低周波地震 - 固体地球科学大講座

ゆっくり地震のスケール法則
新たな地震の支配法則の発見
井出哲
東京大学大学院理学系研究科
地球惑星科学専攻
地震
プレート間の相対運動によって高まった応力を解放する
破壊を伴う摩擦すべりとそこから放出される弾性波動
南海・東南海地震
「全国を概観した地震動予測地図」 2007年版
地震調査研究推進本部
島崎 (2002)
深部低周波微動の発見
(Obara, 2002)
深部低周波微動の観測例
Obara, 2002
深部低周波微動の特徴
• 長野県南部から愛媛県まで
• 沈み込むフィリピン海プレートの30-35km等深線と対応
• 卓越周波数2-8 Hz
• 数か月おきに数日続く
– 潮の満ち引きと強い関係
– 遠方での大地震(たとえば2004年スマトラ)の影響
• 時間とともに移動する性質
– 数日で数100km
– 数十分間で数10 km
深部低周波地震
(Low Frequency Earthquake)
• 気象庁定常観測で検出
– P波とS波がみえる
=震源位置決定可能
• 微動期間の孤立イベント
(Shelly et al., 2006)
低周波地震の位置
(Shelly et al., 2006)
島孤モホ面
安定すべり
海洋プレートモホ面
低周波地震
=遷移領域
固着領域
プレート境界
流体の存在?
低周波地震のメカニズム
P波初動の押し引き分布 (Ide et al., 2007a)
南海地震の
メカニズム
南海地震同様のプレート間すべり運動
低周波地震=低周波微動
(Shelly et al., 2007)
低周波地震の例
低周波微動の例
統計的有意な波形一致
スロースリップ(Slow Slip Event)
(Hirose & Obara, 2005)
数日の地殻変動
プレート間すべり
超低周波地震(Very Low Frequency EQ)
(Ito et al., 2005)
20-50秒程度の周期の地震波を放出する
プレート間すべり運動
南海トラフ沿いの4種の現象
低周波地震
低周波微動
プレート境界のすべり運動
原因不明
マグニチュード 1-2
大きさ不明
継続時間1秒以下
特徴的周波数 2-8 Hz
超低周波地震
スロースリップ
プレート境界のすべり運動
プレート境界のすべり運動
マグニチュード 3-4
マグニチュード 6-7
継続時間20-50秒
継続時間数日~数か月
スロースリップ
低周波微動
超低周波地震
巨大地震震源域
低周波地震
アメリカ・カナダ国境での類似現象
10日ごとの微動活動時間数
GPSで測定した変位(mm)
(Dragert et al., 2004)
深部低周波微動とスロースリップの繰り返し
Episodic Tremor and Slip
大きさと継続時間の比較
M4→1秒
M5→3秒
M6→10秒
M7→30秒
M8→100秒
地震モーメントと継続時間
普通の地震
• 地震モーメント∝断層の大きさ×すべり量
2D
=
L
D
L
∝継続時間3
L
ゆっくり地震
• 地震モーメント∝継続時間
周波数成分
が違うはず
ゆっくり地震のスペクトル
普通の地震
ゆっくり地震
(Shelly et al., 2007)
(本研究)
スペクトルスケーリング
高周波で傾き-1(普通の地震は-2)
ゆっくり地震とは
• 地震モーメントが時間とともに大きくなる一連のプレート間すべり
• 最小単位は低周波地震
– 低周波地震を伴わないスロースリップはないが
– スロースリップを伴わない低周波地震はない
• 低周波地震(小さなプレート間すべり)が群発すると低周波微動
のように見える。さらに連続すると全体は超低周波地震、さらに
続くとスロースリップとして認識される
• 名前の違いはみる時定数の違い
すべり量
応力
成長モデル考察
応力降下量一定モデル
すべり量と断層サイズの割合一定
破壊伝播速度の急激な変化
すべり量一定モデル
(拡散地震モデル)
すべり量一定
破壊伝播速度の変化
断層面の広がりの精密決定が重要
すべり領域の移動速度
100 km/10日
(約0.1 m/s)
10 km/10分
(約10 m/s)
素過程は?
• 速度ー状態依存摩擦側
– そもそも地震波を出せるか?
– 遷移領域での振る舞い?
• 流体の拡散
– それにしてはやや早い
不安定
遷移
安定
シミュレーションの設定例
(Shibazaki and Iio, 2003)
世界各地の類似現象
微動・スロースリップ・アフタースリップ・クリープetc
西日本
イタリア
アラスカ
東日本
三陸・房総沖
東海・南海
豊後水道
サンアンドレアス断層
キラウエア
火山
金鉱山内
カスケード
カリフォルニア
ハワイ
南アフリカ
米カナダ境界
メキシコ コスタリカ
チリ
ニュージーランド
北島
様々な現象とゆっくり地震スケール則
ゆっくり地震は
• 沈み込み帯にかなり普遍的な現象だろう
– プレートの沈み込みプロセス(島孤形成プロセス)
の理解
– 巨大地震の発生メカニズム解明
• 微動を追跡するだけでスロースリップ把握
– 正確な地震発生ポテンシャル評価
• 沈み込み以外にも適用できる可能性
多くの謎
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微動のないところもある(例:東日本)
微動のクラスター性
周期性、潮汐との関係
地震活動との関連
伝播速度のサイズ依存性
Mo/T = 1012-13は何が決めている?
普通の地震とは何なのか?
西日本のスロースリップ
Kawasaki (2004)
Tokai
Bungo
Hyuganada
Boso
東海スロースリップ
Miyazaki et al. (2006)
2000 – 2002
3 years
Mw 6.8
三陸スロースリップ
Kawasaki et al. (2001)
1989
1992
10 days 1 day
Mw 7.4
Mw 6.9
(After regular events)
米カナダ国境 カスケード沈み込み
Dragert et al. (2004)
13-16 month interval
20-30 days
Mw 6.5-6.8
ニュージーランド ヒクランギ沈み込み
Douglas et al. (2005)
2002/10 (2004/11)
10 days
Mw 6.6 (μ = 30 GPa)
アラスカ中部
Ohta et al. (2006)
1998-2002
3 years
Mw 7.2
メキシコ ゲレーロ沈み込み
Yoshioka et al. (2004)
Kostoglodov et al. (2003)
2001-2002
6-7 months
Mw 7.4
サンアンドレアス断層
Strain step in creep event
Gladwin et al. (1994)
1985-1992
1 hour
Mw 3.0
(Mo 4.4 x 1013Nm)
サンアンドレアス断層
Creep event
Linde et al. (1996)
1992/12
50 hours
Mw 4.8
サンアンドレアス断層南部
Lohman and McGuire (2007)
2005/08 (1981)
15 hours
Mw 5.8
ハワイ キラウエア火山下
Segall et al. (2006)
2005/01 etc
2.2 days
Mw 5.8 (Mo 6.8 x 1017Nm)
イタリア中部の不活発断層
Cresentini et al. (1999)
Amoruso et al. (2002)
1997100 sec
Mw 3.1 (Mo 4.9 x 1013Nm)
南アフリカ金鉱山
Naoi et al. (2006)
Naoi (2007)
20030.1 sec
Mw < 1.5
三陸はるか沖地震 余効変動
Heki et al. (1997)
1994-1995
1 year
Mw 7.7 (Mo 4.2 x 1020Nm)
南海トラフの付加帯内のVLF
Ito and Obara (2006)
200310 sec
Mw 3.6-4.4