社会保障論講義 2章「本当に重要なことだけを必要最 小限にまとめた社会保障入門」5節 学習院大学経済学部教授 鈴木 亘 年金制度の種類 図表 2-12 年金制度の仕組み 2 階 厚生年金 共済年金 国民年金 1 階 基 礎 年 金 制 度 1号被保険者 2号被保険者 3号被保険者 2号被保険者 • 医療保険制度と同様、①職域別の分立した 制度に、②横断的な財政調整が入った仕組 み。 • 基礎年金制度が設立される( )以前 には、「共済年金」、「厚生年金」、「国民年金」 の3種類の年金がそれぞれ分立。 • 歴史的には公務員は戦前から( )が あり、それを受け継ぐ形で作られたのが公務 員達の( )。多数の共済があるが、 国家公務員共済と地方公務員共済組合、私 学学校教職員共済の3種類にまとめられ、 2008年現在で、約460万人の加入者がいる。 • 企業に勤めるサラリーマンが加入する年金は、 ( )。現在、( )が運営を行なって おり、約3400万人が加入をしています。来年1月か らの日本年金機構への移管は不透明な状態に。 • 共済と厚生年金の2つを合わせて( )年金と 呼ぶ。 • ( )年には、サラリーマン以外の農林水産 業従事者や自営業者が加入できる( )が設 立され、皆年金が達成された。 • 国民年金も財政基盤は脆弱なため、1985年の年金 改革において、制度横断的な財政調整制度である ( )が設立。 • この基礎年金の受給額は、国民年金と等しくなるよ うに小さく設計。 • これまでの厚生年金、共済年金として受給していた 年金額は、基礎年金とそれを上回る分に名目上区 分されることとなり、基礎年金分を1階部分、それ以 上の部分を2階部分( )と呼ぶ。 ( )年金に当たる部分は3階部分と呼ばれ ている。 • 国民年金の受給額は1階部分のみです。また、それ に伴って、これまで被用者年金の中で一緒に支給さ れていた専業主婦等のサラリーマンの配偶者の年 金も、1階部分の基礎年金として独立。 1号、2号、3号とは何か • 国民年金に加入している自営業や農林水産業の 人々は( )、被用者年金に加入している サラリーマン本人達を( )、サラリーマン達 の専業主婦の配偶者たちを( )と呼ぶ。 現在、それぞれ、約2100万人、約3800万人、約 1000万人の構成。 • 基礎年金制度は「基礎年金勘定」という特別会計で 運営。この特別会計の「支出面」は、基礎年金を受給 する高齢者全員に支払う総費用(基礎年金給付費)。 「収入面」は各保険から徴収される「基礎年金拠出 金」と税金の投入である「国庫負担」から成り立つ。 国庫負担は現在、給付費の1/3の比率だが、2009年 までに( )の比率に引上げられることが2004年 に行なわれた年金改革で決まっている。 • 「基礎年金拠出金」とは、簡単に言ってしまえば、 各年金制度に加入している被保険者数の割合に応 じて負担を「割り勘」する仕組み。 • この割り勘は被用者年金には高く、国民年金の1号 被保険者には軽いという不公平な割り勘。 • 1号被保険者の数は、未納者や減免者、猶予者を本 来含んでいるはずだが、基礎年金拠出金を計算す る際には、彼等をほぼ除いて計算。その分、被用者 年金が多く払い、肩代わりをするという仕組み。 • 実際には、積立金を取り崩して充当するので、将来 の被用者年金加入者が負担を負う。 保険料負担と所得再分配 • 年金の保険料負担は、国民年金が2009年度 で、月額1万4660円の定額で、20歳から60歳 までの人々から徴収。 • 一方、共済年金や厚生年金の保険料は、保 険料率(保険料額/ボーナスを含む賃金)と して徴収されています。現在、厚生年金の保 険料率は2009年10月から15.704%、共済年 金の保険料率はそれよりやや低い値でまち まち。 • この保険料率の中には、基礎年金分の定額保険料 が含まれている。保険料率自体は報酬比例なので すが、定額保険料が「込み」になっているため、一種 の( )要素が組み込まれている。 図表 2-13 厚生年金保険料率の内訳 15.35% 高 所 得 者 報酬比例分 の保険料率 15.35% 基礎年金分 の保険料率 低 所 得 者 報酬比例分 の保険料率 基礎年金分 の保険料率 年金の給付額、資格期間 • 年金には、通常の年金である老齢年金以外に、( )年金、 ( )年金といった仕組みがある。 • 国民年金の支給額は、2009年現在、満額で月6万6008円の 定額で、( )歳から支給。 • この満額を受け取るためには、( )年間、保険料を納付し なければならず、それよりも納付期間が短い場合には、その 長さに応じて年金受給額が減額される仕組み。実際には、 ほとんどの人々は40年もの納付期間を満たしていない。 • また、国民年金(基礎年金)を受け取るためには、( ) 期間も重要。資格期間というのは、保険料納付期間と減免を うけている期間合計した期間の概念で、これが( )年以上 無いと、年金支給は全く行なわれない。未納・未加入期間が 長いと、「低年金者」「無年金者」となり、近年の生活保護受 給者増の一因となる。 • • • • • 厚生年金については、報酬比例の保険料率を支 払っているために、賃金が高いほど支払う保険料額 は高く、したがってその支払った保険料額の多寡に 応じた年金額が給付。これが2階部分を( )年 金と呼ぶ所以。年金額は、保険料の納付期間に応じ ても変わってくし、( )年によっても変わる。 65歳時点で受け取る年金額は、2004年改革以前 は、( )を目標値水準の60%から乖離さ せないように設定されてきた。 「所得代替率」とは、「40年加入のモデル世帯の年金 受給額/その時の現役世代の男子の手取り賃金平 均額」と定義。 これを維持するために、手取賃金の伸び率で年金額 を増額させることを( )と呼ぶ。 66歳以降に受け取る年金額は、65歳時点の年金に 物価上昇率を乗じて計算。この仕組みを ( )と呼ぶ。 2004年年金改革の概要 図表 2-14 2004 年年金改革の概要 ① 保険料水準固定方式の導入(厚生年金 18.3%、国民年金 16,900 円) ② マクロ経済スライドの導入と所得代替率下限(50%)の設定 ③ 基礎年金国庫負担割合の 1/3 から 1/2 への引上げ ④ 有限均衡方式の導入 • このうち、①「保険料水準固定方式」と②「マクロ経 済スライド」の導入は、これまでの改革が「給付水準 に合わせて保険料率を上げてゆく」という考えに立っ ていたのに対して、発想を逆にして、「保険料負担の 限界を設定し、それに合わせて給付水準を下げる」 という転換を行なったものとして、大変意義深い。 • まず、厚生年金の保険料率については、2004年の 13.58%から0.354%ずつ引き上げて行き、2017年 に( )%となったところで将来にわたって固 定。 • また、国民年金の保険料も2004年の月1万3300円 から毎年280円ずつ増加して2017年に ( )円(2004年価格)となったところで固 定。 • 保険料率水準を固定した上で、財政を均衡させるた めには、その反対側である給付水準をカットしなけ ればならない。そのために導入されたのが、 ( )。 • これは、65歳時点の年金額決定に使われる賃金ス ライドと、66歳以降の年金額に使われる物価スライ ドの伸び率を小さくし、伸び率を低くすることで将来 の年金給付をカットするという仕組み。 • 具体的には、それぞれの賃金スライド率、物価スラ イド率から、「スライド調整率」と呼ばれるものを差し 引くことで、それぞれのスライド率(伸び率)を小さく する。 • 具体的にこの(スライド調整率)は、①公的年金の全 被保険者数の減少率の実績(3年平均)と、②平均余 命の伸び率を勘案して設定した一定率(0.3%)を足し たものであり、およそ毎年0.9%の率となる。 • このスライド調整率は、公的年金の全被保険者数の 減少率が考慮されていますから、少子化が今予想さ れているよりも進行し、被保険者数が減れば、給付 カットが追加的に行なわれることになる。このため厚 生労働省は、「マクロ経済スライド」を、少子高齢化 の進展を自動的に調整する( )である として、盛んに宣伝を行なってきた。 • また、「年金、社会保障の専門家」と呼ばれる人々も、 盛んにこのマクロ経済スライドという仕組みを賞賛す るものが多い。しかしながら、後述のように、これは 「自動安定装置」ではない。むしろ、単純な給付カット と見るべきである。 マクロ経済スライドはうまく機能する か • このマクロ経済スライドによる給付カットは永遠に続 くものではない。2004年改革から、年金財政の計画 期間は100年ということになり、100年後におよそ1 年分の年金支出分の積立金が残るように、給付水 準が決定される。 • このように100年後という有限の期間に計画期間を 定めて、積立金を取り崩して財政均衡を図ることを ( )と呼ぶ。具体的には、100年後に所 定の積立金が残せるようになるまで給付カットと積 立金取り崩しが続いてゆき、積立金が残ると分かっ た時点でマクロ経済スライドが停止される。 • 2004年改革では、この所得代替率にも下限が設定 され(年金改革法附則第2条)、( )%を下回らな いことが規定。 • このことは、自動安定化機能とは明らかに矛盾した 規定である。 • なぜならば、経済の状況が想定よりも悪化したり、少 子高齢化が予定よりも進んだりした場合には、もっと マクロ経済スライドを続けなければならないが、簡単 にこの50%の規定を下回ることになってしまうから。 • その際には、50%となった時点でマクロ経済スライド を停止して、その時に別途、年金改革を考えること になっている。 2004年改革の効果やいかに • 2004年年金改革の評価として、概ね研究者の間で一致 していることは、年金財政の( )を大きく確保 したということ。 • 実は、1999年改革が行なわれて以降の5年間の間に、経 済状況や少子化の状況は大きく変わり、既に年金財政は 再び維持可能性が危ぶまれ、2050年には積立金が枯渇 する状況。2004年改正は、( )と呼称された ように、基礎年金の国庫負担率引上げやマクロ経済スラ イドによる給付カットによって、財政状況を大幅に改善し、 年金の維持可能性を高めた。 • しかしそれは、1999年の年金改革をさらに「改善した」と いうことではなく、1999年以降に生じた年金財政の悪化 を「立て直す」ために、必然的に行なわなければならな かった改革と評価すべき。 図表 2-14 2004 年改革前後の厚生年金積立金推移の比較 兆円 200.0 150.0 100.0 50.0 2004年改革前 0.0 2004年改革後 -50.0 -100.0 -150.0 20 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 5 20 0 2055 2060 2065 2070 2075 2080 2085 2090 2195 00 -200.0 注)Horioka Suzuki and Hatta(2007)より引用。金額は、2005 年時点の割引現在価値。 • 財政立て直しが主な目的のため、世代間格差につ いても、政府・厚生労働省が宣伝するほどの改善が 行なえる余裕はない。 • 2004年改正前後で、全ての世代にわたって生涯純 受給額が低下しており、全く世代間不公平が改善し ていない。これは保険料率を固定した分、給付カット をして両建ての引下げを行なったからである。 • ただし、2004年改正を、保険料率引上げだけで対応 していたら、もっと悲惨な状況に。その意味で、2004 年改革が保険料率引上げを選ばずに、給付カットを 選んだということは賢明な選択。 図表 2-15 2004 年改革前後の世代別損得計算の比較 万円 4,000 3,000 2004年改革前 2,000 1,000 0 2004年改革後(消費税 引き上げ効果含む) -1,000 -2,000 -3,000 <参考>2004年改革前 (保険料率引上げで財政 均衡を行ったケース) 19 40 19 45 19 50 19 55 19 60 19 65 19 70 19 75 19 80 19 85 19 90 19 95 20 00 20 05 20 10 -4,000 生年 注)Horioka Suzuki and Hatta(2007)を元に、金額ベースに修正した上、2004 年改革前のケースを追加。 OSU年金財政シミュレーションモデル • 1990年代半ばから当時大阪大学の八田達夫教授(現、政策 研究大学院大学学長)と、専修大学の小口登良教授が開発 した大阪大学=専修大学年金財政シミュレーションモデル (OSUモデル)。 • このモデルは、財政再計算の基礎数や予測値、その他入手 可能なあらゆる情報を使って、厚生労働省の財政再計算を 忠実に再現するように設計され、厚生労働省といわば同じ土 俵の上で年金論議を行なうことを意図したものでした。 • OSUモデルを使った成果の集大成は、八田達夫・小口登良 (1999)「年金改革論―積立方式に移行せよ―」(日本経済新 聞社)。 • http://www.geocities.jp/kqsmr859/OSUnew.htmlで公開。
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