明治大学情報科学センター編 人間と情報 情報化社会を生き抜くために(4) 1 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 目次 第4章 情報の発信と他者性 1. 放送と通信の違い 2. 放送の通信的利用 3. 通信の放送的利用 4. インターネットの登場 5. 個人の情報発信 6. 他者のなかで生きる 7. 情報発信の受け手 8. 想像上の他者 9. 「私」を見る目 10. 匿名の情報発信 11. 心のみえる情報交換へ 12. 情報の拠点を目指して All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 2 第3章 情報の発信を他者性 3 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 放送と通信の違い 放送:マスメディア(送り手:ひとり/受け手:多数) 通信:パーソナルメディア(個人対個人) 電気通信事業者:メディア事業(NTTなど) 通信媒体を流れる内容は関知しない 個人の表現の自由やプライバシーを守る 放送事業者:メディア事業+コンテンツ事業(NHK) 公共報道機関としての責任 公序良俗に則り公平で調和のある情報提供 審議機関を設置して放送内容を吟味 パーソナルメディア:自由 4 マスメディア:公共の福祉と社会の秩序のため規制 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 放送の通信的利用 技術の発達→放送と通信の垣根がなるなりつつある 放送とも通信ともつかない新たなサービス形態が登場 放送:衛星デジタル放送による多チャンネル化 希少な電波を公共のために活用する原則が崩れる 特殊なニーズにこたえた専門的内容のチャンネル 衛星デジタル放送:メディア事業とコンテンツ事業の分離 受託放送事業者:放送の媒体を提供 委託放送事業者:各チャンネルの内容を制作・放送 不特定多数ではなく、特定のメンバーにのみ受信も可能 宗教の布教活動、団体の会員の特権 放送内容の秘匿性や自由度が高い→通信的利用 ケーブルテレビ:デジタル化による多チャンネルを模索 同一事業者が放送事業と通信事業を行う 5 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 通信の放送的利用 端緒:ダイヤルQ2(1989年 NTT) 情報提供者が吹き込んだ音声メッセージを電話から該当 番号をダイヤルすることで誰でも受信できる 通常有料、情報提供者が設定した代金をNTTが回収代行 公共性の通信、しかし社会問題となる(審議機関を設置) 伝言ダイヤル:音声蓄積サービス、暗証番号の入力 個人間の通信を想定していた 事業者が意図しないのに公開性の通信に利用する者 電話番号と暗証番号を雑誌に掲載し違法薬物の裏取引 パソコン通信:通信=メディア事業(電子メールの授受) 経営情報サービスなどの情報提供サービスを有償で行う コンテンツ事業としての色合い:電子会議室(フォーラム) 会員が数百万人→不特定多数に限りなく近づく 6 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. インターネットの登場 インターネット:通信的サービスから放送的サービスまで 幅広く実現 初期:電子メールが主流→スポーツなどの掃除中継の技術 ホームページ:放送的にも通信的にも利用 アドレスを広く公開し多数が閲覧=放送的利用 アドレスを特定の人に公開、パスワード=通信的利用 自由な情報流通を目指して発展してきたボランティア精神 世界中のネットワークが組み合わさって一大集合体を形成 管理主体が存在しない 放送的利用が必要以上に自由になりやすい 規制をかけにくい 権力者による言論の統制や弾圧が原理的に不可能 7 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 個人の情報発信 一般庶民:通信の送り手は日常的に経験 放送の送り手は経験できない 通信と放送の中間的サービスの出現 →一般市民が不特定多数に情報発信できる 機会が増大 パソコン通信の電子会議室で発言 インターネットのホームページの開設 情報発信への意欲 原型:ファッション・スポーツ・プリクラ・・・ 情報発信の意欲の理由とは? 他者の位置付け=他者性 8 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 他者のなかで生きる •人間は「社会的動物」である 他者の中でいきている 他者の中で自らの社会的位置付けを行っている •社会の中の「私」 他者をみつめ、同時に他者から見つめられている 両者は同一の場合も分離している場合もある •多くの他者のなかから「なりたい私としての他者」を発見 理想的人間像、自分自身の成長目標 •多くの他者に見つめられながら「私を認める他者」を発見 家族、親友→自分自身の社会的位置付けの意味を確認 なりたい私としての他者から認められる→大成功!! 9 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 私たちの記憶 •情報操作に対抗:記憶の特徴についての理解が必要 サブリミナル広告:商品情報が広告によって提示された ことが記憶から失われていないと効果がない •記憶:コンピュータの記憶のように確実なものではない ★現実の問題に対応可能な程度に柔軟 ある程度忘れられるので変化する現実に首尾よく対応 文明の発達→多くの事実の確実な記憶が必要となる 文明社会の要請に見合う進化が人間に期待できない •記憶は古くからの人間の生活にちょうどよいくらいに 「限界があり」、「不確実」 ★記憶能力と文明社会の要請との齟齬に起因する問題 10 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 他者の中で生きる(2) 社会的位置付けを行いたい衝動:どこに由来するのか? •進化論的説明 人間は集団行動、社会的行動をする類人猿の末裔 我々の祖先は誰ひとり集団行動や社会的行動に失敗しなかった 社会的行動を行いたい位置付けを遺伝子レベルにもつ 社会的位置付けを確認しないと安心して生きられない •集団に加えてもらうかは、他の固体に認めてもらえるか •集団から離脱しないためにはより集団の中心を目指す •仲間を引き連れて新しい集団を形成してリーダーになる Ex.有名ブランドの服で気持ちが高揚 「理想とするリー多に近づこう」という動機の一端 •固体の情報発信:社会的位置付け確認の重要な手段 •情報発信の様式はリーダーの様式に類似するほど 集団内に安定して囲い込まれる 11 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 情報発信の受け手 •情報発信の第一の目的: 「多くの他者に認められることを通して社会に認められる」 •情報発信が容易になる→目的が達成できない 送り手が増えるほど受け手が相対的に減る EX.カラオケ: 流行以前、歌を大勢に聞かせるのはプロの歌手だけ カラオケボックスではだれでも歌い手に変身 素人の歌の聞き手などわずかしかいない 全員が情報の送り手 •ホームページの情報発信 読むのに何時間もかかるHPを加入者全員が開設したら? 読み手はほとんどいなくなる •放送の送り手:みんなが素材をもとめてビデオカメラを持ち歩く12 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 想像上の他者 • 情報発信の普及→受け手の不在 しかし情報発信の魅力は失われない • 想像上の他者が受けての役割を引き受ける • 実際の受け手は送り手と経験も価値観も異なる →情報発信を容易には認めない 送り手は都合のいい解釈をする 「私が他者をみつめるのと同様に他者は私をみつめる」 • 架空の理想的な受け手の情報モデルが形成される • 受け手は実際の他者から想像上の他者に入れ替わる • 経験も知識も価値観も送り手と同一な受け手 • 「相手の立場になって考える」=まさにこのモデルに該当 • 対面の情報伝達:想像上の受け手を修正可能 • 不特定多数の情報発信:当初の思い込みのまま維持13 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 想像上の他者(2) • 不特定多数への情報発信: 仮に受け手が不在でも想像上の受け手だけで十分 • 個人間の情報伝達における思い込みの維持 ベル友・メル友 情報交換を極端に制限したメディアを使用 →創造の入り込む余地を大きくし、思い込みを維持 ベル友・メル友と実際に会って話をしてはならない 想像とまったくかけ離れていることがすぐに明らかになる • 親友同士の思い込み 親友だから相手のことはよくわかっていると錯覚 「私が君だったらこうするのになあ・・・」 →思い込み状態、二次的な自己中心性 どんな親友でも相手の立場に完全に立つのは不可能 14 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 「私」をみる私 •受けての不在の作り出す想像上の奇妙な関係 送り手も受けても「私」 中央に鏡が置かれたような情報発信の自己充足モデル プリクラの写真を手帳にたくさん貼りこんで満足する心理 自分が作成して公開したHPを自分で呼び出して満足する心理 •自己充足の構図:情報技術によって初めてもたらされた ものではない 芸術家は自分で満足するまで作品を作りつづけた 創造的作品はたゆまない自己評価から生まれる •情報メディアの発達:自己充足を助長 演劇の自己表現:ビデオにとることで自己評価が可能 自分の演技が演劇作品として外在化する その作品は「私」であり、かつ「他者」である 15 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 匿名の情報発信 •ネットワーク上のコミュニケーション ハンドル名という適当なニックネームを使う →日常の自分から距離がおけ、自由な会話が可能になる •匿名性:自己充足を促進する役割 匿名の自分を「私」と知っているのは「私」だけ 匿名の自分は「他者」でもある ・「『私』もよくやっているなあ・・・」 •匿名は攻撃に対しても強固 最後に匿名の自分は「私」ではないと逃げる道がある どこか「ハス」に構えた情報発信になる •攻撃を行うのもためらいがなくなる→醜い中傷合戦 怒り心頭に達しているもの 意外にゲーム感覚で平静なもの 16 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 顔の見える情報交換へ •匿名の世界 実質的な議論を行おうとすると匿名に伴う無責任さが障害 実質的な顔のみえる議論をしようという意欲 オフラインミーティングに集う シスオペがリーダーシップを発揮する •インターネット利用者の悩み ジャンクメール(商品宣伝などの無用なごみのメール) ダイレクトメールにかかる費用は郵便に比べほとんどタダ 電子メールがビジネスの宣伝や思想的な広報活動に利用 •いやがらせや脅迫まで容易になる •今後、ある程度の規制が予測される ex.暗号技術:盗み見、改ざん、なりすまし防止 •電子メールの会話:多くは身元がはっきりした者同士 実質的な議論はそうした部分に限定されていく 17 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo. 情報の拠点を目指して •社会に貢献し多くの受け手を集める情報発信をするには 他の人にできないような役に立ち、おもしろい内容を発信 情報の編集:誰にでも比較的容易にでき、受け手を集める リンク集 効率よく有用な情報を探し当てたい人は数多くいる 一定のテーマについてのHPを地道に収集、取捨選択 要約や解説も付記すれば、立派な情報発信になる 見てくれる人が増えたら率直に意見を聞いて改良 内容の充実を図る 人の集まる情報の拠点になったらいろいろな可能性! 仲間の輪が広がる 思ってもいなかった企画のアイデアが生まれることも! 18 All Rights Reserved, Copyright© 2001, S.Kondo.
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