CO 2 処理

CO2 enrichment increases carbon
and nitrogen input from fine roots
In a deciduous forest
Iversen CM, Ledford J, Norby RJ.
New Phytol 179: 837-847 (2008)
伊藤寛剛 (M1)
動機
現在、札幌FACEにて高CO2環境下における
根の動態について研究中
– 野外でCO2研究: 相応の設備が必要
– 野外で根の研究: 測定や解析が困難
→過去の知見が少ない分野
近年、画像解析を用いた観測手法が発達
→この手法を用いて、高CO2環境下の樹木の
根を対象とした研究を発見!!
本日のお話
高CO2環境下で樹木の細根は、土壌中の
C貯留とN利用にどのような影響を及ぼすか?
• Oak Ridge FACEでSweetgum(モミジバフウ)の
工林を用いた実験
• 地中を撮影するカメラで樹木の細根を追跡
(ミニライゾトロン法)
人
はじめに
細根(Fine Roots)とは?
• 主に直径2mm以下の根で、養水分の吸収が活発
• 根の中でも、炭水化物や窒素を多く含む( Guo et al., 2004;
Gordon & Jackson, 2000)
• 葉と比べて比較的寿命が短い(数週間~数日)
• 陸上生態系の純生産量の1/3を占める(Jackson et al., 1997)
→森林土壌は主要な炭素貯留場所
変動環境下(ex;大気中のCO2増加)では、
土壌にCを供給する細根の役割はますます重要に!?
はじめに
高CO2環境下での細根
• 細根の生産量が増加する(Gill & Jackson, 2000; Norby &
Jackson, 2000)
• ターンオーバー(Turnover; 発生から枯死まで)が早い
(Gill & Jackson, 2000; Norby & Jackson, 2000)
はじめに
細根のターンオーバー測定
• 地下の成長プロセス・・・隠れていて見えない
• 根の成長・・・大小様々な根が複雑に枝分かれ
→野外での観測が非常に困難
• 従来の研究: 根を採集して推定・・・観測は一度きり
ミニライゾトロン法
地中に透明なチューブを埋設して、カメラで根を撮影し
画像解析を行う。非破壊なので、長期観測が可能
仮説
枯死した根が土壌へ供給するCやNの量は、
長期のCO2付加でどのような応答を示すか?
ポイント: 高CO2下で細根の生産量・枯死量が増加
• 多量の細根が富栄養な有機物として供給される
→土壌中で利用できるNが増加する
or
• 細根中のCの割合が増え、土壌中のC量も増加
→土壌中でNが利用しにくくなる
材料と方法
場所: Oak Ridge FACE(USA)
期間: 1998年~2006年(9年間)
使用樹種: Sweetgum (Liquidambar styraciflua L.)
CO2処理: 対照区(380ppm)×3
高CO2区(560ppm)×2
※1998年から10年生(12m)の
sweetgum にCO2付加を開始
ミニライゾトロンの設置
• 内径5.1cmのチューブを各サイト5本ずつ埋設
• 各チューブ幅12.4mm×長さ18mm×91枚撮影
• 4月~10月は2週に1回、
それ以外は月1回撮影
• 画像解析ソフトで根の
60°
長さと直径を算出する
深さ
60cm
材料と方法
バイオマス量とN含量の推定
→根直径と相対関係にある(Pregitzer, 2002)
土壌コアサンプラーを用いて深さ30cmまで採集
し、根を分別してスキャナーで撮影・画像解析
→総根長・体積・重量を算出し、根バイオマス量
の推定式を作成
→根を直径別に分類し、N含量を測定
r2=0.96
P<0.0001
図2. 得られた推定式
r2=0.65
P<0.0001
根直径と
(a)RML(根重/根長)
(b)窒素含量
の関係を表す
(白丸:対照区、
赤丸:高CO2区)
材料と方法
処理(2段階)・深さ(4段階)で解析(ANOVA)
• 細根の根直径、生産量、現存量
• 土壌に供給するバイオマス量(枯死量)および
N量(細根が死んだとき、再吸収が生じず全てが土壌
に還ると仮定)
• 細根のターンオーバー
(=総細根枯死量/現存量の最大値)
※通常は枯死量でなく生産量を使う
結果
図1. 細根の直径と観
測された割合
(白丸:対照区、赤丸:
高CO2区)
9年間の画像から得られた2mm以下の細根(約14000本)
のうち、99%が1mm以下
※根直径の構成割合に、処理よる変化無し(P>0.1)
結果
処理、深さによる変化なし
• 根直径(P>0.08, P>0.3)
• RML (根重/根長)(P>0.05, P>0.05)
• N含量(P>0.05, P>0.05)
※細根の密度・CN比に変化なし
高CO2によって細根の生産量・現存量が2倍に
増加(P<0.003, P<0.003)
結果
図3. バイオマス供給量(枯死量)
(白丸:対照区、赤丸:高CO2区)
•高CO2で約2倍に増(P<0.005)
•年によって、枯死量の多い深さ
が異なる
→2001年以降は30cm以下の
枯死量が増加
→9年間を平均すると、深さごと
の枯死量に差はない
結果
図4. 枯死細根によるN供給量
(白丸:対照区、赤丸:高CO2区)
•高CO2で約2倍に増(P<0.01)
•年によって、N量は変化
結果
図5. 細根のターンオーバー
(白丸:対照区、赤丸:高CO2区)
※2001年までは測定回数・期間が少ないた
め、正確に枯死量が見積もれず
・・・機器の機能上、冬季に撮影できず
•高CO2で減少(P<0.05)
考察
• 高CO2によって細根の生産量が約2倍に増加
→高CO2でターンオーバーは減少したが、供給するバ
イオマス量及びN量は2倍に増加
• 落葉後の細根枯死量が、全体の65%に至る
年もあり
→可能な限り、冬季も撮影&撮影間隔を短くするべ
き!!
・・・札幌は積雪で大変ですが
冬も頑張る予定です!!
考察
• 高CO2によるターンオーバーの減少
→30cm以下の細根が増加したため
※深いところでは養分の環境も悪く、呼吸量も
減るため、根が長生きになる!
→根が深くなるほどターンオーバーが減少し、
土壌へのC・Nの供給は遅れる
考察
• 高CO2下で土壌へのC供給が続くと、N利用効率が
低下(Luo et al., 2004)
→しかし、生産性を抑制させるわけでは無い(Norby et
al., 2005など)
※細根のCN比にも変化が見られない
→細根の枯死量増加によって、土壌に新鮮な有機物
を供給し、微生物を活性化?
→実際のところ、生態系内の窒素供給と無機化の関
係を表せるモデルが未発達のため、将来予測は難
しい…
まとめ
高CO2下において、細根が土壌のC・N量に与
える影響は?
• 細根の生産量・現存量・枯死量が約2倍に増加
• ターンオーバーは減少する(深度による影響)
• 細根のCN比には変化なし
→土壌へ供給されるC・N量は増加
供給後の行方は、モデルの発達に期待!