在宅での終末期を援助するために

在宅での医療連携を学ぶ
ー緩和医療の実際からー
在宅での終末期を援助するために
~コミュニケーションの実際を中心に~
~終末期癌患者への接し方~
鶴岡協立病院 高橋美香子
2016/7/9
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がん患者の緩和ケア推進を目指す
医療行政の動向
• 第三次対がん10ヵ年戦略(2004年)
在宅療養支援診療所制度新設(2006年)
麻薬管理マニュアル改定(2006年12月)
• がん対策基本法の施行(2007年4月)
• がん対策推進基本計画公示(2007年6月)
麻薬及び向精神薬取締法施行規則の一部改正(2007年9月)
• 都道府県がん対策推進計画の策定(2008年3月期限)
• 診療報酬改定(2008年4月)
2016/7/9
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背景
<がん対策基本法>
国・地方公共団体は、
・疼痛等の緩和を目的とする医療が早期から行われる
・居宅において医療を提供する連携協力体制を確保する
ために必要な施策を講ずる。
2016/7/9
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日本人にとって望ましいQOLとは?
~多くの人が共通して大切にしていること~
• 苦痛がない
• 望んだ場所で過ごす
• 希望や楽しみがある
• 医師や看護師を信頼できる
• 負担にならない
• 家族や友人とよい関係でいる
• 自立している
• 落ち着いた環境で過ごす
• 人として大切にされる
• 人生を全うしたと感じる
2016/7/9
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日本人にとって望ましいQOLとは?
~人によって重要さは異なるが大切にしていること~
• できるだけの治療を受ける
• 自然な形で過ごす
• 伝えたいことを伝えておける
• 先々の事を自分で決められる
• 病気や死を意識しない
• 他人に弱った姿をみせない
• 価値を感じられる
• 信仰に支えられている
2016/7/9
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日本人が希望する療養場所
~治癒が見込めないで痛みが伴う場合~
療養場所
死亡場所
緩和ケア病棟
22%
50%
自宅
59%
11%
今まで通った病院
10%
33%
がんセンター等
専門的医療機関
3%
3%
2016/7/9
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希望する場所で治療を受けられる実態
希望する死亡場所
イ 0%
ギ
リ
ス
20%
40%
60%
64
ア
メ
リ
カ
10
100%
0%
16
9.6
23
20%
40%
60%
22
4.4
6.7
87
60
日
本
80%
実際の死亡場所
60
39
5.7
80%
37
86
100%
16
17
5.3
うち、最後まで自宅11%
必要になったら病院22%
必要になったら緩和ケア病棟27%
在宅
病院
緩和ケア病棟
ナーシングホーム
高い希望にかかわらず低い在宅・ホスピス利用率
↓
安心して自宅にいれる環境やホスピスは整備されていない
2016/7/9
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在宅療養のメリット
• 「病人」ではなく「家族の一員」として最後まで生
活できる。
• 自分らしく、自分のペースで生活できる。
• 気兼ねしない。好きなことができる。
• 地域とのかかわりが継続できる。
• 家族だけで見送ることもできる。
2016/7/9
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在宅療養のデメリット
• 24時間の医療体制といっても点でのサポートの集合で
ある。
• 入院と比べると医療従事者との時間距離が長い。
• 専門職種がそばにいない不安。
• できない治療がある。
• 家族への負担がある。
2016/7/9
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がん終末期と非がん性慢性疾患の
在宅療養における違い
短距離競技
II
癌終末期
長距離走
II
非癌性慢性疾患
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がん終末期在宅療養の特徴
• 病状変化が早い(日~週単位のことも)
• 全経過も短期間
⇒迅速な介護対応が要求される
短期集中ケア
短距離競技型
⇒一般には長期的な持続を想定しなくてよい
• 回復が見込めず、不安定で、必ず悪化する
⇒悪化をみこしてのプランニングが必要
⇒悪化時にも医学的な救急対応を必要としない事も多い
• 医療依存度が高い(こともある)
⇒手厚い介護と看護が必要
2016/7/9
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非がん性疾患の在宅療養
• 回復は見込めないが病状は安定
• 長期にわたる在宅療養になることも多い
• 急変もあるが治療による回復もある
⇒急変時には迅速な医療が必要
• 介護依存度が高い
長期持続ケア
長距離走型
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もちろん、例外もあります。
• ひとくちに癌終末期の在宅療養といっても様々です
2016/7/9
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在宅でできる医療
•
輸血・・・○(△)
•
酸素吸入・・・○
•
気管切開・・・○
•
腹水穿刺・・・○
•
化学療法・・・○
•
人工呼吸器・・・○
•
膀胱留置カテーテル・・・○
•
麻薬による疼痛管理・・・○
•
点滴(末梢静脈/中心静脈/皮下)・・・○
•
経管経腸栄養(胃瘻/腸瘻/経鼻胃管/等)・・・○
•
各種ドレナージチューブ(消化管/胆道/腎瘻/腹水)・・・○
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研究班HP(国立がんセンター中央病院)
地域全体からアクセス可能な方法でマテリアルの提供
・マニュアル
・連携プログラム
・患者用パンフレット
市民全体
自宅
病院や施設
・私のカルテ
地域緩和ケアチーム
在宅療養支援↑
急性期症状緩和↑
終末期ケア
Net 4 U
電子カルテ
地域リンクナース
・自分の職場でのマテリアルの普及を行う
・サポートセンターとのリンク役になる
地域ミーティング
症例検討・セミナー
市立荘内病院
サポートセンター
アウトリーチ
スキルアップセミ
ナー
2016/7/9
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地域全体を対象とした
緩和ケアのコンサルテーションとサポート
とりきれない痛みがある
死にたいと言っている
病院・診療所
電話や
メールで
相談
患者さんご自宅
往診
急変や専門的
診療を要する
時
電話やメー
ルで回答
地域緩和ケアチーム
緩和ケア外来・救急受診
2016/7/9
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終末期患者さんへの接し方の基本
• 傾聴する
• 支持する
• 答えや自分の意見を押し付けない
2016/7/9
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ご家族・ご遺族への接し方の基本
• 支える
• 評価する
2016/7/9
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日本人が希望する余命告知
予後6ヶ月
11
27
17
予後1ヶ月
0%
25
20%
40%
22
40
17
42
60%
80%
聞きたくない
自分から聞いたときのみ説明してほしい
余命を知りたいかたずねてほしい
医師から具体的に教えてほしい
100%
2016/7/9
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告知に対する精神的反応
•国立がんセンターがん告知マニュアル
• 第1相:初期反応期<1週間以内>
否認や絶望
• 第2相:苦悩不安の時期<1~2週間>
苦悩・不安・抑うつ・不眠・食欲低下・集中力低下などが
交互に何度も見られる
• 第3相:適応の時期<2週間以後1~3ヶ月>
現実の問題に直面し新しい事態に順応するようになる。
そう努める。
2016/7/9
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癌患者の精神的特徴
癌末期医療に関するケアのマニュアル
• 疑い
• うつ状態
• 不安
• 退行
• 恐れ
• 混乱
• いらだち
• あきらめ
• 怒り
• 受容
2016/7/9
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がん患者に対する精神的関わり方
癌末期医療に関するケアのマニュアル
• 患者の側に座りよく話を聞く
• 感情に焦点を当てる
• 安易な励ましを避ける
• 理解的態度で接する
• 共に闘うことを患者に伝える
• 病状の変化に対する布石をする
• 患者に質問の機会を与える
• 希望を与える
• 言語によらないコミュニケーションを使う
2016/7/9
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よくある質問
~最初にどう声をかけていいかわからない~
⇒まず行う事
• 開かれた質問(yes・noで回答できない質問)
「いかがですか?」「最近の調子はどうですか?」
⇒⇒次に行う事
• 少しずつ気持ちのつらさについての質問に焦点を絞っ
てゆく
「何か不安に感じていらっしゃることはありませんか?」
2016/7/9
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よくある質問
~「死にたい」といっている~
⇒まず行う事
• 患者のつらさを受け入れ理解しようとする準備があることを伝える
「死にたいと思うくらいつらいことがおありなのでしょうね」
⇒⇒次に行う事
• 開かれた質問を行い具体的に苦痛を把握する
「つらく感じていらっしゃることについてお聞きしてもよろしいですか」
「気がかりなことや心配なことをお話いただけませんか」
精神科医の受診を勧める
2016/7/9
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よくある質問
~怒り:患者が怒っている~
• 怒りの理由が実際にどのようなものかを患者に確認する。
• 医療者に非がある場合(ケアへの不満・コミュニケーションの行き
違いなどを含む)、謝罪し対策を立てる。
• 「理不尽」な怒りの場合、病状進行や死の恐怖に対する心理的反
応として周囲に怒りを表出していることがある。患者の気持ちをよく
聞く機会を設ける。
• 怒りは容易に収まらないことも多く、時間をおき、落ち着くのを待つ
ことが必要なこともある。
• 怒りの対象となっている医療者や家族をサポートする
2016/7/9
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よくある質問
~沈黙:黙ってしまい、何を聞いても答えてくれない~
• もともと口の重い人だったのか?よく話す人が何かのきっかけで話
さなくなったのか?
• 意識障害、せん妄、うつ状態かを専門家に相談する。
• 家族には話をするのかを確認する。家族に話をする場合は家族を
仲介者として患者の気持ちを伝えてもらう
• 患者の「今は話したくない」気持ちを尊重しつつ日常のケアを丁寧
に行う。
• 患者に関心を持っている事を示す
• 患者の沈黙の意味を考える。(「怒り」「あきらめ」など)
2016/7/9
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よくある質問
⇒まず考える事
~希望がない~
• 患者の希望を探して共有する。
• 非現実的であっても、患者の生きる意味を支えるものであれば、
否定せず肯定する。
⇒⇒次に考える事
• 達成可能な目標の設定・実現をサポートする。
• どうすれば患者の希望が実現できるかという視点から、可能な
苦痛緩和、資源の活用、関係者のコーディネイトを行う。
• 大きい目標を、いくつかの小さい実現可能な希望に分けて、一
つずつ対処できるように目標を立てる。希望が実現すると信じ
ること自体が希望となる。
2016/7/9
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よくある質問
~自分がいる時に病状が悪くなったり呼吸が止まったら~
• がんで全身の状態が悪化した患者さんの場合、人工呼
吸や心臓マッサージなどの心肺蘇生で回復できる事は
ほとんどありません。
• 人工呼吸や心臓マッサージそのものが患者さんにとっ
ては苦痛となる可能性があります。
• 直前までお元気だった場合を除くと、心肺蘇生は行わ
ずに静かに見守ってあげるのがよいと思います。
• 事前に医師や看護師と話し合っておきましょう。
2016/7/9
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死が近づいたときのケア
• 全身症状の緩和
• 排泄の工夫
• 姿勢の工夫
• 清潔ケア
• 口腔ケア
• 家族のケア
2016/7/9
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ご家族への働きかけ
~意識がないときもこんなことをしてあげてください~
• 手足のマッサージ
• お気に入りの音楽を流す
• いつものようにご家族で普段のお話をされる
• 唇を水や好きな飲み物などでやさしくしめらせ
てあげる
2016/7/9
30
ご家族への働きかけ
~患者さんが何を言っているのかよくわからない~
• どんなことを話そうとしているのか想像してみてくださ
い。
• 時間や場所は分かりにくくなることは多くても、ご家族
のことが分からなくなることはめったにありません。
• つじつまが合わないことを言っても、患者さんの言うこ
とを否定せずにつきあい、安心できるような会話をし
てください。
2016/7/9
31
知っておいてください
~傾聴・支持・共感する方法~
• 沈黙
医療者が沈黙する事で患者が話すようになる
• うなずき、あいづち
話を促すのに有効。共感を伝えることにもなる。
• 繰り返し
「○○と、とてもつらかったのですね」共感を伝えることにもなる。
• 明確化(言い換え)
自分の言った事を理解してもらえたと感じる
• 反映・・・表情などから「とても辛そうに見えますね」など
• 問題のリストアップ・・・話の要約
2016/7/9
32
知っておいてください
~ご家族への配慮(もう一人の患者)~
• 患者の側にいて役立ちたいという思い
⇒できることを具体的に援助する。
• 感情を受け止めてほしいという思い
⇒ねぎらいの言葉をかける。
気軽に質問できる関係を作る。
時にはつらい感情を表出してもらう。
• 疲労への配慮
⇒家族が充分休息をとれるようレスパイト入院などを提案する。
• 幼い子供への配慮
2016/7/9
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知っておいてください
~終末期の輸液に関して~
• 脱水傾向にあることが苦痛の原因になることはほとん
どありません。むしろ患者さんにとってやや水分が少
ない状態の方が苦痛を和らげることが多いです。
• 逆に、むくみや胸腹水があるときは点滴を減らすこと
がつらい症状を和らげることになる場合があります。
• 点滴などで水分や栄養分を入れたとしても、うまく利
用できないので、体の回復にはつながりません。
• 逆に胸腹水やむくみなどの副作用が出る場合があり
ます。
2016/7/9
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知っておいてください
~麻薬(モルヒネなど)に関して~
• 患者さんには痛みをとってもらう権利があり、医療者
にはその義務があります。
• 充分量の痛み止めを使用して痛みをとることが緩和
ケアの基本です。
• 痛みの強さと癌の重さは関係がありません。
• 痛み止めとして医師の指示で服用する限り依存症に
なることはありません。
• 寿命を縮めることはありません。
• 医師の指示に従い時間を決めて確実に投与してくだ
さい。
2016/7/9
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症例 70歳代 男性 肝臓癌
• 行った治療~中心静脈栄養とモルヒネ持続静注
• 在宅でできたこと
近所の方々の頻回の面会
(散髪に来てくれたり、TVを備え付けてくれたり・・・)
訪問看護実習の看護学生に手浴をしてもらいご機嫌
(若い子に元気がもらえる!と)
2016/7/9
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症例 90歳代 女性 胃癌
• 行った治療~貧血への内服のみ
• 在宅でできたこと
息子と孫と一緒の旅行(神戸!)、姉(95歳)との面会
2016/7/9
37
症例 60歳代 女性 胃癌
• 行った治療~中心静脈栄養
• 在宅でできたこと
本人の希望どうり一度も入院せずに最後まで過ごす
「意識がなくなったら点滴は外してください」
母や孫たちが一緒のベッドで添い寝
最期は孫たちも含めて家族みなで体を清めた
2016/7/9
38
完
• ご清聴ありがとうございました。
2016/7/9
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