pQCD – 核子をはじめとするハドロンの内部構造を表現し、そこで のQCDの動力学を探る上で基本的な量は、パートン (クォークおよびグルーオン)の演算子積のハドロン状態 による行列要素である。これらは一般に、くりこみスケー ルに依存することから、直接のオブザーバブルではない。 散乱断面積などのオブザーバブルから、パートンのみが 関与するサブ・プロセスの効果を分離して得られる。ハド ロンの散乱や生成の過程において、この分離の結果が 個々のハドロンの独立な行列要素の積として表されるた めには、異なるハドロン間のソフトな相互作用の効果が 高次効果として無視できる必要があり、これは大きな運 動量移行を伴う高エネルギー過程(ハード・プロセス)に おいて可能となる。このようなハード・プロセスに伴うパー トンのサブ・プロセスが、QCDの短距離効果のみを含む 場合には、強結合定数による摂動展開が可能である。 pQCDでこの短距離効果を計算し、これをハドロンの散乱 断面積から分離した後の“長距離効果”として、個々のハ ドロンについてのパートン演算子積の行列要素を与える ことが可能となる。 – この“長距離効果”は、しかし、ゲージ不変で、なおかつ、 長距離領域で主要となる効果を確かに表現していなけれ ば、有用な量とはならない。前者の条件は、長距離効果 がゲージ不変な演算子積の行列要素として表されること に対応し、一方後者は、長距離効果が斉次のくりこみ群 方程式(発展方程式)に従うことに対応する。このような条 件を満たす長距離効果は、また、多くの異なったハード・ プロセスにユニバーサルに寄与するはずである。pQCD に基づく短距離効果の分離を、様々なハード・プロセスご とに行うことにより、ユニバーサルな長距離効果を表現す る行列要素の、限られた数の“完全系”を決定することが できる。この手続きがQCD因子化である。 QCD因子化に 基づく断面積の公式とpQCDに基づく短距離効果の計算 結果を用いて、実験データのグローバル解析によりユニ バーサルな長距離効果を定量的に求めたり、将来の実 験データの予言が可能となる。 – QCD因子化定理が成立するハード・プロセス(DIS、 SIDIS、DY、…)では、ハドロンをパートンのビームとみな すことができ、ハドロンの散乱が個々のパートンの散乱に よって引き起こされるため、断面積が短距離効果と長距 離効果の畳込みとして表される。短距離効果をpQCDの 最低次(LO)で求めたものがファインマンのパートン模型 に対応する。長距離効果を表すユニバーサルなパートン 演算子積の行列要素は、インクルーシヴな散乱過程では ハドロンのパートン分布関数、インクルーシヴな生成過程 ではパートンのハドロンへの破砕関数、エクスクルーシヴ な過程ではハドロンの光円錐波動関数などを与え、これ らは一般に、ハドロンおよびパートンのスピンにも依存す る。 – ハード・プロセスのパートン模型での記述に対するQCD からの補正としては、NLO以上の摂動的補正、大きな運 動量移行の逆冪補正がある。後者には、運動学的な標 的質量補正およびダイナミカルな高次ツイスト補正がある。 – 入射ビーム方向に対する横方向の運動量が観測されな いか、大きい値で観測される場合、ハード・プロセスは大 きな運動量移行に相当する一つのスケールで特徴付けら れ、ユニバーサルな長距離効果においては、ハドロンの 運動方向に沿った(collinearな)パートンの運動( “縦運 動量”分布に対応する、分布関数、破砕関数、波動関数 で表される)のみが重要となる。この状況でのQCD因子 化定理がcollinear因子化である。一方、ハード・プロセス で小さな値の横運動量も観測される場合には、長距離効 果としてパートンがハドロン内で持つ横運動量も重要とな り、 QCD因子化は横運動量依存因子化として扱われる。 – 短距離効果のpQCD計算では、端的に言って、LO(パー トン模型)が断面積のオーダーの評価を与え、NLOが断 面積の定量的評価を、NNLOが断面積の誤差の評価を 可能にする。 collinear因子化に基づく多数のハード・プロ セスは、スピンに依存する場合も含め、NLO以上で扱わ れている。一方、横運動量依存因子化に基づく扱いは現 状ではLOのレベルである。 – 短距離効果のpQCD計算で、位相空間の端の領域にお いては、強結合定数での摂動展開が破綻するため、摂動 全次数再足し上げをする必要が生じる。 collinear因子化 の場合、例えば、観測される横運動量を小さくしていくと、 大きな運動量移行と小さくなっていく横運動量の比の対 数が摂動展開に現れることが原因であるが、この対数効 果は摂動全次数で足し合わせることが可能であり(“ソフト グルーオン再足し上げ”)、有限な補正(スダコフ因)として 求められる。パートンの縦運動量の“端点”領域でも、大 きな対数補正が現れ、摂動全次数再足し上げが重要とな る。 – 横運動量依存因子化の長距離効果を表す、横運動量依 存分布関数および破砕関数は、プロセス依存性を含むこ とが知られている。 collinear因子化での対応する量と同 様の意味でのユニバーサリティは満たしておらず、このプ ロセス依存性について実験的にも理論的にもさらに解明 が必要である。
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