保険業界の動向 ~その商品性と不払い問題~ 05F1433 古谷 直規 目次 はじめに 保険とは 不払い問題について 業界の動向 終わりに 参考文献 はじめに 生命保険の不払い問題で2008年7月に 金融庁は、支払い漏れが多額に上るなど 問題の大きかった生保10社に対し、再発 防止の徹底などを求める業務改善命令を 出した。保険業界において不払い問題は 契約者にとっての信用問題になる。今回は その不払い問題とその商品性について取 り上げていくことにする。 保険とは 生命保険とは 生命保険の基本商品 損害保険とは 損害保険の基本商品 保険料の仕組み 特約について 保険会社の営業体制 ソルベンシー・マージン比率 生命保険とは(1) 人の死亡または一定の年齢までの生存 を条件として、一定の金額を支払うことを 約束する保険。 どのような場合に保険が 支払われるかによって3つの保険に分類さ れる。 死亡保険、生存保険、生死混合保険 生命保険とは(2) ・死亡保険とは 死亡や高度障害状態となった場合のみ、保険金が支 払われる。主な商品は定期保険、終身保険。 ・生存保険とは 契約してから満期まで、生存していた場合のみ保険金 が支払われる。主な商品は個人年金保険、こども保険。 ・生死混合保険とは 死亡保険と生存保険を組み合わせたもので、保険期 間の途中で死亡または高度障害になったときや、満期ま で生存していた場合に保険金が支払われる。主な商品 は養老保険。 生命保険の基本商品(1) 定期保険 ・ 掛け捨ての保険であり保障は一定期間のみ。 ・ 保険料は最も安い。 ・ 更新可能だが保険料が高くなる場合がある。 死亡保険金 保 障 金 額 契約開始 払込満了 保険期間 生命保険の基本商品(2) 終身保険 ・ 保険料払込満了後にも死亡保障が一生涯続く。 ・ 同じ死亡保険金額の場合、定期保険よりも保険料は高くなる。 死亡保険金 保 障 金 額 契約開始 払込満了 保険期間 (一生涯続く) 生命保険の基本商品(3) 個人年金保険 ・ 一定期間の保険料の払込が満了すると、毎年所定の額の年金が所 定の期間支払われる。 ・ 年金受取開始前に被保険者が死亡した場合には、死亡保険金が受 け取れる。 ・ 年金の受け取り方は、終身受け取れる終身年金、受け取る期間を 定めている確定年金、期間を定めているが生存が条件の有期年金 など、形態の選択ができる。 死亡保険金 年金 保 障 金 額 契約開始 保険期間 払込満了 年金受取期間 生命保険の基本商品(4) 養老保険 ・ 死亡した場合は死亡保険金が受け取れ、満期時に生存 している場合は死亡保険金と同額の満期保険金が受け 取れる。 ・保険料は最も高い。 死亡保険金 満期保険金 契約開始 払込満了 保 障 金 額 保険期間 損害保険とは 偶然の事故によって生ずる損害を補償す る目的の保険。近年では、その補償範囲 は物だけでなく人にも拡大している。 分野 としては火災保険、自動車保険、傷害保険、 個人賠償責任保険等のノンマリン分野と 海上保険のマリン分野に分けられる。 損害保険の基本商品(1) 火災保険 火災や災害などによって損害を補償する保険。ただし地 震による火災については補償されない。住宅用の火災保 険として代表的なのは住宅火災保険と住宅総合保険で ある。 住宅火災保険の損害対象 火災、雪災、風災、ひょう災、落災、ガス爆発による爆 発・破裂 、災害時の臨時費用など 住宅総合保険の損害対象 住宅火災保険の損害対象に加えて、水災、自動車の飛 び込みなどによる飛来・落下・衝突 、給排水設備の事故 などによる水濡れ 、盗難など 損害保険の基本商品(2) 地震保険 地震による損害(火災を含む)を補償する保 険。ただし単独で契約することはできず、火 災保険とセットで加入することになる。地震 保険の対象となるのは居住用の建物と家財 のみであり、事業用の建物などは対象外。 地震保険の補償金額 建物 家財 保険金額 主契約の30ー50% 主契約の30ー50% 最高金額 5000万円 1000万円 損害保険の基本商品(3) 自動車保険 自動車事故に対する損害を補償する保険。日本では自賠責保険が強制さ れているが最高補償額は死亡事故で3000万円、傷害事故で4000万円のみ である。それ以上の補償をカバーするのが任意保険である。任意保険は7種 類ある。 対人賠償保険 歩行者や同乗者を死傷させた場合に適用 対物賠償保険 財物に損害を与え、損害賠償責任を負った場合に適用 搭乗者傷害補償保険 運転者や同乗者が死傷した場合に適用 自損事故保険 自賠責保険適用外の自損事故に適用 無保険車傷害保険 加害者に賠償資力がない場合の不足分に適用 車両保険 偶発的な事故で自動車が損害を受けた場合に適用 人身傷害補償保険 自動車事故においての死傷の過失に無関係に適用 損害保険の基本商品(4) 傷害保険 契約者が急激かつ偶然で外来の事故によって被った傷害を補償 する保険。支払われる保険金は健康保険や生命保険の受領とは無 関係に支払われる。種類は様々である。 普通傷害保険 日常生活上の事故に対する被害を補償する保険。事故の場所は 国内外を問わない。 家族傷害保険 1契約で家族全員が補償の対象になる。補償内容は普通傷害保険 と同様である。家族の範囲は本人、配偶者、本人または配偶者と生 計を共にする同居の親族および別居の未婚の子である。 保険料の仕組み(1) 営業保険料 契約者が払い込むお金 純保険料 将来の保険金支払いの財源 死亡保険料 死亡保険金の財源 付加保険料 会社運営上の諸経費にあてるもの 生存保険料 生存保険金の財源 予定死亡率と予定利率を基礎とする 予定事業費率を基礎とする 保険料の仕組み(2) 予定死亡率とは 過去の死亡者数をもとに余裕を持った保険料を 算出・設定するが、その時使う死亡率を予定死 亡率という。 死亡率が高いほど保険料は高くなる。そのため 死亡保険については一般的に男性の方が保険 料は高くなる。 保険料の仕組み(3) 予定利率とは 保険会社は蓄積する保険料の一部を運用するが、その 資産運用による一定の収益をあらかじめ見込んで、その 分だけ保険料を割り引いている。その割引率を予定利率 という。 予定利率が高ければ、保険会社は収益が多くなるため、 その分契約者が支払う保険料は安くなる。 保険料の仕組み(4) 予定事業比率とは 保険会社は経営に必要な諸経費をあら かじめ見込んで保険料を設定する。この保 険料に対する保険料の割合のことを予定 事業費率という。 医療特約について 医療特約とは、より多くの医療保障を得るため に主契約に付加して契約するものである。多くの 特約をつけることができるがその分、保険料は 高くなる。 ex成人病入院特約、リビングニーズ特約 不払い問題で一番多いのは特約不払い 保険会社の営業体制 生命保険会社 パートなどの女性を中心とした営業職員による保険の販 売体制。営業職員は約25万人。 損害保険会社 自動車販売店などの販売代理店による保険の販売体制。 販売代理店は約24万店舗。 大規模営業が可能になるが、販売員の知識不 足が露呈。 ソルベンシー・マージン比率(1) ソルベンシー・マージン比率 とは通常では予測 不可能な大規模な損害が発生した場合にも、保 険会社はその損害に対応する余力を示した比率 である。この数値が200%未満になると金融庁 は早期是正措置を発動することができる。 計算式は ソルベンシー・マージンの総額 リスクの合計額×1/2 × 100 ソルベンシー・マージン比率(2) 2007年度ソルベンシー・マージン比率(生・損保上位3社) 日本生命 →1156.8% 第一生命 →1010.8% 住友生命 →1058.7% 東京海上日動火災 →957.8% 損害保険ジャパン →887.9% 三井住友海上 →955.4% 不払い問題について 不払い問題とは 不払い問題の発端 不払い問題の発生経偉(生命保険) 不払い問題の発生経偉(損害保険) 不払い問題の事案 不払い問題の発生原因(生命保険) 不払い問題の発生原因(損害保険) 不払い問題とは 保険会社が起こした、支払わなければな らない保険金を正当な理由無く支払わず にいた事件のことである。 契約者との信用問題へ 不払い問題の発端 生命保険では、2005年2月に明治安田生命保険によ る死亡保険金の不当な不払い発覚が発端となった。 損害保険では、2005年2月に行われた金融庁による 検査で富士火災海上保険の自動車保険の特約で不当 な不払いが発見されたことが発端となった。 以降、生損保各社で保険金の不当不払い 事案が次々と大量に発覚していくこととなる。 不払い問題の発生経偉(生命保 険) 金融庁が明治安田生命最初の 2005年2月 業務停止命令 7月 生保各社に最初の調査命令 10月明治安田生命に2度目の業務停止命令 12月生保各社が自主調査を開始 2006年7月 日本生命に業務改善命令 自主調査を不十分として、2度目の 2007年2月 調査命令。各社は12月までに報告 大手10社に業務改善命令 2008年7月 不払いは37社で135万件、973億円 8月 大手10社が業務改善計画を報告 不払い問題の発生経偉(損害保 険) 金融庁の調査を受けた富士火災海上保険で、 2005年2月 保険金不払いや保険料取りすぎが発覚 11月 保険金不払いで損保26社に業務改善命令 2006年5月 損保ジャパンに業務停止命令 6月 三井住友海上に業務停止命令 11月損保各社に保険金不払い再々調査を命令 12月損保各社に保険金取りすぎの調査を要請 損保10社に第3分野保険の保険金不払いで、 2007年3月 業務改善命令、うち6社には一部業務停止命令 損保26社が保険金不払いの調査結果を公表 7月 不払いは49万件、380億円に拡大 損保26社が保険料取りすぎの中間調査結果を公表 2008年7月 取りすぎ件数は153万件、371億円 不払い問題の事案 (1) 不当な支払い 保険会社が正当な理由に基づかずに支 払いを拒否していたものである。告知義務 に違反しているという理由で保険金を支払 わないことや病気について契約以前のも のとして支払いを拒否すること等の例があ る。 不払い問題の事案(2) 支払い漏れ コンピューターシステム の不備や職員の知識不 足等による支払い漏れの ことである。特に特約に ついては請求がないと保 険金を支払わない状態に なっていた。 H19年12月時点 生保支払い漏れ 発生件数の割合 8% 9% 2% 56% 25% 出典http://www.fsa.go.jp/news/20/hoken/20080703-5/01.pdf 手術給付金 入院給付金 障害給付金 通院給付金 その他 不払い問題の事案(3) 請求案内漏れ ある保険金請求があっ た時に他にも保険金受け 取り可能性があることを 示唆しないことである。例 として入院給付金の請求 があった時に他にも請求 できる通院給付金につい ての 案内がされていな かった。 出典http://www.fsa.go.jp/news/20/hoken/20080703-5/01.pdf H19年12月時点 生保請求案内漏れ 発生件数の割合 3% 3% 通院給付金 7% 入院給付金 9% 入院給付金 三大疾病保険金 その他 78% 不払い問題の発生原因(生命保 険) 生命保険では、請求案内漏れなどによる保険金の不払 い、営業職員の不適切な勧誘行為などが不払いの原因 としてあげられた。保険契約者数が減少している生命保 険業界において、利益を出そうとする業界の志向が保険 金不払い事件を発生させたといわれている。 利益至上主義 不払い問題の発生原因(損害保 険) 損害保険会社は、競争の激化によって利益を上げるた めに、特約が増加し 、それに対する補償に、会社のシス テム、社員、代理店、サービスセンターが対応できなかっ たということが原因としてあげられる。 利益至上主義 業界の動向 多くの企業が業務改善命令をうけた保険 業界では、商品の見直し、わかりやすい商 品開発、最も不払いが多かった特約の簡 素化や削減、支払い体制の強化などに よって再発防止体制を行う意向である。し かし生保における営業職員の販売、損保 による販売代理店の販売という大規模営 業体制は維持されたままである。 終わりに 保険会社の保険金の不払い問題は保険業界の 信用問題に大きな打撃を与え、商品の見直しや 特約の簡素化などにつながったが、根本的な営 業体制はその規模の大きさから改善することは 困難である。つまり現状維持の営業体制でいか に消費者の信用を取り戻していくかが重要に なってくる。そういった意味で契約者の保険知識 や契約内容に対する意識の向上をはかることも 必要になってくるのではないだろうか。 参考文献 朝日新聞 金融庁ホームページ 各保険会社ホームページ 日経BPネット FP技能士2級試験集中ゼミ 白根寿晴
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