言語教育研究法研究部会 「言語教育研究法」研究成果報告会 2006年12月13日(水) 外国語教育における質問紙調 査についての基礎調査 東京外国語大学大学院 地域文化研究科博士後期課程 金銀美(キムウンミ) 本発表の構成 1.はじめに 2.質問紙調査とは 3.質問紙調査のプロセス 4.質問紙調査の利点と問題点 5.外国語教育と質問紙調査(調査実例) 6.おわりに 引用文献 1.はじめに ★本稿の目的 ⇒質問紙調査について文献調査と質問紙調査 の実例の紹介を通し、言語教育や第二言語 習得研究における研究手法としての新たな 可能性を模索する 。 ★「質問紙調査」:質問紙での調査について限定(イ ンターネットや電話などの調査は除く) 2.質問紙調査とは 2.1 質問紙調査の定義 アンケート調査とは、社会の様々な分野で生じる問題を解決す るために、問題に関係している人々あるいは組織に対して同じ 質問を行い質問に対する回答としてデータを収集し、そのデータ を解析することによって、問題解決に役立つ情報を引き出してい くという一連のプロセス (辻・有馬;1987) Questionnaires are any written instruments that present respondents with a series of questions or statements to which they are to react either by writing out their answers or selecting from among existing answers. (Brown;2001) 2.2 質問紙調査の種類 1)Structured questionnaires(構造化質問紙調査): 大きいサイズのサンプルで構造化、多肢選択式、量的 アプローチが適切 2)Unstructured questionnaires(非構造化質問紙調査) : 小さいサイズのサンプルで構造化されず自由回答式、 質的アプローチが適切 3)Semi-structured questionnaires (半構造化質問調査): 完全自由回答式質問紙調査と完全構造化した多肢選 択式質問紙調査の間 (Cohen,L.;2000) 3.質問紙調査のプロセス 3.1 調査の必要性の確認 何らかの問題解決に役立てようとする問題意識の 再確認と調査目的を明確にする必要 3.2 調査の企画 「どのような人々に、どのような項目を質問して、ど のようなデータを得るのか」を決める段階 3.3 質問紙の作成 3.3.1 質問の種類 1)回答のし方による分類(Cohen,L.:2000) ①Closed questions(多肢選択式質問) ②Open questions(自由回答式質問) 2)内容面による分類(高橋他:1998 ) ①知識項目 ②意見項目 ③経験項目 ④特性項目 3)回答尺度の観点からの分類(高橋他:1998 ) ①名義尺度 ②順序尺度 ③間隔尺度 ④比率尺度 3.3.2 質問紙作成時の注意点(1) ★質問文作成時の注意点(辻・有馬:1987) 1)一つの質問に2つ以上の回答可能な事項が含まれない ようにする。 2)専門用語、略語、曖昧な表現、否定文・敬語の多用など、 質問の意味がはっきり伝わらないような表現は避ける。 3)回答者がどのような観点や立場で回答するかの条件を 明示する。 4)回答者を特定の回答に誘導する質問は避ける。 5)想像的な質問や長期の見通しを問うような、回答者が答 えにくい質問は避ける。 3.3.2 質問紙作成時の注意点(2) ★回答選択肢作成時の注意点(辻・有馬:1987) 1)回答数を明確に指示する。 2)回答の方法(○をつけるか番号記入か)を明確に指示する。 3) 文字ではなく数字で番号をつける(コンピューターにデータ を入力することを考慮に入れて)。 4)回答者の数や質問の量が多い場合⇒質問用紙と回答用紙 を別々にする。 5) 回答選択肢に重複を避ける。 例)「1.20歳以下、2.20歳代…」 6)回答選択肢に「その他」を含む。 7)「わからない」を回答選択肢に含む。 8)回答選択肢の数は多すぎないようにする。 3.3.3 質問紙のレイアウト ★質問紙は全体的に見やすくて魅力的で面白くなければな らない(Cohen,L.;2000)。 1) 各セクションに短くて明確な説明をした上で、メインセク ションとサブセクションに分ける。完成する必要がない質 問に分かりやすく説明する。 2)各セクション(例えば、1-4)に、質問(例えば、60個の)を分 けて提示⇒全体の質問が短く見える。 3)色付けのページや異なる色の指示文 4)秘密性と匿名性、そして痕跡を消す(non-traceability)こと を保証 5)質問紙の最後に簡単なノート(締め切り、感謝、調査結果 の送付への提案など)をつける。 3.4 予備調査 ★予備調査の機能;質問紙調査の信頼性、妥当性、実効性 の増加に役立つ (Cohen,L.;2000) 1)質問紙のアイテム、説明、レイアウトの明確性がチェックで きる。 2)構成の運用化、研究の目的と質問紙アイテムの妥当性の フィードバックが得られる。 3)質問のタイプと形式及び適切さ、答えのカテゴリーについ てのフィードバックができる。 4)質問紙の長さや難易度、言葉使いにおいて曖昧さと難しさ が把握でき、改善できる。 5)データ分析のためにコーディングと分類システムを試せる。 3.5 本調査の準備と実施 ★カバーシート・レター(協力依頼状) ⇒研究の目的を示し、回答者にそれの重要性を示 唆し、それらの秘密性を保証し、回答者の返信を促 す。 ★「本調査の実施の段階」で最も大切な点 ⇒「いかにして回答者からの協力を得て調査票を質 問に答えてもらうか」、そして「いかにして正確な解 答を得るか」 ⇒フォローアップレターの利用 (Cohen,L.;2000) 3.6 調査データの解析 ★データの処理のためのデータ体系化(Data reduction) ⇒編集が必要 ★編集のための重要な課題 ⇒完結性、正確さ 、統一性 (Moser and Kalton1997) ★特に自由回答式質問はコーディングの枠は、質問紙完成の 後に考案される⇒予備的なコーディングの分類として、答え の範囲内で、頻度の計算を産出することが必要 ★コーディングの枠は、研究者がアンケートのサンプルをコー ド化するとき、妥当性をチェックすることができるため、最初 から正しいコーディングの枠を決めることはきわめて重要 (Cohen.L 2000) 3.7 調査報告書の作成 1)表題 2)調査実施主体名と調査報告書発行年月日を明記 3)はしがきあるいは序文 4)目次 5)調査の要約 6)調査の目的と背景 7)調査の内容 8)調査結果の提示と説明 9)調査結果についての考察と結論 10)参考文献リスト 11)集計表 12)質問紙 4.質問紙調査の利点と問題点 4.1 質問紙調査の利点 ★個人の主観的な意味づけ、調査対象(者)の多面性、対 象の全体象、社会事象のメカニズムを知ることができる (大谷;1999)。 ★研究者の時間、研究者の努力、経済的資源の側面か ら非常に能率が良く短時間に膨大なデータの収集が可 能。コンピューターのソフトウェアーで、データ処理が素 早く比較的に明確に行うことが出来る。さらに多用なト ピックに焦点を当て、様々な状況における、様々な人に 使える(Zoltán Dörnyei;2003) 。 4.2 質問紙調査の問題点 1) Simplicity and superficiality of answers 2) Unreliable and unmotivated respondents 3) Respondent literacy problems 4)Little or no opportunity to correct the respondents’ mistakes 5) Social desirability (or prestige) bias 6) Self-deception 7) Acquiescence bias 8) Halo effect 9) Fatigue effects (Zoltán Dörnyei;2003) 5.外国語教育と質問紙調査 -日本語学習者の会話ニーズ調査(松本・金他:2005)- 5.1 質問紙調査の必要性の確認 ★目的 ⇒TUFS-会話モジュールのシラバスの見直し 「大学生が外国の大学で外国語による生活を送 る場合、そこで必要とする会話としてはどのような ものがあるのであろうか。そして、それは目標言語 の習得が進むにつれ、どのように変わっていくのだ ろうか。」 5.2 調査の企画(調査の対象) グループ名 被験者数 日本語レベル 留日センター生 42名 初級 ISEP・日研生 33名 中級 学部生 21名 上級 5.3 質問紙の作成と構成 -予備調査の結果からの改善点(1)- ★質問紙の作成 :5回目の予備調査の結果を踏まえて修正 ★質問紙の構成(三つのパート⇒発表資料参照) ①パートⅠ:学習者の年齢、性別、外国語学習歴等 の「属性」を尋ねる。多肢選択式質問、名義尺度 <予備調査の結果からの改善点> ※自由回答式→多肢選択式 ⇒パソコンでデータ処理することを考慮 5.3 質問紙の作成と構成 -予備調査の結果からの改善点(2)- ②パートⅡ:多肢選択式質問、会話技能が習得に必要であ るかどうかについて尋ねる意見項目、5段階の間隔尺度 <予備調査の結果からの改善点> ※メタ言語的な説明の質問のみor具体例を1つのみ →メタ言語で説明+具体例2つ ⇒回答者の理解を促進 ※評価スケール「①できない②できる③必要ではない④必 要である」:「できる/できない」と「必要である/ない」というの は異なる次元ではないかという指摘⇒5段階で「必要性」に 関する尺度に改善 5.3 質問紙の作成と構成 -予備調査の結果からの改善点(3)- ③パートⅢ:多肢選択式質問、設定されている対話 相手と話す際、どれくらい「困難さ」を感じるかにつ いて尋ねる意見項目 、5段階の間隔尺度 <予備調査の結果からの改善点> ※自由回答式の質問項目 →会話相手のバリーエーションの提示 ⇒データ処理や回答者の答えやすさなどを 考慮 5.4 本調査の実施 1)第一のグループの「留日センター生」:2003年4月に来日し、 質問紙調査は2003年8月末に実施 2)第二のグループの「ISEP・日研生」:2003年10月(来日後授 業が開始月)の末 3) 第三のグループの「学部生」:2003年後半期の学期中 ★事前に授業担当教員の許可を得て授業の前後にクラスを 尋ね協力をお願いし、質問紙は後日回収した。 ★ただし、第一のグループの「留日センター生」:担当教員の 協力を得て質問紙調査の協力者を集め説明をした上で、そ の場で回答 (時間内に終わらない協力者⇒回収箱を用意し ておき後日回収) 5.5 調査データの解析(結論) ★結論として提案されたこと(松本・金;2005) 1)初級グループではすべての機能において一律にニーズ が高かった⇒初学者を対象としているTUFS-会話モ ジュールは、学習者が自分で必要性を感じている機能を 選ぶことができるという意味で有効である。 2)今後TUFS-会話モジュールが中・上級用へと拡大してい く際⇒単に機能の数を増やして拡大していくというやり方 ではなく、各機能内でバリエーションを増やしていく必要 性と自然会話の使用についても提案 <調査実施後の全体的な感想> ★今回の調査では媒介語を英語のみ記したことが調 査の結果に影響を及ぼすことはなかったものの、今 後様々な母語話者を質問紙調査の対象にする場合 は、媒介語を慎重に選択する必要があると考える。 ★さらに、いずれのグールプも各クラスの先生の協力 を得て調査を行っていたため回答率は良好であった。 ただし、質問項目(特にパートⅡ)が長かったため回 答が大変であったという意見も出ており、今後の質 問作成においては協力が得られない状況も考慮に 入れるべきであろう。 6.おわりに 1)質問紙調査は、実際の話者の言語行動ではなく話者の意識 調査にすぎないという厳しい意見もあるが、本稿で紹介した学 習者のニーズ調査のように研究目的によっては調べたい現象 が最もはっきり見えてくる方法だといえる。 2)質問紙調査は、インタービューなど他の研究手法と組み合わ せた形でも非常に有用な研究手法として活用できると考える。 3)数回の予備調査を行い質問項目の妥当性と回答の信頼性や 実施時の問題点、データ分析の際の問題点などを改善して本 調査に臨むべきであろう。 引用文献 大谷信介・木下栄二・後藤範章・小松 洋・永野 武編著(1999) 『社会調査へのア プローチ‐理論と 方法‐』、ミネルヴァ書房 Cohen,L.,Manion,L.,& Morrison, K. (2000) Research method in Education, Routledge,245-266. Zoltán Dörnyei(2003) Questionnaires in second language research : construction, administration, and processing, Mahwah, N.J. : L. Erlbaum Associates. 高橋他順一・渡辺文夫・大渕憲一編著(1998) 『人間科学研究法ハンドブック』、ナカ ニシヤ出版. 辻 新六・有馬昌宏 (1987) 『質問紙調査の方法-実践ノウハウとパソコン支援 ―』、朝倉書店. Brown,J.D.(2001) Using surveys in language programs.Cambridge,UK:Cambridge University Press. 松本剛次・金銀美・梓沢直代・幸松英恵(2005) 「大学場面で必要とされる会話の種 類とその横断的推移についての一考察-日本語学習者の会話ニーズ調査の結 果より-」『インターネット技術を活用したマルチリンガル言語運用教育システム と教育手法の研究』平成14年度~平成16年度科学研究費補助金基礎研究 (B)(2)研究成果報告書、研究代表者川口裕司(編) 東京外国語大学外国語学 部教授、319-353. Moser,C. and Kalton,G. (1997) Survey Methods in Social Investigation. London:Heinemann.
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