最新技術セミナー インターネットの利用のトラブルと 法規制の現状 ーネットワーク社会をめぐる法的・倫理的問 題ー 2000年2月28日 講師:近藤佐保子 (明治大学政治経済学部 講師) All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 1 最近話題に上っている事例(1) 官公庁のHPの書き換え(Mainichi Interactive 2/16 より) “道具”は大量データ 官庁サイトハッキングで手口判明 中央省庁などのホームページの不正書き換え事件で、 15件のうち6件は、ハッカーがサーバーコンピューターに 一度に大量のデータを送信して異常作動を起こさせる方 法で侵入していたことが、警視庁麹町署捜査本部の調 べで分かった。この方法は「バッファ・オーバー・フロー攻 撃」と呼ばれる手口。大量のデータを受けたサーバーコ ンピューターからあふれ出たパスワードなどのデータを 使ってハッカーが不正アクセ用の「裏口」を作り、管理者 になりすましてホームページを書き換える。手口としては 2 広く知られているが、防ぐのは難しいという。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 最近話題に上っている事例(2) ソフト会社へのメールによるウィルスの送信 (Mainichi Interactive 2/23 より) ウイルス送付で少年逮捕 「PC代金を逃れたかった」 コンピューターソフト会社「ソフトバンク」の子会社に200種 類ものコンピューターウイルスを送信して業務を妨げたと して、警視庁捜査1課と久松署は23日までに、長野県原 村の無職の少年(19)を威力業務妨害容疑で逮捕した。 コンピューターウイルスの送信による威力業務妨害事件 の立件は全国初。ネット通販の支払いを逃れるための嫌 がらせだった。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 3 問題の所在 • ネットワークの不正使用や犯罪の増加 (著作権侵害・ウィルス・不正アクセス・不正入手・ 名誉毀損・猥褻など) • 法的対応の遅れ – そもそも法によって規制すべきか? – 民事法の対処で足りるか、刑事法で処罰すべきか? – 既存の法規の解釈で十分か、立法化が必要か? ネットワーク社会の現状と法規制のあり方を検討 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 4 ユーザの意識と行為 ユーザの意識 •“ID”として行為 •行為=計算機に対する命令 計算機・ ネットワーク の潜在力 倫理的評価 • 不適切 • 非常識 粗暴犯から 知能犯へ •準備行為の 不要性 •正当行為と の類似性 •行為の影響力 •結果に対する自己問責性 •倫理意識の欠如 想像以上の 重大な結果 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. •ゲーム感覚 法的評価 • 不法行為 • 犯罪 5 法の対立する2つの機能 法的安定性 人権保障 法は、現実に多少合 わなくなっても、なる べく改正しないで解 釈で補う VS 具体的正義 の実現 法は、現実に適合す るよう、こまめに改正 すべき All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 6 法的問題点の所在 社会倫理に委ねておくのが望ましくない場合 →国家の強制力 予期していなかった事態に対する法的対処 •既存の法規の解釈による解決 •立法的解決 既存の法規の 解釈による解決 立法的 解決 立法的解決は法的安定性を損なうおそれがある •解釈ではもはやどうしても対処できないか? All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 7 法と倫理 • 法とは? 数ある行為規範のうち国 家の強制力を伴って義務 付けが行われるもの • 倫理とは? 行為規範のうち国家の 強制力を伴わないもの 新しく起きてきた社会的に不適切な行為 ↓ 倫理に委ねておくべきか、 法によって対処すべきかが問題となる。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 8 法的対処が問題となる行為 著作権侵害 コンピュータウィルス 不正アクセス・情報の不正入手 名誉毀損・侮辱 ポルノグラフィー プライバシー侵害 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 9 無体財産権の必要性 民法第85条(物の意義) 本法ニ於テ物トハ有体物ヲ謂フ 物とは? ⇒ 「有体物」 (排他的独占・支配が可能) それ以外は? ⇒ 単なる債権(請求権)の対象 民法は物権と債権とを峻別 無体物である知的創造物を保護する必要性が顕在化 人間の知的創造物のうち価値を持つもの →知的財産権・無体財産権として保護 10 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 無体財産権の種類 産業目的=工業所有権 文化目的=著作権 著作権の種類 著作者の権利 著作財産権 著作者人格権 著作隣接権 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 11 文学的および美術的著作物の 保護に関するベルヌ条約 ↓ 無方式主義の採用 無方式主義とは 一切の登録手続きを待たずして 著作物には自動的に著作権が発生 フリーウェアもPDSとは異なり著作権で 保護される All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 12 データベース・プログラム・ 半導体チップと著作権 データベース:従来から編集著作物としての保護が可能 著作権法改正により著作権法による保護を 明文化 プログラム: 従来の著作権法では保護が不可能 著作権法改正により著作権法により保護 半導体チップ:工業所有権法と著作権法の中間形態 特別法を作って保護 「半導体集積回路の回路配置に関する法 13 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 律」 インターネットと著作権 データ送信と複製:データ送信は複製に該当 リンクを張る行為:複製に該当しない 私的利用の範囲:何らかの客観的関係を要する 引用の範囲:主従関係と目的の正当性で判断 報道記事と著作権:事実の伝達は著作物ではない (現実の慣習との乖離が問題) 楽曲の著作権:多重の著作権による保護 作詞の言語著作権・作曲の音楽著作権 レコード会社・実演家の著作隣接権 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 14 ソフトウェアと著作権 ソフトウェアの種類(著作権からの分類) 1.PDS(パブリック・ドメイン・ソフトウェア) 2.フリーウェア(フリーソフトウェア):著作権はある 3.シェアウェア:有料ソフトウェアの一形態 1CPU1ソフト条項の同一構内での適用 1997年の著作権改正以前→著作権侵害にならない 1997年の著作権改正→公衆送信権の侵害に当たる All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 15 肖像権とパブリシティ権 肖像権(主に私人・一般人) 自己の肖像をみだりに他人に撮られたり使用されない 自己の肖像を権限無く他人が作成・公表することを禁止 パブリシティ権(主に芸能人・有名人) 自己の肖像の経済的な価値をコントロールする権利 HPに掲載されている他人の顔写真は無断転載不可 自分が撮影した他人の顔写真もHPへの無断掲載不可 16 集合写真には原則として被写体全員の許可が必要 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 著作権に関する国際的調整 調整機関=WIPO (世界知的所有権機関) 先進国 自国が先に投資して 育成した文化を途上 国に無断で使われて はこまる →保護強化を主張 途上国 vs 先進国の文化を早く 吸収して、これに追い つきたい →保護強化に反対 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 17 著作権法の一部改正(1997年) インターネットに関するWIPOの条約に対応 (1)インタラクティブな送受信(WWW) → 自動公衆送信として保護 (2)1CPU1ソフト条項の同一構内への適用 → プログラムは同一構内でも公衆送信 WIPO「著作権条約」との関係での課題 •コピープロテクトの解除装置への対策 •著作権管理情報の除去・改変への規制 •実演家の保護強化 •データベースの保護強化 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 18 コンピュータ犯罪の変遷(1) (1)初期のサラミ型犯罪(1960年代末) 金融システムの端数切り捨て=サラミ・テクニック (2)トロイの木馬(1960年代末~1970年代) →パスワードの解読・収集,データ破壊(外部から) (3)日本での情報の不正入手の発生(1971年~) →記憶媒体(ex.時価6千円の磁気テープ)の窃盗 (4)コンピュータ犯罪の拡大(1974年~) →身代金誘拐などにオンラインバンキングシステムを使う •キャッシュカードの偽造・変造 •銀行内部の者の不正操作 19 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. コンピュータ犯罪の変遷(2) (5)コンピュータ犯罪の高度化・専門化(1980年代~) 大手企業の情報技術幹部などの高度で専門的な犯罪 例:馬券偽造事件(1988年8月) (6)コンピュータ犯罪の大衆化(1980年代~) 大衆の倫理感覚の麻痺 例:変造テレフォンカードの使用 (7)ネットワーク犯罪の急増化(1980年代末~) インターネットの普及に伴いこれを利用 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 20 ネットワークの特徴 (1)匿名性 (2)不特定多数性 (3)時間的・地理的無限性 (4)場所の不要性 (5)無痕跡性 規制が困難 犯罪の温床 (6)法が予期していていなかった態様 規制する法の不存在 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 21 ネットワークの犯罪の典型例 (1)電子掲示板を利用した薬物売買 (2)同、猥褻物の販売 (3)同、海賊版ソフトの販売 (4)同、詐欺事件 (5)猥褻図画の公然陳列 (6)ネットワーク上のゲーム賭博 (7)名誉毀損・侮辱行為 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 22 刑法の一部改正(1987年) (1)文書偽造に関して → 電磁的記録の不正作出及び供用(第161条の2) 公文書等毀棄(第258条)・私文書等毀棄(第259条) 公正証書原本不実記載など(第157条) (2)業務妨害に関して → 電子計算機損壊等業務妨害(第234条の2) (3)詐欺罪に関して → 電子計算機使用詐欺(第246条の2) All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 23 立法的対処が見送られた点 ・不正アクセス(今回の立法で不完全ながら対処) ・情報の不正入手 (窃盗にはならない、スパイは背任も該当しない) ・ウィルスの作成・散布(それ自体は不可罰) ・「業務」にあたらない場合 ・単なる私文書の毀棄 改正が小規模だった理由:反対論の存在 マスコミ(取材の自由)・労働組合関係者・日弁連 基本的改正はしない・新しい類型は作らない All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 24 コンピュータ・ウィルス コンピュータウィルスの定義 第三者のプログラムやデータベースに対して 意図的に何らかの被害を及ぼすように作られ たプログラム(通商産業省告示) (1)感染(他のプログラムに自分を書き加える) (2)潜伏(一定期間何もしない) (3)発病(何らかの被害をもたらす) 狭義:上記(1)~(3)の機能をあわせ持つ 広義:上記(1)~(3)の機能の一つ以上を持つ All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 25 ウィルスに似たもの(=広義のウィル ス) (1)論理爆弾 •増殖しない •潜伏していてある条件が満たされると有害な動作をする (2)バクテリア •潜伏も発病もしない •1台のコンピュータ内でひたすら増殖 (3)ワーム •ネットワークを通じ自分を複写して増殖していく (4)トロイの木馬 •外見とことなる動作をするプログラム •増殖・潜伏をしない All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 26 ウィルス対策の問題点 技術的側面→いたちごっこ ワクチン・プログラム •特定のウィルスにしか効かない→更新が負担 セキュリティ・プログラム •メモリへの常駐がシステムに負担 新しい態様のウィルス ネットワーク自体を攻撃対象とする 法的側面→ウィルスの作成・散布自体は不可罰 例外的に業務を妨害すれば業務妨害 公文書や特定の私文書を破壊すれば文書毀棄 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 27 情報の不正入手 情報は財物ではない 領得罪(窃盗罪・横領罪)での処罰は不可能 (通説・判例) ・背任罪による処罰 ・不正競争防止法による対処 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 28 有体物説 vs 管理可能性説 刑法第245条(電気) この章の罪については、電気は、財物とみなす。 *この章: 第36章 窃盗及び強盗の罪 有体物説 刑法でも財物を有体 物に限定 245条はみなし規定 管理可能性説 刑法では管理可能なも の(電気などのエネル ギー)まで財物に含める 245条は注意規定 管理可能性説でも情報は財物ではない All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 29 背任罪 特徴 •財物の領得を要件としない •身分犯の要件(信任関係)の充足が必要 ⇒産業スパイなどには適用できない 情報の不正入手に関する私見 (1)情報を財物と解するか、 (2)条文を新設するか、 どちらかの対処が必要 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 30 不正アクセス 不正アクセスとは? (一般的な定義) •情報システムの所有者または管理者から禁止 されているか、許可されていないのに情報システ ムに進入し、そのデータに無権限でアクセスする こと ・初期のハッカー=悪意のない好奇心 不正アクセス禁止法では処罰対象となる ・クラッカーの登場=侵害行為・妨害行為を行う All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 31 不正アクセス禁止法(1999.8.6成立) 警察庁・郵政省・通産省の共管 ・不正アクセスを定義 ・不正アクセス行為を可罰化 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 ・不正アクセスを助長する行為も禁止 「識別機能」を無断で提供する行為(ID屋) 30万円以下の罰金 ・アクセスログの保存について意見が対立 規定から除外された All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 32 不正アクセス禁止法と行政機関の義務 ・被害者への援助 ー公安委員会 ・不正アクセス行為の現状について 発生状況 セキュリティ技術に関する研究開発の支援 今回の不正アクセス禁止法 →全体の整備に遅れている 情報と情報処理全体を法益として守るべき All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 33 不正アクセス禁止法の問題点 1)目的:電気通信に関する秩序の維持 →保護法益は情報の財産的価値ではない 覗き見は禁止するが盗っていっても不問 刑法との不整合・アンバランスで奇妙な現象 2)対象の限定 ネットワークを通じてアクセスコントロールされているもの 上記の要件を書くと無権限アクセスしても不問 3)操作が逆に被害者の負担 証拠物件の押収により業務の継続ができない All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 34 名誉毀損・侮辱 名誉毀損とは 「公然と事実を摘示」することにより他 人の社会的評価を低下させる 侮辱とは 事実の摘示をしなくても「公然と」人を 侮辱 どちらも「公然性」という要件の充足が必要 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 35 名誉毀損・侮辱の問題点 ・公然性の要件 –電子掲示板・ホームページには公然性がある –電子メールは公然性が認められない –ニュースグループ、MLにも認め得る ・表現の自由との対立 –萎縮効果という弊害を顧慮することが必要 私見ー双方向性の活用ー 法による積極介入によるよりも、当事者間の 反論による解決が望ましい 36 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 猥褻に関する規制の難しさ (1)被害者無き犯罪→処罰すべきか (2)「猥褻」の概念が曖昧 (3)表現の自由との関係(萎縮効果) (4)国際性→国内法の適用範囲 国際条約としての統一基準策定は困難 インターネットの猥褻は処罰になじまない All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 37 インターネット上の問題点 (1)画像ファイルの財物性 (2)マスクソフトへのリンク (3)猥褻罪に該当するページへのリンク (4)海外のサーバへの送信 私見 表現の自由や国際的文化の多様性を配 慮した解決が必要 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 38 管理者責任 出版事業者→著者と同じ責任 流通業者 →原則として責任を負わない プロバイダーとは・・・ 出版事業者 or 流通業者? ⇒アメリカでも判例の見解は分かれている カビー事件:流通業者/プロディジー事件:出版業者 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 39 ニフティ事件 ニフティサーブの会員であるU女史は、あ るフォーラムの電子会議室において、別の 会員から名誉を毀損された。そこで、加害者 だけでなく、そのフォーラムのシステムオペ レ-タと、ニフティ株式会社も、その発言を 放置したとして、その三者を相手取り、民事 上の賠償請求と謝罪広告の請求をした。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 40 法的根拠 使用者責任(民法第715条) ある事業のために被用者を使用する者は、その 被用者が事業の執行について第三者に加えた 損害を賠償しなければならない。 ・「業務の執行に付き」という要件の範囲 ・責任の性質は監督上の過失か報償責任か →使用者が責任を負う範囲の認定に影響 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 41 法的規制に対する概括 法の不備が問題となるケース→ 一様ではない (1)基本的人権や法的安定性との抵触が比較的 問題とならないケース(不正入手など) → 解釈ないし立法化による迅速な規制が必要 (2)表現の自由などの人権と対立関係にある ケース(猥褻など) → 倫理のレベルにとどめ、自覚に委ねるべき 猥褻を取り締まり情報の財産的価値を保護しな いのはおかしい All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 42 法の不備 -法律は穴だらけ- • 法的には立法的解決が課題 • 組織内の危機管理が重要 – 外部に対して – 内部に対して (「8割は内部犯・・・」) • 組織内規定の整備が必要 (ネットワークの不正行為に関する規則整備の遅れ) – 民法・憲法および刑法の関わり – 組織内処分の具体例 – 管理責任の回避 →管理者規定も必要 43 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 組織内処分の性格 組織と被用者=民法上の契約関係 民法上の契約自由の原則 契約の内容は当事者間で自由に定める 組織は自由に組織内規則を設定 契約を結んだ被用者側には遵守義務 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 44 契約自由の原則に対する制約 (憲法=法体系上の最高法規) 公的組織 憲法の直接適用 ↓ 憲法に反する学則 =無効 指摘組織 私人間適用はない 間接適用の可能性 民法90条 (公序良俗)違反 憲法の基本原理との抵触回避が必要 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 45 憲法上の要請からの留意点 (1)表現の自由(憲法21条) (2)思想および良心の自由(憲法19条) (3)法定手続きの保障(憲法31条) (4)プライバシーの保護(憲法13条) (5)男女や民族などの差別の禁止 (憲法14条・民法1条の2) All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 46 昭和女子大事件 最判昭49・7・19 (学則の憲法違反が争われた事例) 学生の学内外における政治活動を学則で制限 政治活動をした学生を退学処分 最高裁で最終的に大学が勝訴 ・被告が私立大学なので直接適用がない ・社会通念上著しく不合理な制限ではない 憲法の間接適用 裁判官の判断により大学敗訴の可能性も存在 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 47 組織内の不正行為が法的責任を負うケース 1.無体財産権の侵害 2.肖像権ないしパブリシティ権の侵害 3.猥褻罪(刑法174条) 4.名誉毀損・侮辱罪(刑法230・231条) 5.電子計算機等使用詐欺罪(刑法246条の2) 6.電磁的記録毀棄罪(刑法258条・259条) 7.電子計算機損壊等業務妨害罪(同234条の 2) 8.不正アクセス禁止法違反(施行後) 48 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 組織内処分と法律の関係 構成員も刑事上・民事上の法的責任を負う 法的評価からの独立性 契約の自由の原則に基づいた処分規定の策定 —法の不備 —倫理問題に関する法制化の是非 法的評価への依存性 法的評価が罪刑均衡の指針 → 刑法の法定刑のアナロジーが適切 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 49 量刑の方法と根拠 憲法 > 刑法 > 組織内規則 1.法律上に同様の処罰規定があるもの →その法定刑を参考 2.法律上に類似の規定があるもの →類似した規定の法定刑を参考+軽重を考慮 3.法律上の規定はないが ネットワーク社会で重大な不正行為 →他の処分の軽重と重大性を比較して決定 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 50 刑法のアナロジーとしての具体的量刑 (試案) 自由刑(懲役など)の期間を使用停止期間や減給の 額等に比例 ・量刑の逆転は不適切 ・逆転にはネットワークの特殊性からの根拠が必要 量刑の上限と処分の種類は機関の特殊性による ex. 一般企業では解雇・減給などがあり得る ex. 在学年数を超える長期の利用停止 → ・量刑の差に応じた期間の圧縮 51 ・利用資格剥奪などへの転換 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 処分される行為 参考条文(法律のアナロジー) 電磁的記録の改竄・破壊 公文書等毀棄罪 私文書等毀棄罪 システム運用の障害となる行為 電子計算機等使用業務妨害罪 著作権侵害 著作権法 119 条 他人の誹謗中傷行為 名誉毀損罪 侮辱罪 不正アクセス禁止法 情報の不正入手 国家公務員法 パスワードの解析・盗用 個人情報の暴露 組織の利用目的以外の行為 契約不履行 (民法上) その他法律で処罰される行為 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 52 処分される行為 処分の内容 (利用停止期間) 下限 上限 電磁的記録の改竄・破壊 1月以上 7年以下 システム運用の障害となる行為 3月以上 5年以下 著作権侵害 3月以上 3年以下 他人の誹謗中傷行為 1月以上 3年以下 パスワードの解析・盗用 1月以上 5年以下 個人情報の暴露 1月以上 5年以下 組織の利用目的以外の行為 1月以上 有期の上限 その他法律により処罰される行為 1月以上 有期の上限 利用資格の剥奪 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 53 処分の軽重比較 1月 3月 1年 3年 5年 7年 10年 改竄破壊 運用障害 著作権 誹謗中傷 法の不備 パスワード プライバシーの 重要視 個人情報 他目的 他の犯罪 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 54 刑法のアナロジーとしての問題点 量刑に関する問題点 ・法律上の量刑のアナロジー アナロジーの遠近の差異(測定が困難) →量刑の誤差 規定時の技術的な注意 行為類型の原則は故意犯・作為犯・既遂犯 過失犯・不作為犯・未遂犯的形態の処分 →罪刑法定主義からは明文化すべき All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 55 組織内処分と公的判断との関係 組織外での裁判を受ける権利 ex.組織内で処分するなら提訴しないという申入れ 行為者が応訴を希望している場合が存在 ・構成員の裁判を受ける機会の尊重が必要 (機会の剥奪は憲法違反の可能性) ・web上からの削除は表現の自由の侵害・ 民法上の不法行為の可能性 本来的に予防と教育を目指したものが理想 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 56 組織内処分の概括 • • • • 法的性格=民法上の契約+憲法上の制約 罪刑均衡から法定刑のアナロジーが適切 組織の存在目的から修正 運用上の指針・方針(適度な具体性) 包括的→運用しやすいが予防効果が低い 具体的→人権保障に寄与・予防効果 但し運用しにくい All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 57 まとめ 不正行為に対する法規制の当否 ・倫理規範にとどめるべき場合と法規制が必要な場合 ・現状の警察行政の対応には不均衡が存在 法規制は解釈か立法か? ・類推禁止により、新しい犯罪には立法が不可欠 ・立法は瑣末な行政刑法でやらない→根本的改正 刑法との不均衡を回避・根本的な法益保護 法の不備は自己防衛 ・徹底した危機管理 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. ・組織内規定の整備による教育と予防 58 情報倫理関係URL集(1) 著作権関連 著作権情報サポートセンター http://www.net-b.co.jp/cright コンピュータウィルス・コンピュータ犯罪関連 IPA(情報処理振興事業協会) http://www.ipa.go.jp JPCERT(コンピュータ緊急対応センター) http://www.jpcert.or.jp 警視庁ハイテク犯罪対策センター http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/soudan/haiteku/haiteku1.htm サイバーポルノ関連 電脳世界の刑法学 http://w3.scan.or.jp/sonoda/ 民間の個人情報信用センター関連 全国銀行個人信用情報センター http://www.zenginkyo.or.jp/pcic/pcic.htm JIC http://www.upunet.or.jp/JIC/index.html CIC http://www.cic.co.jp All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 59 情報倫理関係URL集(2) 不正アクセス禁止法案関係 警察庁 http://www.npa.go.jp/ 郵政省 http://www.mpt.go.jp 通産省 http://www.miti.go.jp 日弁連 http://www.nichibenren.or.jp/ 多言語・多文化主義関連 東京大学L/P(言語と力)フォーラム http://lp.iss.u-tokyo.ac.jp/ その他全般にわたる参考URL 明治大学法学部法情報学ゼミ(夏井高人研究室) http://www.isc.meiji.ac.jp/~sumwel_h/ 岡村久道 HOME PAGE http://www.law.co.jp/OKAMURA/index.html All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 60 付録 -本の紹介- 文科系のための情報学シリーズ 明治大学情報科学センター編(培風館) 使いこなそうコンピュータ 道具としてのインターネット インターネットコミュニケーション 人間と情報 Visual Basic プログラミング入門 以下続刊 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo. 61
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