様々な光環境における エゾマツ・トドマツ稚樹の 光合成特性 -耐陰性の評価を目指して- 北海道大学造林学分野 ○飯島勇人・渋谷正人・斎藤秀之・高橋邦秀 1. 目的 1-1. エゾマツとトドマツ エゾマツとトドマツ:北海道の天然林の主要樹種 どのような環境で更新するのか?←北海道の天 然林の維持・管理上重要 光:林内で最も不足する資源のひとつ 光環境に対する反応の違い→更新動態の違い 1-2. これら2種の耐陰性の違い エゾマツとトドマツで耐陰性が異なる? ・エゾマツはギャップに集中分布(Kubota et al. 1994) →エゾマツのほうが耐陰性が低い? ・エゾマツの方が葉へ多くの投資 (Kubota and Hara 1996) →エゾマツのほうが耐陰性が高い?(Walters and Reich 1999) エゾマツとトドマツの耐陰性の違いは明らかでない 耐陰性の違いを検討するためには何に注目すべ きか? 1-3. 耐陰性の検討 –RGRの導入– 耐陰性:生残率?成長率? →(どちらにしても)炭素をいかに獲得・保持するか 相対成長速度は光合成特性・葉の形態・ 器官量配分から(おおまかに)説明される RGR(相対成長速度)の分解 (W2 – W1) LA LW RGR = × × 耐陰性の検討: (T2 – T1) × LA LW W1 これらの特性がどう変化しているか? = NAR × SLA × LMR NAR:単葉あたりの稼ぎ、光合成特性を主に反映 SLA:葉面積/葉重量、葉の厚さ 1-4. 本研究の目的 エゾマツとトドマツの耐陰性の違いを明らかにするために 様々な光環境でのエゾマツと トドマツの光合成特性を検討する 2. 方法 2-1. 調査地概略 調査地:日高北部森林管理署110林班 ・30年以上前から禁伐の設定 ・標高1038m、平均年降水量1374mm 林分:エゾマツとトドマツを主体とする針葉樹林 密度:468 本ha-1 総BA:45.9 m2 ha-1 Abies sachalinensis Picea jezoensis Broad-leaf 2-2. 調査項目 調査木 ・林内の倒木上に生育するエゾマツとトドマツ ・近年上木の攪乱がない場所で孤立状態の個体を選定 Species Abies sachalinensis Picea jezoensis Height (cm) rPPFD (%) Average (cm) Max (cm) Min (cm) Max (%) Min (%) 22 33.9 46.8 15.0 26.2 2.5 24 36.8 49.4 22.0 23.2 2.8 n 調査木の光環境 ・rPPFD ・2005年7月下旬から9月中旬に測定 ・瞬間値×5 ・光量子センサーで曇天時に測定 2-3. 調査項目2 光合成特性 ・ 7月下旬-9月上旬に光-光合成曲線を作成 ・測定葉:1年生葉(去年展開した葉) ・樹冠上部の1次枝から測定葉を選定 ・非直角双曲線式からAmax、Rd、LCPを算出 Amax Aarea 測定葉の形態 ・光合成測定後、測定シュートを採取 ・SLA(葉面積/葉重)を算出 0 R LCP PPFD 3. 結果 3-1. Amax Abies sachalinensis Picea jezoensis A max (μmol m -2 s -1) 12 8 4 r = 0.391n.s 0 0 r = 0.288n.s Amax 10は光環境と有意な関係がない 20 30 0 10 20 わずかに光とともに上昇傾向? rPPFD (%) 30 3-2. Rd Rd (μmolCO 2 g -1 s -1) Abies sachalinensis Picea jezoensis 100 80 60 40 20 r = 0.250n.s 0 0 Rdは光環境と有意な関係がない 10 20 30 0 10 わずかに光とともに上昇傾向? rPPFD (%) r = 0.294n.s 20 30 3-3. LCP Abies sachalinensis Picea jezoensis LCP (μmol m -2 s -1) 15 10 5 r = 0.289n.s 0 0 r = 0.366n.s LCPは光環境と有意な関係がない 10 20 30 0 10 20 わずかに光とともに上昇傾向? rPPFD (%) 30 3-4. SLA Abies sachalinensis Picea jezoensis SLA (cm 2 g -1) 200 150 100 50 r = -0.312n.s 0 0 SLAは光環境に関わらず一定 10 20 30 0 10 rPPFD (%) r = 0.337n.s 20 30 考察 光環境の違い→両種で光合成特性やSLAは顕著 には変化せず ・過去の研究:光合成特性やSLAは光環境に反応(ex. Holmgren 2000など多数←そうならない例も ex. Machado et al. 2003) ・光合成特性やSLAの反応:耐陰性が低い種で顕著 (Valladares et al. 2000) ・葉を長く維持する常緑樹では個葉の機能を変化させづ らい? ・光合成特性やSLA:光環境の幅や生育段階などによっ ても変化(ex. Delagrande et al. 2004)←実験設定の問題 光環境の違い→種間で明確な応答差は見られず ・シュート構造や器官量配分で差?(現在検討中) 謝辞 本調査を行うに際し、山本謙也様をはじめ とする日高北部森林管理署の皆様には大 変お世話になりました。この場を借りて御 礼を申し上げます。
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