日本における過疎・限界集落の福祉課題と課題解決の方向について

日本における過疎地域・限界集落の
福祉課題と課題解決の方向について
新潟医療福祉大学 社会福祉学部
教授・博士(保健福祉学) 豊田 保
日本の人口構成
• 2012年の総人口は1億2752万人
• 65歳以上の高齢者人口は3079万人で、
65歳以上人口の割合(高齢化率)は
24.1%
• 65歳から74歳までの人口(前期高齢者)は
1560万人で12.2%
• 75歳以上の人口(後期高齢者)は
1519万人で11.9%
将来の人口動態
•65歳以上人口は2015年には3395万人だが、
•2042年に3878万人でピークを迎える(人口
の約36.5%)
•高齢化率は2060年に39.9%でピークを迎える
(64歳以下人口が減少するため)
高齢化の別な視点
• 2012年に高齢化率が25%を超えている
都道府県は、47都道府県の29で61.7%
• 2010年の65歳以上人口(約3000万人)の
うち、全国の独り暮らし高齢者は、
男性が11.1%、女性が20.3% 合計479万人
• 65歳以上の夫婦のみの世帯は539万世帯
(家庭のこと)(全国の4864万世帯11%)
超高齢社会の中の福祉課題
• 日本では中山間地域、漁業地域などを中心に、
過疎地域・限界集落が増加している。
• 中山間地域とは、
平野の外縁部から山間地のことで、
山地の多い日本では中山間地域が
国土の73%を占めている。
• 全国の農業集落数の52%が中山間地域に位置し
耕作面積の40%を占めている。
• 集落とは家屋が集合した状態の場所のこと
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過疎地域とは
• 過疎地域とは、人口の著しい減少に伴って地域
社会における活力が低下し、生産機能及び生活
環境の整備等が他の地域社会と比較して低い水
準にある地域社会のことである。
• 2010年の過疎地域面積は国土の57.3%にあたり、
過疎地域に住んでいる国民の人口は
8.8%の1120万である。
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山間地の例
限界集落とは
• 過疎化などによって
集落の50%以上の住民が65歳以上の高齢者であり、
社会的共同生活(集落の自治、生活道路の管理など)
の維持が困難になっている集落のことである。
• 2010年の限界自治体(自治体の人口の50%以上が65歳以上)
は11町村である。
• 2008年の限界集落は全国で7878集落であり、
10年以内に
消滅の可能性がある集落が423集落、
いずれ消滅する可能性がある集落は2220集落
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とされた。
山間地の空家の例
過疎地域・限界集落の増加の背景
• 主な原因としては、若者の都市圏への流
出や雇用の場の不足などがあげられる。
• 近年は都市圏においても過疎地域・限界
集落と同じ現象がみられるようになった。
• 大規模公営団地に高齢者の入居が集中し、
特定の都市の1区画が周囲から孤立する
形で高齢化率が高くなり、孤独死や孤立
死、地域共同体の崩壊が出現している。
(この問題は今回の主題ではない。)
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超高齢社会のもう1つの福祉課題
• 超高齢社会の進行は、介護(身の回りの世話
を必要とする高齢者)の問題を出現させる。
・65歳以上の要介護高齢者の出現率は約18%
であるが、
65歳から74歳までの要介護高齢者の出現率は
約4.3%
75歳以上の要介護高齢者の出現率は
約30%
である。
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今日の重要な福祉課題
• 過疎地域・限界集落などの地域社会にお
ける高齢者に対する生活支援(身の回り
の世話)をどのように構築するのか。
• この問題について、高齢化率が57%で、
人口が約2600人の群馬県南牧村の調査を
例にして考える。
• 南牧村は
住民の25.1%が高齢者の独り暮らしで、
高齢者の夫婦のみの世帯が35.1%である。
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<南牧村の位置>
南牧村の調査の方法
• 2010年、南牧村の全世帯の1114世帯に対
して質問紙による自記式アンケート調査
を実施した。
• 60集落のうちの20集落の20名の高齢者を
無作為に抽出し、インタビューによる調
査を実施した。
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<村の景色>
調査結果①
(住民が日常生活で困っていること)
• さる・イノシシなどの獣が出没する(畑
の管理ができない)
• 村内に医療機関がない(病気の時に遠方
に行く必要がある)
• 村内に大きな商店がない(必要な商品が
すぐに手に入らない)
• 台風・地震・豪雪などの災害による被災
の恐れがある(山間地の気象条件)
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調査結果②(住民が日常生活で
困っていること)
• 農林地の手入れが十分にできない(高齢者
が多いため)
• 村内に働き口がない(産業が衰退している)
• 独り暮らしが心配である(病気や災害などの
時)
• 住居の改善・修繕ができない(年金が安い)
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<村の田畑>
<集落の風景>
<空き家の風景>
調査結果(村での生活の良い面)
• 近隣による高齢者相互の安否確認の定着
• 通院・買い物時に自動車を運転できる人が近隣
の高齢者を連れて行くことが一般化
• 独り暮らしの高齢者が病気の時などは近隣の住
民が食事を提供するなどの世話をする
• 連日、高齢者が民家に集まりお茶飲み話を行っ
ている
• 自宅で採れる野菜を近隣で分け合っている
• 集落ごとのサロン活動(たまり場)が定期に開
催されている
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<集落の家々>
<サロン活動>
過疎地域・限界集落の高齢者に対する
支援策の方向性
• 元気な高齢者の生活を支援する方途とし
ては、高齢者相互の支え合いの仕組を構
築し、それを自治体が支援していくこと
が重要である。
• 高齢者のサロン活動(たまり場)を支援
する、近隣による安否確認のシステム化、
自動車による食糧などの販売業者への支
援、通院・買い物などのための共同利用
バスの運行、空き民家を利用した都市住
民との交流事業の発展などである。
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要介護状態にある高齢者への
支援の方向性
• 全世帯を対象にした質問紙による調査結
果では、村内に将来も住み続けたいとの
住民の回答の割合は75.1%である。
• しかし、現実的には、要介護状態の高齢
者は都市部の高齢者施設への入所、病院
への入院、息子や娘夫婦と同居する道を
選択せざるを得ないのが現実である。
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小規模多機能ケア施設の必要性
• 筆者は、どの過疎地域・限界集落にも小
規模で多様な(複数の)機能を持つ施設
を設置することが必要であると考える。
• 小規模多機能ケア施設とは、1つの小規模
な施設が介護、看護、宿泊、看取り、訪
問介護と訪問看護などの機能を有する地
域社会に密着した施設の形態である。
• 大規模な高齢者入所施設を設置する考え
を転換する必要があると考えている。
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<小規模多機能ケアの仕組み>
<小規模多機能ケア施設の例>