地上波デジタル放送網におけるIP-TDB環境の構築と 携帯端末向けの新しい放送サービスの実現に関する 共同研究企画書 2004年9月13日 慶應義塾大学 村井研究室・稲蔭研究室 KDDI株式会社技術開発本部 協力:株式会社ネクストウェーブ 1 はじめに 総務省が設置した地上波デジタル放送の諮問委員会である情報通信審議会は先月 「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割」として中間答申を提出 した。この中間答申では、「e-Japan戦略Ⅱ」上の目標を達成するために重点的に推進すべき施策と して、「地上放送のデジタル化において、高画質・高音質などアナログ技術の段階においても提供さ れてきた基本的サービス水準の向上に加え、デジタル化によって初めて実現可能となる高度なサー ビスの開発・普及を進めること」を挙げており、その実現のための具体的なキーワードとして、 (1) 放送と通信の連携 (2) 携帯端末向け放送 (3) サーバー型放送 が記載されている。 言うまでもなく、ここでの通信とは「インターネットにおける通信」を指しており、FTTH、ADSLといったイ ンターネットの一般的な通信メディアとともに、地上波デジタル放送が新しい通信インフラの役割を果 たすものとして期待されている。 インターネットを取り巻く環境は日々進化しており、今日のブロードバンドの浸透や爆発的なIP電話の 普及の例をとっても分かるように、今後我々のコミュニケーションの礎となるインフラはほぼ全てイン ターネットに移行しつつある。更に地上波デジタル放送が完遂する2011年には、家庭内では様々な情 報家電を含むホームネットワークが構成され、屋外においてもユビキタス・モバイル環境が整備される ことが予測される。地上波デジタル放送の発展のためには現時点からあらゆるデバイスがネットワー クに接続する将来像を見据え、IPv6や他の次世代通信技術を取り入れたネットワーク設計をしていく 必要がある。 以上を踏まえ、本研究では放送とインターネットに透過的な相互接続性を持たせる方法として、放送 網でIPを用いた通信を実現し、放送とインターネットの融合した新しいサービスの可能性について提 案し検証する。 2 第1章 IP over Terrestrial Digital Broadcasting (IP-TDB)について 3 1-1 伝送路としての地上波デジタル放送 点・線から面に – これまでのコミュニケーション • 線としての広がり – ADSL、FTTH • 点としての広がり – Mobile Phone 面としての広がりを持つ地上波デジタル放送によって日本全土をくまなくカバー ISP ISP ISP あらゆる通信メディアを統合的に利用した情報インフラの構築 IP over Terrestrial Digital Broadcasting(IP-TDB) 4 1-2 地上波デジタル放送とインターネットの融合 放送網とインターネットの融合 放送コンテンツの到達可能範囲を 単一の放送網からインターネット全体に拡大 通信網の枠組みにとらわれず、あらゆるデジタルコンテンツを透過的に配信 ユーザ コンテンツサプライヤー 【 従来のコンテンツ流通 】 】 【 IP-TDBによりデータリンクを意識しない コンテンツ流通が可能となる 【 ユーザは、データリンクの接続形態を問わず、コンテンツを 透過的に受け取ることが出来る。 】 通信メディアごとに 変換作業が発生 放送用コンテンツ ネット用コンテンツ 放送用コンテンツ コンテンツ コンテンツ インターネット(IP) インターネット(IP) 放送電波 インターネット 放送電波 Satellite FTTH Metal Mobile 放送網 FTTH・ADSL Mobile 放送網 FTTH・ADSL Mobile 5 1-3 IP over Terrestrial Digital Broadcasting (IP-TDB)とは? 地上波デジタル放送にIPを載せる 放送コンテンツのエンコード時にIPヘッダを付与 IPパケットを地上波デジタル放送網で伝送 IPアドレスを識別子としてEnd-to-(Multi)Endの通信を実現 アーキテクチャイメージ Broadcast Station ISDB-T Broadcast Contents Encoder 4GHz Microwave Multiplexer IP Modulator UpConverter Internet Internet Contents 4GHz Microwave 400~600MHz UHF DownConverter 6 第2章 IP-TDBによる新しい放送サービスの実現 7 2-1 IP-TDBによって実現できること 双方向性をもつ放送の実現 放送においてもインターネットと同様の双方向コミュニケーションが可能となるため、 視聴者からのフィードバックを利用したサービスの展開が容易である。 特定受信者(グループ)に向けたマルチキャスト IPマルチキャスト機能により、受信地域や属性などで識別された特定受信者に対する放送が可能。 再生デバイスの特徴に応じたマルチメディア放送の実現 IPマルチキャストとデジタルの多重性を活かし、特定のハードウェアに依存することなく、再生デバ イスの特徴に応じて文字・音声・映像等のマルチメディアコンテンツを効果的に配信できる。 下流ネットワークへの放送 ラスト1マイル/中間経路としての役割 → 一つの受信機から下流のネットワークに対してシームレスにコンテンツを配信できる。 インターネット上の各種サービスの提供 メールやウェブなど通常のインターネットと同様、通信としてのサービスも利用できるため、災害時 等では広範囲に渡るコミュニケーション手段として活用することができる。 8 2-2 IPマルチキャストによる受信者選択 多様なコンテンツを視聴者の好みや特性に応じて配信 これまでの放送の枠組みにとらわれない新しいサービスの実現 IP-TDB これまで To: ff85…::1 To: ff85…::2 To: ff85…::3 To: ff85…::4 これまで: 受信範囲にある受 信機に同一のコン テンツを配信するの み。 IP-TDB: 受信範囲にある受 信機の中から特定 のグループを選択 し、それらに対して 特定のコンテンツを マルチキャストする ことが可能。 年齢別コンテンツ 地域別コンテンツ 男女別コンテンツ デバイス別コンテンツ 9 2-3 下流ネットワークへのシームレスな放送 受信機に繋がる全ての下流ネットワークへコンテンツを配信 サービスのターゲットを全てのネットワーク機器へ 来るべきユビキタスネットワークに対応した新しいサービスの実現 ホームネットワーク テレビ IP STB Hub / Router / Divider 放送コンテンツ over IP パソコン 情報家電 モバイルネットワーク IP Internet In-vehicle Router カーオーディオ カーナビ 10 2-4 IP-TDBの実現がもたらすメリット ① KDDIとしてのメリット インフラ投資の抑制効果 地上波デジタル放送網を自主型放送の媒体として取り込むことで、EVDO上での BCMCSのみの場合に比較して、より安価にブロードキャスト/マルチキャストサービス を可能とするインフラを構築していくことが可能となる。 マルチユースによる制作コスト削減と新規市場の開拓 伝送路に依存しないサービスが可能となるので、同一のサービスやコンテンツのマ ルチユースが可能となるため、コンテンツ制作等に掛かるコストを削減できる。 また、DION、EZwebなどの資産を活かした統合的なサービスの提供が可能となる。 携帯電話の新しい活用法 来るべきIP携帯の時代に向け、パーソナルゲートウェイ(後述)のような新しいサービ スの展開が期待できる。 サービスの早期実現による競争力/アドバンテージの確保 11 2-5 IP-TDBの実現がもたらすメリット ② 社会全体としてのメリット 視聴者層の拡大 インターネット全体を市場とできることにより、膨大な数のユーザまでターゲットを拡大できる。 Dependable Networkの実現とデジタルデバイドの解消 全ての通信メディアを統合的に扱うことにより、信頼性の高いコミュニケーション環境を広範囲に提供することが 出来る。またPush型のデータ配信により、コンピュータに疎いユーザも情報通信の恩恵を享受することが出来る。 開発・制作コストの削減 地上波デジタル放送が独自に必要なサービスや技術を開発する場合、膨大なコストが発生するが、IP-TDBによ り既存のインターネットテクノロジをそのまま転用できるので、開発に必要なコストを大幅に削減し、新しいサービ スなどの展開が容易になる。 サービスの多様性 インターネットとの融合によって、あらゆるネットワーク機器が受信の対象となる。受信機が多様性を増せばそれ だけ地上波デジタル放送の提供するサービスの幅も広がり、多重化されたコンテンツを特定のユーザやデバイ スに応じて効果的に配信するなどの新しいサービスを展開できる。 洗練された通信技術と放送との融合 認証システムや暗号化などインターネット上で洗練された技術の活用により、放送法の倫理に見合った通信が 可能になる。これを利用して、放送分野における新しいサービスを実現できる。 放送分野における国際競争力の強化 IPという国際的にスタンダードなプロトコルを導入することによってこれから実現されていくサービスやテクノロ ジー、その他ノウハウの一切は輸出可能なものとなり、本分野における国際的な優位性をもつことになる。 12 第3章 IP-TDBによる 携帯端末向け放送サービスの可能性 13 3-1 携帯端末向け放送サービスに関する考慮事項 IP携帯の出現 現在、通信業者各社がIP携帯電話のサービス開始に取り組んでいる。地上波デジタル 放送に完全移行する2011年にはこのようなIP電話が台頭してくると予測される。地上波 デジタル放送のデザインには現時点からこのような将来像を意識した設計が必要となる。 視聴者の位置情報やプロファイル情報、 さらに移動した先のネットワーク接続状況などを放送に反映させる仕組みが必要となる。 地上デジタル放送では視聴者のコンテクストに応じた放送コンテンツの配信などより高度 な放送形態が望まれている。 携帯電話はユーザのプロファイルや位置情報を保有しており、視聴者のコンテクストを フィードバックするための機能が揃っている。さらに下流ネットワークとの連携を考える場 合、移動する先々のネットワークで放送受信用のゲートウェイとして機能できる。 パーソナルゲートウェイとしての携帯電話へ 14 3-2 パーソナルゲートウェイとは・・ 従来では、携帯電話と他のネットワークコンテンツは独立し、 相互互換性がなかった。 しかし、IP-TDBによって下流との接続が行えるようになれば、 携帯電話が下流に接続する情報機器のゲートウェイとなり、 様々なコンテンツの窓口となるMYポータルとして機能する。 プリファレンス・属性・状況に応じたコンテンツの選択、表現を可能とする。 例:車の中ならカーナビゲーションシステムに最適化された情報を取得 視覚障害者には音声情報を、聴覚障害者には映像/文字情報を取得など EZチャンネルはパーソナルゲートウェイのためのポータル放送に進化する。 15 3-3 パーソナルゲートウェイとしての利用イメージ パーソナルゲートウェイとは 現 状 EZチャンネル 自 宅 EZチャンネル 本編をダウンロード 映画の予告編などの ポータル情報を入手。 下流接続 xDSL TV・オーディオ コンテンツは基本的に 各機器専用となり、 携帯コンテンツとは リンクはしない × 端末内のEZチャンネルコンテンツ、保有者の属性(プリファレンス)や 位置情報などとリンクしたコンテンツを各機器で表現。 車 内 勤務先 本編、上映映画館情報の 位置情報をダウンロード 下流接続 下流接続 よりリッチな予告編を ダウンロード (本編もDL可) xFTTH WiFi/CDMA 各種デバイス 今まで独立していた ケータイと各種デバイス カーナビ IP-TDBで つながる パソコン、PDA ケータイが パーソナルゲートウェイに 進化する 16 3-4 考慮すべき技術的課題とインターネット技術の応用可能性 このようなモバイルと地上波デジタル放送の融合を実現するためには、 いくつかの技術的課題を克服する必要がある。 インターネット上の技術はこれらの解決策として応用可能性が高い。 考慮すべき技術課題 ▼利用可能性の高いインターネット技術 • 最適なデータリンク選択 – – 暗号化・認証システム Internet • • データ再送技術 最適なデータリンクの 選択 • 移動透過性の実現と リアルスペースネットワーク MIP: Mobile IP LIN6: Location Independent Network for IPv6 GLI: Geographical Location Information MANET、NEMO データ再送技術 – 輻輳制御と信頼性のあるコネクション指向型データ伝 送 – – Reliable Multicast Transport FECによる誤り訂正技術 サービスの負荷分散 – – • データリンクの物理的な通信状態を考慮した経路制御 手法 移動透過性の実現とリアルスペースネットワーク – – – – サービスの負荷分散 Policy Routing CDN: Content Distribution Network Cache技術を用いたコンテンツ同期 暗号化・認証システム – – IP-Sec SSL 17 3-5 KDDIとしての新規ビジネスモデルの可能性 IP-TDBにおける携帯端末の位置づけ IP-TDB = 他のネットワークとの相互接続性を提供 →携帯端末がネットワークに接続した各種デバイス(様々な表現力を持つ) への配信コントロールまたはゲートウェイ(課金・認証も含む)として機能する KDDIとしての意味 ・ケータイが全てのコンテンツ配信の窓口となる可能性 ・ケータイが身の回りにあるメディアの入り口に=生活ポータル ・新しいビジネスモデルが発生 - 携帯端末以外でのコンテンツに対して課金ビジネスが可能 - 超流通を視野に入れたゲートウェイとしての役割 - ポータル化に伴う広告ビジネスの可能性 18 第4章 共同実験企画案 19 4-1 IP-TDB実現に向けての課題と Key Technology Broadcast Station Huge Broadcast Network Enhanced with UDLR Broadcast Station Internet – Protocol stack consideration – UDLR scalability for bidirectional communication – IPv6 Deployment / Addressing – IP multicast – Optimized link selection – Performance maximization on UDL – Easy-to-Use devices – Practical application 20 4-2 共同実験の目的と期待される成果物 IP over Terrestrial Digital Broadcasting(IP-TDB)の実現に向けた足回りの整備 • • 地上波デジタル放送の送信局・受信ノードにおけるIPv4/v6スタック実装の検討 – 送信・受信機器における現状の把握 • 放送機器ソフトウェアの改変による実装 • 機器の追加による実装 地上波デジタル放送における、既存のUDLRアーキテクチャ適用性の検討 – RFC3077との整合性の確認 – 設計 – プロトタイプの実装 – 送受信デバイスへの実装 IP-TDBの評価に向けた実証実験 • • 中間答申で検討されている事例の実証 – 緊急放送 - 医療放送 – 教育放送 - 地方自治サービス 新しいサービスやビジネスモデルの提案 – 下流ネットワークとの連携 – マルチキャスト型放送サービス – 双方向型放送サービス – 新しいコンテンツ制作モデル、収益モデルの提案 21 4-3 IP-TDB評価に向けた実証実験企画 その1 中間答申で検討されている事例の実現に向けて IP-TDBを基盤とした高度で洗練されたサービスの実現 教育放送 緊急放送 ■柔軟かつ信頼性の高い通信路の提供 →インフラ崩壊時のコミュニケーションをサポート ■特定地域別を対象とした緊急放送 →震源地への地震情報、海岸部への津波情報 ■受信機器接続状況の把握や自動起動を可能とする高度 情報システムの提供 ■ユーザの特性に対応したマルチメディア放送 →身体的な障害等による教育格差の改善 ■地域的な教育格差の是正 →高度な教育を全国へ ■双方向性を利用した新しい教育サービスの提供 →School on Internet(SOI)との連携 IP-TDB 医療放送 ■伝染病や流感の情報をロケーション別配信 →地域的な予防システムの実現 ■救急システムへの対応 →急患の受け入れ状況の一斉確認等 ■双方向性を利用した新しい医療サービスの提供 →病院、医師、患者を繋ぐコミュニケーション実現 地方自治サービス ■地域情報の迅速な配信 →災害情報、イベント情報、就職情報など、地域 に特化した情報サービスのインフラとしての利用 ■双方向性を利用した新しいサービスの提供 →高齢化地域の安否確認システムとして →情報格差を是正するASP的なサービスの実現 22 4-4 IP-TDB評価に向けた実証実験企画 その2 IP-TDBによって可能となる新しいサービスやビジネスモデルの創出 予測される将来のネットワーク状況にも対応できる新しいサービスの創造 既存のサービスを超えた新しい収益モデルの提案 下流ネットワークとの連携 マルチキャスト型放送サービス ■ホームネットワークとの連携 ■モバイルネットワークとの連携 ■ロケーション別放送 ■視聴者属性別放送 地上波デジタル放送+IP-TDBの特徴 広域マルチキャスト 視聴者からのフィードバック によるインタラクティブ放送 高音質・高画質 ストリーム&アーカイブ 双方向型放送サービス ■視聴者からのフィードバックを元にした 放送コンテンツの制作 視聴者コンテクスト別 コンテンツ配信 補完データ の送信 マルチメディア 再生機能 新しい収益モデル ■新しいコンテンツ・サービスの模索 ■既存の広告以外の収益モデルの検討 23 4-5 共同実験の進め方 Phase1(今年度内) 研究調査を基本とし、モバイルにおけるIP-TDBを推進していく上での 課題整理、来年度に計画する実証実験のための各種検討を主な目的とする。 Phase2(来年度) Ph1を踏まえ、実際に実験システム上での実証実験を行い、モバイルに おけるIP-TDBのプロトタイプを評価し完成させる。 またその上で可能となる各種サービスについての実証実験を行う。 さらに、総務省が来年度に予定している 「地上デジタル放送の公共アプリケーションパイロット事業」にも積極的に 働きかけ、国との連携も図った実証実験として進めていく。 24 以上です 25
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