15,上尾市における景観形成プロジェクト

15 上尾市における景観形成プロジェクト
Research for landscape planning in Ageo
納富 康子 (Noutomi Yasuko)
深堀 清隆 (Fukahori Kiyotaka)
上尾市都市整備部まちづくり計画課
参加登録学生氏名
指導担当教員名
関連学外組織名称
Ⅰ.概要
Abstract
対象地である上尾市は埼玉県の中心より少し東に位置している。市内にはJR高崎線が通り、首都圏からのアクセ
ス性に富むことから、上尾駅を中心に大規模な市街地が広がっている。交通機能の充実や市街地形成により人々
の生活は便利になったが、その一方では上尾の街の個性が失われつつあることが問題となっており、地域に愛着を
もつ住民も、その思いを支える拠り所を求めていると考えられる。
そこで、本プロジェクトでは住民ヒアリング調査を通し「街らしさ」や「街への愛着」につながる場所の特徴とは何か
を解明していきたいと思う。前回提案したオリジナルの「~テリトリー」という分類方法は生活行動、環境特性を総合
した考え方である。今回はその結果を元に景観マップを作成し、また、調査結果を元に作成したアンケート案を提案
している。最終的には、上尾市の独自性を踏まえた景観まちづくりを考えていきたいと思う。
Ⅲ. テリトリーの環境変化調査/Investigation of environmental change
Ⅱ. 調査手順/Procedure of investigation
ヒアリング調査①
変化規模 ランドマーク変化
ランドマーク維持傾向型
身近な生活行動の把握・生活シーンカードの提案
ヒアリング調査②
27のテリトリーの抽出
(生活行動の集中箇所)
24のテリトリー形成要因の抽出
(行動と環境がセットになった特徴)
文献調査
アンケート調査
テリトリーの環境変化調査
The investigated area, Ageo City, is located at the east side from the center of Saitama Prefecture and center of this city is traversed by
JR Takasaki Line. The city is well known for its excellent accessibility to Tokyo and its well formed extension of a large-scale urban area
from Ageo Station. On one hand, local people’s daily life became convenient by the enhancement of traffic network and urban
development, however, streets with local characteristics are threatened to disappear.
Then, in this project, the on-site investigation and proposal of the landscape planning in the west side of Ageo Station are conducted. We
have summarized the landscape resources and the problems of the site in the form of landscape resource map through the workshop
discussion with the Ageo city office.And, besides, we proposed the side walk design of Ageo hirakat line, which is the axis of regional
landscape based on our investigation result. In the future, we will analyze residents’ cognition about past streetscape and understand the
feature of the landscape transition of Ageo City, thus make an original planning design of Ageo City.
用途 形態 変化パターン分類
○
○
○
○ 寺社型(分類A)
○
○
○
○
○
△
○
△
○
△ 公的施設型(分類B)
○
△
○
△
○
△
○
△
大
ランドマーク損失傾向型
環境変化に伴う形成要因の変化
環境変化に伴う「愛着度」「許容度」の変化
分類後テリトリーにおける共通指針の提案
小
今回の作業内容
○
△
△
△
○
○
△
○
×
×
×
×
×
×
(△)
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
用途変化も無く、形態的な特質を
保持し、昔の面影が顕著に残る
テリトリー
機能衰退型(分類D)
消失後周囲同化型(分類E)
大規模な開発や区画整理によ
り、中高層建築の林立、利用人
口増加が目立ち、用途、環境形
態共に劇変したテリトリー
大規模開発型(分類F)
t18 上尾劇場
住居開発型
用途変化あり
商業開発型
各テリトリーにおける用途、
形態変化を比較し、変化
パターンの分類を行った。
t19 上尾駅
t20 西口田んぼ
t21 西口裏山
t22 東洋時計
t23 昭和産業
t24 東口
t25 中村味噌
【選択テリトリーにおける現在の愛着度と許容度について】
2, 2%
2, 2%
選択テリトリーにおける現在の許容度
選択テリトリーにおける現在の許容度
昔
7, 6%
7, 6%
8, 7%
8, 7%
とてもある
とてもある
12, 11%
41, 38%
12, 11%
少しある 少しある
どちらでも どちらでも
あまりないあまりない
全く無い 全く無い
41, 38%
41, 38%
8, 7%
8, 7%
9, 8%
52, 48%
52, 48%
今
隣人と頻繁に会話を交わせる。
39, 35%
39, 35%
富士山が眺められる。
地形の起伏でおもしろい体験ができる。
41, 38%
できる
できる
少しできる少しできる
どちらでも どちらでも
あまりできない
あまりできない
全くできない
全くできない
外から店員の仕事ぶりが見られる。
小売店が並んだり、角に店があり、活気を感じる。
健康を維持でき、安心して生活できる。
それぞれ分散分析を行った結果、愛着度はテリトリー間の差が出なかったため、比較指標
としての利用を望めないということが分かった為、許容度を評価指標として用いることとした。
出産の喜びや安産を願える。
作物の手入れや収穫ができる。
四季を感じることができる。
①昭和32年の対象範囲にて設定した27のテリトリーから当時
最も愛着を持っていた1テリトリーを選択する。
②現在のそのテリトリーの「愛着度」、「許容度」の5段階評価
を行う。(5とてもある⇔全く無い1)
③24のテリトリー形成要因を提示し、選んだテリトリーにおい
て今、昔、それぞれで該当項目全ての選択を行う。
騒音を忘れ、安らげる。
【テリトリー別の許容度平均値について】
植物や動物とふれあい子供達がのびのび遊べる。
製品や食料品を生産している。
働く場所と隣接し、仕事の合間に家に帰れる。
家が開放的で出入りが自由にできる。
テリトリー別許容度
小さな広場を気軽に使える。
夜でも安全で、暖かい色の明かりが見られる。
祭りや行事に参加できる。
許
容
度
平
均
神聖な空間があり、地域の歴史を感じられる。
水辺に親しみを持ち、近づける。
娯楽施設を利用できる。
かたちや並び方が個性的な建物を見られる。
上尾駅
5
4.5
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
氷川鍬
t1
神社
Ⅳ. 景観形成案の作成/Making of landscaping idea
①共通指針
テリトリー形成要因の変化から類似したテリト
リーを5つのグループに分類した後の指針。今
回触れなかった新たなテリトリーについての開
発の検討が問題となった場合、同分類のグ
ループとして考えることができ、そこからヒント
を得ることが狙い。
②独自指針
テリトリーにおける固有名詞で語られる要素の
保全や、その要素の魅力アップなどを個別テ
リトリーの特徴を踏まえた上での指針。
G3における形成要因の変化
両方型
10
20
b7
30
想起人数
40
b8
50
市役所
t5
上尾
t7
小学校
中山道
t14
テリトリー名
プリンス
t17
劇場
駅
t20
西口
t21
田んぼ
東口
t26
変化規模大
アンケート質問の1つであった24のテリトリー形成要因の回答結果の集計をテリトリー別に
行った。図6-2では上尾駅についての昔と今の生活行動変化を表している。
上尾駅の形成要因変化
テリトリー名
行動
t1 氷川鍬神社
t2 谷津観音堂
t4 春日神社
t5 上尾市役所
t7 上尾小学校
t14 中山道
t17 プリンス劇場
t20 上尾駅
t21 西口畑
t26 東口
環境
0.18
1.00
0.60
0.50
1.14
0.00
-0.25
0.07
2.25
0.83
両方
0.00
1.28
0.40
1.00
0.71
1.60
0.50
0.79
2.00
2.00
0.91
1.39
2.00
1.50
0.86
0.00
0.00
0.79
3.25
0.33
【グループ3(中山道・東口)における共通指針】
b2
春日
t4
神社
【テリトリー別の許容度平均値について】
上尾独自の魅力的な生活行動や昔から今への場所の変化というものに基づき、考えられる以下2種類
の景観形成案の提案を行った。
環境型
谷津
t2
観音
変化規模小
【共通指針と独自指針について】
行動型
《特徴》
・t1~t4の寺社型、t5~t7の公的
施設型は共通して高い値。・変
化規模が大きいt14~t26におい
てはばらつきがある。
・特に全体の許容度平均値の
3.83に比較し、上尾駅は許容度
平均値が4.21であり高い値。
裏に砂利や下草の生えた細い道があり、歩きたくなる。
道に面している部分の花や植栽の手入れができる。
0
t16 国鉄上尾寮
t17 上尾プリンス劇場
施設開発(用途付加)型
選択テリトリーにおける現在の愛着度
選択テリトリーにおける現在の愛着度
電車を眺められる。
グ グループ3(今)
ル
ー
プ グループ3(昔)
t15 鴨川
抽出された27テリトリーに
おける物理的な環境変化
の実態を把握する為、住
宅地図、写真、都市計画
図、歴史的資料を活用し、
街路特性、土地利用状況、
その他物理特性の各テリ
トリーにおける変遷状況
を把握した。
Ⅴ. アンケート調査結果/Result of questionnaire
investigation
【目的】
【内容】
t13 一番通り
t14 中山道
公的施設型
9, 8%
・環境変化パターンの違いにより、愛着や許容度といった今そ
のテリトリーを受け入れる気持ちがどう維持されるのかを知る
・そのようなテリトリーにおいて継続的に残り続けている魅力的
な生活行動(テリトリー形成要因)を抽出すること
・そのテリトリー形成要因を誘発する環境要因の把握すること
t12 富士見地区
大規模な開発や区画整理は無い
が昔に比べ、機能や人々の利用
が減少し、活気が無くなったテリト
リー
そこを代表する要素そのものが
完全に損失し、用途、形態が周
囲と同化し、際立った特徴が無く
なったテリトリー
用途付加型
アンケート調査方法
2010年12月~2011年1月
街頭個人アンケート、集団アンケート
駅前、市役所ロビー、上尾市公民館各所
昭和50年以前の上尾駅周辺を知っている50代後半~
分類テリトリー
t1 氷川鍬神社
t2 谷津観音
t3 遍照院
t4 春日神社
t5 市役所
t6 上尾陸橋
t7 上尾小学校
t8 富士見小学校
t9 中央病院
t10 線路
t11 角屋
大規模開発型細分類
公共的利用空間であるため、大
きな用途変化はないが、改築や
増築を繰り返し、徐々に利便性を
増してきたテリトリー
近隣型(分類C)
Ⅴ.住民アンケート調査/Questionnaire investigation to resident
実施期間
実施方法
実施場所
対象
概要
周囲の環境変化に比べ、自然や
伝統的要素が昔から変わらずに
残る寺社等のテリトリー
60
a1
a3
a5
a7
b1
b3
b5
b7
c1
c3
c5
c7
《共通指針》
・店舗、建築形態の再現。短冊型の区画割りの保全。
→ b7「開放住宅」b8「建築個性」の復元。
・大型店舗とのテナントの提携など東口商業施設を一
体としたソフト面での対策。→b2「商店活気」の復元。
a2
a4
a6
a8
b2
b4
b6
b8
c2
c4
c6
c8
・「環境型」に属する減少要因が多い。
・特にb2「商店活気」は完全損失。
⇒方針:減少要因の復元
テ 上尾駅(今)
リ
ト
リ
ー 上尾駅(昔)
b4
行動型
b6
環境型
b4
0
20
b8
両方型
b6
b8
40
60
形成要因数
80
100
a1
a3
a5
a7
b1
b3
b5
b7
c1
c3
c5
c7
a2
a4
a6
a8
b2
b4
b6
b8
c2
c4
c6
c8
《許容度が高い理由》
・全体的に形成要因は維持傾向であること
・b4「遠方眺望」b6「電車眺望」b8「建築個性」の維持は顕著
・西口ぺデストリアンデッキからの富士山の眺望は駅の改築や周囲の景観が劇的に
変化する中で唯一変わらない
Ⅵ. まとめ/Summary
昭和45年 中山道航空写真
本プロジェクトの成果として、大規模開発を経ても変わらず残る魅
力的な行動が残ることによって場所への思いを維持できる可能性
があると分かった。その要因となる環境構造が何であるかを理解し、
維持、活用していくことは今後のよりよい市街地開発に役立てられ
ると考えている。このように、今後、まちづくりを考える上で、場所の
変化の仕方を理解していくことが重要であると言える。
平成20年 中山道航空写真
0
100m