維持管理工学

H21年度 特定道守(鋼構造)コース
診断のための測定(1)
-変位、変形、ひずみ等-
講義内容
変位測定
 変形測定
 ひずみ測定
 構造物の振動・加速度測定
 応力頻度測定


土木鋼構造診断士の過去の試験問題
変位測定

変位とは?

鋼構造物の全体、もしくはそれを構成する部材等
が所定の位置から変わること。
→ 原因:地震、津波、台風などの自然災害
地盤の流動化、近接施工の影響など

最終的な変位を測定する場合
→ レベル測量、トランシット測量、トータルステーション、GPS測量

変位の時間変化を測定する場合
→ 変位計など各種計測機器
(変化が遅い場合は、上記計測器)
変位の種類と主な測定方法例
変位の種類
測定位置
測量等による方法
計測器による方法
水盛り式沈下計、水圧式沈下計
光学式変位計(レーザー式含む)
沈 下
隆 起
橋 台
橋 脚
レベル測量
トータルステーション
傾 斜
橋 台
橋 脚
トランシット測量
傾斜計
トータルステーション
橋 台
橋 脚
トランシット測量
光学式変位計(レーザー式含む)
トータルステーション
支 承
ダイヤルゲージ
移 動
アンカー式変位計
変位計
GPS測量

GPS(Global Positioning System:全地球測位
システム)
飛行機や船舶が、自分の位置を知るための衛星航法シス
テム。
 この技術を応用したGPS測量は、GPS衛星からの電波を
受信して、幾何学的な相対位置を求める。
 観測点間の見通しは不要、天候にも影響を受けにくい。
 同時に4個以上のGPS衛星に対する上空視界が必要。
 地下や樹木などの障害物の下では測量が不可能。
 測定精度は、機種によって多少異なるが、概ね
±(5+5×10-6・D)mm (D:測定距離(mm))

トータルステーション

トランシットと光波測距儀を一体とした測量機器
トータルステーションから見通せるところに反射鏡
を設置すると、水平角と鉛直角、距離を同時に測定
することができる。
 反射鏡までの水平距離や高低差、ゼロ方向から
の水平角、さらに評点座標系での座標値も求めるこ
とができる。
 近年、測定データの記録保存、演算、図形処理、
処理結果の保存から、自動図化機(CAD)による図
面作成までを一つのシステムとしたトータルステー
ションシステムも開発されている。

変形測定

目的

外力に対する鋼構造物の変形挙動を把握する目
的で実施。
→ 一般には、ひずみ測定と併せて実施される。

意義


設計計算時の剛度や解析モデルの妥当性の検証。
方法
接触式変位計により測定する方法
 非接触式変位計により測定する方法

接触式変位計

土木鋼構造物の測定では、安価であり、取り扱
いが簡単なことから、一般にひずみゲージ式変
位計が用いられる。
支保工の上に変位計を設置する方法
 ピアノ線とスプリングおよびリング型変位計を用いる方法

→ 風が強い場合やピアノ線が長くなる場合は、風によりピアノ線が
たわみ、変位が吸収されてしまい、測定結果に影響を与えること
があるので注意が必要。

主桁などからパイプを吊り下げ、そのパイプの上下の量を
測ることにより桁の変形を測定する方法
図5.2-4 ピアノ線を用いたたわみ測定
図5.2-4 パイプを用いたたわみ測定
図5.2-4 支保工を使用したたわみ測定
重錘
変位計
支保工
支承
変位計
図
図
床版変形の計測例
支承の水平変位の測定例
図5.2-5 支承の回転変形の測定例
図
ゴム支承の鉛直変位の測定例
非接触式変位計

レーザー光線を応用したものなどが、土木鋼構
造物の測定に用いられている。
レーザーレベルと電子スタッフを組み合わせたもの。
 精度は0.5mm。取り込み回数を増やして平均する
ことにより、0.1~0.2mm程度まで精度を向上できる。

→ 雨や雪などにより、レーザー光線が遮断されると測定
は困難。
直射日光の強い日に立つことがある陽炎の影響を受
けやすい。
設備が高価であり、取り扱いが難しい。
ひずみ測定

目的


構造物に外力等が作用したことにより発生するひ
ずみやその分布を明らかにするために実施。
意義
設計応力との比較や解析モデルの検証。
 構造物に発生している応力集中や二次応力を把
握することができる。
 実働荷重によるひずみの変動を測定することによ
り、疲労き裂の発生予測、寿命予測を行うことができ
る。

ひずみ測定

種類
静ひずみ測定
 動ひずみ測定


計測法

ひずみゲージ法
→ 安価であり、取り扱いが簡単。

光弾性応力解析法、応力塗料法、モアレ法、X線
応力測定法など
ひずみ測定

測定の原理


ひずみの発生に伴い抵抗体の長さと
直径が変化し、電気抵抗が変化する。
抵抗体の電気抵抗( )は、長さ( )
に比例し、断面積( )に反比例する。
ここで、比例定数( )は比抵抗

電気抵抗の変化の割合とひずみの
変化量( )の関係は
図5.2-6
ここで、比例定数( )はゲージ率
ひずみゲージの形状

静ひずみ測定
経時変化の小さいひずみを測定する方法。
 スイッチボックスでチェンネルを切り替えることによ
り、多数の計測点の計測をひとつのひずみ計で行う
ことができる。


動ひずみ測定
時間的に変化する外力の作用下でひずみの時間
変化を測定し収録する測定。
 最大ピーク値の測定など測定タイミングが重要とな
る計測、チェンネル間の同期が必要な計測で使用。
 車両走行時の応力を測定することにより、着目点
の応力範囲、応力頻度等を計測することができる。

・静ひずみ測定システム
図5.2-7
測定システムの例
・動ひずみ測定システム
図5.2-7
測定システムの例
測定方法

主応力の方向が不明な場合

3軸ゲージによりにひずみを測定し、測
定された3方向のひずみから主応力とそ
の方向、せん断応力を計算する。
図5.2-8
最大・最小主応力
3軸ゲージ
最大せん断応力
最大主応力の角度
ここで、
:弾性係数
:ポアソン比
測定方法

最大主応力の方向がわかっている場合


主応力の方向が逐次変化する場合


3軸ゲージの動ひずみ計測を行い、主応力を逐次計算。
板の面外応力が発生する場合


その方向に単軸ゲージを貼付して測定すれば良い。
板の表裏にひずみゲージを貼付し、平均を面内応力成分、差の半分
を面外応力成分と見なすことができる。
疲労に着目した測定(溶接ビード周辺)

梁応力に相当する公称応力、リブ等の溶接部材による構造的応力、
溶接ビードの形状による応力集中が生じ、応力が急変していることから、
応力評価方法を定め、これに応じて計測位置を設定する必要がある。
構造物の振動・加速度測定

目的


主に外力に対する使用性、耐震・耐風安全性の評
価を目的として実施。
意義
損傷の発見の目安として利用される場合もある。
 供用下で部材の溶接を行う場合、溶接が可能か否
かを判断するために、加速度や開口変位の測定が
行われることがある。

構造物の振動・加速度測定

加振法

規則振動加振法
偏心回転重量式起振機、重錘移動式起振機、
その他(人力加振、クレーン作動など)

不規則振動加振法
初期変位加振法、移動荷重走行法、衝撃加振法、
常時微動法
 振動試験を実施する場合、2種以上の加振方法を実施する
か、常時微動法などを利用し、結果を比較することが望ましい。
構造物の振動・加速度測定

センサー

動的成分の加速度、速度、変位の何を測定するか
でセンサーが決まる。
一般に、1Hz以下の場合
1~10Hzの場合
10Hz以上の場合

振動変位計
振動速度計
加速度計
橋梁振動の計測に用いられる一般的なセンサー
・ ひずみゲージを応用したセンサー
・ コイルによる磁界と電流を応用したセンサー
・ 半導体等の素子を応用したセンサー など (表5.2-4)
構造物の振動・加速度測定

測定方法

測定対象とする振動数の範囲を決定しておく。
主構造の振動を対象
0~30Hz程度
伸縮継手の振動や二次部材の振動 0~50Hz程度
環境問題や特別な場合
0~100Hz程度
測定点は、予想される振動モードの腹に近い位置。
 振動の方向は、鉛直方向、橋軸水平方向、橋軸直
角方向の3方向あり、測定方向を選択する。
 モードの対称性を利用して測定点を省くことも重要。

応力頻度測定

概要


構造物に変動応力が発生している場合、これがど
のような大きさの応力成分から構成されているか調
べ、各成分の頻度を求めることにより、疲労き裂に
対する損傷度を計算することができる。
時期と期間

標準的な応力状態を代表できる時期と期間。
→ 年末、年始や年度末などは避ける。
交通条件の異なる土、日曜日を避け、月~金までの連続72時間
(応力頻度測定要領(案):(財)道路保全技術センター)
・応力頻度測定システム
図5.2-11
応力頻度測定システムの例
応力頻度解析

測定方法
供用後の構造物に発生する応力は変動応力。
 変動応力から応力振幅を求める。
 例えば、0~5MPa, 5~10MPaというように、いく
つかのレンジに分割し、各レンジのカウント数を計数
する。
 解析による応力の頻度分布や最大応力振幅によ
り、疲労照査を行うことができる。
 解析方法としては、レインフロー法とレンジペア法
が用いられている。

レインフロー法
波形の振幅の大きさと回数をカウントする振幅法の一種だが,カ
ウントの方法に独自の定義がある.溶接継手などの疲労被害を
推定する際には,ひずみゲージの出力を計測し,マイナーの疲労
被害則を適用して(溶接継手部等の種類と強度等級を設定するこ
とによりS-N線図を設定)疲労寿命を算定することが可能である 。
・プレートガーダー橋の場合
上フランジ
断面図
側面図
図5.2-14
断面図
ウェブ
ひずみゲージ貼付位置の例15)
側面図
図5.2-15 ウェブとスティフナーからの離れ15)
下フランジ
・リベット接合のプレートガーダー橋の場合
ひずみゲージ
変位計
断面図
図5.2-16 リベット橋のリベットからの離れ15)
平面図
側面図
図5.2-17 リベット橋のウェブスティフナーからの離れ15)
土木鋼構造診断士の過去の試験問題
(問1) 診断のための測定に関する次の記述のうち、
不適当なものはどれか。
(1)
(2)
(3)
(4)
GPS測量は、2つのGPS衛星からの電波を受信して、幾何学的な位
置を求める3次元測量である。
トータルステーションは、トランシットと光波測距儀を一体とした測量機
器で、水平角と鉛直角、距離を同時に測定できる。
接触式変位計は、一般に安価であり、また取り扱いが簡単なことから、
ひずみゲージ式変位計などが用いられている。
非接触式変位計には、レーザー光線を応用してレーザーレベルと電子
スタッフを組み合わせたものなどがある。
土木鋼構造診断士の過去の試験問題
解答 (1)
GPS測量は、同時に4個以上のGPS衛
星に対する上空視界が必要であり、地下や
樹木などの障害物の下では測量が不可能
である(p.163)。
土木鋼構造診断士の過去の試験問題
(問2) 下図に示す応力波形にレインフロー法を適用し
て応力範囲をカウントするとき、応力範囲1N/mm2
の回数として適当なものはどれか。
(1)
(2)
(3)
(4)
0回
1回
2回
4回
土木鋼構造診断士の過去の試験問題
解答 (4)
レインフロー法(p.170)は、応力(ひずみ)の時間波形の時間軸を垂直方向
にとり、応力の各極限点を雨垂れの出発点とする。雨垂れは、極大値なる山、
極小値となる谷から順番に出発し、下記の条件で停止する。
(1) それ以上流れ落ちる屋根が
ないとき
(2) 雨垂れとぶつかったとき
(大きい極値から出発した
③
雨垂れの流れが優先される)
④
(3) すでに雨垂れが流れた
経路に当たったとき
②
雨垂れが流れた範囲を応力範囲
①
とし、その発生頻度をカウントする。
土木鋼構造診断士の過去の試験問題
(問3) 鋼構造物の診断のための測定に関する次の記
述のうち、不適当なものはどれか。
(1)
(2)
(3)
(4)
ひずみ測定法には、ひずみゲージ法や光弾性応力解析法、モアレ法な
どがある。
溶接ビード周辺等でひずみを測定する場合には、応力集中の存在を十
分に検討する必要がある。
板の面外応力成分を把握する場合には、板の表裏にひずみゲージを貼
付する。
最大主応力の方向を把握する場合には、2軸ゲージによりひずみを測定
する。
土木鋼構造診断士の過去の試験問題
解答 (4)
主応力の方向が不明な場合には、3軸
ゲージによりひずみを測定し、測定された3
方向のひずみから主応力とその方向、せん
断応力を計算する(p.167)。
土木鋼構造診断士の過去の試験問題
(問4) 鋼部材に作用する応力状態を調べるために、図に示す3
軸ゲージを部材に貼付して測定を行ったところ、得られたひ
ずみ値は、εⅠ=100×10-6、 εⅡ=0 、 εⅢ=100×10-6 であった。
この測定点に発生している最大せん断応力の大きさに最も
近いものは次のうちどれか。ただし、鋼材のヤング係数は
2×105N/mm2、ポアソン比は0.3とする。
(1)
(2)
(3)
(4)
0.0N/mm2
10.9N/mm2
15.4N/mm2
20.0N/mm2
εⅢ
εⅡ
45°
45°
εⅠ
土木鋼構造診断士の過去の試験問題
解答 (3)
式(5.2-4) (p.167)より
3Dレーザスキャナ、3D写真計測による計測データ
を用いて3D-FE解析を行う一連のシステムを構築
3Dレーザースキャナーによる計測(光レーザー法)
デジタルカメラを用いた3Dデジタル写真計測(ステレオ法)
3Dレーザスキャナ、3D写真計測による計測データ
を用いて3D-FE解析を行う一連のシステムを構築
平和祈念像内部(補強後)
3Dレーザスキャナ、3D写真計測による計測データ
を用いて3D-FE解析を行う一連のシステムを構築
性能照査(レーザスキャナ、写真測量)
B
A
C
写真計測
(計測点:8292)
レーザスキャナ
(計測点:314972)
計測結果
比較箇所
対象
A
B
C
実測
9.30m
6.89m
5.33m
レーザ
9.15m
6.80m
5.27m
誤差
実測
2.0%
1.0%
1.0%
写真計測
9.23m
6.69m
5.17m
誤差
1.0%
3.0%
3.0%
3Dレーザスキャナ、3D写真計測による計測データ
を用いて3D-FE解析を行う一連のシステムを構築
点群データ
FE解析
FEモデル
要素数:14638
ヤング係数
(MPa)
青銅
1.1×105
ステンレス鋼
2.0×105
ワイヤフレーム
サーフェイスデータ
FE解析結果
3Dレーザスキャナ、3D写真計測による計測データ
を用いて3D-FE解析を行う一連のシステムを構築
固有振動解析結果
固有周期(秒)
mode
補強なし
補強あり
mode
補強なし
補強あり
1
0.386
0.178
6
0.110
0.098
2
0.264
0.173
7
0.094
0.086
3
0.150
0.136
8
0.088
0.083
4
0.144
0.120
9
0.084
0.078
5
0.123
0.111
10
0.073
0.070
レベル2・タイプⅡ地震動の標準加速度応答スペクトルSⅡ0
3Dレーザスキャナ、3D写真計測による計測データ
を用いて3D-FE解析を行う一連のシステムを構築
地震応答解析
塑性ひずみ分布図
x方向加震
y方向加震
補強なし
補強あり
3Dレーザスキャナ、3D写真計測による計測データ
を用いて3D-FE解析を行う一連のシステムを構築
地震応答解析
0.15
0.15
0.1
0.1
補強なし
補強あり
0.05
0
-0.05
0
10
20
30
-0.1
40
50
60
変位(m)
変位(m)
右手先端の時刻歴応答変位
補強なし
補強あり
0.05
0
-0.05
0
10
20
30
40
-0.1
-0.15
-0.15
時間(s)
(a) x方向
時間(s)
(b) y方向
x方向 最大変位 : 8.61cm ⇒最大変位 : 2.17cm
y方向 最大変位 : 11.8cm ⇒最大変位 : 1.95cm
補強することで耐震性が向上
50
60
3Dデジタル画像相関法
(a) 計測装置
Y
カメラ1
対象物
(b) 計測風景
Z
X
カメラ2
計算機
実 験
アルミニウム合金製円筒シェル
試験条件
半径
R(mm)
厚さ
t(mm)
長さ
L(mm)
径厚比
R/t
A
33
0.13
66
251
B
33
0.13
99
251
Specimen
境界条件
両端完全固定
軸圧縮荷重速度
0.1mm/min
撮影間隔
1画像/sec
計測範囲
円筒シェル半面
C
y, v
 材料定数
D
E=70GPa
x, u
O
L
R
ν=0.3
ρ=2.7g/cm3

H
z, w
 座標系
B
x,y,z :直交座標系
R,θ,y :円筒座標系
A
座標系
薄肉円筒シェル
計測範囲
(B specimen)
結 果
A
座屈形状
軸方向に1波のダイヤモンド座屈
B
軸方向に2波のダイヤモンド座屈
① 画像データ
① 画像データ
② 3次元形状データ
③ カラーカンター
② 3次元形状データ
③ カラーカンター
結 果
荷重-変位曲線
2000
A
①
荷重 (N)
荷重 (N)
① 座屈直前
1500
2000
B
② 座屈直後
1000
②
① 座屈直前
①
1500
1000
② 座屈直後 ②
500
500
0
0.2
0.4
たわみ分布図0
0.6
変位(mm)
0.2
0.4
0.6
変位(mm)
変位分布図
y(mm)
A
y(mm)
-0.121
0.095
y(mm)
29
29
20
20
10
10
0
0
-10
-10
-20
-20
-29
-29
-47° -25°
0°
θ
25°
①座屈直前
50°
-1.716
-47° -25°
0°
θ
0.809
25°
②座屈直後
50°
B
-0.054
0.088
y(mm)
40
40
20
20
0
0
-20
-20
-40
-40
-45° -25° 0°
θ
25° 50°
①座屈直前
-1.430
-45° -25° 0°
θ
0.734
25° 50°
②座屈直後