自律分散協調論 第12回 社会における自律分散協調(2)

自律分散協調論
第12回
社会における自律分散協調(2)
村井純
今日の目的
• 組織における自律分散協調について、大
学・企業・政府の3つの組織を検討すること
により、その意義や目的、課題について理
解する。
大学組織における自律分散
先週の課題から
• 大学の運営における問題点を1つ挙げ、「自
律分散協調」の概念がその課題をどのよう
に解決できるか具体的に論じてください。
• 提出状況
– 提出者13名(7/7現在)
二宮さんの意見
• キャンパスの問題
– 各キャンパスは自律・分散しているが、協調ができて
いない
• 各キャンパスが閉鎖的
• コラボレーションの仕組みもない
• SOIがいまだに「新しい試み」と位置づけられてい
ることも、今まで「協調」してこなかったかの証明
青木さんの意見
• 研究者の問題
– 研究者は自律して、それぞれの学生が誰に頼ることも
なく分散的に勉強・研究
– しかし、協調はなされていない
• テーマ横断的(Multi Discipline)とは言えない
豊野さんの意見
• 事務組織の問題
– 事務と事務との問題
• キャンパス間の協調ができていない
– Aキャンパスの学生の成績証明書をBキャンパ
スで発行できない
– 事務と学生との問題
• 情報の共有ができていない
– 特に就職部門などは有効なはず
– 事務と講師との問題
• 情報の共有ができていない
– 教室の配分,配布資料などの印刷作業など効
率化されるものは多い
井上さんの意見
• 大学の問題
– 文部科学省の認可による束縛
– 大学自体が自律する必要
• 学部の新設や改組が自由に出来るようにする
• 重点的にのばしたい分野を学部として作れるよう
にする
• 反対に衰退分野は切り捨てることも可能
大学における自律分散
(課題からのまとめ)
• 目的
–
–
–
–
テーマ横断的研究の実現
研究のパフォーマンスの向上
事務の効率化
柔軟な大学運営
• 解決策
– 協調のための仕組みの構築
• キャンパス間
• 研究者同士
• 事務・学生・講師
– 自律性の向上
• 政府による規制を緩和し、大学自身の自律性を確保
企業組織の自律分散
企業形態の進化
• 企業形態も自律的な組織に進化する傾向
• 進化の段階
–
–
–
–
第1段階:機能別組織
第2段階:事業部制組織
第3段階:カンパニー制
第4段階:持株会社
低
自律性
高
• どのように変化しているのか?
第1段階・第2段階
第1段階:機能別組織
– 経営機能を主軸とした機能別組織
取締役会
製造本部
営業本部
管理本部
第2段階:事業部制組織
– 事業部:生産から販売までの経営活動の主要機能を内包した組織
取締役会
A事業部
B事業部
C事業部
管理本部
「持株会社の実務」大谷・箱田・發知、2000、東洋経済より
第3段階:カンパニー制
• 事業部門に予算や人事などの権限を持たせ、
経営責任も負わせる擬似的な分社制度
(社内子会社)
資本金を
分け与える
取締役会
大きな責任
売上・損益に加え
資産や負債
の責任を負う
Aカンパニー
人事や新規事業
参入の決定権限
大きな権限
経営企画室
Bカンパニー
企業
Cカンパニー
カンパニー制の目的
(1)迅速な意思決定
(2)各カンパニーに適した人事・意思決定
–
経営効率の改善
(3)責任の明確化
カンパニー制を採用した例
•
•
•
•
•
ソニー (‘94年)
日立製作所
ダイエー
東芝(‘99年)
NEC (‘99年)
第4段階:持株会社
• 「会社の総資産に対する子会社の株式の取得価額
の合計が50%を超える会社」(改正独占禁止法第9条3項)
• 各事業部門を法的に独立した法人とする
– 事業兼営持株会社
• 親会社が本業に従事しつつ、子会社を事業活動を支配する
– 純粋持株会社(1997年独占禁止法の改正で解禁)
• 子会社の事業活動支配を主たる事業とする
親会社
(戦略スタッフ)
子会社
(A事業)
子会社
(B事業)
子会社
(C事業)
持株会社の目的(1)
カンパニー制(社内子会社)から法的な独立法人となり、
さらに自律性が向上
(1)戦略と事業の分離による経営効率の向上と機動的な
戦略発動
– 持株会社の役割
• 企業グループ全体の戦略発動
• 経営管理
• リスクマネジメント
– 事業会社の役割
• 担当する事業の推進
– 両者とも各役割に専念できる
持株会社の目的(2)
(2)迅速な経営構造改革
– M&A(合併・買収)、特に買収が容易
• 人員の移籍がほぼ不要
(3)経営責任の明確化
– 子会社は、ROE(自己資本利益率)などの経営指標に
よって客観的に評価され、経営者の責任が問われる
持株会社の問題:税負担の増加
• 分社による税負担の増加例;(税率50%と仮定)
会
A事業部
B事業部
全社
税金
社
黒字
50
赤字 △30
黒字
20
10
持株会社設立前
A会社
黒字
50
B会社
赤字 △30
税金
25 税金
0
持株会社設立後
• 連結納税制度による解決
– 企業グループを1単位として課税する制度
– 現在検討中(税調「平成13年度の税制改正に関する答
申」)
c.f.連結会計制度:企業グループを単位に財政状況、経営成
績を投資家へディスクロージャー する制度
持株会社の導入例
• 純粋持株会社
– ソフトバンク(‘99年)
• 出版部門、金融部門、総務・人事部門、ソフト・ネット
ワーク部門を分社化
– ダイエー(’97年)
• 不動産など非上場40社を統括する持株会社を設立
– NTT (‘99年)
• 純粋持株会社である日本電信電話株式会社、その
下の純粋民間会社である長距離・国際通信会社、特
殊会社である東西2地域会社に分割
企業組織における自律分散
• 組織の自律性は高まる傾向
– 権限の委譲により、意思決定が自律的に行われる
• 経営資源(ヒト、モノ、カネ)も分散
• 評価の客観性向上
–機能別・事業部制
•単一の資本をもとに複数の事業を行うため、事業ごとの客観
的評価が難しかった
–カンパニー制
•客観性は向上したが、不十分な部分も残っていた
–社内間の製品引渡しや管理経費などの数値が正 確に
把握できないという限界があった
–持株会社
•株主資本利益率(ROE)などの指標を用いて子会社ご との
客観的評価が可能になった
政府組織における自律分散
政府組織の自律分散
• 国の集中的な統制から、自律的な組織に
移行する動き
– 地方分権
– 独立行政法人
– 民営化
政府組織の自律分散(1)
地方分権
• 地域の行政を地域の住民が自律的に決定で
きるように、国から地方へ権限を委譲していく
動き
• 地方分権の具体例
– 機関委任事務制度の廃止
• 都道府県や市町村を国の下部機関とみて国の事務を
委任する制度が地方の負担となっている
– 地方財源を柔軟に確保するための措置
• 地方債許可制度の廃止
地方分権の目的
権限、財源、人間、情報を地方に分散させ、
地方が自律的に政策を決定できるようにする
・地域的な多様性への対応
・行政サービスの効率化
・住民の意思の反映
・権力の集中による濫用防止
政府組織の自律分散(2)
独立行政法人化
• 独立行政法人
– 公共上必要だが、国が直接実施する必要もなく、
しかし民間だけでは必ずしも実施されないおそ
れがある事業を効率的に行うための法人
(独立行政法人通則法第2条から要約)
• 独立行政法人化の目的
– 競争原理の導入
– 国家行政組織の減量化
国立大学の独立行政法人化
• 具体的施策(案)
–
–
–
–
–
–
国立大学に民間的発想の経営手法を導入
大学役員や経営組織に外部の専門家を登用
経営責任の明確化により機動的・戦略的に大学を運営
能力主義・業績主義に立った新しい人事システムを導入
第三者評価による競争原理の導入
評価結果に応じて資金を競争的に配分
• 反対意見
– 研究・教育に競争原理をそのまま導入することへの反対
– 学長選考、中期計画の設定・認可・評価のシステム、競争的
予算配分などが大学の自主性、自立性を大きく制約する etc.,
政府組織の自律分散(3)
民営化
• 事業を国の管理化から、民間の法人による運営
に移行
– 実施例;
• 日本国有鉄道(‘86)
→ JR
• 日本電信電話公社(‘85) → NTT
• 日本専売公社(‘85)
→ JT
– 現在の検討例;
• 郵便事業
• 道路公団
• 国立病院
民営化の目的
(1)競争原理の導入
(2)事業の効率化
(3)責任の明確化
課題
– 市場原理 vs ユニバーサルサービス
今回のまとめ
• 組織の自律性を向上する動きの例
– 大学
– 企業
– 政府
• 実際に社会における組織に自律分散の概念を
導入することの意義・実現方法・課題を検討
全体のまとめ
• これまでの講義
第2回:自律分散協調の必要性
• 自律・分散・協調の意義、目的、評価
第9回:インターネット(1)
• インターネットアーキテクチャ
第10回:インターネット(2)
• 経路制御・DNS・アプリケーション
第11回:社会における自律分散協調(1)
• インターネットガバナンス
第12回:社会における自律分散協調(2)
• 組織における自律分散協調
課題について
• 村井担当分の課題については、
最終回7月16日(月)23:59までに提出され
たものについては採点します。
• まだ提出していない人は、がんばって出し
てください。