肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症 予防ガイドライン 誘発因子 静脈血栓塞栓症の3大誘発因子(1856、 Virchow) 誘発因子 処置、疾患など 血液凝固能亢進 悪性疾患、妊娠、薬物(経口避妊薬、エストロゲン製剤)、 ネフローゼ症候群、多血症、骨髄増殖症候群、 発作性夜間血色素尿、抗リン脂質抗体症候群、脱水 血液鬱滞 長期臥床、肥満、下肢静脈瘤、妊娠、 心肺疾患(鬱血性心不全、慢性肺性心など)、全身麻酔、 片麻痺、多発性骨髄腫 静脈壁の異常 各種手術、外傷、骨折、中心静脈カテーテル、 カテーテル検査・治療、血管炎、妊娠・分娩も? 静脈血栓塞栓症は色々な疾患、処置などで起こり得る つまり、上記のような疾患、処置は 静脈血栓塞栓症のリスクとなる 予防への道 そこで・・・予防のために その患者が、どのくらい静脈血栓塞栓症の リスクを持っているのかを評価 リスクの 評価 予防法の 選択 そのリスクのレベルによって予防法を選択 予防法施行による 合併症について十 分に説明 特に抗凝固療法を行う場 合には、出血に伴う合併 症についてインフォーム ド・コンセントを得る必要 がある 該当する予防法を実施 リスクの評価 リスクの評価では・・・ 疾患、処置そのもののリスクレベル + 付加的な危険因子 対象患者の総合リスクレベル 強い付加危険因子を持つ場合には、 総合リスクレベルを一つ上げる 弱い付加危険因子でも、複数個重 なれば総合リスクレベルを上げる リスクの評価 疾患、処置そのもののリスクレベル 一般外科手術におけるリスクレベル 泌尿器科手術におけるリスクレベル 婦人科手術におけるリスクレベル 産科領域におけるリスクレベル 整形外科手術におけるリスクレベル 脳神経外科手術におけるリスクレベル 重度外傷,脊髄損傷,熱傷におけるリスクレベル 内科領域におけるリスクレベル 各領域ごとで静脈血栓塞栓症のリスクを レベル付けしている リスクの評価 疾患、処置そのもののリスクレベル 一般外科手術におけるリスクレベル 手術後は安静にしていな ければならないため、そ の時に血栓ができる 疾患、処置そのものの リスクレベル 一般外科手術 低リスク 60歳未満の非大手術 40歳未満の大手術 中リスク 60歳以上或いは付加的な危険因子がある非大手術 40歳以上或いは付加的な危険因子がある大手術 高リスク 40歳以上の癌の大手術 最高リスク (静脈血栓塞栓症の既往或いは血栓性素因)のある大手術 血栓性素因:アンチトロンビン欠損症、プロテインC欠損症、プロテインS欠損症、 抗リン脂質抗体症候群など 大手術:すべての腹部手術、あるいはその他の45分以上要する手術を基本と して、麻酔法、出血量、輸血量、手術時間などを参考に総合的に評価 リスクの評価 付加的な危険因子 強い付加危険因子があれば、総合リスクレベルを1つ 上げる 弱い付加危険因子でも、複数個あれば総合リスクレ ベルを上げる 付加的危険因子の強度 危険因子 弱い 肥満、エストロゲン治療、下肢静脈瘤 中等度 高齢、長期臥床、うっ血性心不全、呼吸不全、悪性疾患、中 心静脈カテーテル留置、癌化学療法、重症感染症 強い 静脈血栓塞栓症の既往、血栓性素因、下肢麻痺、 下肢ギプス包帯固定 血栓性素因:アンチトロンビン欠損症、プロテインC欠損症、プロテインS欠損症、 抗リン脂質抗体症候群など リスクの評価と予防法 DVT:深部静脈血栓 PE:肺血栓塞栓症 ES:弾性ストッキング 総合リスクレベル、そして予防法 4 段 階 に レ ベ ル 分 け IPC:間欠的空気圧迫法 総合 リスクレベル 下腿 DVT (%) 中枢型 DVT (%) 症候性 PE (%) 致死性 PE (%) 推奨予防法 低リスク 2 0.4 0.2 0.002 早期離床及び 積極的な運動 中リスク 10~20 2~4 1~2 0.1~0.4 弾性ストッキング(ES) 間欠的空気圧迫法(IPC) 高リスク 20~40 4~8 2~4 0.4~1.0 間欠的空気圧迫法 低用量未分画ヘパリン 最高リスク 40~80 10~20 4~10 0.2~5 低用量未分画ヘパリン+IPC 低用量未分画ヘパリン+EC 用量調節未分画ヘパリン+IPC 用量調節未分画ヘパリン+EC 用量調節ワルファリン+IPC 用量調節ワルファリン+EC 総合リスクレベルによって予防法も違ってくる 予防法 弾性ストッキング 下肢を圧迫、静脈の断面 積が減少 静脈還流速度が増加、下 肢のうっ滞減少 うっ滞や静脈拡張による静 脈内皮の損傷も防止 他の予防法に比べ、合併 症(出血等)が少なく、簡 易で安価な方法 しかし、高リスクの患者では 単独使用の効果は不明 2004年1月16日に行われた中央社会保険医療協議 会で、肺塞栓症予防用の弾性ストッキングについて4 月から医療保険が適用されることに。 ただし、一回の入院につき一回(一足)のみ 二足目からは自費(3000円程度) SIGMAX社 ATストッキング® 予防法 間欠的空気圧迫法(intermittent pneumatic compression: IPC) 下肢に巻いたカフに、空気を間欠的に送入しマッサージ 下肢静脈うっ滞を減少させ、静脈内皮の損傷を防止 さらに、線溶活性を亢進させる作用も報告されている 小林メディカル社 A-Vインパルスシステム® 弾性ストッキングよりも効 果が高く、中等度、高リス クの患者にも使用される 特に出血の危険が高い 場合に有用 予防法 脊椎麻酔や硬膜外麻酔の前 後では2500単位に減量 低用量未分画ヘパリン 8時間、又は12時間ごとに5000単位を皮下注射 相対的禁忌では 出血のリスクと 血栓のリスクの 釣り合いを考慮 した上で使用 8時間ごと、12時間ごとの 効果の差はない 静脈血栓塞栓症のリスクを60~ 70%減少させる モニタリング不要、安く簡便、 安全な方法だが・・・ 小出血の可能性のため、脳神経外科、眼科、 脊椎の手術患者への使用は避ける 絶対的禁忌:出血性潰瘍、脳出血急性期、 出血傾向 相対的禁忌:悪性腫瘍、動静脈奇形、重症 高血圧、慢性腎不全、慢性肝 不全、出産直後、大手術・外 傷・深部生検後2週間以内 シエーリング社 カプロシン®皮下注用 予防法 用量調節未分画ヘパリン 最初に約3500単位の未分画ヘパリンを皮下注射 投与4時間後のAPTTが目標値となるように、8時間ごとに 未分画ヘパリンを前回投与量±500単位で皮下注射 シエーリング社 頻回なAPTTの測定を要し、非常に頻雑な 方法、あまり実用的ではないが・・・ 高~最高リスク 特に股関節手術後の深部静脈血栓症の予防 において低用量未分画ヘパリンより有効 カプロシン®皮下注用 予防法 用量調節ワルファリン PT-INRが1.5~2.5となるようにワルファリンを内服 内服開始から効果発現まで3~5日を要するため、術前から 投与したり、投与開始初期には他の予防法を併用する プロトロンビン時間の国際標準化比 PT-INRのモニタリングを必要とするが・・・ 安価で経口なので患者の負担も少ない エーザイ社 ワーファリン®錠1mg 予防法 低分子量ヘパリン(注:ガイドラインでは推奨していません) 2500単位/日又は5000単位/日を皮下注射 未分画ヘパリンの効果を高め、合併症を少なくするため、未分画 ヘパリンから一定範囲の低分子量の分画を抽出したもの モニタリング不要、一日一回なので簡便 キッセイ薬品工業 ヘパリン起因性血小板減少症、骨粗鬆症等の 副作用も少ないのだが・・・ フラグミン®静注 日本では静脈血栓塞栓症の予防には 保険適用外!! 「静注」という名前だが、静脈血栓塞栓症の予 防には皮下注射で使用する 予防法の合併症 未分画ヘパリンの合併症(低用量/用量調節) 未分画ヘパリンの中止 出血 抗凝固療法 継続困難 あ生 る命 場を 合脅 か す 恐 れ が 局部圧迫 輸血 硫酸プロタミンにより中和 静脈血栓塞栓症のリスクがまだ高い⇒間欠的空気圧迫法 もうリスクは低くなった⇒弾性ストッキング 予防法の合併症 未分画ヘパリンの合併症(低用量/用量調節) ヘパリン起因性血小板減少症 Ⅰ型 Ⅱ型 発症時期 ヘパリン投与2~3日後 ヘパリン投与6~14日後 機序 非免疫的機序 ヘパリン依存性抗体の出現 血小板数 10~30%減少 50%減少、10万/μL以下の減少 合併症 無し 動静脈血栓(心、脳、四肢、肺) 頻度 約10% 0.5~5% 経過 ヘパリン継続可、自然に回復 ヘパリン中止で速やかに回復 治療 不要 代替薬による抗凝固 ヘパリン起因性 血小板減少症に は、日本では保 険適用外 日本医薬品工業 アルガロン®注 予防法の合併症 ワルファリンの合併症 生命を脅かす出血で PT-INRが延長 出血 血漿輸血による 凝固因子補給 東和薬品 ビタミンK2注10 ビタミンK 10~25mg i.v. 産科領域 産科領域での 肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症 予防ガイドライン 産科領域の誘発因子 静脈血栓塞栓症の3大誘発因子(1856、 Virchow) 誘発因子 産科領域での処置、疾患など 血液凝固能亢進 妊娠中は、凝固亢進、線溶抑制、血小板活性化。 血液凝縮による血液粘性亢進(妊娠後半期のHt37%以 上は要注意)、血栓性素因 血液鬱滞 性ホルモンによる静脈平滑筋弛緩、長期臥床例や肥満 例での筋ポンプの減少、妊娠子宮による下大静脈や骨 盤内静脈の圧迫、Iliac compression syndrome 静脈壁の異常 分娩や帝王切開による子宮や骨盤内静脈の損傷、妊娠 中毒症や感染による血管内皮障害 妊娠している状態でも数々の静脈血栓塞栓症リスクがある 産科領域のリスクの評価 疾患、処置そのもののリスクレベル 産科領域におけるリスクレベル 疾患、処置そのものの リスクレベル 産科領域 低リスク 正常分娩 中リスク 帝王切開術(高リスク以外) 高リスク 高齢肥満妊婦の帝王切開術 (静脈血栓塞栓症の既往或いは血栓性素因のある) 経膣分娩 最高リスク (静脈血栓塞栓症の既往或いは血栓性素因のある) 帝王切開術 血栓性素因:アンチトロンビン欠損症、プロテインC欠損症、プロテインS欠損症、 抗リン脂質抗体症候群など *静脈血栓塞栓症の家族歴・既往歴、抗リン脂質抗体陽性、肥満・高齢妊娠 等の帝王切開術後、長期安静臥床(重症妊娠悪阻,卵巣過剰刺激症候群、 切迫流早産、重症妊娠中毒症、前置胎盤、多胎妊娠などによる)、常位胎 盤 早期剥離の既往、著明な下肢静脈瘤などは、高リスク妊婦と考えられる リスクの評価と予防法 DVT:深部静脈血栓 PE:肺血栓塞栓症 ES:弾性ストッキング 総合リスクレベル、そして予防法 IPC:間欠的空気圧迫法 総合 リスクレベル 下腿 DVT (%) 中枢型 DVT (%) 症候性 PE (%) 致死性 PE (%) 推奨予防法 低リスク 2 0.4 0.2 0.002 早期離床及び 積極的な運動 中リスク 10~20 2~4 1~2 0.1~0.4 弾性ストッキング(ES) 間欠的空気圧迫法(IPC) 高リスク 20~40 4~8 2~4 0.4~1.0 間欠的空気圧迫法 低用量未分画ヘパリン 最高リスク 40~80 10~20 4~10 0.2~5 低用量未分画ヘパリン+IPC 低用量未分画ヘパリン+EC 用量調節未分画ヘパリン+IPC 用量調節未分画ヘパリン+EC 用量調節ワルファリン+IPC 用量調節ワルファリン+EC 催奇形性のため、妊娠中は 原則投与しない 産科領域の予防法 産科領域の予防法での特徴 合併症その他で長期にわたり安静臥床する妊婦に対しては、ベッド上 での下肢の運動を積極的に勧めるが、絶対安静で極力運動を制限せ ざるを得ない場合は弾性ストッキング着用あるいは間欠的空気圧迫法 を行う。 長期安静臥床後に帝王切開を行う場合には、術前に静脈血栓塞栓症 のスクリーニングを考慮する。 静脈血栓塞栓症の既往および血栓性素因を有する妊婦に対しては、 妊娠初期からの予防的薬物療法が望ましい。未分画ヘパリン5,000単 位皮下注射を1日2回行う。ワルファリンは催奇形性のため、妊娠中は 原則として投与しない方がよい。分娩に際しては、陣痛が発来したら一 旦未分画ヘパリンを中止し、分娩後止血を確認後できるだけ早期に未 分画ヘパリンを再開し、引き続きワルファリンに切り換える。
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