産業経済学A (5) 比較優位による分業の利益 丹野忠晋 拓殖大学政経学部 2016年5月16日 科学としての理論・実証・実験 事実を調べ,仮説を立て,推論を行い,結論導く 理論経済学はモデルを作る 実証経済学はデータでモデルを分析 ミクロ経済学は小さい単位,企業,消費者,市場 マクロ経済学は広い視点,日本経済全体 密接に関わりある関係を相関関係 原因と結果の関係を因果関係 両者を混同し てはいけない ×ダイエットフードを食べる人ほど太っている 2016/5/16 産業経済A 5 2 数学のけいこ:傾き 直線は,右上がり,右下がり,急,平らと いう様々なある方向へ進む傾向を持つ 直線の傾斜の度合いを傾きという タテの変化 傾き= ヨコの変化 例えば,点(2,8)から点(3,6)を通る直線の傾き ヨコの変化=3-2=1 タテの変化=6-8=-2 傾き=タテの変化÷ヨコの変化 =(-2)/1=-2 2016/5/16 産業経済A 5 3 数学のけいこ:傾き2 傾きが正 → 右上がり (赤) 傾きが0 → 水平 (黄) 傾きが負 → 右下がり (青) 傾きが無限大に近づく → 垂直 (紫) 2016/5/16 産業経済A 5 4 数学のけいこ:絶対値 絶対値は数の大きさを表す 言わば原点からの距離です プラスやゼロはそのまま,マイナスは符号を取る 3の絶対値は3.記号で |3|=3 と書きます 例えば,|0|=0,|-4|=4 傾きの絶対値が大きくなると直線は急になる 傾きプラス 2016/5/16 傾きマイナス 赤よりも青が急だ! 産業経済A 5 5 一番にならなくても大丈夫 トレードオフの存在は他人に依存する 交換は人々を豊かにする 自分の機会費用は分かった 優秀な人はインセンティブで金持ちに 能力のない人はどう生きていく? 能力のある人も24時間しかない 人々の活動の機会費用は異なっている その違いが選択のヒントを与える その鍵を教えてくれるのが比較優位 2016/5/16 産業経済A 5 6 分業と貿易 社会が豊かになるカギは分業(division of labor) アダム・スミスのピンの例 国家間でも同様に分業を行っている 日本はサウジアラビアから原油を輸入 日本はアメリカに自動車を輸出 企業間でも同様 ユニクロは中国,ベトナム,バングラデシュ,イン ドネシアに生産パートナーを持っている.リンク アップルが作る 2016/5/16 iPhone はアメリカ製だろうか 産業経済A 5 7 iPhone の分業 iPhone 5の生産を引き受けているのは台湾の鴻海精 密工業( ホンハイ).実際の製造工場は中国にある 研究開発から設計や試作はアメリカで行っている 日本のメーカーも多くの部品を供給 iPhone 5、日本の技光る 部品5割超が国内企業製 メーカー ソニー ジャパンディスプレイ 旭化成 東芝 2016/5/16 部品名 リチウムイオン充電池 タッチパネル式液晶 電子コンパス NAND型フラッシュメモリー 産業経済A 5 8 分業と特化 日本は自動車を作りつつ原油採掘に精を出すこ とはしない 個人,国家,企業は各々自分の得意な分野で活 動を行っている.これを特化という 特化とはある特定の部分に重点を置くこと ある分野に秀でている人=絶対優位を持ってい る人がいる.そうじゃない人も大丈夫! これから示す比較優位を持つ活動に特化して, 交換を行うことにより人々の暮らしは良くなる 2016/5/16 産業経済A 5 9 浦島太郎と桃太郎がサンマとマツタケを作る 浦島太郎と桃太郎がいるサンマとマツタケを捕る 浦島太郎がサンマだけを捕れば32匹,マツタケ だけを8個取ることができる 同様に桃太郎がサンマだけを捕れば48匹,マツ タケだけを捕れば24個 桃太郎は全てに秀でている マツタケ(個) 8 浦島太郎 24 桃太郎 2016/5/16 産業経済A 5 傾浦島太郎の存 在意義は? サンマ(匹) 32 48 10 浦島太郎の生産可能性フロンティア マツタケ (個) 生産可能性フロンティアの傾きの大きさ (絶対値)は機会費用を意味した A点からB点への変化 タテの変化 傾き= A = ヨコの変化 8 B 4 0 2016/5/16 4-8 -4 =- = 16 - 0 1 16 4 1 傾きの大きさは 4 32 16 産業経済A 5 サンマ (匹) 11 桃太郎の生産可能性フロンティア マツタケ (個) 24 C点からD点への変化 C タテの変化 傾き= = ヨコの変化 D 12 0 2016/5/16 12 -24 24 産業経済A 5 -12 =- = 24 - 0 1 24 2 1 傾きの大きさは 2 48 サンマ (匹) 12 両者の機会費用の違い 浦島太郎の生産可能性フロンティアの傾きの大 きさは 1/4 サンマを1匹増やすためにはマツタケを1/4個 犠牲にしなければならない 桃太郎の生産可能性フロンティアの傾きの大き さは 1/2 サンマを1匹増やすためにはマツタケを1/2個 犠牲にしなければならない 浦島太郎のサンマの機会費用< 桃太郎のサンマの機会費用 2016/5/16 産業経済A 5 13 二人の生産可能性フロンティアを重ねてみる マツタケ (個) 24 C 桃太郎の生産可能性フロンティア 桃太郎は浦島太郎が生産でき るものは生産できる.生産可能 性フロンティアの傾きが違う 浦島太郎の生産可能性 フロンティア A 8 0 2016/5/16 16 24 産業経済A 5 32 48 サンマ (匹) 14 当初の生産と消費 最初は浦島太郎と桃太郎は自分でサンマとマツタ ケを採って消費していたとしよう 交換はしていないケース 例えば,各々半分のサンマとマツタケを採ってい たとしよう 浦島太郎はB点で生産.サンマ16匹,マツタケ4個 桃太郎はD点で生産.サンマ24匹,マツタケ12個 サンマは合計40匹,マツタケは合計16個採れる この場合は自給自足という.生産と消費は等しい 2016/5/16 産業経済A 5 15 浦島太郎の生産可能性フロンティア マツタケ (個) 浦島太郎の当初の生産と消費 A 8 B 4 0 2016/5/16 32 16 産業経済A 5 サンマ (匹) 16 桃太郎の生産可能性フロンティア マツタケ (個) 24 C 桃太郎の当初の生産と消費 D 12 0 2016/5/16 24 産業経済A 5 48 サンマ (匹) 17 桃太郎は両方の財に絶対優位にある 桃太郎は浦島太郎よりもサンマとマツタケの両方 についてより多くの収穫を得ることができる 桃太郎はサンマだけを採れば48匹.浦島は32匹 桃太郎はマツタケだけを採れば24個.浦島は8個 この時,桃太郎は両方の財に絶対優位にある ある財を生産するのにより少ない投入量しか必要が ない生産者は,その財の生産に関して絶対優位を 持っているという 投入量とは,生産のために必要とされる財やサー ビスの量をいう 2016/5/16 18 産業経済A 5 二人の生産可能性フロンティアを重ねてみる マツタケ (個) 24 C 桃太郎の生産可能性フロンティア D 12 A 浦島太郎の 生産可能性フロンティア 8 B 4 0 2016/5/16 16 24 産業経済A 5 32 48 サンマ (匹) 19 マツタケの機会費用は桃太郎の方が低い 桃太郎は両方の財の生産が得意なので浦島太郎は 何もすることがない? 浦島太郎の得意な活動は何だろう? 桃太郎よりも機会費用が低いサンマを採ることだ 反対に桃太郎のマツタケを採ることの機会費用は 浦島太郎よりも低い 桃太郎は1匹のサンマを採るために1/2個のマ ツタケの収穫を諦めていた 逆に,桃太郎は1個のマツタケを増やすにはサン マを2匹諦めなければならない 2016/5/16 産業経済A 5 20 マツタケの機会費用は桃太郎の方が低い サンマの量:マツタケの量=1:1/2=2:1 サンマ1匹が2匹になったら,マツタケは1/2個 を2倍する.マツタケは1個 浦島太郎は1匹のサンマを採るために1/4個の マツタケの収穫を諦めていた 逆に,浦島太郎は1個のマツタケを増やすにはサ ンマを4匹諦めなければならない サンマの量:マツタケの量=1:1/4=4:1 サンマ1匹が4匹になったら,マツタケは1/4個 を4倍する.マツタケは1個 2016/5/16 産業経済A 5 21 機会費用の比較 桃太郎のマツタケの機会費用は2 < 浦島太郎のマツタケの機会費用は4 このとき桃太郎はマツタケの生産に比較優位を持 つという 一方,浦島太郎はサンマ生産に比較優位を持つ 機会費用 マツタケ生産(1個) サンマ生産(1匹) 浦島太郎 4 1/4 桃太郎 2 1/2 2016/5/16 産業経済A 5 22 比較優位 ある財を生産するのに他の財をより少ししか諦めな い生産者は,その財の生産に関して比較優位を持っ ているという 言い換えると機会費用の低い財に生産者は比較優 位を持つ 一人の生産者が両方の財に比較優位を持つことは ありえない(同じ機会費用を持つことはある) 計算したようにある財の機会費用は,他方の財の 機会費用の逆数となっている 浦島太郎:1/4→4,桃太郎:1/2→2 2016/5/16 産業経済A 5 23 比較優位と特化 二人が同じ機会費用を持っていない限り,一人が ある財に比較優位を持ち,他方が残りの財に比較 優位を持つ つまり,浦島太郎はサンマ漁に,桃太郎はマツタ ケ狩りに比較優位を持っている 浦島太郎はサンマ漁に専念して,桃太郎はマツタ ケ狩りに専念するとしよう その後,両者で各々の獲物を交換することにより 両者は豊かになれる ある活動に専念することを特化という 2016/5/16 産業経済A 5 24 新しい浦島太郎と桃太郎の生産 新しい生産パターン,交換,消費を考える 浦島太郎がサンマを32匹採る. マツタケは採らない.E点とする 桃太郎はサンマを12匹採る. マツタケは18個採る.F点とする サンマは合計44匹,マツタケは合計18個採れる この時,自給自足の場合よりも両財の生産量は 多くなる 2016/5/16 産業経済A 5 25 浦島太郎の生産可能性フロンティアと新たな生産 マツタケ (個) 浦島太郎の 生産可能性フロンティア A 浦島太郎の新しい生産 8 B 4 E 0 2016/5/16 32 16 産業経済A 5 サンマ (匹) 26 桃太郎の生産可能性フロンティアと新しい生産 マツタケ (個) 24 C 桃太郎の新しい生産 F 18 D 桃太郎の生産可能性フロンティア 12 0 2016/5/16 12 24 産業経済A 5 48 サンマ (匹) 27 浦島太郎と桃太郎の交換 浦島太郎はサンマを32匹採っているが,そのうち15 匹を桃太郎に与える その見返りとして桃太郎から5個のマツタケを貰う 反対に,桃太郎はマツタケを18個採っているが,そ のうち.5個のマツタケを浦島太郎に与える その見返りとして浦島太郎から15匹のサンマを貰う つまり,浦島太郎のサンマ15匹と桃太郎のマツタケ 5個の交換 依然として両者の収穫は,サンマは合計44匹,マツ タケは合計18個である 2016/5/16 産業経済A 5 28 浦島太郎と桃太郎の新しい消費 浦島太郎のサンマの消費は15匹を桃太郎に与えた から,新しい消費は 32-15=17 (匹) 浦島太郎は桃太郎から5個のマツタケを貰ったから 0+5=5 (個) 桃太郎はサンマを12匹採っていたが,浦島太郎か ら15匹のサンマを貰うから新しい消費は 12+15=27(匹) 桃太郎はマツタケを5個浦島太郎に与えたから 18-5=13(個) 2016/5/16 産業経済A 5 29 浦島太郎の生産可能性フロンティアと新たな生産 マツタケ (個) 浦島太郎の 生産可能性フロンティア 浦島太郎の新しい消費 A 8 5 4 G 浦島太郎の新しい生産 B 0 2016/5/16 16 E 17 32 産業経済A 5 サンマ (匹) 30 桃太郎の生産可能性フロンティアと新しい生産 マツタケ (個) 24 C 桃太郎の生産可能性フロンティア F 桃太郎の新しい生産 18 H 桃太郎の新しい消費 13 12 D 0 2016/5/16 12 24 27 産業経済A 5 48 サンマ (匹) 31 浦島太郎と桃太郎の新しい消費 浦島太郎の新しい消費点G(17,5)では,サンマの17 匹消費し,マツタケを5個消費している この点は,浦島太郎の生産可能性フロンティアの 外側にある 取引からの利益は,サンマ+1,マツタケ+1 桃太郎の新しい消費点H(27,13)では,サンマの27匹 消費し,マツタケを13個消費している この点は桃太郎の生産可能性フロンティアの外側 にある 取引からの利益は,サンマ+3,マツタケ+1 2016/5/16 産業経済A 5 32 比較優位,特化,交換 絶対優位になくとも比較優位を活かすことによっ て両者は利益を得た 交換によって人々が自分の比較優位にある活動に 専念できる(特化できる)ので,交換が社会のすべて の人々に利益をもたらす 浦島太郎のサンマ15匹と桃太郎のマツタケ5個の交 換を行っていた マツタケ1個あたりサンマ3匹の交換比率 この交換比率は,浦島太郎と桃太郎のマツタケの 機会費用の中間の値である 2016/5/16 産業経済A 5 33 比較優位,特化,交換 浦島太郎のマツタケの機会費用は4.桃太郎のマツ タケの機会費用は2 交換比率が3であれば,浦島太郎は,交換比率は自 分の機会費用よりも低いので,マツタケを諦めて サンマと交換するだろう 一方,桃太郎は,自分の機会費用の方が低いので マツタケを多く作って交換するだろう もし両者の機会費用よりも高い交換比率だったら 両者がマツタケを売ろうとするだろう その時買い手は誰もいないので取引は成立しない 2016/5/16 産業経済A 5 34 比較優位は個人の活動にも適用可能 大学教授はコピー取りも上手いが,助手さんに任せ ている 芸能人はクルマの運転ができるが付き人に任せる 結婚したら家事に専念するのも比較優位で説明可能 アメリカは日本より自動車生産が上手いかも知れな いが,食料生産に比較優位を持つ よって,日本は自動車を輸出して,アメリカから牛 肉を輸入する 2016/5/16 産業経済A 5 35 復習 ある活動に絶対優位を持つとは,他の人(国)に比 べて効率的に生産できることを意味する 各人(国)に絶対優位にある財があるとは限らない ある財の生産が他人(国)と比べ機会費用が低い 場合にその人(国)はその財の生産に比較優位が あると言う 各人(国)が比較優位にある財に特化して交換(貿 易)することによって両人(国)は利益を得る その交換比率は各人の機会費用の中間にある 2016/5/16 産業経済A 5 36
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