一般向けガイドライン 研究者の立場から

2006年10月14日
第5回 EBM研究フォーラム
『医療者と患者を支える診療ガイドライン』
一般向けガイドライン
研究者の立場から
京都大学大学院医学研究科
社会健康医学系専攻健康情報学
中山健夫
• US Institute of Medicineの定義(1990)
Clinical practice guidelines are systematically
developed statements to assist practitioner and
patient decisions about appropriate health care for
specific clinical circumstances.
[Clinical Practice Guidelines: Directions for a New Program, M.J. Field and
K.N. Lohr (eds.) Washington, DC: National Academy Press.p38]
• 「特定の臨床状況において、適切な判断を行な
うために、臨床家と患者(*+介護者)を支援す
る目的で系統的に作成された文書」
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読
売
新
聞
二
〇
〇
五
年
九
月
二
十
一
日
3
情報共有・コミュニケーションの
基点として
• 「情報の非対称性」から
“Shared Decision Making”へ
• 医療者と患者(+家族、介護者)の情報
共有の基点としての診療ガイドライン
– 「対話の結節点」 稲葉一人(科学文明研究
所・元大阪地裁判事)
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スコーピングとクエスチョン
• クリニカル・クエスチョン
(Clinical Question: CQ)
• ペイシェント・クエスチョン
(Patient Question: PQ)
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ペイシェント・クエッション
(Patient Question: PQ)
• 患者の視点で挙げられた療養(治療&養生)に際する
疑問。
• 生活上の留意点に関する疑問、治療法に関する情報
を主治医と共有しようとする際に感じられる疑問など
幅広く含む。
• そのうちのいくつかの項目は、多くの患者が共通に感
じている。
• CQとして(医療者からは)挙げられにくいが、医療者
と患者の情報共有を進めるため診療ガイドラインにお
いて言及するのが望ましい場合もある。
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患者・介護者向け脳卒中治療ガイドラインと
一般向け脳卒中予防ガイドラインの
適切な作成・普及法に関する研究
(日本脳卒中学会理事長
/国家公務員共済組合連合会立川病院長・篠原幸人)
http://www.jsts.gr.jp
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患者・介護者向け治療ガイドライン
1st step: 脳卒中患者30名程度からのインタビュー形式に
よる知りたい事、訊けない事の抽出
2nd step:患者友の会などの協力により特に知りたい
項目のしぼり込み、追加(例えば75問)
3rd step: 医師から伝えたい項目を更に加え約100項目
以内のQuestionを作成
4th step: 専門医によるAnswerを加え、Q&Aを完成
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1st step
調査対象: 首都圏に存在の脳卒中患者30名
調査方法: 訓練されたインタビュアーによる患者
自宅ないし任意の打ち合わせ場所に
おけるインタビュー
実査期間: 2006年2~3月
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調査対象の詳細
男:女 = 16:14
年齢 45-75歳
QOL 2-5(平均3.2)
脳梗塞:脳出血:くも膜下出血
= 11:15:3(1例は脳梗塞+くも膜下出血)
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調査結果
今まで医師などに相談した内容
•
•
•
•
•
治療法
副作用
介護者との関係
主治医との関係
治療費
17/30
8/30
3/30
2/30
0/30
他に将来のこと(予後)、トータルマネージメント、合併症の治療と
抗血小板薬の関係、物忘れなど
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調査結果
主治医に訊きたくても訊けないこと
• 漢方薬、はりの是非
• 再発予防のための定期検査
• 機械による検査の結果ばかり.自分の思いが
伝わらない
• 検査結果、リハビリの必要性
• 患者の会について
• 麻痺している足が痛いのは何故か
• その他
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調査結果
患者向けのガイドラインに載せて欲しい事
•
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•
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•
リハビリ
→ 14/30
麻痺がよくなる情報 → 14/30
再発予防 → 9/30
食生活
→ 7/30
生活の中で出来る事 → 6/
30
• 医療費
→ 6/30
• 病院情報 → 4/30
• 薬の情報 → 3/30
• 発症・再発時の症状
→ 3/20
• 病態
→ 2/30
• 副作用
→ 2/30
他に
• 病院へ行くタイミング
• 後遺症
• 血圧ほか
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調査結果(7)
まとめ(1)
•
•
•
•
•
•
•
急性期・慢性期の治療についての理解はかなり不十分
医師に訊きたくても訊けない事が意外に多い
リハビリへの関心は大きいが、満足していない
再発予防への関心は高い
現在使用の薬剤名を知っている → 11/30
その効果を知っている
→ 23/30
薬について調べたいが調べ方が分からない
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患者・介護者向け
第1章 脳卒中とは何かを理解するために!
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脳卒中と脳血管障害とは何が違う?
脳卒中とはどんな病気?
脳梗塞・脳血栓症・脳塞栓症・脳軟化はどう違う?
脳梗塞にも種類がいろいろある?
ラクナ梗塞って何?
心原性脳塞栓症の原因は?
一過性脳虚血発作って何?
脳出血とくも膜下出血はどう違う?
脳卒中は遺伝する?
脳卒中後にはどんな事が起こる?
再発予防にはどうすればいいですか?
薬は何時まで飲むの?
家族は何をすればいいですか?
寝たきり・認知症は予防できる?
頸部の血管が細くなっていると言われました.怖い事ですか?
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( YS )
患者・介護者向け
第2章 脳卒中急性期治療を理解するために!
Q
Q
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Q
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5. Q
6. Q
7. Q
8. Q
9. Q
10 . Q
11. Q
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:
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4.
脳卒中は病気の種類によって治療法が違いますか?
脳卒中らしいと思ったらどんな病院の何科に行ったらいいですか?
脳梗塞を起こした直後の治療法は?
アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、心原性脳塞栓症で治療は
違いますか?
一過性脳虚血発作の治療法は?
脳出血の治療法は?
くも膜下出血の治療法は?
脳卒中で新しい治療法がありますか?
薬での治療と手術はどちらがいいですか?
1ヶ月たっても意識が戻りません.どうしたらいいですか?
手足の麻痺はもう治りませんか?
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( YS )
患者・介護者向け
第3章 脳卒中慢性期は後遺症と再発の戦いだ!
Q : 食べたり飲んだりすると直ぐむせます.どうしたらいいですか?
Q : 発作後、めまい・ふらつきが頻繁に起こります.再発作ですか?
治療法は?
3. Q : 発作後1ヶ月で自宅に戻りました.今後、特に何に注意して日常生活を
過ごせばいいですか?
4. Q : 外出や旅行は積極的に行っていいですか?
5. Q : 脳卒中の後、元気がなくなりリハビリもやりたがりませんが.
6. Q : 脳卒中の後、物忘れが目立ちます.どうすればいいですか?
7. Q : お酒は何時からはじめていいですか?
8. Q : たばこは何時からはじめていいですか?
9. Q : 食事はどんな物をとればいいですか?
10. Q : 入浴はどうしたらいいですか?
11. Q : 運動は散歩ぐらいで十分ですか?
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12. Q : 夫婦生活はどうしたらいいですか?
( YS )
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患者・介護者向け
第4章 リハビリテーションは自分から積極的に!
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6.
7.
Q : リハビリは発作後、何時からはじめていいですか?
Q : リハビリ室内で行う訓練の他に、病室に戻っても訓練は続けるべき
ですか?
Q : 3回目の発作ですが、リハビリは同じでいいですか?
Q : 飲み込みが上手くいきません.リハビリの方法を教えてください.
Q : ろれつがまわりません.リハビリの方法を教えてください.
Q : 退院してからの家庭で出来るリハビリの具体的なやり方を教えて
ください.
Q : 発症して、6ヶ月経った後のリハビリの具体的なやり方を教えて
ください.
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( YS )
まとめ
1. 1st stepが終了し、脳卒中患者(介護者)30名の望
んでいられる事をインタビューによりまとめた.
2. 1st stepの結果を元に患者・介護者用Questionsを
約70題作成した.
3. これらに対し患者・介護者100名にランク付けを依頼
し、更にQuestionを追加して戴き、75題程度の
Questionを完成.
4. 専門医によるAnswerの作成(Evidenceを重視し
て)し、Q&Aを完成.図を多用し、字は大きく、簡潔に
一頁にまとめる事を目安.
5. 普及、配布.
( YS, 2006 ) 19
Minds一般向け情報
「診療ガイドライン解説集」
「医学用語ヘルプ」
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基本的姿勢①
 患者の視点(PQ)が重視されること
 かりやすく易しい用語や言葉遣い
 一般の方からご意見が寄せられた
場合は、 作成に携わった担当者へ
フィードバックし改善を検討
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基本的姿勢②
医療提供者向け推奨文の扱い方
基本的には医療提供者向けガイドライン
の推奨文全てが対象
医療提供者向けガイドラインに書かれて
いる内容を正確に解説
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Clinical Questionから
Patient Questionへの書き換え例
インターフェロン療法は,C型肝硬変
CQ
からの発癌リスクを減少させるか。
C型肝炎から肝硬変になった場合に,
肝臓癌になる危険性を減らすためにイ
PQ
ンターフェロン治療を受けることは効
果がありますか。
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ガイドライン推奨文から
患者向け推奨文への書き換え例
ガイドライン
喘息の診断時に鼻炎の存在を検索すべきである(A)。
推奨文
患者向け
推奨文
PQ
喘息になる前にアレルギー性鼻炎を起こしていた人が
多いという報告があります。鼻炎が喘息を起こしたり悪
化させることに関連している可能性もあるため,お医
者さんは,喘息の患者さんに鼻炎が起きているかどう
かを調べるようにしています。
アレルギー性鼻炎と喘息に関連性はありますか。
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有効性・安全性情報:
コミュニケーションの課題
• 一般的に有効な(臨床試験で有効性が示
された)治療法が、その個人に本当に有効
であるかどうかは分からない。
• 患者さんの期待する結果を必ずしも保障し
ない。
• 副作用・有害事象の情報をどのように提示
すべきか?
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高いレベルのエビデンスと情報共有の課題
• 臨床試験で100人ずつに投与したところ有効
だったのは、新薬A 40人、標準薬B 20人。
• 有効率は40%と20% → 新薬Aは標準薬B
の2倍の有効率。
• ・・・実際には100人中60人には効いていない。
• 効いたとしても、これまでの薬の2倍効果がある
わけではない
– 例えば痛みが2倍取れるわけではない。
• 医療への期待と現実を、患者と医療者がどう共
有していくか?
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医療者向けガイドラインと患者の視点
• 診療ガイドライン評価の試み・・・AGREE(Appraisal
of Guidelines for Research & Evaluation)
Projectによる6領域24項目の評価法。
• 「5.患者の視点や選好は考慮された」
– 診療ガイドライン開発にあたって、健康管理に関す
る患者の経験と期待に関する情報を知っておかね
ばならない。
• 開発グループに患者の代表を含める
• 患者のインタビューから情報を得る
• 開発グループが患者の経験に関する文献をレ
ビューする など
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なぜ「患者参加」か?
UK National Institute for Clinical Excellence (NICE)
Director of PIU at NICE, Dr. Marcia Kelson
2004年度 厚生労働科学・EBM診療ガイドライン基盤整備班 招聘
患者は次の事柄に関する” expert knowledge” を
持つ。
 病気と共に生き、対処していくこと
 患者が重要と考えるアウトカム
 治療の利益と害に関する認知(患者自身はどう感
じているか)
 治療やケアの受容性
 治療の選択肢に対する患者の嗜好
 患者の情報や支援のニーズ
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Patient Involvement /
Participation
• 第1段階・・・患者の視点を医療者へ
• 第2段階・・・医療の現実を患者(社会)へ
– 医療の限界・不確実性の共有
• 医療のできること、できないこと、何に(限ら
れた)費用をかけるべきか、適切な医療の
提供・受療(セルフケア)行動、患者安全、
訴訟問題、マスメディアの役割・・・
–→ 共に問題に向き合う関係の構築
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ご静聴、
どうもありがとうございました。