視覚障害者のためのタイピング練習ソフト 「打ち込み君」の改良 西本 卓也 荒木 雅弘 新美 康永 京都工芸繊維大学 工芸学部 電子情報工学科 1 背景 視覚障害者は推計30万人 そのうち点字が使えるのは10% 点字が普及しない理由 – 中途失明者には学ぶことが困難 – 点字になった情報しか得ることができない 音声でインターネットを使えれば 即時性のある情報の入手や社会参加が可能 しかし、視覚障害者でパソコン利用者はごく少数 2 視覚障害者向けのパソコン環境の現状 スクリーンリーダー(画面読み上げソフト) MS-DOS(パソコン通信のみ) – VDM100 Windows95/98(インターネット対応) – 95Reader – outSPOKEN – PC-Talker 3 視覚障害者のパソコン環境例 OS: Windows95/98 スクリーンリーダー: 95Reader メーラー: WinBiff ブラウザ: ホームページリーダー 4 視覚障害者が求めるもの インターネットを使うためには 普及しているWindows環境を 音声リーダーで使いたい 視覚障害者のために特化した 「インターネット講座」での指導が必要 定期開催されていることが重要 5 視覚障害者のためのインターネット教室 99年5月より非営利団体のSCCJが運営 受講生は50人を超える 他府県・遠方からの受講者も多い 問題点: 全15回のレッスン中8回がキーボードの練習 キーボード練習 アプリケーションなどの練習 6 パソコン練習の流れの違い 晴眼者 パソコン練習 キーボード練習 視覚障害者 キーボード 練習 パソコン練習 7 音声ガイドによるキーボード練習の必要性 自宅で自分のペースで練習したい カリキュラムからキーボード練習を減らし 講座をより充実させたい キーボード練習 キーボード練習ソフト キーボード練習 アプリケーションなどの練習 充実! アプリケーションなどの練習 8 ところが 「音声ガイドのみによるタイピング練習ソフト」 は存在しない SCCJと 京都工芸繊維大学による共同研究 「打ち込み君」の開発 9 当初の設計方針 視覚障害者が助けを必要とせず、自宅学習できる 音声化Windowsシステムを使いこなす前に 「はじめてのキーボード」としての専用機 OS環境はWindowsである必要はない 視覚障害者にとって使いやすいのは非GUI環境 Linux の利用 – OSとGUI機能が分離されていてインターネット対応 – AUI (Emacspeak)と共存しやすいシステム 10 「打ち込み君」の仕様 コンテンツ 目標: キーの操作方法が 音声ガイドに従うだけで身につく 打ち込み君 (プログラム) プログラムがコンテンツを読み込んで動く構成 – 講座での指導経験に基づいてコンテンツ作成 – 課題作成者の利便を考慮し、簡単な形式で記述可能に 合成音声によって押すキーを指示 押されたキーを読み上げ、正解、不正解の効果音 正解、不正解回数と応答時間などのログを記録 11 課題テキスト例 G: 合成音声で読み上げ g まず、左手から始めましょう。 g 左手の人差し指でキーを押してFを探して下さい。 g Fの位置は下から3列目のひだりはしから5つ目でキーにとっきが 付いています。 T: キーを指定して入力待ち tf g そのキーです。 g 次の説明が始まるまで、確認のため練習して下さい d 12 D: 任意のキーを指定回数だけ入力待ち # p gyoku-half1 g あっ、玉雲斎先生 P: 録音済み音声を再生 p gyoku-half2 g わーいパチパチ p gyoku-half-bgm g すばらしい音色ですね先生、心に染み入るようです。 g 練習を再開します 12 タイピング入門機に求められるもの 自宅で自分のペースで 演出がないとやる気が続かない リアルな効果音によるジョーク 先生・生徒・「打ち込み君」による楽しいレッスン – 音声合成「打ち込み君」 – 声優による先生「玉雲斎」「京奴はん」など 13 視覚障害者にとってわかりやすいキー キートップに 突起がある 位置が 説明しやすい FとJで選択 Escapeで決定 14 システムの運用 SCCJの「視覚障害者のためのインターネット講座」 において本システムを運用 運用場所: パソコンスクール(デジタルスクールNEO) 得られた意見を元にシステムを改良 周囲の騒音に応じてスピーカーまたはヘッドホンを使用 15 16 17 システムの評価 ねらい – システムの有効性の検討 – 改良すべき点を明らかにする 評価対象 – 教習用コンテンツ – キー入力技能の評価用課題 • 課題1:ホームポジションキー • 課題2:A~Zのアルファベットと記号 評価項目 – 正解率 / 平均応答時間 18 被験者のプロフィール 記号 A B C D E F 性別 女性 女性 女性 女性 男性 女性 年齢 30代 50代 60代 30代 30代 50代 PC利用経験 過去にあり 現在利用中 なし なし 視力 なし なし あり なし 6点入力のみあり なし 音声で3ヶ月 なし 19 正解率の検討(1) 評価用課題においてはほぼ全員、 試行を重ねるごとに正解率が向上 本カリキュラムの有効性が確認された 20 正解率の検討(2) 正解率が低い例 – システムに非協力的(被験者C) – ガイドの内容が頭に入らない(被験者B) • 課題が長い場合に途中で忘れてしまう – ガイド音声が聞きにくい(被験者B,F) • 特にアルファベットの区別が困難 (ebd,sf) • 高齢者には合成音声は聞き取りにくい? 21 応答時間の検討 ガイドを聞き取れて従えていた被験者は ほぼ一定速度で操作できていた 応答を遅れさせる要因 – 正解率が上がると応答時間が長くなる傾向 • 理解が深まる→正しく操作しようと努力する? 22 応答性の改善 いつでもキーエコーを返すように 自由な割り込み操作を可能に 最後まで聞かなくても操作可能に 音声応答/音声対話システムが ユーザに支持されるための要件と同じ – 発話権交代の問題 など 23 シナリオの記述例 p opening g まず、左手から始めましょう。 音声出力中の 割り込み操作に どう対応すべきか 記述が曖昧 g 左手の人差し指でキーを押してF、フロリダのFを探して下さい。 g Fの位置は下から3列目にあります。 g 下から3列目のひだりはしから5つ目です。 g キーにとっきが付いているのがFです。Fを押してみてください。 tf g そのキーです。もう1度押して下さい。 tf 24 VoiceXMLによる記述 <block> <prompt bargein="false"> <audio src="opening.wav"/> </prompt> </block> 割り込み可否を属性として記述する <form> プロンプトと入力の対応が明確 <field> <prompt bargein="true"> まず、左手から始めましょう。 左手の人差し指でキーを押してF、フロリダ のFを探して下さい。 Fの位置は下から3列目にあります。下から3列目の左 端から5つ目です。キーに突起が付いているのがFです。Fを押してみてくださ い。 </prompt> 将来バージョンでの対応を検討 <dtmf> f </dtmf> </field> ……… 25 眺望感の不足への対処 次にやるべき操作がわからなくなる – 操作ミスが続いたとき – 入力待ちの状態で放置されたとき 必要に応じて指示を出しなおすべき シナリオの早送り・巻き戻し機能も必要 弱視者を考慮して、画面表示もあってよい 26 聞き取りやすさへの配慮 話速に対するニーズはさまざま – 同じ速度を速いと感じる人も、遅いと感じる人も キーエコーの工夫 A 「エー アメリカ」 B 「ビー ブラジル」 短い合成音声の聞き取りにくさを回避 27 打ち込み君Windows版の開発 3月にLinux版を発表 少しづつ告知が浸透し、100本を超える電話 – 大きなニーズがあることを確認 Windows版を求める声が圧倒的 → Windows版を優先して開発することに – 開発環境 Visual Basic 6.0 / SAPI 4.0 SAPI対応エンジン: IBM ProTalker etc. 28 開発体制 Linux的なモデルへ オープンソース「打ち込み君」 – 京都工芸繊維大学が中心 ソフトウェアの開発と改良 – インターネットでソース公開 配布とサポートをNPOに依頼 – 音声合成エンジン – 音楽・ナレーション(フリーでない部分) サードパーティによるコンテンツにも期待 29 モジュール構成 有償パッケージ CD-ROM 商用のコンテンツ 商用の音声合成 フリーの音声合成 打ち込み君(プログラム) フリーソフト フリーのコンテンツ 30 まとめ 音声によるタイピング練習ソフトの開発 内容を容易に作成、改良できる仕様 Linux版の開発と評価 – 有効性を確認 改良すべき点の検討 – 音声対話システムとしての観点 など 現在はWindows版の開発中 31 今後の課題 システムおよびシナリオの充実 評価方法の検討 音声対話研究の知見を活かした改良 – 音声認識の併用 – 擬人化音声対話エージェント(IPA)の応用 音声認識・音声合成・顔画像表示を含むフリーソフトの開発 (2000年より3年間) – VoiceXMLベースの対話制御 32 33 視覚障害者がGUIを使う上での問題点 空間把握を強いられる – 仮想的な複数窓の概念 – 窓の状態によって画面上の情報が変化する 34 関連研究 GUI情報を立体音響で表現する OSのアクセスビリティ・ガイドライン アプリケーションのバリアフリー化 Emacspeak – GUIとは独立した Auditory User Interface – 日本語対応(BEP) – Linux/Windows対応(BEP) 35 システムの設計方針(2) 中古パソコンを用いたPCリデュース – Linuxはカスタマイズが容易 → 中古パソコンでも比較的快適 – パソコン導入前の練習機として安価に提供できる – 省資源化、廃棄物の抑制 36
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