スライド9

規制政策・規制の経済学 (9)
電力市場の特徴と規制改革
今日の講義の目的
(1) 電力市場の基本的な性質・問題を理解する
(2) 電力市場を例にして今まで学んだ規制の基本的な
メカニズム・効果を再確認する
規制政策 規制の経済学
1
電力市場における規制
電力・都市ガス市場共通の特徴
・公益事業
・ネットワーク型産業・ボトルネック施設の存在
・エネルギー市場
・地域独占
・国内に限定された競争
・部分自由化、漸進的改革、対称規制
・垂直統合
・地域間の競争が限定的(インフラの未整備)
規制政策 規制の経済学
2
電力事業
需要家
発電所
変電所
規制政策 規制の経済学
3
電力事業の4要素
(1)発電~卸売
(2)送電:系統運用、送電線網の維持管理
(3)配電
(4)小売
発電事業者→卸売市場→販売事業者→消費者
系統管理:周波数・電圧の維持、安定度の管理、電気
を実際に送ることができるかの判断
規制政策 規制の経済学
4
発電面から見た電力事業の歴史
(1) 需要地に近接した小規模火力発電
・最初の電力供給
東京電燈(1883年設立、現在の東京電力の前身)による
南茅場町火力発電所の運転と一般向け電力供給開
始(1887年)
cf 世界最初の一般電力供給は1882年ロンドン
(ニューヨークとの説も)
規制政策 規制の経済学
5
発電面から見た電力事業の歴史
(2)大規模な(流れ込み式の)水力発電の発展
電源開発
期間
水力
1883-1903年 400kW
火力
800kW
1904-1914年 33,500kW
14,200kW 水力中心
1915ー1918年 33,800kW
7,300kW
規制政策 規制の経済学
火力中心
水力中心
6
発電面から見た電力事業の歴史
(3) 水力主導路線と火力併用路線の対立
(4) 大規模貯水式水力発電と石炭火力
(5) 大規模石油火力
(6) 原子力・ガス火力発電、石炭火力の見直し
(7) 分散型電源(コジェネレーション、燃料電池)・再生
可能な発電(太陽光、風力、バイオマス、地熱、波
力)の普及、原子力の更なる推進←温暖化対策
(8) 縮原発
規制政策 規制の経済学
7
現在の電源構成
(1) 調整の難しい電源~風力、波力、地熱、流込式水
力、太陽光
(2) 調整は可能だが現在していない電源
~原子力(ベース電源:限界費用低)
東京・関西電力→9電力
(3) 貯水式水力発電(限界費用低に見えるが実際にはか
なり複雑、瞬時調整能力有)
(4) 石炭火力、ゴミ火力(ベース電源)
(5) バイオガス、ガス火力(瞬時調整力は高いが長期契
約のため調整は難しい:ミドル電源)
(6) 石油火力 (7) 揚水~今後は蓄電池も
規制政策 規制の経済学
8
事業形態から見た電力事業の歴史
・小規模で地域的に孤立した事業者、多様な経営形態
の併存
・発電所の大規模化、遠隔地からの高圧送電線の形成
と規模の拡大
・大規模電力事業者間の競争(電力戦)
・規制による競争制限
・戦時経済下での発送電分離と国営プール制
・戦後の民営及び地域独占モデルの形成
・1995年から始まる自由化・規制改革→漸進的・部分
的改革 cf 通信市場~ビックバンか漸進的改革か
・電力システム改革←戦後最大の改革
規制政策 規制の経済学
9
電力市場の特徴
・実同時同量(貯蔵が難しい)
アンシラリーサービスの必要性
安定性維持のための送電網建設の必要性
予備力の確保
・需要抑制の社会的要請(特にピーク時)
・送電部門の規模の経済と不経済の同居
ネットワークが大きいほど電圧や周波数のふれが小さ
くなるが、一方で事故の波及範囲が広がる恐れが
あり、ネットワークの安全管理が難しくなる cf
マイクログリッド、簡易ガス
規制政策 規制の経済学
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日本の電力市場の特徴
・成熟産業→需要が大きく伸びない市場 cf 都市ガス、
通信市場(今後は相対的に大きく成長する可能性も
~全電化社会)
・民間企業がインフラを整備 cf 欧州の電力市場
・夏の昼間ピーク、非効率的な負荷パターン
・朝と昼休み後の急激な需要の立ち上がり
・高い安定性、安全性
・低い排出係数(高い火力の発電効率、低い石炭比率、
高い原子力比率:30%、再生可能電源:10%)~ただ
し震災後状況は激変~縮原発路線
規制政策 規制の経済学
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日本の電力市場の特徴
・一国内での周波数の違い
東日本 50Hz (ドイツより機器購入)
西日本 60Hz (米国より機器購入)
市場統一の最大の弊害に
→事実上(中)西日本と東日本で市場が分断
・たこ揚げ方式~配電地域外に発電所が多く立地
(例) 新潟・福島は東北電力の管内だが東京電力が発電
所を保有、黒部発電所の多くは北陸電力管内だが
関西電力所有
・細い連系線~かなり独立した9市場(西日本では統一
市場の可能性)→連系線連の増強
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自由化の背景
・国際的に見て高い電力料金
・非効率的な経営への懸念
・過剰品質に対する懸念
・料金格差による資源配分の歪み(産業用の料金が低く
業務用の料金が高い、ピーク時の料金が相対的に
低い~オフピークの料金が相対的に高い)
・電力市場の拡大に伴い発電での自然独占性の消滅
・依然として残る送配電部門の自然独占性
規制政策 規制の経済学
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電力市場規制改革の流れ
(1)発電市場における入札制
(2)販売市場の部分自由化(特別高圧)と託送制度の導入、
会計分離
(3)規制料金メニューの柔軟化
(4)兼業規制の緩和
(5)自由化範囲の拡大(高圧)
(6)パンケーキの廃止、アンシラリー料金ルールの改善
(7)卸取引所の整備と送電に関する中立機関の設立
(8)全面自由化の見送りと卸取引所の機能強化
(9)電力システム改革
規制政策 規制の経済学
14
電力市場規制改革の特徴
・既存の独占企業に対する非対称規制の見送り
・料金設定に関する規制が緩い
⇒通信に比べて既存の独占企業に有利な規制体系
(a) 競争環境の早急な整備よりも非効率的な参入の
防止を重視
(b) 行政の裁量よりもルールに基づく透明性を重視
(c) 事業法による事前規制重視から競争政策に基づ
く事後規制を重視する流れ
⇒結果的に参入は遅々として進まない(新規参入者の
マーケットシェアは自由化後10年たっても5%未
満)~事実上の独占状態
規制政策 規制の経済学
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電力市場規制改革の成果
・一般電気事業者の高いマーケットシェアにもかか
わらず料金は確実に低下→震災後は状況が一変
料金の低下
(a)業務用の料金が下がるのは競争の結果から自然
(b)規制が続いている小口料金も低下
(c)新規参入者との競争がない事業者も値下げ
(b)-(c) なぜ価格が下がったのか?
・小口は規制があったからこそ下がった~均霑化
・エネルギー間競争・自家発との競争が機能した
・事業者間の横並び意識
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震災前までの電力市場改革の成果
電気料金は下がった~客観的な事実
でもこれは本当に自由化の影響なのか?
この間の環境の変化
(1) 金利の低下
(2) 石油価格の大きな変動
(3) 需要の伸びの鈍化(予想ほど需要が伸びなかった)→
投資の減少→減価償却費の低下
自由化・規制改革とは無関係な要因でも電気料金は変
化する(地域独占が続いていても料金は下がった可
能性が高い)
規制政策 規制の経済学
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震災前までの電力市場改革の成果
要素価格の変動や需要の伸びの鈍化などで説明でき
る価格低下を推定
→説明できない部分は「自由化の効果」と推定
全要素生産性の推定とよく似た発想。
過去15年間でのkWh当約2.6円、15%相当の電気料
金引下げのうち約40(54)%が政策制度変更の影
響
(経済産業研究所 戒能一成氏の推計)
規制政策 規制の経済学
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震災前までの電力市場改革の成果
自由化の効果:たった6-8%?
家庭用の電灯料金(標準家庭)で月約6300円の仮定で
400-500円(ラーメン1杯分?)
電気はあらゆるところで使われている。直接自分が
使う量から効果を類推してはいけない。
日本の1年間の電力消費量 約9200億kWh(2007年)
約8600億kWh(2009年)
kWh1.2円の費用削減→年間約1.1(1)兆円の経済利益
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原子力問題
考えるべき要素
(1)安全性
(2)供給安定性
(3)エネルギー安全保障
(4)地球温暖化問題
(5)先進技術の維持
(6)廃棄物処理
(7)自由化との関連
規制政策 規制の経済学
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原子力問題
(1)事故リスク
(2)不透明な費用負担
(3)エネルギー安全保障→準国産エネルギーとの位置づ
け~現実には核燃料サイクルが完結していない
(4)地球温暖化問題
→技術中立的な政策をとるべき(例えば環境税)
=原発よりも低コストでこれらの目的を達成できる技術を
排除すべきでない
規制政策 規制の経済学
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原子力問題
(5)先端技術の維持~インフラ輸出:東芝・三菱重工等の
メーカーの能力はともかくオペレーションを含めた総合力
で国際競争力があるか?最高の技術力といえるか?
(6)廃棄物処理・サイクル
→原発の社会的費用としてきちんと考慮したうえで、原発
の優位性の有無を検証すべき~コスト等検証委員会
・再処理工場はトラブル続きでまだ動いていない。高速増
殖炉(もんじゅも)
・高レベル核廃棄物の最終処分地はまだ決まっていない
規制政策 規制の経済学
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原子力問題と自由化問題
(a)費用の太宗は設備費と廃棄物処理費
→限界費用は圧倒的に低い
=ベース電源としての優位性・(建設後の)高い競争力
産業用電力分野で競争が殆ど進まない原因
(b)出力調整が難しい(技術的には可能)
→自由化で買いたたかれるリスク
(c)高い初期費用
→環境の激変に脆弱。大きなリスクを抱え込む。
規制政策 規制の経済学
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原発のリスク
・廃棄物処理費→第2再処理工場がどうなるのか未定
・新技術→高速増殖炉はまだ開発途中
・稼働率:限界費用が小さいので、停まると経済性が
悪化
出力調整しないベース電源として使用すれば90%程度
の稼働率は可能であると言われているが、実際には震
災前でも60%程度に低迷
稼働率が下がるとコストが急増する
代替電源では炭素排出量も増える
規制政策 規制の経済学
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原発のリスク
・巨額の賠償負担~原賠法:無限責任
株主有限責任→モラルハザード
損害賠償・除染費用・追加的な廃炉費用~5兆とも10
兆ともそれ以上とも言われる
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原発停止の社会的費用
(例) 100万kWの原発1基が1年間停まる。(柏崎刈羽
は7基の合計出力821.2万kW、世界最大の原発)
これを石油火力で代替
元の稼働率90%、代替した石油火力の限界費用9.5円と
すると約750億円の負担増。
432万トンの二酸化炭素排出増(石油の排出係数0.548)
~無視できない影響。
日本全体で排出量二酸化炭素換算で約12億トン、ガソ
リンの1/3をバイオエタノールに変えて節約できる排出
量750万トン~環境面でも大きな影響
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電力市場と環境問題
かつての問題
~大気汚染 SOx、NOx、煤煙
石炭→重油→高品質の原油使用
脱硫装置~世界でも最高水準の環境性能
LNGの導入
これらの対策によって問題はかなり解消された
むしろ自治体の環境アセスなどが厳しすぎるこ
との弊害が議論される段階に
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環境アセスメントと参入障壁
・東京都・神奈川県でアセス厳しい(近畿各県も)
→この地域で立地進まない
潮流からすると、この地域に発電所を設けるのが
効率的
・新規参入者がLNG発電の導入を計画
→環境アセスに2年以上の期間
・既存事業者が低効率のLNG発電所を高効率に
replace→すぐに認可
~結果的に新規参入の障壁に
規制政策 規制の経済学
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再生可能エネルギー導入促進
再生可能電源
水力、太陽光、バイオ、風力、地熱
RPS法→FIT
数量政策→価格政策へ
規制政策 規制の経済学
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安定性(周波数)
同時同量:発電量と消費量が常に一致する必要性
発電量<消費量
→周波数低下→発電機の脱落→大規模な停電
消費量にあわせて発電する必要~予備力を持つ必要
予備力の確保
・需要想定を超える発電能力の保持
・需要遮断(需給調整契約)←この利用が遅れている
需要を超える発電設備:通常は低稼働(不稼働)資産~
何らかの補償メカニズムがないと誰も持たない
規制政策 規制の経済学
30
30分同時同量
・新規参入者の発電量と新規参入者の顧客の消費量
(小売量)を30分単位でそろえる
なぜこんな規制が?
(1) 同時同量がないと小売ではなく実質的に卸売に
なってしまう
(2) 負荷変動(消費量の変動)に新規参入者にも追従させ
ることによってアンシラリーサービスの供給者(一般
電気事業者)の負担を軽減し、停電のリスクを減らす。
規制政策 規制の経済学
31
アンシラリー・インバランス供給
同時同量を維持して電力供給の安定性を維持
消費電力量と発電量の乖離⇒周波数の増減
→この変動を速やかに調整するサービス
日本では一般電気事業者が基本的にこの役割を果たし
ている
・発電機のガバナフリー(周波数の増減に応じて自動
的に発電機が発電量を微調整する)
・LFC(負荷周波数制御)・EDC(経済負荷配分制御)
・発電機の並列・解列
規制政策 規制の経済学
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アンシラリー・インバランス供給
・給電司令所の設備・運営費用
・自動制御のための設備費用
・急な消費量の変動に備えて動かす発電所の可変費用
・予備力確保のための費用
規制政策 規制の経済学
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アンシラリー・インバランス供給の
料金・費用
接続料金(託送料金)と一括して基本的に総括原価方式
~一般電気事業者がコストベースで設計
30分同時同量~3%以内の不足に対しては発電原価に
基づいて料金を払う。
3%を超える~ペナルティ料金(待機設備の設備費の一
部をここで回収)
規制政策 規制の経済学
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30分同時同量の影響
3%を超える不足~高いペナルティ料金
→常に顧客の消費量を把握する必要性
⇒real timeで消費状況を測り、それを把握するための計
量器・通信設備の投資が必要
一般電気事業者はこんな事は不要
~全体としての需給を周波数等で管理すれば、一軒一軒
の消費動向を把握する必要がない(規模の経済)
⇒実質的な非対称規制~参入制限効果
(人為的に作られた規模の経済)
規制政策 規制の経済学
35
30分同時同量の弊害
新規参入者1の顧客Aの消費量が急減、一般電気事業
者の顧客Bの消費量が急増
本来全体での負荷変動はないから発電側の調整は不要
30分同値同量では新規参入者1が発電量を急減させ、
一般電気事業者が急増させる仕組み
⇒安定性・経済効率性の両観点からも無駄な調整
実際に震災直後の混乱期に東京電力管内では停止~停
止しなければ供給安定性を損なうから
震災直後のような安定供給が最も脅かされたときに安
定供給を損なうような愚かな制度が、震災前は安定供
給のためとの口実で維持されていた
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36
安定供給上の問題
30分同時同量以外の面では安定供給の責任を一般電気
事業者が全て負う。
なぜこれで安定性が維持できるのか?
~一般電気事業者のシェアが圧倒的に大きいから
新規参入者のシェアが上がると持たない
ガバナフリー等の自動制御装置はPPSの発電機にもつ
ける方が効率的。給電指令下におかれる方が効率的。
→PPSがアンシラリー機能の一部を負担する仕組み
⇒丼勘定のアンシラリーサービス・接続料金をアンバ
ンドルして、機能ごとに役割の配分を考えるべき
~電力システム改革
規制政策 規制の経済学
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輪番停電と30分同時同量制度
震災で東京電力は大規模に電源を失う
→節電要請。しかしそれでは補いきれないほど電源を
失ったので輪番停電を実施せざるを得なくなる
~30分同時同量制度を停止
もし停止していなければ?→PPSは自らの顧客の節電
量に応じて発電量を減らす~電気が足りないときに愚
かな行動。これを防ぐために30分同時同量制度を停止
したことは妥当。問題はこのような非常時に全く役に
立たない(安定性を損ねる)制度を放置していたこと。
この制度が安定供給に資すると言っていた愚かな人た
ちに今後の制度設計任せていいのか!!!
規制政策 規制の経済学
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DR(Demand Response)
同時同量→ピークにあわせた設備が必要→ピークの
(社会的)費用はとてつもなく高い
⇒負荷平準化の社会的利益は非常に大きい
夏昼間の需要を夜にシフトさせられれば大きな利益
~深夜割引料金、需要開拓(エコキュート、エコアイ
ス、電気自動車)
低炭素社会ではこんな単純な仕組みだけでは持たない
・太陽光発電が普及すると夏の昼間むしろ電気が余っ
てしまう。同じ昼間でも雨が降ると電力が不足する。
⇒従来より遙かにきめ細かなコントロールが必要
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DRとスマートメーター
現在の家庭用計量器:累積の電気使用量を測るのみ。2
値・4値のメーターは存在~昼夜の料金を分ける
スマートメータ
・30分、1時間単位の計量・データ保存可能
・双方向通信機能~自動検針(需要家→事業者)
~需要・家庭用自家発(太陽光など)のコントロール
同じ昼間でも太陽が照っている時と雨では電気の価値が
全く異なる。スマートメーターはこの区別を可能にする。
←しかし競争基盤を提供することにもなるので、既得権
益を持つ電気事業者は系統安定性を口実に抵抗する誘因。
第13講で再度議論
規制政策 規制の経済学
40
競争制度上の問題
(1) 垂直統合問題
(2) 卸売市場
(3) 電力間競争
(2)と(3)に共通の背景
電力需要の伸びが小さい~現状では十分な発電能力
新規参入者が発電所を新設して新規参入する余地が小
さい
cf 通信、都市ガス市場
規制政策 規制の経済学
41
垂直統合~発送電一貫体制
一般電気事業者~発電、送電、小売(配電)の全てを
垂直統合した企業
←戦後意図的に作り上げた体制~安定供給などの面で
一定の役割を果たしたと評価されている
垂直統合のメリット・安定性・効率性
垂直分離のデメリット・競争中立性
EU:垂直分離の基本方針
会計分離→経営分離→資本分離
日本:垂直統合
規制政策 規制の経済学
42
発電市場での競争
需要の伸びが小さい~新規参入の余地が小さい
この不利な条件の下で競争メカニズムを働かせるために
は発電市場での競争が不可欠
(1)水平分離
(2)卸売市場の発展
(3)電力間競争
規制政策 規制の経済学
43
卸市場
(1) 相対取引 (2) 常時バックアップ (3) 卸取引所
卸取引所が設立され2005年から取引開始(但し私設任
意の市場) cf 強制プール市場(北欧、オーストラリア、
かつての英国)
欧米に比べて見劣りする取引量・監視システム
取引量は増加してはいるが極めて少ない(平成17年度
9億kWh→21年度35億kWh、原子力発電所1機分に
も満たない。総発電量の0.5%にも満たない。)
市場支配力が行使しやすい市場構造←これを監視する
仕組みも貧弱
競争基盤として信頼に足るレベルには到達していない。
規制政策 規制の経済学
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電力間競争
各一般電気事業者~かつては各地域で独占事業者
現在でも各地域で圧倒的な地位
しかし日本全国を1市場と見なせば競争が起こるのに
十分な分散構造→電力間競争への期待
問題
(1) 競争を嫌う風土(?)
・事業者間で助け合ってきたし今後も助けあう必要
・電力戦の教訓←競争を始めると収拾がつかない恐れ
(2) 連系線の制約
規制政策 規制の経済学
45
卸取引所と電力間競争
(1)現実に現時点で1件しか実例がない(九州電力が中
国地域で供給)
一方でニーズは大きい
→全国展開する企業が一括の電力供給を希望
⇒需要主導での電力間競争への期待
中部、関西、東京電力が検討(中部電力は現実に開始)
(2)卸取引所での取引⇒PPSを営業部隊として利用する
実質的な電力間競争⇒直接の電力間競争が無くても卸取
引所の取引が十分活発であれば問題は小さい
最後まで残る問題:連系線の容量
規制政策 規制の経済学
46
連系線
9電力事業者の間を結ぶ線。なぜ連系線があるのか?⇒
供給安定性
・急な周波数の低下
→自動的に電力不足地区に電気が流れる~安定性
但し道連れで大停電を起こすリスクも~緊急時には連系
線遮断
・予備力の節約:特定地域の電力不足に各電力会社が
応援する→必要な予備力が減る
本来は供給安定性のための設備
自由化で競争を機能させる鍵となる設備に→第10講
規制政策 規制の経済学
47
連系線の容量
・西日本では関門(九州と四国を結ぶ連系線)を除いて概
ね十分な空き容量
→中部以西は一体市場として機能する可能性
・相馬双葉(東北と東京を結ぶ連系線)は現在のところ混
雑していないが将来的には容量不足になる可能性も
・北本(北海道と東北を結ぶ連系線)は容量が小さく、特
に北海道向けの空き容量はしばしばゼロとなる
~北海道電力は直接の競争にはさらされていない
・FC(東京と中部を結ぶ連系線)は容量が極めて小さい
東西は事実上分断された市場
規制政策 規制の経済学
48
送電線投資の誘因
・接続規制の下では道管投資の誘因は小さくなるか
もしれない←光ファイバーと同じ構造(通信市場
の回へ)
誘因を維持するための施策
(a)公正報酬率の工夫←リスクへの配慮
(b)一定期間のオープンアクセス免除
規制政策 規制の経済学
49
地域送配電網を接続するための連
系線投資の誘因
・技術的なメリット
(a)安定性の向上⇔同時にデメリットも
(b)予備電力保有費用の節約
・競争を促す側面
→結果的に使われなくても社会的な利益が生じる
この点は都市ガスの回で詳しく議論
規制政策 規制の経済学
50
電力システム改革
規制政策・規制の経済学
51
電力システム改革
電力市場における戦後最大の改革→システムを根本的に
変える
(一部の)計画的経済的な発想しかない役人・OBと、既存
の一般電気事業者とその利害関係者が支配する非効率的
な市場から、全企業、全消費者の知恵を集める、透明で
公正で効率的な、ビジネスチャンスに溢れた競争市場に
変える。
単に市場を自由化するだけでなく、競争構造を根本的に
変える
規制政策・規制の経済学
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電力システム改革スケジュール
第一段階 広域機関の設立(2015年4月)
第二段階 家庭用も含めた小売全面自由化(2016年4月)
第三段階 ネットワーク部門の中立化・発送電の法的分離
(2020年度)
それぞれの局面で下記対策を講じる
(a) 安定供給のための対策
(b) 競争基盤の整備・強化
(c) 競争条件の公平化、イコールフッティングの確保
⇒イコールフッティングを口実として、総括原価と地域独占
と公益事業特権に守られて築いた一般電気事業者の競
争優位を安易に温存しないよう配慮する必要がある。
規制政策・規制の経済学
53
広域機関
(1)緊急時にスムーズに電力の広域流通ができるように
する~普段から把握できていなければ緊急時にも対応で
きない。⇒連系線・基幹送電線の計画・建設でも大きな役
割を果たす(はず)。
一般電気事業者は、競争を抑制するために投資を抑制す
るような、安定供給を犠牲にして利益を優先する行動がと
りにくくなる。
~一般電気事業者が市場を支配する構造の終わりの始
まり。
(2)自由化に伴うスイッチのための支援・ルール整備
規制政策・規制の経済学
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広域化と競争
(a) 広域化:日本全体の電源の効率的利用、新規参入者
の電源調達の容易化
(b)連系線を始めとする基幹送電線投資の強化
・供給安定性の向上、需給逼迫の可能性を減らす
・地域間(電力間)競争、参入者との競争を激化させる
一般電気事業者は従来連系線の強化より地域内での電
源確保を優先~震災前にはFCを僅か30万kW増強する
というささやかな提案さえ葬ってきた
自らのビジネスモデルに反する分散型電源・再生可能電
源の導入を可能にする基幹送電線の増強も怠ってきた
広域機関ができ、これが機能すると、このようなことはでき
なくなる⇒競争圧力は高まる
55
規制政策・規制の経済学
自由化
2016年度から家庭用も含めた全面自由化
セーフガードとして一般電気事業者には規制料金も残す
→一定の規制が暫定的に続く
ライセンス制→スムーズに法的分離に
小売の詳細ルール作りは進んでいるが肝心の託送料金
の姿が見えない~当面は従来の非合理な体系を維持す
る?→従来の一般電気事業者のビジネスモデルに著しく
有利な託送料金体系を変える必要がある。
規制政策・規制の経済学
56
自由化の意義
(a) 消費者に多様な事業者を選ぶ自由を与える
(b) 消費者・事業者に責任ある意思表示の機会を与える
(c) 多様なアイデアの事業化による技術革新・社会変革・経
済成長~分散型電源、再生可能電源の普及、省エネ・需
要制御の高度化→消費者参加型の安定供給
(d) 電力、ガス価格の低下、生産性向上
(e) 需給逼迫への柔軟で効率的な対応、安定性向上
(f) 一般電気事業者・ガス事業者に効率性・公正性、正当性
を証明する機会を与える
(g) 総合エネルギー企業、総合公益企業間の健全な競争へ
の道を開く
57
規制政策・規制の経済学
望ましいエネルギー・ミックス
(a) 環境価値、セキュリティの価値、安定性の価値、
資源外交上の戦略的な価値、量産効果などの異時点間
の生産・消費の外部性等を、適正な税・補助金、FIT
等の政策的措置で適切に補正することを前提に、
←国のエネルギーの基本戦略・構想はここで表現する
~究極的には国民の選択
(b) 本来事業者が負担すべき費用(環境に負荷を与える
費用等)を第三者につけ回しさせないことを前提として、
(c) 公正な競争環境のもとで消費者に支持される事業
者が生き残ることを通じて、自然に望ましいエネル
ギー・ミックスが実現するのが理想。
規制政策・規制の経済学
58
電力システム改革
エネルギーに関する国家の基本政策は様々な条件に
よって大きく変わりうる
・地球環境・安全保障・資源外交・技術革新
環境や前提条件が大きく変わり、重点政策が変化して
も、柔軟に、効率的に対応して、低廉で安定的な電力
供給を守るのが電力システム改革。
他の国家戦略の方向や詳細が完全に決まらなければ進
められないものではなく、むしろこれがどう変化して
も適切に対応できるようにするためにも電力システム
改革は必要。
規制政策・規制の経済学
59
消費者の選択と電源構成
・脱原発も脱化石燃料も支持する消費者は再生可能電
源を主力とする事業者から電気を買い、
・脱原発は支持するが脱化石燃料までは支持しない消
費者は再生可能電源と化石燃料を組み合わせる事業者
から電気を買い、
・原子力こそ安定供給ないし脱炭素化の王道と考える
消費者は、原子力を組み入れた事業者から電気を買い、
・価格が最重要である消費者はもっとも価格の低い事
業者から買う
~(政策による補正を前提として)消費者から支持され
る事業者が生き残る結果として望ましいミックスが実
現するのが(すぐには実現しなくとも)究極の理想の姿
規制政策・規制の経済学
60
消費者の選択
「再生可能電源を支持する」と言うステートメントは、
それに伴う費用負担を引き受ける意志のない無責任な
ステートメントである可能性を排除できない(無責任と
決めつけているわけではない)。
「再生可能電源を主力とする事業者から電気を買う」
という行動は必要な費用を負担した上での責任を伴っ
た立派な再生可能電源の支持表明。
~電力市場の自由化により、このような責任ある意志
表明の機会を消費者は与えられるべき。
規制政策・規制の経済学
61
事業者の選択
「再生可能電源は化石燃料電源より低コスト」とのス
テートメントは、自分に都合の良いデータだけを集め
ただけの無責任なステートメントである可能性を排除
できない(無責任と決めつけているわけではない)。
もし本当に固くこれが事実だと信じているなら、再生
可能電源を主力とする事業を立ち上げて(ないしそのよ
うな事業者に出資して)、市場に参入すればよい。「価
格が高くても再生可能電源は国民・消費者に支持され
るはず」と考えている者も同様。
~電力市場の自由化により、参入行動のような、責任
ある意志表明の機会を与えられるべき。
規制政策・規制の経済学
62
電力市場でのネットワーク部門中立化
(1) 所有権分離~不公正な取扱いの誘因を根本的に除く
・発電会社を別会社化して外部に切り出す。接続、アン
シラリー用の電力調達などは送配電部門が行う
(2) 機能分離~不公正な取扱いの手段をすべて奪う
・一般電気事業者と完全に独立した強力なISO
(Independent System Operator ),RTO(Regional
Transmission Organization)を作る
(3) 垂直統合+徹底的な規制~法的分離
・同一所有者(一般電気事業者)による統合体制を前提と
して、送配電部門と他部門の取引を他事業者との取引と
同様に契約化し、中立化のためのルールを整備し、かつ
強力な第3者機関が送配電部門の行動を監視する。
規制政策・規制の経済学
63
法的分離による送電部門の中立化
法的分離をしても、送電部門は所有権分離がされてい
ないので、差別的な扱いをする誘因も手段も残る。法
人格を分けるだけでは中立化にならない。
しかし、法人格を分ければ、送電部門と他部門の取引
が契約化される→不透明な内部取引ではないので、第
三者が監視・検証できる。実効性のある行為規制が可
能になる。
法的分離:所有権も分離せず、機能も分離しないで厳
格な中立性を担保するほぼ唯一の方法
詳細制度設計と設計後の準備の役割が大きい→だから7
年もの期間がかかる。
64
規制政策・規制の経済学
(システム改革前の)現状は?
現状はそのような機会を与えられていない。
(a) そもそも家庭用市場は自由化されていない
(b) 自由化されている大口市場も競争メカニズムは殆ど
機能していない
・新規参入者のシェアは5%に満たず、電力間競争は
1件だった(電力)
(c)透明で公正な競争環境が保証されていない
規制政策・規制の経済学
65
規制なき独占
自由化しても競争が機能しなければ、消費者は実質的
な選択の自由が与えられず、潜在的な新規参入者も実
質的な選択の自由が与えられず、ただ現状の独占事業
者が規制からの自由、自由に値上げする権利を与えら
れるだけになりかねない。
規制なき独占を避けるためには、小口市場を自由化す
るだけではなく
(a) 電気事業制度・電力市場システムの抜本的な改革が
不可欠←電力取引監視等委員会が大きな役割を果たす
はず
(b) 競争メカニズムが働くことが確認されるまでの間、
一定の規制・消費者保護策が必要
規制政策・規制の経済学
66
規制無き独占を回避するためには
(1)競争基盤整備
(a)卸取引市場の改革
・JEPXの商品性改善~1時間前市場・入札の義務付
け・長期契約電源の切り出し・VPP・発電所売却
(b)競争活性化・新電力の電源不足対策
・部分供給・常時バックアップ規制→ベース電源化
(2)公正な競争条件の確保・ネットワーク部門の中立化
・インバランス料金の改革・発送電分離
しかし上記の改革はそれ自身が目的ではなく、消費者
の選択が主導する社会改革を実現するための制度基盤
を作る手段にすぎない。
規制政策・規制の経済学
67
規制無き独占を回避するためには
競争基盤整備
現在まで競争が機能していない~特に産業用
流動性のある市場の設計
少し売り手が増えれば価格が暴落し、少し買い手が増
えれば価格が急騰する流動性のない市場では新規参入
が進まない
両建入札の義務化・卸電源の切り離し・需要家参加
無理矢理卸価格を下げて設備保有者の採算性を悪化さ
せるのが目的ではない。効率化(コスト削減)の結果とし
て価格が下がる市場を目指す。安心して売り買いでき、
設備保有者も需要家も利益を受けられる市場を作る。
規制政策・規制の経済学
68
現状は非中立的か?
一般電気気業者のビジネスモデル~大規模発電所を遠隔
地に集中立地させ、大送電線で需要地まで運び、需要地
の発電所で補完・調整する
発送電一貫体制+自由化→これに反するモデルを開発す
る事業者の参入を抑制する手段も誘因も与える制度
一般電気事業が差別的な取り扱いをする手段は、各種
の規制で制限されているが、完全には除かれていない。
託送料金:報酬率・修繕費の恣意的な決定、送電投資費
用・計画に関する不十分な説明等々
接続条件:恣意的な運用の可能性、分散型・再生可能電
源に対する配慮不足
規制政策・規制の経済学
69
ネットワーク部門の非中立性
・蓄電池を備えた風力発電で参入を試みる事業者に、
長期の実証を強い、不当に低い価格で電力を買い叩く
・系統対策で使うべき需給調整契約を営業目的で使う
・公開しない系統情報を自社の発電計画策定に使い、
配電制約の厳しい地域にいち早く自社電源を建て、ラ
イバルの参入余地を消す
・ライバルの系統接続費用・電源線費用を高める
・自社電源(他社電源)の電源線コストを下げる(上げる)
よう送電投資を計画する
実際にやっているかどうかだけでなく、「やろうと思
えばできる」とライバルに思わせるだけで参入を阻止
できる~新しいビジネスモデルが育たない
70
規制政策・規制の経済学
総合エネルギー企業間の競争
・縦割りの競争から総合エネルギー企業、総合サービ
ス事業者間の競争へ
電気・ガス・水道・通信・健康管理・自動車・住宅な
どのサービスをパッケージで供給する競争も
⇒異業種との協調が広がるとともに競争相手も広がる
・総合化は手段であって目的ではない。顧客の要望に
応え、顧客の要望を発掘する手段。
・大規模発電所を建設し、LNG基地を設けて参入する
だけが総合エネルギー化ではない~必要なものは外か
ら調達すれば良い。顧客との接点に強みを持っている
なら、そこを生かしてアグリゲーション等の手法も検
討の価値がある。利用ベース競争。
規制政策・規制の経済学
71
ネガワット取引
・電力システム改革での重要な視点:供給と需要の等
価性~供給力を増やすのと需要を減らすのは等価との
思想を貫徹する
⇒需要を適切に制御することがお金になるシステムへ
需要側も主役になるシステム
・様々な形でネガワット取引、需要管理がシステムの
中で組み込まれてくる⇒巨大な市場、ビジネスチャンス
の出現
・十分な量の大規模発電所を遠隔地に作りこれを大送
電線で消費地まで運んで売る単純なビジネスモデルに
替わる新たなビジネスモデルの出現
規制政策・規制の経済学
72
需要側の対応
実同時同量→ピークにあわせた設備が必要→ピークの
(社会的)費用はとてつもなく高い
⇒負荷平準化の社会的利益は非常に大きい
夏昼間の需要を夜にシフトさせられれば大きな利益
~深夜割引料金、需要開拓(エコキュート、電気自動車)
今後はこんな単純な仕組みだけでは持たない
・太陽光発電が普及すると夏の昼間むしろ電気が余っ
てしまう。同じ昼間でも雨が降ると電力が不足する。
・3時間日本中の風力発電が止まることすらあり得る。
⇒従来より遙かにきめ細かなコントロールが必要
規制政策・規制の経済学
73
需要側の対応とスマートメータ
スマートメータ:単なる計量器ではなく、ほぼ全戸に
付く通信機器でもある
・30分単位の計量→データ解析による省エネ事業、合
理的な価格体系による需要のコントロール~本命は自
動制御。IoTの世界。NTT東西の光卸は潜在的にはこの
追い風。
・双方向通信機能~自動検針(需要家→事業者)、需要制
御(事業者→需要家):非常時にも輪番停電を回避
昼間でも晴天時と雨天時では電気の価値が全く異なる。
スマートメータはこの区別を可能にする。
これを使いこなして参入する道が自由化で開かれる
規制政策・規制の経済学
74
次世代自動車
電気自動車~動く揚水発電所
燃料電池車~動く火力発電所
プラグイン・ハイブリッド~両方の機能をもつ
電力系統網と次世代自動車を結びつける(VtoH、VtoG)
→太陽光などの不安定電源が大量に入る社会で、安定性
確保と系統費用増加を抑制する切り札。自動車メーカは
潜在的にはエネルギー事業者となりうるし、次世代自動
車とPVも相性が良いはず。HEMSなども同様。
しかし適切な価格incentiveと自由な接続環境がなければ、
技術力を成長に結びつけられない。
電力システム改革によってこの道が開かれる。
規制政策・規制の経済学
75
原子力発電
原子力発電の強みと脆弱性
原子力発電は自由化環境でも依然として最強の電源
現状稼働していない。しかし動き出せば圧倒的に低い限界
費用⇒新規参入者はどの電源で参入しようと、既に作られ
た原発とは競争できない。~将来稼働する可能性があると
いうだけで、参入阻止効果を持つ
一方で社会的受容性が低く、再稼働してもその後安定的に
稼働できるかどうかリスクが大きい
一般電気事業者にとっても新規参入者にとっても、自由化
後の電力市場での最大のリスク要因
76
規制政策・規制の経済学
競争電源か、公益電源か
従来の曖昧な国策民営政策⇒この見直しは不可避
・巨額な賠償の可能性等の大きなリスクを抱えたまま民営
でこの事業を長期的に継続していくことは困難
・一方で一般電気事業者は都合の良いときには「民営」を強
調してきた⇒そのつけを今払わされている
国の関与を強める⇒一般電気事業者にとって直接的なリス
クは減るが、一方で公益電源化の議論が勢いを増すことに
なる~圧倒的な参入阻止効果が弱まる
国と消費者がリスクと費用だけ負担して、利益は従来通り
民営原子力事業者が得る枠組みにすべきではない。
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規制政策・規制の経済学
FITがシステム改革で果たした役割
FITは制度設計の失敗により巨額の賦課金負担を生んで
しまった。→早急な抜本的な見直しが不可避
一方再生可能電源の普及の他に、電力システム改革の文
脈でも重要な役割を果たした
⇒従来よりも多様なplayerの参入を促す ~ 「電力の常
識・一般市場経済の非常識」に毒されていない健全な
playerが、不合理なルールに対して声をあげる
・現行制度の接続の不合理性・不透明性ひいては一般電
気事業者の送配電投資・流通戦略の問題を明らかにした
・現行の電力システム、各種規制の問題に注目を集めた
今後もシステム改革・規制改革に関心を持ち、声をあげ続
けることが重要
78
規制政策・規制の経済学
これからの電力市場
・一般電気事業者の古い常識、地域独占と総括原価と
公益事業特権に守られた事業者の常識から普通の健全
な競争市場の常識へ
⇒競争市場に慣れた普通の事業者の優位性
・様々な事業者がそれぞれの強みを生かせる市場へ
・一般電気事業者は大規模電源を囲い込んでいる、分
厚い顧客基盤をもつ優位性を一定期間維持する可能性
も
・一般電気事業者間のカルテル的(?)な体質の変化
の可能性・電力間競争←東京電力の国有化・体質の抜
本的な改善が一つの契機に
規制政策・規制の経済学
79
安定供給
電力市場の制度設計において安定供給の視点は重要。電
力システム改革が安定供給を損なう可能性も、その逆の
可能性もある。慎重な制度設計は必要。
大規模停電を引き起こす要因
(a) 中給の運用の失敗←どの制度でも起こりうる問題
(b) 送配電投資不足←送配電部門に第一義的な安定供給
の責任を負わせる。広域機関の監視。最後は政府。
(c) 発電投資不足←様々な対策
(d) 発電投資と送配電投資の調整の失敗~範囲の経済性
現在でもこの問題が起こっている。分散型・再生可能電
源の投資に伴うタイムリーな送電投資が行われない。
規制政策・規制の経済学
80
現行体制と安定供給
垂直統合が安定供給の障害になる可能性
(a) 垂直統合の下では連系線投資の誘因が過小になる
~連系線増強が電力間競争の可能性を高めるから
(b) 競争部門での失敗、不幸な事故が、送電部門の過
小投資・修繕の先送り等に繋がりかねない
(c) 需要制御による安定供給確保の発想に乏しい
「発送電一貫体制が安定供給上ベスト」という思い込
みは捨てるべき。メリットもデメリットも両方ある。
→安定供給の観点からも、システム改革が必要
規制政策・規制の経済学
81
現在の日本の安定供給体制
日本の電力システムは、世界に冠たる高い安定性(低い
停電率)という側面と、極めて脆弱という両面がある。
・欧州諸国に比べて恥ずかしい程しか風力が入ってい
ないのに、抽選制を導入せざるを得なかった
・大規模発電所を集中立地させる災害に弱い系統
・小さな連系線容量
・混乱した輪番停電を回避できなかった
・電力不足が予想されたのにもかかわらず、漫然と
オール電化営業を続けた無責任
今の一貫体制は新電力のシェアが高くなると安定性を
維持できない仕組み。安定供給の観点からもシステム
改革は不可避だった。
規制政策・規制の経済学
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電力システム改革と安定性の改善
(1) 価格メカニズムをフルに活用したDSM(Demand Side
Management)により、安定性を高める。
(2) 適切な送電投資を促す
(3) 新電力を含む全発電部門の情報を送電部門に集め、
安定供給のために適切に使う
(4) 大規模集中電源と分散電源のバランス、スマートコ
ミュニティの促進、高度化
(5) 価格シグナルによる適切な発電投資(過小投資の回避)
(5)を重視すれば特段の供給力対策がなくとも適切な供
給力確保は可能→しかしこのメカニズムが完全には働か
ない事態を安易に「想定外」とはしない→広域機関によ
る電源入札制度まで用意。
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規制政策・規制の経済学