核子当たり158GeVの鉛・鉛衝突における π中間子, K中間子, 陽子の一粒子包括測定 理工学研究科2年 学籍番号 993248 氏 名 相澤美智子 指導教官 三明康郎 高エネルギー原子核・原子核衝突実験 • 高エネルギー原子核・原子核衝突実験の目的 – 高温・高密度相の生成と理解 原子核 原子核 粒子生成・放出 • 衝突の様相を見る方法 – 衝突反応によって生成した粒子を測定 – 粒子生成量、生成比、運動量分布を他の実験や理論計算と比 較する 粒子生成量 – 基本的な測定量 – 様々なエネルギー・粒子の衝突について測定されている 目的 核子当たり158GeVの鉛・鉛原子核衝突実験における 粒子生成量を求め、衝突反応機構を考察する。 次のことを方針として解析した。 1.π + 中間子、K + 中間子 、陽子の 一 粒子 生 成量 を 中心衝突度毎に求める。 2.求められた粒子生成量を、基本的な模型と比較 検討する ① 核子・核子衝突の重ね合わせ ② Wounded nucleon model WA98実験による測定 • WA98実験 – 核子あたり158GeVの鉛・鉛衝突実験 • 検出器系 Spectrometer •位置検出器 Pad chamber×2 Streamer tube detector×2 •飛行時間測定器(JTOF) Zero Degree Calorimeterと Mid Rapidity Calorimeterで 中心衝突度を測定 中心衝突度の決定 ZDCの測定値 は、衝突の幾 何学的描像と 合っている。 実験値 幾何学的描像 0 2 4 6 8 10 12 14 EZDC∝Nspectator Impact parameter b (fm) 周辺衝突 イ ベ ン ト 数 MIRAC(GeV ) Number of spectator nucleons b 中心衝突 ZDC(GeV) ZDCとMIRACで 相補的な 測定を行っている。 E(MIRAC)∝Nparticipant 1 2 3 4 5 本研究ではMid Rapidity Calorimeterの 測定値を中心衝突度の物差しとし、中心 0 100 200 300 400 500 MIRAC測定値(GeV) 衝突度を5段階に分けて解析を行った。 生成粒子数の測定 飛跡再構成 3hits track 4hits track 運動量測定 a b B b 位置検出器上の位置情報(hit)を直 線でfitして飛跡を得る 磁場中での飛跡の曲率を計算して 運動量を得る p q B ds magnet a 粒子識別 運動量p、飛行時間tof、飛跡Lを 用いて粒子質量m0を計算 2 2 2 tof m0 p 1 L 検出された生の粒子数 y 3.7 2.8 3.0 2.3 0 yCM yCM 1 mT-m0 π+中間子 m T p x p y m0 2 1.4 0 2 1 E pz y ln 2 E pz 1.3 1 1 K+中間子 2 φ 陽子 x z y 0 yCM ビーム軸方向 運動量を (mT,y,φ)で 表す。 検出された粒子数のy-mT分布が得られた この粒子数には、測定法に依存する様々な効果が含まれており、本 来の粒子生成量を表していない。 補正が必要である。 (y, mT-m0)と(p, θ)の対応 θ p2+m02 + p・cosθ 1 y = ln 2 p2+m02 - p・cosθ z ビーム軸方向 mT - m0 = mT-m0 mT-m0 θ= 20° 2 p=10(GeV) θ= 15° 1.5 p=4 1 0.5 0 1 2 3 4 5 6 y 0 0 π中間子 m0=0.14(GeV) mT-m0 1 2 3 4 5 6 y K中間子 m0=0.49 (GeV) θ= 15° θ= 10° θ= 5° p=1 0 mT-m0 y p=4 0.5 θ= 5° p=1 θ= 20° 1 θ= 10° p=4 p=10 1.5 θ= 15° p=1 0 2 p=10 θ= 20° 1.5 θ= 5° 0.5 mT-m0 2 θ= 10° 1 (p・sinθ)2+m02 0 1 2 3 4 5 陽子 m0=0.94 (GeV) mT-m0 y y 6 y 補正が必要な効果 – 検出器のアクセプタンス 検出されない方位角方向がある。 – 多重散乱・粒子の崩壊 – 検出器の位置分解能 – 検出器の検出効率 多重散乱や粒子の崩壊によって、 飛跡が再構成されない場合や、 ずれて再構成される場合がある。 検出器の位置分解能により、飛跡が 再構成されない場合や、ずれた飛跡 が再構成される場合がある。 検出器の検出効率により、飛跡が再 構成されない場合がある。 補正係数の算出 y 発生させる 粒子数分布 Ngen(mT, y) mT-m0 モンテカルロ シミュレーション 検出器の幾何学的配置、 多重散乱、粒子の崩壊、 検出器の分解能、 検出器の検出効率 検出器から得られる位置情報 補正係数 飛跡再構成・ 運動量測定・粒子識別 得られた y 粒子数分布 Nrec(mT, y) mT-m0 N gen (m T , y) ε(m T , y) N rec (m T , y) 補正係数を実験で検出さ れた生の粒子数に掛けて、 補正を行う Background track 実験にはBackground hitがある。また再構成されなかった飛跡の位置情報もあ る。このようなhitが偶然に飛跡(background track)を構成してしまう可能性が考 えられる。そこでBackground trackの出現確率を考察した。 backgroundの出現確率 もともと入れたeventの飛跡の数 に対し、構成された飛跡は次のよ うになった。 3hits background track:最大7.5% 4hits background track:最大 0.04% #of ghost track/1event それぞれの検出器に同じ多重度の異な るeventのhitを入れ、飛跡再構成した ghost trackの数の多重度依存 10 1 0.1 1 10 100 0.01 0.001 # of tracks/1event 3hits track with tof hit 4hits track with tof hit 3hits trackと4hits trackとでBackground trackの出現確率に違いがある。 得られた一粒子分布(補正後) 4hits trackのみを用いて解析した場合、3hits trackのみを用いて解析し た場合、 両方用いた場合について、それぞれ一粒子分布を求めた。 π中間子 central 4hits track 4hits track& 3hits track 3hits track π中間子 陽子 K中間子 mT-m0 (GeV) 3hits trackと4hits trackの両方を用いたときか ら、±10%以内に他の解析結果があった。 そこでこの値を系統誤差とした。 π+中間子、K+中間子、陽子の横質量分布が求められた。 単位ラピディティー当たりの粒子生成量:dN/dy 粒子生成量の横質量分布が指数関数形であると仮定し、横質量 分布を積分してdN/dyを求めた。 dN/dy 200 dN/dy 150 π中間子 陽子 K中間子 100 50 0 0 100 200 300 centrality(GeV) 400 500 この粒子生成量がどのようなモデルで説明されるか考察する。 モデル1 : 核子・核子衝突の重ねあわせ 高エネルギー原子核・原子核実験の特徴 原子核の大きさ>>ド・ブロイ波長:入射核の核子は、相手の核子を見る 衝突時間<<核の固有時間 :衝突の間に、核内核子の運動は無視できる 粒子の生成時間 ~1fm/c :粒子生成前に何度も核子・核子衝突を起こす 核子・核子衝突 モデル1: 核子は原子核・原子核衝突の間、エ ネルギーを失わずに相手の核子と 次々に衝突する。衝突回数は、原子 核の幾何学的配置による。 衝突のたびに、核子・核子衝突1回 分の粒子を発生する。 このモデルに従うならば、核子・核子衝突1回あたりのdN/dyは、同じエ ネルギーの陽子・陽子衝突のdN/dyと同じになるはずである。 核子・核子衝突1回あたりのdN/dy 陽子・陽子衝突 (dN/dy)/(核子・核子衝突回数) (dN/dy)/(核子・核子衝突回数) 周辺衝突 s 23GeV π中間子 1 陽子・陽子衝突 π中間子 0.1 s 23GeV K中間子 K中間子 0.01 0 200 反応関与部核子数 400 中心衝突 π中間子は周辺衝突で陽子・陽子衝突のdN/dyに近い値である。 K中間子は陽子・陽子衝突のdN/dyに近い値である。 このモデルは実験値より多く計算される。 モデル2:核子・核子衝突毎にエネルギーを失う π中間子についてモデル1が合わない理由としては、核子当たり 158GeVのエネルギーは、粒子生成に使われるエネルギーを無 視できるほど高くはないことが考えられる。 そこで次のモデルを考えた。 モデル2:核子が核子と衝突するとき、次の衝突の前にその核 子・核子衝突で粒子が生成する分だけエネルギーを落とす。 一個の核子が衝 突を起こす回数の 分布(計算による) 周辺衝突 運動量を持ったπ中間子をつくるた めのエネルギーを放出して失う 中心衝突 衝突回数 モデル2におけるdN/dyの計算 生成されるπ中間子の運動量分 布を以下のように仮定した。 dN は次のような分布とする dy dN/dy N N (y max - ymin ) 2 ymax y ymin ymax 単位ラピディティー当たりの平均横質量 <mT>=0.3[GeV] 陽子・陽子衝突における生成粒子数 モデル2によるn回目の衝突のエネルギー 陽子・陽子衝突のエネルギーと multiplicityの関係から、n回目の 衝突でのエネルギー放出量と粒 子生成量を求めた。 √s (GeV) 20 15 10 5 0 0 2 4 n回目の衝突 6 モデル2と実験値の比較 K中間子dN/dy モデル1 による π 中間子の dN/dy 400 350 300 250 200 150 100 50 0 モデル2 による π 中間子の dN/dy 40 35 30 dN/dy dN/dy π中間子のdN/dy モデル1 による K中間子 のdN/dy K中間子 のdN/dy (実験値) 25 20 15 10 0 200 反応関与部核子数 400 π中間子 のdN/dy (実験値) 5 0 200 0 400 モデル2 による K中間子 のdN/dy 反応関与部核子数 •π中間子は、モデル2の計算値は実験値より多い。 •K中間子は、モデル2の計算値は実験値より少ない。 π中間子では、モデル2でも Over estimateしているが、K中間 子ではUnder estimateする。 モデル3:Wounded Nucleon Model 核子・核子衝突と原子核同士の衝突では違いがあることが考えられ る。そこで次に、核子・原子核衝突の実験値をよく説明する「Wounded Nucleon Model」を考える Wounded Nucleon Model 核子・原子核衝突における生成粒 子数は何個のWounded Nucleonを 作ったかにより決定される n 1 pp A pA Busza et al. PRL 34, 836(’75) 入射粒子が衝突した標的核子の数 これを原子核・原子核衝突に拡張して考えると、次のようになる。 モデル3:生成粒子数は、反応関与部の核子数で決まる. n Nparticipant 実験値との比較 dN/dyが反応関与部核子数に比例するかどうかを調べた。 dN/dy dN/dy 200 30 180 25 160 20 120 π中間子 100 80 60 dN/dy dN/dy 140 15 K中間子 10 40 5 20 0 0 0 反応関与部核子数 200 400 反応関与部核子数 π中間子は反応関与部核子数に比例するので、Wounded Nucleon Modelに良く合うといえる。 K中間子は比例からややずれる傾向が見える 反応関与部核子1個あたりのdN/dy 反応関与部核子1個あたりのdN/dy (dN/dy)/(反応関与部核子数) 1 π中間子 K中間子 0.1 0.01 反応関与部核子数 π中間子は一定であり、dN/dyは反応関与部核子数に比例し ているといえる。 K中間子は一定ではない。 Intra Nuclear Cascade Modelとの比較 核子・核子散乱だけでなく、生成粒子の2次散乱等の効果を入 れたカスケード計算(RQMD)と比較した。 RQMD 400 350 300 250 200 150 100 50 0 モデル2 による π 中間子の dN/dy π中間子 のdN/dy (実験値) 0 200 反応関与部核子数 K中間子dN/dy モデル1 による π 中間子の dN/dy 400 RQMD 40 35 30 dN/dy dN/dy π中間子のdN/dy モデル1 による K中間子 のdN/dy K中間子 のdN/dy (実験値) 25 20 15 10 5 0 0 200 400 モデル2 による K中間子 のdN/dy 反応関与部核子数 π中間子、K中間子のdN/dyの実験値により近い値となっている。 まとめ • 核子当たり158GeVの鉛・鉛原子核衝突におけるπ+中間子、 K+中 間子、陽子の不変微分断面積の横質量分布を求め、その分布から それぞれのdN/dyを求めた • 求められたdN/dyをもとに、高エネルギー原子核・原子核衝突の基 本的な描像を考察した。その結果、次のことがわかった。 モデル1:核子・核子衝突の重ねあわせ π中間子は中心衝突になるに連れて、核子・核子衝突1回当たりのdN/dyが 減少し、モデル1は実験値よりOver estimateする。 モデル2:核子・核子衝突を基本とし、衝突毎にエネルギーを失っていく反応 π中間子ではまだOver estimateしているが、K中間子はUnder estimateす る。 モデル3:Wounded nucleon model π中間子は、モデルの予想と良く合う。
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