1/41 Production of Charmonia in Cu+Cu and p+p collisions at √sNN=200GeV 学籍番号35-57017 織田 勧(おだ すすむ) 博士学位論文審査会 2008年1月29日(火)午後3時30分- 2/41 この発表の内容 • • • • • • クォーク・グルオン・プラズマ(QGP) 物理的動機・背景 RHIC-PHENIX実験 データ解析 結果および議論 まとめ 銅原子核衝突におけるJ/ye+e陽子衝突におけるccJ/y+ge+e-g 3/41 クォーク・グルオン・プラズマ(QGP) • 原子核 – クォークとグルオンが閉じ込めら れている • QGP – 高温高密度で、閉じ込めから開放 された相 • 理論予想 – 温度150-200MeV以上 – エネルギー密度~1GeV/fm3以上 で実現 • 実験手法 – 高エネルギー重イオン衝突 4/41 高エネルギー重イオン衝突の描像 衝突に関与する核子 (participant) 衝突に関与しない核子 (spectator) 衝突して生成された粒子 衝突前 • • • • 衝突後 衝突係数bによって様相が変わる。 衝突に関与する核子数(Npart) – 陽子陽子(p+p)衝突では2個 核子・核子の非弾性衝突の回数(Ncoll) – p+pでは1回 Geometricalなモデル計算で推定(Glauberモデル) Npart 赤:金+金 青:銅+銅 Ncoll 赤:金+金 青:銅+銅 5/41 高エネルギー重イオン衝突でのJ/y生成 • 衝突前 : – Nuclear shadowing • 原子核中でのグルオン分布の変化 • 衝突初期 : – 2つのグルオンの衝突により、J/y(の前駆状態) ができる • 生成数はNcollに比例するはず – Nuclear absorption / breakup • J/yと核子の衝突により生成されたJ/yが分解す る • 熱平衡 : – QGP中でのカラー遮蔽により、J/yが分解する • J/yは電子対(e+e-)やミューオン対(m+m-)に崩壊 する(分岐比~6%)ので、実験で捉えやすい。 6/41 動機:QGPのプローブ としてのチャーモニウム Non-perturbative Vacuum c c Perturbative Vacuum • QGP中ではチャーム(c)クォークと 反チャーム(c-bar)クォークを結びつ けるグルオンが遮蔽され、チャーモ ニウムを形成しない。 – 1986年 松井・Satz – チャーモニウムの収量の減少 – QGP生成の証拠 • cc-bar間のポテンシャルは 温度に依存する c c Color Screening 7/41 チャーモニウムの系 DDbar 質量 threshold JPC hc(2S) y(2S) J/y(1S) hc(1S) 0-+ 1-- 半径 温度 cc0(1P) 0++ cc1(1P) hc(1P) cc2(1P) 1++ 1+- 2++ 分解温度が束縛エネルギー に依存すると予想される クォーコニウムがガリレオ 温度計として使える 8/41 “熱い”QGPがなくても減少して見える “冷たい”原子核物質(CNM)の効果 • チャーモニウムは主に2つのグ ルオンの衝突によって生成され るが、グルオンの分布は原子核 と陽子の中で異なる。 antishadowing Fermi motion – Nuclear shadowing – 20%程度の不定性 shadowing • チャーモニウム(とその前駆状 態)が原子核中の核子と衝突し て、吸収・分解されてしまう。 – Nuclear absorption / breakup RHICでのcc-bar生成 e L abs EMC effect CERN-SPSでのJ/y, y’の結果 B(J/y)/(DY) 9/41 J/y y’ 生成されたチャーモニウムが 通過する原子核の距離L L • 核子対当りの重心エネルギー sNN=17.3, 19.4GeV • 鉛原子核衝突, 208Pb+Pb • 硫黄・ウラン原子核衝突, 32S+U • CNMを考慮しても、それよりさらに強い収量抑 制が見えた。 – QGP生成の兆候 10/41 BNL-RHICでの√sNN=200GeVでの金 原子核衝突(Au+Au)の結果 RAA dN AA dy N coll dN pp dy • RAAが1未満であり、 収量抑制を示してい る – 最中心衝突で0.3未満 • Npart<100では統計量 が少なく、Ncollの系統 誤差が大きい 11/41 J/yとcc • Color evaporation model では生成されるJ/yのうち – – – – 6割が直接J/yとして生成 3割がccからのJ/y 1割がy’からのJ/y 1%がBからのJ/y と予想している。 • でも、クォーコニウムの生 成機構を十分よく説明する 理論モデルはない。 • ccに関してはハドロン衝突 の際の実験データは少なく、 大きなばらつき。 RHICでの測定が必要 J/yのうちccの崩壊からできたものの割合。 2 1 Rcc (c cJ )BR (c cJ J y g ) (J y ) J 1 BR(cc1J/yg)=35.6 +/- 1.9% BR(cc2J/yg)=20.2 +/- 1.0% 12/41 研究の目的 • SPSより重心エネルギーが10倍以上高いBNLの RHICのPHENIX実験でチャーモニウムを用いて高 温高密度状態を系統的に調べる。 1. Npartが100以下で高統計、高精度のデータが取得 できる銅原子核(63Cu+63Cu)衝突の際のJ/yの収 量を測る。 – J/ye+e– CNMの理解 – QGP中でのJ/yの分解温度を調べる 2. 陽子(p+p)衝突でJ/yのうちccからできた割合Rccを 測る。 – ccJ/y+ge+e-g – J/yの生成源の中で不定性が最も大きい – 分解温度の束縛エネルギー依存性のために重要 13/41 RHIC加速器 • 周長3.8km • 100GeVのビーム同士をぶつける。 – p (A=1), d (A=2), Cu (A=63), Au (A=197) BRAHMS PHOBOS PHENIX STAR 14/41 RHICのRunの履歴 年 Run 核種 sNN PHENIXの 積分ルミノシティ 2000 1 Au+Au 130 GeV 1 mb-1 2001 2 Au+Au 200 GeV 24 mb-1 p+p 200 GeV 0.15 pb-1 d+Au 200 GeV 2.74 nb-1 p+p 200 GeV 0.35 pb-1 Au+Au 200 GeV 241 mb-1 p+p 200 GeV 324 nb-1 Cu+Cu 200 GeV 4.8 nb-1 p+p 200 GeV 3.8 pb-1 -2002 2002 3 -2003 2004 2005 4 5 2006 6 p+p 200 GeV 10.7 pb-1 2007 7 Au+Au 200 GeV 813 mb-1 2008 8 d+Au p+p 200 GeV 200 GeV ~80 nb-1 予定 15/41 PHENIX検出器 • Midrapidity(ビーム軸と垂直方向) (|y|<0.35, Df=p/2x2, 電子、光子、 ハドロン) – トラッキング • ドリフトチェンバー(DC) • MWPC(PC1) – 電子識別、トリガー • ガスチェレンコフ検出器 (RICH) • 電磁カロリメータ(EMCal) • • Vertex(衝突点)、centrality (~衝突係数)、 トリガー – チェレンコフ検出器(BBC) • 時間情報、荷電粒子の多重度 Forward rapidity(ビーム軸方向) (1.2<|y|<2.2, Df=2p, ミューオン) – トラッキング • MWPC – ミューオン識別 • ドリフトチューブ • 鉄製吸収材 16/41 事象トリガー • 非弾性衝突であることのMinimum Bias (MB) トリガー – 前方・後方のBBCともに1本以上ヒットがあること – PHENIX検出器の中心からビーム軸方向に前後 30cm以内で起きたこと • 1つ以上の(陽)電子が放出されたことのトリ ガー(EMCal-RICHトリガー(ERT)) +MBトリガー – EMCalに大きなエネルギー(0.6-1.1GeV以上)が あり、 – 対応するRICHのPMTにヒットがあること J/ye+e少なくともどちらか一方を捉え、トリガーに使う。 Beam-Beam Counter EMCal RICH 17/41 データ解析 衝突係数、centrality 0-5% 5-10% 90-94% 10-20% 0-10% 90-94% 0-5% 5-10% 90-94% b=0 fm 2つのBBCの電荷の和をスライスして、 centrality(衝突中心度)を決める。 中心衝突(bが小)がcentrality=0%で、 一番端であたった衝突(bが大)がcentrality=94% MBトリガーの検出効率が94% b=10 fm 18/41 飛跡・ 3次元運動量の決定 • VertexはBBCの時間情報で 決める。 – p+pで約2cmの位置分解能 • DCでf方向の飛跡を決定し、 横運動量を求める(積分磁場 0.78Tm)。 • PC1(MWPC)でz方向の位置 を決め、3次元運動量にする。 • pT=1GeV/cで約1%の運動量 分解能 19/41 電子識別(1/2) • リング・イメージング・チェレ ンコフ検出器のリングの領 域に2本以上PMTがヒットし ていることを要求 • 1気圧CO2ガス – 18MeV/c以上の電子 – 4.9GeV/c以上のパイオン • 私が運用・較正・保守を担当 20/41 電子識別(2/2) • EMCal – 電磁シャワーだと仮定して、光量から エネルギーを再構成する。 – エネルギーと運動量の比(E/p~1)、z方 向、f方向の位置の飛跡の外挿点から のずれの情報を使って、ハドロンの バックグラウンドを減らす。 -2 0 • Cu+Cuでのハドロンの除去能~300 @~95%の電子の検出効率 • 光子識別 EMCal – エネルギーが0.3(0.2) GeV以上 – 電磁シャワーである確率が高いもの だけを選ぶ • DC, PC1 – 荷電粒子の飛跡が近く (35cm×35cm)にあるものは落とす。 • 検出効率 9割 6 E/p -2以上 -4 0 4 -4 0 4 f方向のずれ z方向のずれ +/-4以下 +/-4以下 正規分布に標準化してある 黒:実データ 緑:シミュレーション p02g 0.6<pT<0.65GeV/c Eg>0.2GeV 21/41 Cu+Cu衝突での電子対の不変質量分布 • 全ての電子の候補でペア を作って、不変質量を求 めた。 • 2.9-3.3GeVがJ/yの領域 • Unlike sign (e+e-)ペアか らlike sign(e-e-, e+e+)ペ アの数を差し引いた。 • cc-bar, bb-barのsemileptonic崩壊とDrell-Yan からのe+e-を差し引いた (event generatorで推定 した、~10%)。 • Internal+external radiationもsimulationで 推定し(~12%)、補正した。 • 最終的に見つかったJ/y は約1400個。 • 質量分解能~50MeV 22/41 p+p衝突での不変質量分布 NJ/y=4145 赤:e+e青:e-e-,e+e+ Mass(ee)=Mass(J/y)=3.097GeV Mass(e+e-g)-Mass(e+e-) =Mass(cc)-Mass(J/y)~0.44GeV • 2.9-3.3GeVのe+e-ペアと光子の候補の組み合わせ全部で 不変質量を組み、分解能を良くするため、質量差にした。 – ccの質量分解能~50MeV – ccのピークの兆候 (~80個) 23/41 J/yの不変収量にするための補正因子 2 nJ y ( pT ) BR d N J y 1 2ppT dpT dy 2ppT N MB DpT Dye ( pT ) BR : 崩壊分岐比 J/ye+e- 5.94% nJ y : 捉えたJ/yの数 N MB : 解析したMBイベント数 e e acc e ERT e embed : 補正因子 • 検出効率・アクセプタンス eacc – pTに依存 • ERTトリガー効率 eERT – pTとcentralityに依存 • 高粒子多重度に関する補正 eembed – pTとcentralityに依存 24/41 検出効率・アクセプタンス • 実際の検出器の不感領域を取り込んだ GEANTシミュレーションで評価した。 • RICHと EMCalの応答の実データとシミュ レーションの間での違いはg-conversionと J/yのピーク自身で評価し、数%だった。 PC1ヒットのz分布 DCヒットのf分布 RICHのヒットPMTの数 リング R=3.4-8.4cm 円板 R<11cm 25/41 ERTトリガー効率 • 実データから(陽)電子のERTトリガーの効率を random benefit込みで求めた。 • J/yのトリガー効率は(陽)電子のものから推定した。 e e ( pT , sector, centrality ) N ( pT , sector, centrality , eIDcut & &ERTLL1_E ) N ( pT , sector, centrality , eIDcut ) ey ( pT ,y , centrality ) 1 (1 e e ( pT ,e , sectore , centrality )) (1 e e ( pT ,e , sectore , centrality 電子+陽電子 1.1GeV threshold 0-10% ↑random benefitによる J/y 青 : 0.8GeV threshold 0-10% 赤 : 1.1GeV threshold 0-10% )) 26/41 高粒子多重度に関する補正 • Centralityの異なる実 データの事象に、シミュ レーションで作った J/ye+e-を埋め込ん で(embedding)、再構 成されるJ/yの数を比 べることで、高粒子多 重度による性能の悪化 を評価した。 • 最大で3%。 • pT依存性は大きくな かった。 27/41 J/yが捉えられたときの ccの条件付き検出効率 1 Rc c 1 1 N J /y Dyy e accJ /y eee ERT 1 Dy c c J/yに関する平均 e 1 J /y detected icc 1 accc c J /yg (p ) e T ,c c accJ /y ee (p 1 T , J /y )e ( p ERT T , J /y cc の条件付き検出効率 J/y のアクセプタンス ccJ/yge+e-g ~10% pT,cc (GeV/c) Nc cc のアクセプタンス 候補ごとに検出効率を 補正した後の質量分布 ) 28/41 [A.U.] 結果1: Rcc -1 +1 10% 0 0.4 1 フィットから求めたRccの確率分布 Rcc<0.4 (90%の信頼度の上限値) Rccに強いエネルギー依存性は無い。 29/41 Rccの理論計算との比較 • チャーモニウムの前駆状態と してカラー1重項だけを考慮し たモデル(CSM)よりも、8重項 も考慮したモデル(CEM, NRQCD)の方が合っている。 Color singlet model (CSM) Color evaporation model (CEM) NRQCD 30/41 Rccの測定からわかったこと • RHICのエネルギー( s=200GeV)ではJ/yのう ちccからの寄与はRcc<0.4 (90% C.L.)と大きく ない。 • エネルギー依存性も大きくない。 • チャーモニウムの生成にはカラー8重項も重要。 • Rcc=0.3と予想するCEMとは矛盾していない。 31/41 結果2-1: J/yの不変収量 RAA 2 1 0 pT=0GeV/c RAA ( pT ) d 2 N AA dydpT N coll d 2 N pp dydpT 大きなpT依存性はない。 5 32/41 結果2-2:RAAの衝突中心度依存性 Midrapidity, e+eForward rapidity, m+m- RAA dN AA dy N coll Cu+CuでもJ/yのRAAが0.5まで抑制されている。 dN pp dy 33/41 重陽子・金原子核(d+Au)衝突から 求められた冷たい原子核物質(CNM)の効果 d Au 後方ラピディティ -2.2<y<-1.2 xAu~0.003 RdAu 中央ラピディティ -0.35<y<0.35 xAu~0.02 Ncoll 前方ラピディティ 1.2<y<2.2 xAu~0.09 • 2003年に行なわれた d+Au衝突のデータと2つ のnuclear shadowingの モデル(EKS, NDSG)を 用いて、nuclear breakup cross section が求められた。 • breakup=1-5 mb 34/41 冷たい原子核物質(CNM)の効果 • EKS shadowingモデルと実データは誤差の範囲で一致している。 • NDSG shadowingモデルではCNMの効果は小さい。 • 2つのモデルの違いは異なるx依存性とA依存性による。 35/41 Au+Auのデータとの比較 Midrapidity e+e- Forward rapidity m+m- EKS shadowingモデル NDSG shadowingモデル Cu+CuとAu+AuのRAAの振る舞いは一致している。 中心衝突ではCNMより大きな収量抑制がある。 36/41 RAA(データ)/RAA(CNM) とBjorkenのエネルギー密度 1 dET e0 S 0 dy 観測した横エネルギー分布と衝突関与部の断面積S と熱平衡に達するまでの時間0 (1fm/cと仮定)から求めた。 y 0 J/yの生成源 ~10% y’J/yX ~20% ccJ/yg ~70% Direct J/y J/y自体が 分解している。 2.5GeV/fm3~180MeV (g,u,d,sからなるQGPの場合) 37/41 モデル計算との比較 SPSの結果を説明するモデルが、 RHICの結果を説明できていない。 RHICの結果は理論的には理解できていない。 SPSでの結果 RHICでの結果 No QGP No QGP QGP QGP 38/41 結果2-3:ラピディティ依存性 Au+Auの中心衝突では前方でより強い抑制。 SCMモデルは似たような傾向を予想 Cu+Cuではラピディティ依存性は小さい HSDとcomoverは反対の傾向を予想 39/41 結果2-4:横運動量依存性 QGPを仮定したモデル 横運動量はcentralityに大きくは依存していない。 モデルと比較して議論するにはもっと統計量が必要。 40/41 J/yの結果からわかったこと • Npart<100のところでCu+CuとAu+AuのRAAは一致 している。 • Cu+Cuでは大きなラピディティ依存性、横運動量依 存性はない。 • Cu+Cuの結果はd+Auのデータから決めたCNMの 予測とおおむね一致。 • SPSとRHICでのCNM以外のJ/yの収量抑制はエ ネルギー密度のみに依っていると考えられる。 – e0~2.5GeV/fm3, T~180MeVから抑制が始まっている。 • Cu+Cuの最中心衝突に対応する。 – Au+Auの最中心衝突ではJ/y自体が分解している。 41/41 まとめ • QGPのプローブとしてチャーモニウムを使った。 • RHIC-PHENIX実験で、今までの金原子核(197Au) よりも小さな銅原子核(63Cu)を使って、高統計、高 精度のデータを取得し、小さい系でのJ/yの振る舞 いを調べた。 • Cu+Cuでは冷たい原子核(CNM)の効果が支配的 であることがわかった。 • p+pではJ/yのうちccの崩壊からの寄与を測定し、4 割以下だとわかった。 • SPSとRHICでの結果はCNM以外のJ/yの収量抑 制はエネルギー密度のみに依っていて、RHICの Au+AuではJ/y自体が分解していることを示唆して いる。
© Copyright 2024 ExpyDoc