川辺川ダム建設をめぐる政治過程 ー川辺川利水裁判を中心としてー 2007年10月6日 九州大学大学院法学府 土肥勲嗣 1 1.はじめに 1-1.室原知幸の遺言 1-2.報告の課題 1-3.時期区分 2 1-1.室原知幸の遺言 下筌・松原ダム建設反対運動の中心人物 「法に、理に、情に叶う、この事が民主主義だ と我思う」 「ダム反対、逆からいえば、タイハンムダ」 ⇒2つの解釈 ①ダム事業は大半無駄 ②ダム反対は大半無駄 3 1-2.報告の課題 川辺川利水裁判(正式名称、国営川辺川土地 改良事業変更計画に対する異議申立て棄却決 定取消請求事件)は、川辺川ダム建設をめぐる 政治過程において、どのような変容をもたらし たのか。また、そのことにどのような意義と課題 があるのだろうか。 4 1-3.時期区分 Ⅰ 裁判までの過程 Ⅱ 裁判過程 Ⅲ 裁判後の過程 5 2-1.裁判までの過程(経緯) 1959(S34) 熊本県、川辺川総合開発計画調査開始 1968(S43)9・5 治水ダムから多目的ダムへ計画変更 1976(S51)3・30 建設大臣、川辺川ダム基本計画告示 1983(S58) 農水省、川辺川農業利水事業所開設 1984(S59)6・8 農水省、国営川辺川総合土地改良事業計画告示(当初計画) 1993(H5) 国営川辺川総合土地改良事業変更計画説明会 同 12 川辺川利水を考える会発足 1994(H6) 2・8 国営川辺川総合土地改良事業変更計画告示 同 12・21行政不服審査法に基づく異議申立て(1144人) 1995(H7) 2・10 異議申立てにつき第1回口頭審理(熊本市、~12) 同 4・4 異議申立てにつき第2回口頭審理(人吉市、~6) 同 8・28 異議申立てにつき第3回口頭審理(相良村、多良木町~30) 同 9・4 川辺川ダム事業審議会発足 1996(H8) 3・29 農水大臣、異議申立てを棄却 同 5・15 川辺川の会発足 同 6・26 川辺川利水訴訟、熊本地裁に提訴 6 2-2.裁判までの過程(分析) 社会問題の発生 ⇒農民たちの変更計画への疑義 ネットワークの拡大 ⇒関係農民のネットワーク形成 ⇒市民団体との繋がり ⇒弁護士との連携 提訴に至る動機付け ⇒異議申立ての経験 ⇒ダム審からの排除 7 3-1.裁判の過程(経緯①) 1996(H8) 6・26 1997(H9) 4・17 同 8・30 同 9・3 1998(H10)8・22 同 10・8 1999(H11)1・21 同 6・11 同 7・8 同 8・28 同 9・2 同 11・8 2000(H12)7・5 同 7・12 同 8・26 同 9・8 川辺川利水訴訟、熊本地裁に提訴 川辺川利水訴訟を支援する会発足 第1回川辺川現地調査 第4回口頭弁論(同意調書提出、同意調査開始) 第2回川辺川現地調査 第8回口頭弁論、被告「死者の同意」の存在認める 第9回口頭弁論、「死者の署名」35名分を被告認める 第10回口頭弁論、友田元事業組合長ら3氏証言 現地検証(~9) 第3回川辺川現地調査 現地で原告本人尋問 人吉市下原田地区農民、九州農政局に辞退届提出 利水事業中止を求める署名、九州農政局に提出(10335筆) 多良木町農民、300戸が利水事業辞退届け農水省、知事提出 第4回川辺川現地調査 判決、農民側敗訴 8 3-2.裁判の過程(経緯②) 2000(H12)9・22 原告団、760人(全原告の88%)控訴 2001(H13)3・5 福岡高裁、進行協議「未調査2000人意思確認」決定 同 5・5 原告団、2000人の「同意」調査=アタック2001開始 同 5・25 第1回弁論(ビジュアル弁論) 同 8・25 第5回川辺川現地調査 同 9・29 原告団、アタック2001公表「同意率60.8%」 2002(H14)5・29 現地視察、現地尋問(~30日) 同 7・19 第6回弁論(同意書改ざん159か所指摘) 同 8・31 第6回川辺川現地調査 同 10・18第7回弁論(198人分の国の書き換え確認) 同 12・26第9回弁論(同意取得の元村職員証人) 2003(H15)1・24 第10回弁論(結審、福岡市で結審集会) 同 4・21 第11回弁論(弁論再開・結審) 同 5・16 判決、農民側勝訴 9 3-3.裁判の過程(分析) 提訴の波及効果:<社会問題の開示> ⇒同意書の開示 ⇒問題の発見(同意の改ざん、書き換え) 訴訟の社会的影響 ⇒参加型裁判:ビジュアル、アタック2001 ⇒市民社会・メディア・地域社会 フレーミング:「ダムの水はいらん!」 行政過程への影響 ⇒農水省の「再評価」過程の閉鎖性 10 4-1.裁判後の過程(経緯) 2003(H15)5・30 判決確定 同 6・16 事前協議開始(合計78回開催) 同 7・11 地元での意見交換会開始(合計5回開催) 同 8・23 第7回川辺川現地調査 2004(H16)8・21 第8回川辺川現地調査 2005(H17)8・27 第9回川辺川現地調査 同 12・26 九州農政局、新水源(ダム・非ダム)案提示 2006(H18)3・9 熊本県、「県独自案」提示、人吉市欠席、事前協議中断 同 3・22 県議会川辺川問題特別委、国へ新案提示要望 同 5・29 農水省新案提示 同 7・14 事前協議休止 同 8・26 第10回川辺川現地調査 同 11・7 相良村村長、川辺川ダム反対を表明 同 11・17 相良村議会、「ダム以外の治水と利水」意見書可決 2007(H19)1・30 農水省、利水事業は「ダムに依存せず」国交省へ回答 11 4-2.裁判後の過程(分析) 判決の波及効果 ⇒事業の違法化 ⇒計画の見直し開始 行政過程への影響 ⇒事前協議という場の設定 ⇒意見交換会開催 ダム事業推進体制への影響 ⇒収用委員会勧告により国交省収用申請取り下げ ⇒相良村、農水省の離脱 12 5.おわりに 5-1.川辺川利水裁判の意義 5-2.今後の課題 13 5-1.川辺川利水裁判の意義 司法の役割の転換 ⇒司法消極主義から司法積極主義へ 自治体(熊本県)の役割の転換 ⇒事業の推進から総合調整役へ 住民参加型公共事業への突破口 ⇒「農民不在」から「農民が主人公」へ ⇒合意形成の困難さと可能性 政策実現のための法動員の有効性 14 5-2.今後の課題 国交省のダム建設への固執 運動はいつまで続くのか ダム推進体制の巻き返し 河川政策において「住民が主人公」をいかに 実現するか 15 御静聴ありがとうございました。 <御礼> 年表作成にあたっては、川辺川現地調査実行委員会『かわべ川』を参照しました。お礼申し上げます。 16
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