7月6日(10)の資料「課税による厚生の損失」

ミクロ経済学I
(10) 課税による厚生の損失
丹野忠晋
拓殖大学政経学部
2016年7月6日
復習/1

消費者余剰は取引による消費者の利益

消費者余剰は支払意欲と支払額の差

生産者余剰は取引による生産者の利益

生産者余剰は収入と費用の差

消費者余剰は需要曲線と水平な価格線の間

生産者余剰は供給曲線と水平な価格線の間

総余剰は消費者余剰と生産者余剰の和

均衡点では総余剰が最大化される
2016/7/6
ミクロ経済学I 10
2
復習/1
価格
供給曲線
消費者余剰
総余剰
P
生産者余剰
需要曲線
数量
Q
2016/7/6
ミクロ経済学I 10
3
課税

政府が法に基づき国民から強制的に徴収する金
銭を租税という.それを課すことが課税

たばこ一箱に10円の税金を課した

たばこ税は間接税であり生産者が負担

間接税は税金を納める義務のある人と税金を負
担する人が異なる税金

たばこの値段は上昇し,需要は減少する増税額
すべてを消費者が負担する訳ではない
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ミクロ経済学I 10
4
課税と供給曲線のシフト



企業は1箱当たり政府に10円を納税
1箱当たり10円分だけ余計に稼ぐことができな
いと以前と同じ供給を行わないだろう
よって供給曲線は上方へ10円分シフトする

あるいはタバコ会社が課税による費用増加分を消
費者に転嫁させた

しかし,課税後の均衡価格は10円ほどには上昇
しない
2016/7/6
ミクロ経済学I 10
5
課税による供給曲線のシフト
価格
課税後の供給曲線
需要曲線
10円
課税前の供給曲線
課
税
前
の
価
格
数量
Q
0
2016/7/6
ミクロ経済学I 10
6
課税後の供給曲線
価格
需要曲線
課税後の価格
課税前の供給曲線
買い手負担
10円
課税前の価格
売り手負担
数量
Q
1
2016/7/6
Q
ミクロ経済学I 10
0
7
買い手への課税

自動車を購入すると様々な税金を支払う

自動車税は直接税である

直接税は納税者と税負担者が同じ税金

自動車に1万円の税金を課した

自動車の価格は上昇し,需要は減少する

どの程度価格が上昇して,需要は減少するか?
2016/7/6
ミクロ経済学I 10
8
課税と需要曲線のシフト

消費者は,自動車一台当たり政府に1万円を納税

一台当たり1万円分だけ余計に価格が低くないと
同じ需要量にはならない
よって需要曲線は下方へ1万円分シフトする

2016/7/6
ミクロ経済学I 10
9
課税による需要曲線のシフト
課税前の需要曲線
価格
課税後の需要曲線
供給曲線
課
税
前
の
価
格
1万円
数量
Q
0
2016/7/6
ミクロ経済学I 10
10
課税による需要曲線のシフト
価格
課税前の需要曲線
課税後の需要曲線
P
2
買い手負担
P
供給曲線
1万円
0
売り手負担
P
1
1万円
数量
Q
1
2016/7/6
Q
0
ミクロ経済学I 10
11
売り手への課税と買い手への課税は同等
売り手に課税し
ても買い手に課
税しても各々の
税負担は同じ
価格
P
供給曲線
需要曲線
2
買い手負担
P
税額t
買い手負担+売り手負担
=P -P +(P -P )
=P -P +(P -(P -t))=t
0
売り手負担
P
2
0
0
2
0
0
1
2
1
税額tの「くさび」
を打ち込んだ様
数量
Q
1
2016/7/6
Q
0
ミクロ経済学I 10
12
売り手と買い手への課税は同等
売り手に課税
価格
需要曲線
供給曲線
税額が「くさび」のよう
に両曲線の間に入る
税額t
買い手に課税
数量
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ミクロ経済学I 10
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課税

課税により均衡取引量は減る.価格は上昇

同じ税額であれば売り手と買い手のどちらに税を
徴収してもその効果は同じ→シフトを考えない
買い手の負担増=買い手の支払価格ー当初の均衡価格
売り手の負担増=当初の均衡価格ー売り手の支払価格
買い手の負担増+売り手の負担増=(買い手の支払価格ー
当初の均衡価格)+当初の均衡価格ー売り手の支払価格
=買い手の支払価格ー売り手の支払価格=税額
2016/7/6
ミクロ経済学I 10
14
需要の弾力性が小さいほど買い手の負担大
弾力性の低い需要曲線
価格
P
供給曲線
2
買い手負担
売り手負担に比
べ買い手負担が
大きくなる.必需
品ほど消費者の
負担が大きくなる
税額t
P
0
生産者負担
P
1
数量
Q
1
2016/7/6
Q
0
ミクロ経済学I 10
15
需要の弾力性が大きいほど買い手の負担小
弾力性の高い需要曲線
価格
P
供給曲線
売り手負担に比
べ買い手負担が
小さくなる
3
買い手負担
P
0
税額t
生産者負担
P
4
数量
Q
2
2016/7/6
Q
0
ミクロ経済学I 10
16
弾力性と課税,税収
 供給の価格弾力性を一定の元
 需要の価格弾力性が小さいほど課税による価格上昇に
よって買い手の負担が大きくなる
 必需品ほど課税による価格上昇が高くなる.なぜならば
価格の上昇によって需要が小さくならないから
 国や地方公共団体は税収によって運営
 税収は徴税による政府の収入を意味
 税は英語で
Tax なので T で表わす.単位当たりの税金をt
 税収T=税額×取引量=t×Q
2016/7/6
ミクロ経済学I 10
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税収の図
価格
供給曲線
需要曲線
税収 T=t × Q
買い手の支払価格
P
課税前の価格
1
2
P
税収T
税額t
0
P
1
売り手の支払価格
販売量
数量
Q
1
2016/7/6
Q
ミクロ経済学I 10
0
18
徴税があるときの経済厚生
 税金は国防,警察,道路,社会福祉などのサービス供給
の財源となる.公共サービスにより利益を得る人々
 そのような利益を税収で測るとする
 政府の利益でなく公共サービスによる受益者の利益
 経済厚生は消費者余剰,生産者余剰に加えて税収を追加
 厚生は英語でWelfareなのでWで表わす
総余剰=消費者余剰+生産者余剰+税収
W=CS+PS+T
2016/7/6
ミクロ経済学I 10
19
課税前の総余剰
価格
供給曲線
需要曲線
課税前の価格
P
総余剰
0
数量
Q
0
2016/7/6
ミクロ経済学I 10
20
課税後の総余剰
価格
供給曲線
需要曲線
消費者余剰CS
買い手の支払価格
P
課税前の価格
2
P
税収T
0
P
1
売り手の支払価格
生産者余剰PS
数量
Q
1
2016/7/6
Q
ミクロ経済学I 10
0
21
消費者余剰の変化
価格
供給曲線
需要曲線
課税後の消費者余剰CS
買い手の支払価格
P
課税前の価格
2
P
課税前の消
費者余剰CS’
0
P
1
数量
Q
1
2016/7/6
Q
ミクロ経済学I 10
0
22
生産者余剰の変化
価格
供給曲線
需要曲線
課税前の価格
P
課税前の生産者余剰PS’
0
P
1
売り手の支払価格
課税後の生産者余剰PS
数量
Q
1
2016/7/6
Q
ミクロ経済学I 10
0
23
総余剰の減少=死荷重
価格
供給曲線
需要曲線
課税後の消費者余剰CS
課税前の価格
P
税収T
課税後の総余剰の減少
0
P
1
売り手の支払価格
課税後の生産者余剰PS
数量
Q
1
2016/7/6
Q
ミクロ経済学I 10
0
24
課税により総余剰は減少
 課税により消費者余剰と生産者余剰は減少する
 課税により税収が増加する
 課税により総余剰が減少する
 競争的な総余剰よりも小さくなった総余剰の減少部分を
死荷重という
 競争市場は総余剰を最大にする.競争市場の死荷重は0
 しかし,課税によって総余剰を低めてしまう

税によって資源配分を歪めてしまう
2016/7/6
ミクロ経済学I 10
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死荷重の図
価格
供給曲線
需要曲線
買い手の支払価格
P
課税前の価格
死荷重
2
P
0
P
1
売り手の支払価格
数量
Q
1
2016/7/6
Q
ミクロ経済学I 10
0
26
死荷重の発生の説明
 錦織は自分のテニスコートの清掃を毎週10000円の価値真
央は錦織のテニスコートを8000円賃金で毎週掃除する
 このときの真央の機会費用は6000円である
 両者は利益を得る.錦織は2000円,真央は2000円
 政府はテニスコートの清掃に5000円の税金を課税した
 税金を支払うと両者とも必ず損をする.両者の利益は消失
 錦織の税負担は機会費用低

10000-5000=5000 <6000
税によって売り手と買い手の取引による利益の実現が妨
げられることが死荷重の原因
2016/7/6
ミクロ経済学I 10
27
死荷重と経済厚生
価値が費用を上回るから
生産を増やした方が良い
価格
需要曲線
税額
供給曲線
P1
P
0
価値
費用
Q1
2016/7/6
消費者の利益の喪失
数量
Q
0
ミクロ経済学I 10
28
価格弾力性と死荷重
 課税による死荷重の大きさは需要や供給の価格弾力性に依
存する
 課税によって需要や供給が大きく動くと死荷重が大きい

需要や供給が弾力的であればあるほど死荷重は大きい
 以下を比較すると弾力的な方が死荷重の領域が大きくなる
1.
需要曲線一定で弾力的な供給と非弾力的な供給
2.
供給曲線一定で弾力的な需要と非弾力的な需要
2016/7/6
ミクロ経済学I 10
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需要曲線一定で弾力性の違う供給
P
P
需要曲線
需要曲線
非弾力的な供給曲線
P
P
P
1
2
税額
弾力的な供
給の死荷重
の方が大きい
0
死荷重
Q
Q
Q
0
0
2016/7/6
ミクロ経済学I 10
弾力的な供給曲線
Q
30
供給曲線一定で弾力性の違う需要
P
P
非弾力的な需要曲線
供給曲線
供給曲線
弾力的な需要曲線
P
P
P
1
2
弾力的な需
要の死荷重
の方が大きい
税額
0
死荷重
Q
Q
Q
0
0
2016/7/6
ミクロ経済学I 10
Q
31
税制と死荷重
 政府の政策の実施にはお金が必要
 社会保障,国防,警察,司法制度どれも重要
 課税による国民のインセンティブを変え死荷重の発生
 死荷重が小さいと政策の費用が小さくなる
 労働に関する税金,所得税(5%~45%
H27年税制)
 労働への課税は企業が払う賃金と労働者が受け取る賃金の
差をもたらす
 高い所得税率は勤労意欲を損なうので税率を低下
 もし労働供給が非弾力的であれば死荷重は小さいと予想
2016/7/6
ミクロ経済学I 10
32
復習

税は法令に基づいて政府が徴収する金銭

その区別には間接税は直接税がある

増税による均衡価格の上昇は税の上昇よりも小さい

課税は消費者余剰と生産者余剰を減少させる

課税により政府には税収が入る

課税により総余剰は減少する.それを死荷重と呼ぶ

需要と供給の価格弾力性が大きいほど死荷重は大
2016/7/6
ミクロ経済学I 10
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