1 1.2 7.0 1.8 100% 審理のわかりやすさ(自白・否認別) 自白 2009年 73.8 2010年 67.7 2011年(1~6月) 26.6 64.4 2009年 否認 22.4 29.0 58.0 30.1 2.8 0.9 4.6 1.2 5.1 1.5 9.1 2.8 2010年 53.9 32.7 12.2 1.2 2011年(1~6月) 53.6 34.0 10.2 2.2 0% 理解しやすかった 20% 普通 40% 60% 理解しにくかった 80% 不明 100% 法廷での説明等のわかりやすさ 1.2 検察官 2009年 80.3 2010年 71.7 2011年(1~6月) 弁護人 0.8 23.6 66.7 2009年 裁判官 17.8 4 0.6 27.8 49.8 37.8 4.2 1.3 1.3 11.1 2010年 40.4 41.7 16.9 1.0 2011年(1~6月) 39.5 42.7 16.4 1.4 2009年 90.7 7.4 1.3 2010年 88.6 10.3 0.7 0.6 0.5 2011年(1~6月) 86.7 11.5 1.3 0.5 0% 理解しやすかった 20% 普通 40% 60% 理解しにくかった 80% 不明 100%
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