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巨大科学の光と影
(ヒッグス発見と原発事故)
副題:科学技術と社会の関わり
旧題目の訂正
基礎科学・巨大科学の意味すること
(なぜオバマ大統領はアジア重視政策をとったか?)
長島順清
大阪大学理学部・基礎工学部
科学技術論B講義
2016年5月12日(木)
1
話の進め方
第1章:巨大科学の光: ヒッグス発見
1.1 素粒子物理は巨大科学
1.2 基礎科学は役に立つか?
1.3 基礎科学と国防
第2章:巨大科学の影: 福島原子炉事故を顧みる
2.1 大災害は社会の弱点を露呈する
 事故は防げなかったか?
2.2 科学者の信頼失墜
 組織・文化・人の見直し
第3章:日本社会にパラダイムシフトが起きたか?


失われた20年
日本の科学技術政策
まとめ:大学教育に求められること
2
第1章 巨大科学の光
1.1 素粒子物理は巨大科学
実験グループ
直径40m、高さ40m
5万トンの水槽
内壁に11,129 個の巨大光センサー
建設費用 ~100億円
スーパーカミオカンデ測定器
ニュートリノ振動発見は
標準モデルでは説明できない新物理現象の
唯一の実験証拠。
岐阜県神岡鉱山(池の山・地下1000m)
3
全ての自然現象は、真空*)という環境の中で、
物質素粒子に4種類の基本力が働いて生じる
2
力
の
素
粒
子
1
物
質
素
粒
子
g : グルーオン
g : フォトン
n: ニュートリノ
ヒッグス .
3.環境設定素粒子=ヒッグス
*)真空はヒッグスで充満しており、温度により状態を変える。水が氷や水蒸気になるように。
現代素粒子統一理論は、ヒッグス粒子の発見により(一応)完結した。
ニュートリノ振動とは、3種の n が互いに変換すること。
4
四つの基本力
力の伝達粒子
重力
グラビトン
電磁力
フォトン
強い力 .
グルーオン
原子爆弾と原子炉は同じ原理
反応速度の違い
弱い力
W, Z
5
ヒッグス発見法: 1.作る(加速器) 2.検出する(測定器)
陽子と陽子を正面衝突させる
衝突点で高エネルギー発生
(真空が超高温状態になる)
超高温状態でエネルギーが物質化
一部がヒッグスに転換する
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ヒッグス発見器
検出器
ATLAS 検出器
サイズ: 20mf X 44 m
建設費 ~700億円
参加者 ~36ケ国、3000人
建設期間~10年
日本:16機関 ~110人参加
アルプス山脈
人
ジュネーブ市
CERN (欧州原子核研究所)
L H C 加速器
レマン湖
(Large Hadron* Collider)
周長 26.6 km
計画承認 1994年
建設完成 2008年
建設費~1兆円
* ハドロンは、陽子・パイ中間子などクォークの複合体
LHC ( Large Hadron Collider )
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 巨大基礎科学(ビッグサイエンス)の社会性
基礎(自然)科学の動機
宇宙:物質:生命の神秘への好奇心 = 知的衝動
衣食住を超えた人間の文化的営み:
文学・芸術を楽しむ衝動と同列
生活が安定し余裕ができて初めて行える。本来は非生産的活動。
科学活動:
王侯貴族の趣味から始まった。
文化の発展 = 非生産的活動に価値を認める
大学の創始 = 非生産的文化活動 を職業とする人材の育成。
文化の発展は成熟国家の証  投資動機はプライド
ただし、科学には文学・芸術にはない経済的効果がある。
 応用技術への発展
時代とともに、実利的側面がより重要となる。
注:基礎の意味
 企業の意識; 今日は役に立たないが, 明日役に立つ技術(時間思考)。
 科学の意識: より根源的な原理「生物化学原子分子素粒子」 (空間思考)。
9-12
8
ヒッグス探索など、ビッグサイエンスに投資する理由
プライドか見返りか
テーマとしては基礎科学発展の結果として浮上する。
しかし、基礎科学への投資も巨額となると精神論のみでは済まされない。
最初の(大加速器建設)提案は大抵つぶされている。
<日本(1967)や中国(1980)の最初の大型加速器、アメリカのSSC *)(1993) も>
反対理由は主としてコストであり、最大の反対団体は近傍科学分野。
政治家はむしろ歓迎するテーマ。
典型的な反対理由:
物質科学に投資すれば、1/10の予算で10倍の成果が見込める。
また、産業の育成に寄与する。
挫折を繰り返しながらも、
国家・国際規模でビッグサイエンスを行う動機付けは何か?
*)Superconducting
Super Collider
LHCより大型かつ10年先行
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1.2 基礎科学は役に立つか?
ATLAS ヒッグス検出器
実験技術のスピンオフ
例1: PET (Positron Emission Tomography)
陽電子と電子が衝突して出るガンマ線を見る
同じ反応・同じ構造
例2: 超伝導技術の工業化
ネズミ: 脳のPET図
測定器や加速器には強力な電磁石が必要
応用: リニアモーターカー、MRI
例3: WWW (World Wide Web)はCERNで誕生
1989: 大勢の共同実験における情報共有
巨大科学には総合技術が必要。
スピンオフ効果は大きい。
ただし、この効用は
あくまでも副次的な効果
Tim
TimBerners-Lee
Berners-Lee
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重要なのは原理の応用化
ファラデー: 磁気誘導発見 (1831)
国王に、なんの役に立つか? と聞かれて
超伝導電磁石
生まれたての赤ん坊が、なんの役に立ちますか?
国王陛下は、将来必ずやこれに税金をおかけになるでしょう。
MRI
<基礎科学の成果に、何に役立つかと聞くのは意味がない。>
江戸時代の人に、電気の効用が想像できたろうか?
 原理と応用の狭間
 アインシュタインの発見から実用化まで
一般相対性理論
(1915)  GPS*カーナビ (1990)
核磁気共鳴(NMR*)(1938)  医学利用 MRI* (1983)
半導体(1947)
 ソニートランジスタラジオ (1955)
~75年後
~45年後
~ 7年後
MRI 画像
基礎から応用までの時間は縮まりつつある。
基礎科学と応用技術の境は見分けにくくなりつつある。
広範囲の応用技術は、層の厚い基礎科学に支えられている。
*GPS = Global Positioning System,:
*NMR = Nuclear Magnetic Resonance :
*MRI = Magnetic Resonance Imaging:
全地球測位網。
核磁気共鳴
核磁気共鳴画像法
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1.3 基礎科学と国防:
1969年の認識
R・ウイルソン: シカゴにあるフェルミ国立加速器研究所長(当時)、
国会審議の場での上院議員ジョン・パストアとの質疑応答。
「この加速器が何らかの形で
国の安全保障に寄与する見込みはありますか?」
「まったくありません」
・・・・・・・・・・・・・
「わが国の防衛に直接役立つことはありませんが、
我が国を守るに値する国にすることに非常に役立ちます。」
・・・・・・・・・・・・・
このウィルソンの答弁は巨大科学推進者が好んで使うフレーズである。
日本学術会議の基礎科学推進勧告(2009年) にも使われた。
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軍用技術と民生技術
昔は軍事研究が最先端の応用技術であった。
軍事利用のスピンオフ例
ロケット技術: 第2次大戦ロンドン空爆, 弾道ミサイル
 人工衛星
インターネット: ARPANET(1969) 核戦争指揮系統の分散  商用(~1988)
GPS (イラク戦争砂漠作戦で活躍)
 地震予知、カーナビ、ニュートリノ振動
レーダー
 電子レンジ、気象観測
最近の情勢: 民生技術と軍用技術は分けられない。
民生利用のスピンオン例
リモートセンシング(気象情報・土砂災害・植物分布)
TVのゴースト消去技術
ドローン(災害救助、農薬散布、宅配)
コンピューターウィルス除去ソフト
 スパイ衛星
 ステルス
 無人機
 サイバーテロ
NHK [クローズアップ現代] 2014年4月10日放映
○北朝鮮のものとみられる無人機が韓国で見つかった。
搭載カメラは日本製
○シンガポールで開かれたアジア最大規模の航空ショー。
日本企業のブースには各国の軍関係者が殺到。
遠隔操作による爆弾処理、偵察用小型ロボットなど。
使われているのはスマートフォンやゲーム機の技術。
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基礎科学と国防: 2001年の認識
21世紀にむけて: 米国の長期国家安全保障政策を勧告
(ハート・ラドマン委員会) 2001.02.15
冷戦の終結を受け、50年ぶりの見直し。
委員会メンバーは軍トップ、上院国防族、各国大使経験者など
考慮すべき国際情勢
科学技術のもたらす新たな脅威。(IT、生命工学、・・・)
経済のグローバル化
勧 告: キーとなる5分野での機構改革
国内における対テロ対策体制の強化
 勧告7ケ月後の2001.09.11に 同時多発テロ事件が発生。
科学技術・教育の強化
未来は知識産業社会であり、科学技術で最前線を維持することによってのみ
今日アメリカが保持するリーダーシップを維持できる。
自由かつ多様なアプローチが肝要、ソ連型社会体制の失敗に学べ
・・・・ SSC(超大型加速器)建設中止を反省し、基礎科学の重要性に触れる ・・・・
・・・・ 低学年理科教育の重要性等々・・・・・・・
基礎科学を、国家繁栄のための不可欠要素と位置づけた
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第2章 巨大科学の影
これまでは巨大科学の光のみを強調した.
しかし、・・・
科学技術が社会に浸透した結果、そのリスクもまた浮き彫りになってきた。
福島原子力発電所事故はその象徴となった。
 安全神話の崩壊  科学者は嘘つき
2.1 大災害は、社会制度の弱点をさらけだす。
以下、福島原発事故をケーススタディの場として、
どこで間違ったかを検証する。
科学者・技術者としての対応を反省し、
組織・文化・人のありかたを見直す。
20-25
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事故は防げなかったのか?
福島原子力発電所事故発生の流れ
 原子力エネルギー平和利用を、国策として推進した。
 反原発の市民感情を抑えるため、原発は安全と言い続けた。
 過酷事故を想起させる言動(準備・事故訓練)、
組織形成(危機管理体制)を抑えた。
 いつしか、誰もが安全神話を信じるようになった。
(起こって欲しくない  起こるはずがない  起こらない)
その結果
 国家レベル・企業レベルで、組織としての安全保障体制がおろそかになった。
 専門家(科学・技術者)は大勢に準じ、個人としての警告発言を控えた。
 経営者倫理の欠如が、危機時に露呈した。
注意: 福島原発事故の真相細部に付いては諸説あり、1000を越す書物が発行された。
私の集めた事例は、私が持つバイアスを反映しており、
必ずしも正確ではないかもしれないことをお断りしておきます。
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原子炉
/ 原子爆弾の原理
原子力エネルギーとは
核分裂反応
原子力エネルギーは核分裂の際
放出されるエネルギーを利用する
(発見は1938) O.Hahn, L.Meitner, F.Strassmann
n + 235U  236U  A + B + N個 (= 2~3) のn + エネルギー
n = 中性子、
235U
= ウラニウム235
生成された中性子が、近傍の他の 235U と一気に連鎖反応するのが原子爆弾。
間に制御棒を入れて中性子を吸収することにより、実質的に
N = 1 (臨界)にすれば、
反応が静かに持続的に進行する。 これが原子炉。
N < 1で反応停止、 N > 1 で暴走。 N=1は不安定な状態。
<原子炉の燃料とは濃縮され、固められた235Uのこと>
周りに中性子があれば、いつでも火が付く。
------------------------------------------------------------A, B は種々の原子核。 例: A= 92Kr, B= 141Ba
A, Bは引き続き崩壊して、放射線を出すので死の灰と呼ばれる。
235Uは、天然ウラニウム (ほとんど238U)に0.72%含まれる、
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事故の経緯
1. 地震で原子炉を緊急停止  余熱があるので冷ます必要あり
2. 津波により電源が浸水  全交流電源喪失  非常用冷却装置停止
3. 1号機で IC(電源を使わない非常用冷却装置)が作動?
操作ミスで炉心空だき状態  メルトダウン*)
4. 消防ポンプを使い、海水冷却 して、さらなる事故拡大**)は止めた。
5. 空だきにより燃料被覆材のジルコニウムが水蒸気と反応して
発生した水素が漏れ、1号機建屋爆発。
6. このあおりで 2, 3号機への対応が遅れ、
あい次いでメルトダウン・水素爆発を起こした。
---------------------------------------------------------------*)
メルトダウン=炉心溶融: 燃料が溶け落ち、圧力容器の底がぬけること。
圧力容器は、格納容器の中に、格納容器は建屋内に収納。
**)最悪のシナリオ: 格納容器が爆発。福島第1第2原発が汚染されて無人となり、
(東日本壊滅)
放置された全ての原子炉燃料と使用済み燃料が溶融する。
半径250キロ以内 (東京を含む) は住めなくなり、
3500万人の避難が不可避となる。
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福島原発事故の三つの大きなポイント
1)大津波は想定外だったか?
 自然現象の予測
2)全交流電源喪失 は想定外だったか?  安全対策の準備
3)メルトダウンは不可避だったか?
 現場の対応
 科学の領域
 技術の領域
 危機管理の領域
原子力災害安全に対応すべき機関(当時)
1)当事者(東電: 経営トップと現場)
2)原子力安全委員会:
内閣府所属:
3)原子力安全・保安院: 経済産業省所管:
4)安全保障・危機管理室: 内閣府所属:
首相の助言機関: 安全基準作成
原発規制と管理の実務を行う。
災害時の対応処理機関**)。
**)原子力災害時は保安院が事務局となる. 通常は警察・防衛が仕切る。
以下では主として当事者(東電)と政府監督機関(保安院)
の対応を考察する。
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三上喜貴: 安全安心社会研究センター
特別講演2011.07.09 より
東日本大震災の際、太平洋岸にあった5ヶ所の原子力発電所のうち
事故を起こしたのは福島第1原発の1 - 4号機のみ.
福島第2原発: 全交流電源が喪失したが、奇跡的に冷温停止ができた(チーム増田)。
備考:東通原発は定期検査中。
福島第一原発: 4.5.6号機は定期検査中: 4号機は3号機爆発のあおりで建屋爆発。
30-35
20
考察1: 巨大地震・津波は想定外ではなかった。
東北電力女川原発のある三陸地方は津波の多発地。
当初の設計時(~1970)から巨大津波を想定した。
(福島第1原発1号機と同型・同時期)
伝説のエンジニア(平井弥之助)は地元出身。
2002年:大地震可能性を警告(政府地震本部  阪神・淡路大震災の反省)
東海第2原発は、地元茨城県の強い要請を入れて防波堤を建設した*)。
 東電も、2008年までには最高15.7mの津波予想値を得ていた。
 しかし、東電トップは警告を無視した。なぜか?  現場意識の欠如
東電トップの多くは200キロ離れた東京在住で、
役人の天下りが多かった (経産省から過去58人) 。
反省: 専門知のみでは不可。現場知の重要さ。
(地元の意見に配慮するとの政治的配慮ではなく、方法論に問題がある。)
専門家: 普遍的な設定条件・論理を使いたがる。 一般論に傾きがち。
地元は自己の環境を熟知しており、現場の境界条件を取り入れる。
*)完成ぎりぎりであった。もし、これがなかったら第1原発と同規模の惨事になったと想定される
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考察2: 全交流電源喪失  過酷事故は想定外だったか?
過酷事故=メルトダウン・放射能拡散
原子力安全基準指針27: (作文は業者)
長期間にわたる全交流動力電源喪失は考慮する必要はない!!
(長期=想定~30分。既設設備は8時間。現実は10日)
原子力安全・保安院の対応:
チェルノブィリの教訓:
安全設計思想が異なるとして、 日本では起こらないと結論した。
東海原発臨界事故(1999)の反省に基づく
内閣府安全・危機管理室の提言は無視された。
IAEA(国際原子力機関2006):
5層深層防御勧告に対し、 日本は3層*)で十分であるとした。
(寝た子を起こすな!)
*)
4層はメルトダウン、5層は放射能大量放出
(次に続く)
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 事故時: 保安院長(経済学部出身)は首相の質問に答えられず。
次に、次長が来たがこれも電気のことはわからない。
3日目に、ようやく原子力専門家が別の部門から来た。
 危機時: 首相は適切な助言を得られなかった。
 2号機爆発 (東日本壊滅の危機**)) の恐れが出たとき、
現地保安要員は現場から逃避 。(東電も全(?)職員避難を要請した!)
(上司の承諾は得た上なので、組織としての当事者意識の欠落と見るべき。
第二原発の保安要員は現地にとどまった)
反省: 規制機関が推進機関の中にある矛盾
保安院長ポストは官僚昇進の通過点:
専門家を配置しなかった。  科学技術 の軽視
度重なる専門家の警告が生かされなかった。
 専門家 の軽視
(事故後、保安院は解体され, 機能は環境省原子力規制委員会へ移行。
官僚の体質は変わったろうか?)
結果的には2号機のどこかに亀裂が生じ、放射能漏れを起こしたが、
同時に格納容器爆発の惨事も回避できた。(原因不明  全くの幸運)
**)
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考察3: 技術者はどう関与したか?
 全交流電源喪失は防げたか?
○「絶対安全は無い」というのは技術者の常識。
最後の砦(電源を使わない非常用冷却装置 IC)は用意してあった。
現場対応の問題点: ICは設置以来40年間テストせず。(米国では2年に1回実施)
過重事故想定訓練もなかった。
事故発生時、現場の担当者はICの扱いに慣れていなくて、ICの停止状態が放置された。
この情報が中央制御室に伝わらず、対策が後手に回って災害を大きくした。
(ICの持続時間は8時間。ただし、地震で破壊された可能性は否定できず)
 事故に備える準備、訓練の欠如
 現場の意見が汲み上げられない
 危機管理体勢が整っていなかった。  組織の問題=経営者の姿勢
 過酷事故(メルトダウン・放射能汚染)は防げたか?
福島第2原発も、全交流電源喪失したが、事故を食い止めた。(チーム増田の奇跡)
第1原発も IC/RCIC*) 動作中に、素早く海水注入に踏み切っていれば過酷事故は防げた。
東電トップが最後まで原子炉の救済**)にこだわったことが現場を混乱させ、
大事故につながった。
 経営トップの判断ミス
*)
ICは1号機、RCICは2・3号機の非常用冷却装置
**)海水注入はするな。
放水をやめて電源回復を優先しろ。
事故調査委員会の結論: 原発事故は人災
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2.2 科学者の信頼失墜
原子力安全委員会には、科学者が専門家として参加。
原発推進者の安全神話路線に、科学者の大勢は声を上げなかった。
一般市民は、原子炉安全性は科学者により保証されていると信じた。
科学技術白書2012より
44-47
25
組織・文化・人のありかたを見直す
参考:畑村洋太郎:
福島事故に学ぶ 2014.06.13
危機管理における組織のあり方。
危機に正面から向き合って議論できる文化の醸成。
個の発信: 自分の目で見て自分の頭で考えた上で、判断行動する。
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危機管理における組織のあり方
組織の全員が、目的・機能・社会的位置づけを、十分自覚しないと
組織としての機能を果たせない。  企業ガバナンスの問題
当たり前のことが守られていなかった。
経営者の姿勢
 企業の社会責任:
経営の本当のプロフェッショナルなら、
少なくとも現地の体制を把握して、
非常用冷却装置がどのくらい保つか程度のことは、
経営者として当然知っていなければならなかった。
経営知の改良  リーダーのありかた  大学教育に取り入れる。
これまでの日本の大学教育は、文系といえども狭い専門知識
(法学・経済学・文学など)の詰め込みであった。
(欧米のリベラルアーツとの違い)
リーダーとしての心構え・人とのコミュニケーションは、
課外活動、もしくは卒業後の自助努力に任された。
対 策
MBA(経営大学院)強化など。 しかし、エリート養成教育は日本になじまない?
文系教育カリキュラムに幅を持たせる。 実践教育を深める。
<この講義は理系対象なので、これ以上深入りしない。>
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危機に正面から向き合って議論できる文化の醸成。
真の防災・減災対策には危険の存在を認めることが大前提。
専門家が科学的に決める安全基準  一般市民が納得? 安全と安心*)は違う。
「*)科学技術者の安全認識も、自己の専門以外では一般市民レベル」
専門家のいう科学的な安全基準とは
厳密な境界条件に基づいた論理的結論としての数値。(数値は確率で)
確率の難しさ  基準境界で連続なのに、オール・オア・ナッシングと受け止める。
一般市民は自分の置かれた環境を暗黙の前提とする  専門家の説明はくどいな。
境界条件を市民の理解できる状況に翻訳することは専門家の説明責任
例: 短時間(数時間)に浴びた放射能被害の現れるしきい値は 100mSv§) で、
がんのリスクが 0.5%上昇§§)。 ところで日本人はがんで死ぬ割合が30%。
日本人の年間死亡者1000人が全員被爆者であった場合、
がんによる死亡300人305人に増える。 (多いか少ないか?)
損失余命: 喫煙: 7年、自動車事故: 207日、 飛行機事故: 1日、原子力発電: 0.05-2日、
これだけだと、放射能は自動車より1000倍安全 という言い方もできる。 しかし、・・・
確率説明は共感を呼び起こさない。
自動車事故はどのようなときに発生し、どう避けるかを知っている。
 自動車を使うことの便利さを秤にかけ、リスクを受け入れる。  安心感がある。
放射能は目に見えず、防ぐ方法を自分で管理できない。
岸田一隆:科学コミュ二ヶーション、平凡社新書
科学コミュニケーションを徹底する: 啓蒙(上から目線)  双方向会話
社会の科学リテラシーを高める : 要は社会の側から科学を考えるということ
§)
47-52
人体被曝量単位: Sv= シーベルト。mSv=Sv/1000
(100mSv/yr) の場合は、発生率は増えない。
§§) 長期被爆
28
 個の発信: 自分の目で見て自分の頭で考えた上で、判断行動する。
平常時: 専門家としての判断を、きちんと主張する。
例: 電源浸水の対応策としては、
「配電盤や違う仕様(空冷と水冷など)の非常用ディーゼルエンジンなどを
複数備え、異なる場所に設置する」
などの工夫で防げた(女川原発ではそうしていた!)
非常時: 想定外の事故・災害に対処するには、
平常時の訓練を基礎においた上で優先事項を明確化し、即断即決する。
(特に損切り*)がむずかしい。)
*)平常時ならば非人間的、もしくは損害を招くと非難される行為が、
人と時間が限られた緊急時には、最大数の人を救い損害を最小に押さえる。
例1: 福島原発事故の際、 会社をつぶしても、職員を危険にさらしても
放射能被害を防ぐ決断をするべきだった。
例2: 医療トリアージ: 患者の重症度に基づいて、治療の優先度を決定して選別を行うこと。
日本の文化とは相性が悪いので、言うは易く行うは難し!
コンセンサスを重視 (責任回避?)。 言い分を通すにはKYと根回しが必要!
 現在も企業による欠陥隠しは後を絶たない!
29
第3章 日本社会にパラダイムシフトが起きたか?
東北大震災は大きな契機。 しかし、変化は10年前から起きていた。
1. 科学技術への不安感
基礎科学・技術が産業界に浸透。 その結果、様々なリスクが顕在化した。
遺伝子組み換え食品の安全性や環境問題。
先端医療や生命科学における医学倫理問題。
インターネット普及による早すぎる社会変化。
(サイバーテロ・不正アクセスなどの 新型犯罪)
人口知能は人間を越えるかといった科学技術の不確実性への不安。
2.失われた20年への反省: 地政学的背景
1980年代:高度成長でアメリカに追いつき、追い越すかに見えた
GDP*)大国間競争で、アメリカはビジネスモデルを、ハード指向から
ソフト指向に切り替えて巻き返した。
アジアの興隆: 1990年代:中国が追い上げたが、
日本は国策を誤りそのまま追い越された。経済低迷はなおも続く。
*)GDP=Gross Domestic Product: 国民総生産
政府・産業界のあせり。改革が必要だ!
53-58
30
アジアの興隆
国力を表すGDP、将来指標のR&D投資総額は、
いまや アジアが米・欧を越えた。
GDP = Gross Domestic Product: 国民総生産
R&D = Research and Development: 研究開発
主要国のR&D投資額 2003-13
主要国GDPの伸び
RIETI、独立行政法人経済産業研究所
その他 13.0%
東アジア
米
他のアジア
7.1%
米国 19.5%
韓国・日本 11.1%
EU
EU 15.7%
中国
日本
中国 33.5%
韓国
Science & Engineering Indicators 2016 National Science Board
31
R&D投資成果は論文数に現れる
論文の質も向上しつつある
主要国科学技術関連論文数
科学技術白書2015
米国
EU
米国
米
中国
日本
中国
日本
中国
日本
インド
Science & Engineering Indicators 2016:National Science Board
主要国博士号取得者数
米
中国
仏・独・英
X5
日本
中国は膨大な数の博士を輩出している。
20年後のノーベル賞は米国と中国が独占?
韓国・台湾
Science & Engineering Indicators 2016:National Science Board
32
nature_430_2004_311
論文引用度(科学的豊かさ) 
主要先進国の中では、日本の論文の引用度は低い
G7
人口大国
日本
経済的豊かさ
(GDP /person in $1000)
33
新しいビジネスモデルの模索:
高度成長時代は
自動車・家電製品などのコモディティ製品の品質改良で勝負した。
良いものを作れば売れた。
アジア各国の追い上げで、新しい付加価値のある商品市場の開拓が必須。
生活必需品  生活を楽しむための商品  高付加価値商品
産業界の反省  イノベーション追求
 科学技術の使い方が問題
日本の科学技術政策は、適正であったか?
60-65
34
日本の科学技術政策
科学技術基本法(1995)制定:
*経済財政諮問会議
総合科学技術・イノベーション会議
中央防災会議
男女共同参画局
総合科学技術会議発足 (内閣府設置: 重要政策に関する4つの会議*の一つ)
 日本は科学技術立国を目指す。
5年ごとに科学技術基本計画を改訂する。
科学技術指標2015;科学技術・学術政策研究所
1995年から始まる重点政策で、GDPの中に占めるR&D予算の割合は世
界のトップクラスとなった。
額面の上では、日本は科学技術立国を実現したと言えるだろう。
しかし、予算は増えてはいるが、米国やEU等はそれ以上。
質的にはまだ未熟  資料参照
35
2000年代前半から後半に掛けて、日本の論文の貢献度が低下
科学技術指標2015 科学技術・学術政策研究所
ほとんど全ての学術領域において、
近年、被引用度の高い論文の
世界ランキングが低下する傾向にある。
科学技術の(相対的)衰退は、
産業界へ直接影響するようになった。
アジア通貨危機
米国
ドイツ
科学技術指標2015
科学技術・学術政策研究所
科学技術指標2015
科学技術・学術政策研究所
27
日本
2015
総務省ICT白書2014
総務省ICT白書2014
36
科学技術政策の反省点*)
*)参考:奥和田久美:科学技術と社会の関係の変化
* 科学技術振興だけではイノベーションが生まれなかった、という認識
* 世界の「知の競争」の激化・日本のガラパゴス化の懸念
* 震災をきっかけに、科学者・技術者への国民の信頼が低下。
* 科学者・技術者と市民の対話の欠如
教育基本法改正(2006)。
大学の機能に「教育」「研究」と並んで「社会貢献」を加えた。
第4期科学技術政策(2011~)
産業界からの要請を踏まえ
分野別重点化から、課題解決型・課題達成型へシフト。
2014年総合科学技術・イノベーション会議と改称。
自然科学のみならず、人文科学や社会科学の視点も取り入れ、
科学技術政策に加えて、関連するイノベーション政策も幅広くとらえて推進
そして2016年には、・・・
37
二つのキーワード
イノベーションとは:
科学技術会議の定義
(日本語訳=技術革新より広い意味を持つ)
科学的な発見や発明等による新たな知識を基にした
知的・文化的価値の創造と、
それらの知識を発展させて
経済的、社会的・公共的価値の創造に結びつける革新
文系的思考が必要
社会的に意義のある新しい価値を創造すること
(新型の財貨、新生産法、新市場、材料の新供給源、新組織)
例:ウォークマンとアイフォンの違い: どちらも既成の製品にはない新しい商品。
しかし、前者はオーディオ機能に特化。後者はコミュニケーションがどういうものであって、
その中の必要な技術は何かという価値観の軸が変化  携帯パソコン概念そのものを変えた。
「Steve Jobs: リベラルアーツ教育の発想における重要性を説いた。彼はアップルの斬新な
アイデアは大学でのカリグラフィー(ペン習字)習得のおかげと公言している。」
トランスサイエンスとは、*)
学際(Interdisciplinary)を越える概念
 科学で扱うが、科学だけでは答えることのできない問題
典型例:
除染・住居制限
基準に影響
●原子炉の安全基準
(安全と安心にどこで線を引くか?)
●低レベル放射能リスクの評価 (客観的境界条件が実現不可能)
(100mSv/yearの放射能被爆は有害か無害か? 専門家は分裂。 国の規制は1mSv/year 以下)
科学(客観的事実)と権力(意志決定)の相互作用領域
(保安院長は専門家でなければならなかった?)
66-72
*)原発災害を期に注目を浴びた概念 (提唱者:A.M.Weinberg:1972)
38
日本のイノベーション力は、近年低下、EU平均並で低迷
日本は効率が低い
イノベーション力 = 投資+成果
効率=成果〳投資
スイス
米
韓国
GII=イノベーション力
EU
シンガポール
香港
中国
日本
インド
GII = (投資+成果)/2, 円の大きさ=人口, E = 成果/投資
青丸:効率良 (E > 0.78), 赤丸:効率小 (E < 0.78)
投資:R&D投資額+教育・研究人口と環境を加味
成果:知識創造・インパクト・発信力などを数値化
1人当たりGDP ($ 購買力: 対数目盛)
39
日本は分野横断的研究・文系が弱い  発想の狭さ?
Top 10% IDRの引用度
引用度相関: 学際度トップ10%論文 vs 学際度論文
FWCI:
Field Weighted Citation Impact
(IDRとは: 分野横断引用度の数値化)
米国
全分野平均
G7諸国
日本
中国
IDR論文の引用度
引用度相関( 特許): 学際度トップ10%論文 vs 学際度論文
Top 10% IDRの引用度(特許)
20092013
特許関連
米国
G7諸国
日本
中国
IDR論文の引用度 (特許)
注: 使用引用文献はSCOPUS(Elsevier 社)掲載のもの
40
第5期科学技術基本計画(2016):
 学際からトランスサイエンス重視へ
基本計画改訂に産業界が本格的に参画し、産業界の要望を色濃く反映。
産業創造を第1の柱とし
「基礎研究の力を産業力につなげていくことが重要な課題」として
国立大学の改革を中心課題の一つとして打ち出した。
 科学技術教育に対する産業界の意識:
(基礎・科学が重要なことは認めましょう。
だけど、面白いだけじゃだめですよ。活用法をしっかり学んでください。)
旧来の重点
品質改良の技術
組織に順応
科学技術者の素質 :狭く 深く
即戦力
大学教育:
専門特化





これからの重点
市場開拓型商品の開発へ (良いものより売れるもの)
個の発信  ベンチャービジネス奨励
基本技術の発展応用・分野横断的思考
基礎力+応用力、柔軟な思考力
専門の複合化・多様化
 文理融合
試験成績重視 (資格獲得)
理学的論理(トップダウン)
と生命科学的思考(ボトムアップ)の調和
さらに人文科学的素養も
 能力開発 (Steve Jobs, Bill Gates は大学中退)
「日本の高校1年生の科学知識は世界上位。しかし、成年知識は低い (OECD2006)」
41
まとめ。 大学の教育に求められること
自覚すべきこと:
産業界における純粋科学と応用技術の一体化
専門技術には賞味期限がある。 ( IT による急激な社会変化)
ニーズはイノベーションとトランスサイエンス能力
若い人に期待される資質:
従来は、
職種に特化した専門技術能力 (旧来の工学部的発想)
これからは、
柔軟な思考・複合分野への応用能力(Multi-disciplinary)
科学コミュニケーション能力
 基礎重視の理学部・基礎工学部的発想が有利 (十分ではないが!)
科学コミュニケーションや新価値創造には、文系的発想が重要。
現在大学教育改革が進行中: 阪大は特に熱心
博士課程教育リーディングプログラム・大学院副専攻プログラム・
コミュニケーションデザインセンター・国際医工情報センター等々
77-85
42
終わり
ご静聴ありがとうございました
43
Backup Slides
44
基礎科学は、国家政策の重要要素になった。
ハート・ラドマン報告よりの抜粋
特に、我々は基礎研究・技術発展にもっと投資すべきである。
・・・・・・・・・・・・・
もし、米国が研究開発への投資をなおざりにすれば、我々の栄誉は失墜する。この点に
関して、最近の失策事例はずっとわれわれにつきまとうであろう。
大型加速器SSCの建設を中止したことで、少なくも来る数10年間、
理論物理学上の重要なブレイクスルーはアメリカではなくヨーロッパに
持って行かれるであろう。
これは単なる国威発揚や国際的イメージ向上の問題ではない。・・・
未来は知識産業社会であり、科学技術で最前線を維持することによってのみ
今日アメリカが保持するリーダーシップを維持できる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
直視すべきは、科学・数学・工学における優秀な人材が、
米国には不足しているという現実である。
理由の第一は明らかである。基礎科学や数学は、他の職業科目に比べはるかに
長期間の努力・準備が必要であるのに、報酬はそれほどではないので学生に人気がな
いことにある。
第2の理由は、アメリカの初中等教育制度が期待ほどには機能していないことにある。
65
45
◎原子炉構造: (沸騰水型軽水炉 BWR)
炉心の燃料棒はペレット状に焼き固め、ジルコニウム被覆をしてある。
制御棒の出し入れで反応制御。冷却し続けないと熔ける(炉心溶融)
燃料棒は圧力容器(耐圧83気圧)内の冷却水プールの中に浸けてある。
圧力容器は格納容器(耐圧3.8気圧)の中に収納。
格納容器はさらに原子炉建屋の中に収めてある。 水素爆発*ではこの建屋が壊れた。
圧力容器
燃料棒
格納容器
建屋
平常運転時 図解
非常時対応:
1.(反応を)止める
(制御棒を入れる)
2.(余熱を)冷やす
(水を絶やさない)
3.(放射能を)閉じ込める
(容器の爆発阻止)
(ベント=空気抜き)
制御棒
ベント
* 水素爆発は燃料棒露出に伴い
ジルコニウムと水蒸気が反応して
生成される水素の漏れによる
46
◎事故への道: 冷却水水位が燃料の上端まで下がると炉心損失が始まり、
燃料棒が露出すると空焚き状態となる(炉心溶融)。
水素爆発: ジルコニウム (燃料棒被覆材) が水蒸気と反応して発生した
水素が 配管亀裂などから建屋にもれ、空気中で点火して発生する。
メルトダウン: 炉心溶融により圧力容器の底が抜けおちる状態を云う。
ベント: できないと格納容器爆発の恐れ  敷地汚染で全員退却 
 全ての原子炉がメルトダウン  最悪のシナリオ(東日本壊滅)
ベント後も冷却水注入は必要。ただし海水を注入すると炉の再使用は不可能
◎安全装置: 地震などが起きると、制御棒が差し込まれ、炉は緊急停止するが、
余熱があるので、非常用冷却装置 (ECCS) を働かせて、冷却は続ける必要がある。
ECCSが働かない場合の最後の砦として、電源を必要としない冷却装置(IC / RCIC)がある。
(ただし寿命は短い~8時間)
安全装置
圧力安全弁
冷却水水位
海水注入口
ECCS =
Emergency Core Cooling System
IC = Isolation Condenser
非常用復水器 (通称イソコン)
RCIC =
ベント
(ガス抜き)
Reactor Core Isolation Cooling system
原子炉隔離時冷却系
47
海水注入経路
ベント
ECCS
◆余震… その都度退避
48
最後の砦: ICとRCIC は働いた。
電気を動力源としない冷却装置。
ただし短時間(ICは8時間)で冷却水がなくなる。
1号機:IC操作を誤り動いていると誤認した。
ただしICが破損していた可能性は除外できない。
2,3号機:RCIC作動中に海水注水を行って
いれば爆発は防げた。
海水注水は原子炉の再使用を不可能にするので
ちゅうちょしている間に時機を失した。
1号機爆発で現場作業が困難となったこともある。
幸運1:
2号機は格納容器爆発の危険性があった。
(東電は敷地撤退を要請した)
何らかの原因(3号機爆発?)で、
格納容器が損傷し、放射能は漏れたが、
爆発もしなかった。 (原因不明)
幸運2:
入れ替え中の4号機の使用済み燃料プールの
冷却が継続した。(工事遅れと3号機爆発による
直撃がなかったことの二重の偶然)
もし、2号機格納容器爆発が起きていれば、
250キロ圏内(東京を含む東日本全体)で
人が住めなくなっていたろう。
49
3.11 事故11の奇跡 http://blogs.yahoo.co.jp/norrie_sky/24929265.html
1)2号機が空気漏れを起こし、放射能が放出(県民避難の最大原因)されたが、
同時に格納容器爆発の惨事も避けられた。(原因不明)
もし格納容器が爆発していたら、福島第1第2とも汚染されて無人となり、
全ての原子炉燃料と使用済み燃料が溶融し、半径250キロ以内には住めなくなり
3500万人避難という東日本壊滅になった。
2)4号機は定期検査中で、使用済み燃料はプールに移されていた。
1-3号機と違い無防備な状態。津波で電源喪失と共に冷却機能が失われ
熱崩壊するはずであったが、工事の不手際で側壁を隔てた
原子炉ウエルの水抜きが遅れ、それが仕切り壁のずれで生じた隙間を通して
流れ込み助かった。アメリカがもっとも心配していた事態であったが、日本側は
全くノーマークであった。
3)6号機の非常用電源6台のうち1台が使えた。これがなければ
5, 6号機もメルトダウンしていたかも。
4) 2004.10.23 新潟中越地震の教訓から、免震重要棟を建て、事故8ヶ月前から運用開始。
第1第2原発共にここで全員寝泊まり事故収束にあたった。
これがなかったら、共に全メルトダウンを起こしていただろう。
5)第2原発では、外部電源4回線のうち1回線が生き残ったことが
その後の努力で冷温停止できた要因。
6)東海第2原発防潮堤が直前に完成。でなければやはり
メルトダウンの危機(あと40cmで電源水没)。 http://bit.ly/16UeWQ0
7)国道6号線の橋などを直前に補強してあったので、使用可能であった。
8)週日午後で作業員が大勢現地にいたので、初期作業可能だった。
50
安全安心社会研究センター
三上喜貴講演資料2011.07.09
福島原発事故から考えるシステム安全
日本と米国の防災・危機管理の大きな違い
1,日本は防災に力を入れるが、災害が起きたらと言う想定は嫌う。
考えたくもない災害は起こらないだろう 起こるはずがない 起こらない 安全神話
(プランBの拒否という日本人のメンタリティ)
2,日本は縦割りのセクショナリズムが強い。省庁横断的な標準化を進め、
危機管理要員の出来不出来に拘わらず一定の成果が上がるようなシステムを考察する必要性。
コンセンサスを重視し対立意見の実施を嫌う。危機に際しての即断即決の習慣がない。
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チェルノブィリと福島事故の比較
放射線総放出量Cs =~3.6PBq=X2.5
ヨウ素 ~50万TBq =~1/10
避難民数 16万人vs 34万人
事故死亡者 0 vs 33+α(癌~4000)
汚染面積~1/10~1/20
~広島爆弾X1000
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社会進歩と科学技術開発力の関係?
社会進歩指標 
資料:Social Progress Index 2014
ニュージーランド
EU諸国
スイス
ノルウェィ
日本
米国
韓国
中国
ロシア
経済的・科学技術的指標のみでは計れない社会的価値。
考慮項目
Basic Human Needs:
食物と医療、上下水道、ハウジング、治安
Foundations of Well Being: 基礎教育、情報通信へのアクセス、福祉、環境整備
Opportunity(選択の自由)
自由と基本的人権、マイノリティ包容力、
社会的モビリティ、高等教育
経済的豊かさ
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