慢性疾患と障害と経済 - REASE

イマチニブ(商品名;グリベック)
服用患者の経済的負担について
東京大学医科学研究所
先端医療社会コミュニケーションシステム部門
児玉有子,RN., PHN
イマチニブという薬(商品名グリベック)
• 慢性骨髄性白血病(CML)の治療薬
– CMLとは
• 原因不明
• 慢性期では多くの場合は無症状で、健康診断で
発見されることが多い。
• 50代半ば以降に発症することが多い血液の病気
• 10万人に1~2人が罹患
http://www.medic.mie-u.ac.jp/pathol_matrix/RESOURSE/photos/aplastic_anemia/2.html
提供;(財)癌研究会 癌研究所 病理部 竹内賢吾
イマチニブ(商品名;グリベック) 1
–分子標的治療薬(特定の分子を狙い撃ちしてその機能を抑えて病気
を治療する薬)。慢性骨髄性白血病の白血病細胞の増殖を抑える。
–グリベック登場以前、発病から5年内に患者の半数が亡くなっていた
–グリベック登場以前の治療法は抗がん剤治療、インターフェロンや
骨髄移植。完治可能なのは骨髄移植のみ。骨髄移植の成功率は
約50%しかなかった。
50%
Nature Medicine 15, 1149 - 1152 (2009)
イマチニブ(商品名;グリベック) 2
• Brian Drukerらによる研究
• 2009年 アルバート・ラスカー臨床医学研究賞受賞
• ちなみに2009年のアルバート・ラスカー基礎医学研究賞には、山中伸弥教授
-グリベックが誕生するまで-
• Ph染色体という特異な染色体異常がCMLに特徴的に認められた。
bcr/ablという融合遺伝子が病気の原因であることが1990年代に判明。
bcr/abl融合遺伝子に特異的に結合し、阻害する薬剤が開発された。
→イマチニブ
• 1998年 臨床試験スタート
• 2001年12月薬価収載(日本での販売開始)
Nature Medicine 15, 1149 - 1152 (2009)
イマチニブ(グリベックⓇ)の登場により
これまでの治療と異なり、
高い治療効果!
飲み薬! という利点!!
1)白血病細胞だけに効く
登場前までの骨髄移植や白血病の抗がん剤治療
に比べると重篤な副作用は劇的に少ない
2)飲み薬 で多くの方に高い治療効果
入院治療しなくて良い。飲み続ければ、血液検査
など正常化する
夢の薬、しかしこんな問題が!!
なぜ、グリベック服用患者は負担が大きいのか 1
1. 治療費が高額 高い薬代
– 副作用は少ないとはいえ、ZEROではない。
– 薬が途中から効かなくなる不安も
– 社会生活はある程度の制限を受ける中で、ずっと
高額な医療費を負担する。
2. 飲むのをやめたら、急性の白血病に病状が悪
化してしまう危険性がある。
夢の薬、しかしこんな問題が!!
なぜ、グリベック服用患者は負担が大きいのか 2
グリベック ; 一生飲み続けなくてはいけない薬
「がん」が慢性疾患になってきた
グリベックの値段
• 1錠 3128.5円(2010年3月現在)
• 1日4錠が現在のスタンダード
→1日 12,514円
1ヶ月 3128.5(/1錠)×4錠×30日=375,420
(薬局窓口での支払い
年間自己負担額
約11万円)
12~120万円
*高額療養費の利用の有無、収入、年齢により補助が異なる*
患者の声から始まった調査~Pt Support~
グリベック アンケートの結果
• 分析対象;8月末日までに届いた有効回答566通(配布数
1200)
– 配布者等;国内の血液専門医がいる医療機関485施設のうち、協力が
得られた144施設(沖縄以外の46都道府県)の主治医から配布、及び
患者会と個人
• 回答者の背景
– 男 367 女 197(回答無し2名)
– 年齢中央値 61歳(15-94)
– CML発症年齢中央値 54歳(2-88)
– 医療費の支払いに負担を感じている
• 412人/566(73%)
– 副作用以外の理由で中断を考えた事がある
「やめたら病気が悪くなり死のリスクがあると
知りながら」薬やめたいと思う人が...
211人/566(37 %)
– 「医療費が高い」を理由に内服を中断した、
した経験がある
17人(3%)(現在も中断中;2人)
CML患者の世帯所得と医療費
所得(中央値)
医療費
負担感
平成12年
533(万)
100(万)
17年
400.5(万)
129(万)
20年
389(万)
122(万)
国民全体の
世帯所得
平成20年度国民生活基礎調査より抜粋
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa08/index.html
副作用が軽微と言われる薬だが、、、
多くの患者が副作用に悩んでいる
瞼むくみ
53%
筋肉痛
25%
筋痙攣
44%
全身むくみ
24%
顔のむくみ
44%
関節痛
15%
皮疹
41%
味覚異常
12%
吐気
38%
腹痛
体だるい
35%
その他
下痢
31%
副作用なしは10%
8%
24%
副作用はこれまでの骨髄移植
や白血病の抗がん剤治療に
比べれば少ない。
しかし、患者さんにとっては
色々な症状や経済的社会的
負担がかかっていることが
このアンケート調査で明らか
になる。
CMLになって
グリベックの副作用により
仕事をやめた
30%(95%は収入減)
5%強 (80%は収入減)
転職した
5%弱(70%は収入減)
2%(ほぼ全員収入減)
外出しなくなった
15%
15%
家族に迷惑をかけている
50%
約30%
これまで医療側は患者の経済負担に目をつぶってきた
グリベックを突破口に!
誰でもがんになったり、
高額な治療が必要になったりする可能性がある。
では社会制度はどうすればよいのか。
長期間にわたり治療が必要な他の疾患
医療の進歩に追い付いていない医療政策