失敗の本質(概要)

「失敗の本質」
”日本軍の組織論的研究”
に学ぶ
出典;「失敗の本質”日本軍の組織論的研究”」
著者:戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎
発行:ダイヤモンド社、昭和59(1984年)年5月31日初版
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序論
そもそも軍隊(会社)とは、近代的組織、すなわち合理的・階
層的官僚制組織の最も代表的なものである。しかしこの合
理性と効率性を追求した組織の典型であるはずとみられた
日本軍(会社)は、大東亜戦争(グローバル化不況)というそ
の組織的使命を果たすべき状況において、しばしば合理性
と効率性とに反する行動を示した。この大東亜戦争(グロー
バル化不況)における日本軍(会社)の失敗を現代の一般に
とっての教訓として生かすべきである。
“軍隊”を“会社” と読み変えて見て下さい。
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インデックス
序章:日本軍の失敗から何をまなぶか
1章:失敗の事例研究
1.ノモンハン事件;1939年5月~9月(旧満州、ソビエト国境)
●失敗の序曲
2.ミッドウエー作戦;1942年6月(東太平洋)
●海戦のターニング・ポイント
3.ガダルカナル作戦;1942年8月(南太平洋ソロモン諸島)
●陸戦のターニング・ポイント
4.インパール作戦;1944年3月(東部インド)
●賭けの失敗
5.レイテ海戦;1944年10月(フィリピン)
●自己認識の失敗
6.沖縄戦;1945年4月~6月
●終局段階での失敗
2章:失敗の本質;戦略・組織における日本軍の失敗の分析
3章:失敗の教訓;日本軍の失敗の本質と今日的課題
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序章:日本軍の失敗から何をまなぶか(ねらい)
●問題は危機においてどうであったか、ということ。
危機、すなわち不確実性が高く不安定かつ流動的な状況
<それは軍隊が本来の任務をはたすべき状況であった>
で日本軍は、大東亜戦争のいくつかの作戦失敗に見られるよう
に、有効に機能し得ずさまざまな組織的欠陥を露呈した。
●結局、めざすところは、大東亜戦争における日本軍の作戦
失敗例からその組織的欠陥や特性を析出し、組織としての
日本軍の失敗に込められたメッセージを現代的に生かす
こと。
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アプローチと構成;
アプローチ方法; 組織論的、経営学的、意志決定論的、政策決定論的アプローチ
構成概要
●ノモンハン事件;失敗の序曲
・作戦目的があいまい。
・中央と現地とのコミュニケーションが有効に機能しなかった。
・情報の受容や解釈に独善性が見られ、戦闘では過度に精神主義が誇張された
●ミッドウエー作戦/ガダルカナル作戦;海戦/陸戦のターニング・ポイント
・不測事態発生時の瞬間的・有効的反応ができなかった。
・情報の貧困、兵力の逐次投入
・作戦目的の二重性 ・部隊編成の複雑性。
●インパール作戦;賭けの失敗
レイテ海戦;自己認識の失敗
沖縄戦;終局段階での失敗
・「負け方」の失敗の最も典型的事例。
・しなくても良い作戦の敢行。賭けの失敗。
・人間関係を過度に重視する情緒主義。
・強烈な使命感を抱く個人主義の突出を許容するシステム。
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1章:失敗の事例研究
1.ノモンハン事件;失敗の序曲、1939年5月~9月、関東軍対ソ連軍
<プロローグ>
作戦目的があいまいであり、中央と現地とのコミュニケーションが有効に
機能しなかった。情報に関しても、その受容や解釈に独善性が見られ、戦
闘では過度に精神主義が誇張された。
<投入戦力/被害>
・先遣捜索隊200名全滅
・戦死7、696名、戦傷8、647名、行方不明1、021名、計17、364名の
兵士を失った。
<分析>
・大兵力・大火力・大物量主義をとる敵に対して、精神力・統帥指揮能力
の優越といった無形的戦力によって勝利を得るという、いわば神憑り的対
応で日本軍はなすすべを知らず悲惨な状態に陥った。満州国支配機関と
しての関東軍は、その機能を良く果たし、統治機関として高度に適応した
軍隊であるがゆえに、戦闘機関としての組織的合理化は妨げられ、逆にさ
まざまな側面において退化現象を起こした。
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1章:失敗の事例研究
2.ミッドウエー作戦;海戦のターニング・ポイント、1942年6月
<プロローグ>
作戦目的の二重性や部隊編成の複雑性などの要因のほか日本軍の失
敗の重要なポイントになったのは、不測の事態が発生したとき、それに瞬
時に有効かつ適切に反応できたか否か、であった。
<投入戦力/被害>
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1章:失敗の事例研究
2.ミッドウエー作戦;海戦のターニング・ポイント
<分析>
●戦場において常時不測の事態に直面する戦闘部隊は、どの様な
コンティンジェンシー・プラン(不測の事態に備えた計画)を持っているかというこ
と、ならびにその作戦遂行に際して当初の企画(計画)と実際のパフォーマンス
とのギャップをどこまで小さくすることができるかということによって、成否が分か
れる。
●作戦目的の二重性;山本長官は各軍司令官、軍令部、艦隊幕僚に対する
作戦の目的と構想について十分な理解・認識の努力が足らなかった。
●ミニッツ指令長官は日常生活レベルにおいても、部下との価値や情報、
作戦構想の共有に努めていたといわれる。
●リスクの自覚不足/先入観へのとらわれ
●指令長官自らの出撃;適切な作戦指導不可能
●情報の重要性を認識できなかった。米軍による暗号解読の多大な努力。
性能不十分な偵察機。米軍のレーダ開発。
●ダメージ・コントロールの不備;いったん被弾した場合の防御、防火、応急処置
の研究・対策不足。
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1章:失敗の事例研究
3.ガダルカナル作戦;陸戦のターニング・ポイント
<プロローグ>
失敗の原因は、情報の貧困と戦力の逐次投入、それに米軍の水陸両用作戦に有効
に対処 しえなっかたからである。日本の陸軍と海軍はバラバラの状態であった。
・「ガダルカナルとは、島の名ではなく感動そのものである」サミュエル・モリソン
・「それは帝国陸軍の墓地の名である」伊藤正徳
<投入戦力/被害>
攻撃するごとに壊滅状態に陥ったガダルカナルの実状は、かって日本軍が経験した
ことのない惨憺たる状況であった。組織の中では合理的議論が通用しなかったし、
状況を有利に打開するための豊富な選択肢もなかった。
それゆえ、帝国陸軍の誇る白刃のもとに全軍突撃を敢行する戦術の墨守しか
なされなかった。
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1章:失敗の事例研究
3.ガダルカナル作戦;陸戦のターニング・ポイント
<分析>
●戦略的グランド・デザイン(基本戦略)の欠如
▽米軍のグランド・デザイン
「ガダルカナル攻略は日本本土直撃への一里塚である」
▽日本軍においては基本戦略デザインの欠如により陸・海・空統合作戦
がなされなかった。
●第一線部隊の自律性抑圧と情報フィードバックの欠如
作戦司令部における兵たん無視、情報力軽視、科学的思考方法軽視
および硬直的・官僚的思考体質により第一線からのフィードバックは存在
しなかった。
大本営のエリートも、現場に出る努力をしなかった。
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1章:失敗の事例研究
4.インパール作戦;賭けの失敗、1944年3月
<プロローグ>
しなくてもよかった作戦。戦略的合理性を欠いたこの作戦がなぜ実施される
に至ったのか。
作戦計画の決定過程に焦点をあて、人間関係を過度に重視する情緒主義
や強烈な個人の突出を許容するシステムを明らかにする。
<投入戦力/被害>
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1章:失敗の事例研究
4.インパール作戦;賭けの失敗
<分析>
●作戦において戦略的急襲にすべてを賭け、コンティンジェンシー・プランを欠い
いた。
●作戦の失敗は始まる前から予定されていた。そしてコンティンジェンシー・プラン
の欠如のため適時の体勢転換を図れず作戦中止が遅れ、補給の不備ないし
欠如は、戦闘と撤退の悲惨さをもたらした。
●何度か修正されてしかるべき体験を味わわされたにもかかわらず少しも改められ
ず、先入観の根強さを示すとともに、組織による学習の貧困ないし欠如をも物語
った。また、「必勝の信念」という非合理的心情も、積極性と攻撃を同一視しこれ
を過度に協調することによって、ずさんな計画に対する疑念を抑圧した。これは
陸軍という組織に浸透したカルチャー(組織文化)の一部でもあった。
●作戦計画が上級司令部の同意と許可を得ていくプロセスに示された「人情」という
名の人間関係重視、組織内融和の優先により本来、軍隊のような官僚制組織の
硬直化を防ぎ組織の効率性を補完する役割を果たすはずであったが逆効果とな
ってしまった。
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1章:失敗の事例研究
5.レイテ海戦;1944年10月
自己認識の失敗(日本海軍が総力を結集して戦った最後の決戦)
<プロローグ>
”日本的”精緻をこらしたきわめて独創的な作戦計画のもとに実施されたが、参加部
隊(艦隊)が、その任務を十分に把握しないまま作戦に突入し、統一指揮不在のもと
に作戦は失敗に帰した。レイテの敗戦は、いわば自己認識の失敗であった。
<投入戦力/被害>
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1章:失敗の事例研究
5.レイテ海戦;
自己認識の失敗(日本海軍が総力を結集して戦った最後の決戦)
<分析>
●作戦目的・任務の錯誤;すでに緒戦において物的戦力・人的戦力の多くを失って
いた状況において、もはや常道戦法では勝算の少ない闘いであり、捨て身の戦
法を生み出す必要があり連合艦隊司令部もこうした状況をかなり正確に認識して
はいた。この様な状況下の作戦成功のための条件は;
▽第1条件(前提);作戦目的の明確化およびそれが作戦参加の主要メンバーによ
って共通の認識のもとに共有されていること。
▽第2条件;目的遂行のための自己の任務の認識が正確になされていること
●戦略的不適応
劣弱な戦力を補うためには、立案者自体が”作戦の外道”と考えた特攻攻撃に踏
み切ることによって、計画と実際のズレを調整しようとした。
●情報・通信システムの不備
レイテ海戦のような広汎な地域での同時多発的な作戦の展開にあたっては的確
な情報・通信システムが不可欠である。
「このひどく複雑な大作戦の成否は、整然たる共同動作と完全なタイミングに依存
していた。」ニミッツ提督。
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1章:失敗の事例研究
5.レイテ海戦;
自己認識の失敗(日本海軍が総力を結集して戦った最後の決戦)
<分析>
●高度の平凡性の欠如
巨大で複雑な、組織化された現代戦の作戦で成功を勝ち取るのに必要
不可欠な「高度の平凡性」が不足していた。
①聡明な独創的イニシアチブ(指導力)が欠けていたこと。
②命令または戦則に反した行動をたびたびとったこと。
③虚構の成功の報告を再三報じたこと。
各自が錯誤の余地を少なくするためには、日常的な思考・行動の延長の
範囲で活動できることが必要である。
おとりとして一艦隊を消滅させるとか、突入によって主力艦隊をすりつぶ
すといった異常な行動で構成されていた作戦それ自体が高度の平凡性を
はるかに超えた変形な作戦であったことにも失敗の原因が求められるで
あろう。
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1章:失敗の事例研究
6.沖縄戦;終局段階での失敗、1945年4月~6月
<プロローグ>
相変わらず作戦目的はあいまいで、米軍の本土上陸を引き延ばすための戦
略持久か航空決戦かの間を揺れ動いた。とくに注目されるのは、大本営と
沖縄の現地軍にみられた認識のズレや意志の不統一であった。
<投入戦力/被害>
沖縄は阿修羅の様相を呈した。
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2章:失敗の本質
戦略・組織における日本軍の失敗の分析
六つの作戦に共通する性格
①大規模作戦であった。日本軍の作戦中枢が作戦計画の策定に関与した。
②作戦中枢と実施部隊との間に、時間的、空間的に大きな距離が存在した。
③高度に機械化された直接戦闘部隊と補給、情報通信、広報支援などが組み合わ
された統合的近代戦であった。
④作戦計画があらかじめ策定され、それに基づいて戦われた組織戦であった。
<戦略上>の失敗要因分析
●あいまいな戦略目的
●短期決戦の戦略志向
●主観的で「帰納的」な戦略策定
~空気の支配
●狭くて進化のない戦略オプション
●アンバランスな戦闘技術体系
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<組織上>の失敗要因分析
●人的ネットワーク偏重の組織
構造
●属人的な組織の統合
●学習を軽視した組織
●結果よりやる気や動機を重視し
た評価
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2章:失敗の本質
戦略上の失敗要因分析
<あいまいな戦略目的>
●目的の単一化とそれに対する兵力の集中は作戦の基本であり、
反対に目的が複数あり、そのために兵力が分散されるような状況はそれ
自体で敗戦の条件になる
●目的と手段は正しく適合していなければならない。
”目的はパリ、目標はフランス軍”
●グランド・ストラテジー(大戦略)の欠如
グランド・ストラテジーとは;
「一国のあらゆる資源を、ある戦争のための政治目的(基本的政策の規
定するゴール)の達成に向かって調整し、かつ指向すること」
<短期決戦の戦略志向>
●武器、弾薬、食料等資源を欠いた状況下での短期決戦志向からくる戦略
的合理性の欠如
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2章:失敗の本質
戦略上の失敗要因分析
<主観的で「帰納的」な戦略策定~空気の支配>
●日本軍の特徴
*「帰納的」;経験した事実のなかからある一般的な法則性を見つける方法。
日本軍は事実から法則を析出するという本来の意味での帰納法ももたなかった。
多分に情緒や空気が支配する傾向があり科学的思考が、組織の思考のクセとして
共有されるまでには至っていなかった。日本軍は、初めにグランド・デザインや原理
があったというよりは、現実から出発し状況ごとにときには場当たり的に対応し、そ
れらの結果を積み上げていく思考方法が得意であった。このような思考方法は、客
観的事実の尊重とその行為の結果のフィードバックと一般化が頻繁に行われるかぎ
りにおいて、とりわけ不確実な状況下において、きわめて有効なはずであった。しか
しながら、日本軍の平均的スタッフは科学的方法とは無縁の、独自の主観的なイン
クリメンタリズム(積み上げ方式)に基づく戦略策定をやってきた。
●米軍の特徴
*「演繹的」;既知の一般的法則によって個別の問題を解く方法。
たえず質と量のうえで安全性を確保した上で攻勢に出た。
事実を正確かつ冷静に直視するしつけ。コンティンジェンシー・プランの保有。
組織の中に論理的な議論ができる制度と風土。
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2章:失敗の本質
戦略上の失敗要因分析
<狭くて進化のない戦略オプション>
●戦略は進化すべきものである。さまざまな戦略のバリーエーションが意識的に
発生され、その中から有効なもののみが生き残る形で淘汰が行われて、それが
保持されるという進化のサイクルが機能していなければならない。
<アンバランスな戦闘技術体系>
●日本軍:大和と零戦…一点豪華主義
●米軍:徹底した標準化による大量生産。
グラマンF6F「ヘルキャット」馬力は零戦の二倍。
更に零戦に対する2対1戦法(サッチ・ウイーブ戦法)、M4シャーマン戦車、
護送空母の大量建造徹底した標準化を追求し、量産し、それによって建造期間
の短縮とコストダウンすることを自動車の大量生産システムの経験により熟知し
ていた。
●ソフトウエアの貧弱さ
米軍;高度な技術の産物を更にインダストリアル・エンジニアリング(操作性)の発
想で平均的軍人でも操作が容易な武器体系を実現
●情報システムの軽視;暗号解読技術。レーダの開発。
●ロジスティック・システム(物流システム)の遅れ
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2章:失敗の本質
組織上の失敗要因分析
<人的ネットワーク偏重の組織構造>
●日本軍が戦前において高度の官僚制を採用した最も合理的な組織であ
ったはずであるにもかかわらず、その実体は、官僚制のなかに情緒性を
混在させ、インフォーマルな人的ネットワークが強力に機能するという
特異な組織であった。
●日本的な集団主義;意志決定の遅さ
●米軍のダイナミックな人事システム;
・意志決定のスピードアップ
・指揮官・要員の一定期間でのローテーション;有能者の能力のフル発
揮、知的エネルギー枯渇予防、前線の緊張感維持
米軍の作戦速度の速さは決定的であり、日本軍の苦心の蓄積が最後の
仕上げで一挙に粉砕されることが多かった。
<属人的な組織の統合>
●個人による統合は、一面、融通無碍な行動を許容するが、他面、原理・
原則を欠いた組織運営を助長し、計画的、体系的な統合を不可能にして
しまう結果に陥りやすい。
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2章:失敗の本質
組織上の失敗要因分析
<学習を軽視した組織>
●失敗の蓄積・伝播を組織的に行うリーダシップもシステムも欠如していた
△日本軍:「シングル・ループ学習」目標と問題構造を変化しない一定の
ものとした上で、最適解を選び出すという学習プロセスであった。
△米軍:「ダブル・ループ学習」必要に応じて、目標や問題の基本構造その
ものをも再定義し変革するという、よりダイナミックなプロセスを実施。
<結果よりやる気や動機を重視した評価>
●日本軍は作戦に失敗した参謀の責任を問おうとしなかった。戦闘失敗の
責任は、しばしば転勤という手段で解消された。しかもこれら転勤者はそ
の後、いつの間にか中央部の要職についていた。信賞必罰は公正では
なかった。積極論者には甘く、自重論者には厳しかった。
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2章:失敗の本質
日本軍と米軍の戦略・組織特性比較
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3章:失敗の教訓
軍事組織の環境適応の分析枠組み
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3章:失敗の教訓
軍事組織の環境適応の分析枠組み
分析枠組みは7つの概念で構成されている;
環境、戦略、資源、組織構造、管理システム、組織行動、組織学習
①環境;組織の直面する外部環境。これらの環境要因は、いずれも組織に対して、
機会や脅威を生みだし、組織がなんらかのアクションをとることを要求してくる。
②戦略;外部の生み出す機会や脅威に適合するように、組織がその資源を蓄積・
展開することである。
●まず組織はその戦略的使命(ストラレジック・ミッション)を定義しなければならない
。つまり、軍事組織として環境要因の中にいかなる機会・脅威が潜在的に存在す
るかを主体的に洞察し、敵と味方の強みや弱みを相対的に分析し、いかなる方法
と領域で我の資源を最も効果的に展開するかについての基本的なグランド・デザ
インを描かなければならない。
●第2:人材の育成;そのグランド・デザインに基づき必要な資源を蓄積し、それを運
用するヒトを錬磨しなければならない。
●第3:戦術の展開;
組織は蓄積した資源を敵の弱みを突き味方が優位にたてるような形で展開すること
が要請される。一般に戦略のレベルを下ろした、より短期的・実践的な側面が戦術と
いわれる。
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3章:失敗の教訓
軍事組織の環境適応の分析枠組み
③資源;人的資源、物的資源、技術、組織文化
●技術:兵器体系(ハードウエア)
●蓄積した知識・技能(ソフトウエア/ノウハウ)
●組織文化:組織の成員が共有する行動様式の体系のことである。
組織の過去の環境適応行動の結果として組織成員に共有されるに至
った、規範的な行動の仕方である。軍事組織の場合、最も典型的には
、個々の戦闘にあたって、将校、下士官、兵が意識的にあるいは無意
識に共有している「戦闘のやり方」ということになる。戦略の実行は組織
構造、管理システム、組織行動の相互作用を通じて遂行される。
④組織構造
組織の分業や権限関係の安定的なパターンである。最も組織構造らしい
組織は、官僚制組織である。組織構造には、公式的な意思決定構造の
ほかにインフォーマルな意思決定の人的ネットワーク(人脈)も含む。
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3章:失敗の教訓
軍事組織の環境適応
⑤管理システム;
組織構造以外の組織のコントロール・システムであり、統合システム、
業績評価システム、教育システムなど多様である。
⑥組織行動;
組織内成員の相互作用のプロセスであって、意思決定、リーダシップ、
パワー(影響力行使)、などの継続的でダイナミックな組織内過程である
⑦組織学習;
目標と成果の間にギャップが発生した場合、新しい知識や行動様式が探
索され、既存の知識や行動様式の変更ないし革新がもたらされる。既存
の知識や行動様式を捨てることを、学習に対して、学習棄却という。この
ようなプロセスが組織学習なのである。軍事組織は、このようなサイクル
を繰り返しながら、環境に適応していく。
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3章:失敗の教訓
日本軍の環境適応
●組織がうまく環境に適応するためには、直面する環境の機会や脅威に
組織の戦略、資源、組織特性(構造、システム、行動)を一貫性をもって
フィットさせなければならない。
*環境に適合するには自己変革力が必要。(自己革新組織)
「日本軍は環境に適応しすぎて失敗した」、恐竜は機能的にも形態的にも徹
底的に環境に適応したが、適応しすぎて特殊化し、ちょっとした気候、水陸
の分布、食物の変化に再適応できなかった。
●戦略・戦術
日本軍の戦略原型(パラダイム:ものの見方や方法の原型)
陸軍:白兵戦における最後の銃剣肉弾突撃
海軍:艦隊決戦主義
●資源
陸軍:三八式歩兵銃、三八式野砲、九五式軽戦車、九七式中戦車
海軍:太艦巨砲主義、個艦優秀主義
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3章:失敗の教訓
日本軍の環境適応
<組織特性>
①組織構造
日本軍は、米軍のように、陸・海・空の機能を一元的に管理する最高軍事組織として
の統合参謀本部を持たなかった。ダイナミックな環境に有効に適応している組織は、
組織内の機能をより分化させると同時に、より強力な統合を達成しなければならない
。戦闘組織についても、
日本軍:帝国海軍は、機動部隊という航空優位の組織構造をつくり上げたが、戦艦
優位の編成を最後まで崩せなかった。
米軍:これに対して、米海軍は真珠湾の奇襲から南雲機動部隊を真似てタスクフォ
ースをつくり、それを日本海軍よりはるかに洗練させてしまった。米軍は「海兵隊」を
発展させ、陸・海・空を有機的に統合した独特のタスクフォースを作り上げていった。
②管理システム
日本軍:年功序列…暗記と記憶力を強調した教育システムによる養成
米軍:能力主義による思い切った抜擢人事、オリジナリティを奨励する教育システム
③組織行動(リーダシップ)
日本軍のリーダの多くは、白兵戦と艦隊決戦という戦略原型をなんらかの形で具現
化した人々であった。
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3章:失敗の教訓
日本軍の環境適応
<組織学習>
組織は、個々の成員に影響を与え、その学習の成果を蓄積し、伝達すると
いう学習システムになっていなければならない。組織学習には、組織の行為
と成果の間にギャップがあった場合には、既存の知識を疑い、新たな知識
を獲得する側面があることを忘れてはならない。
その場合の基本は、組織として既存の知識を捨てる学習棄却、つまり自己
否定的学習ができるかどうかということなのである。
<組織文化>
組織文化:組織が環境に適応した結果、組織成員に明確にあるいは暗黙に
共有されるに至った行動様式の体系。組織が新たな環境変化に直面したと
きに最も困難な課題は、これまでに蓄積してきた組織文化をいかにして変
革するかということである。
組織文化は、①価値、②英雄、③リーダシップ、④組織・管理システム、
⑤儀式などの一貫性を持った相互作用の中から形成される。
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3章:失敗の教訓
自己革新組織の原則と日本軍の失敗
主体的に進化する能力のある組織が自己革新組織(セルフ・オーガニゼーション)で
ある。自己革新能力のある組織は、以下にのべる条件を満たさなければならない。
●不均衡の創造
適応力のある組織は、環境を利用してたえず組織内に変異、緊張、危機感を発生さ
せている。組織は進化するためには、それ自体をたえず不均衡状態にしておかねば
ならない。
不均衡は、組織が環境との間の情報やエネルギーの交感プロセ
スのパイプをつなげておく、すなわち開放体制(オープン・システム)にしておくための
必要条件である。長老は頭の上にのせておく帽子がわりで良い、というのは平和時
代のことであり、戦時には、トップこそ豊富な経験と知恵の上に想像力と独創力を働
かせ、頑健な身体と健全なバランス感覚で、誤り無い意思決定をしなければならな
かった。このような組織に緊張を創造するためには、客観的環境を主観的に再編成
あるいは演出するリーダの洞察力、異質な情報・知識の交流、ヒトの抜擢などによる
権力構造のたえざる均衡破壊などがカギとなる。
●自律性の確保
組織はその構成要素の自律性を確保できるように組織の単位を柔構造にしておか
ねばならない。柔構造組織(ルース・カプリング型組織)。
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3章:失敗の教訓
自己革新組織の原則と日本軍の失敗
●創造的破壊による突出
進化は、創造的破壊を伴う自己超越現象でもある。つまり自己革新組織は、たえず
システム自体の限界を超えたところに到達しようと自己否定を行うのである。組織自
体を根底から変革させる技術革新に、実感をもって十分目をむけること。創造的破
壊は、ヒトと技術を通じて最も徹底的に実現される。
●異端・偶然との共存
およそイノベーション(革新)は、異質なヒト、情報、偶然を取り込むところに始る。日
本軍の最大の特徴は「言葉を奪った事である」。組織の末端の情報、問題提起、ア
イデアが中枢につながることを促進する「青年の会議」が許されなかったのである。
●知識の淘汰と蓄積
米軍は一連の作戦の展開から有用な新しい情報をよく組織化した。戦略的思考は
日々のオープンな議論や体験の中で蓄積されるものである。海兵隊は、水陸両用
作戦のドクトリン(戦争の教義)を開発したときには、海兵隊学校の授業をストップし
、教官と学生が一体となって自由討議の中から積み上げていった。
●統合的価値の共有
自己革新組織は、その構成要素に方向性を与え、その協働を確保するために統合
的な価値あるいはビジョンを持たなければならない。全体組織がいかなる方向に進
むべきかを全員に理解させなければならない。
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3章:失敗の教訓
日本軍の失敗の本質とその連続性
戦後、日本軍の組織的特性は、まったく消滅してしまったので
あろうか。それとも連続的あるいは非連続的に現代社会に生
き残っているのであろうか。
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キーワード(「失敗の本質」”日本軍の組織論的研究”に学ぶ)
・失敗の本質
・日本軍の組織論的研究
・目的があいまい、目的の二重性
・戦力の逐次投入
・目的の単一化と、兵力の集中は作戦の基本
・目的と手段は正しく適合
・情報の貧困、その受容や解釈の独善性
・コミュニケーション
・部下との価値や情報、作戦構想の共有
・精神主義、情緒主義、個人主義、 「人情」という名
の人間関係重視、組織内融和の優先。
主観的で「帰納的」な 戦略策定~空気の支配
・人的ネットワーク偏重。属人的な組織。
・大兵力・大火力・大物量主義。
徹底した標準化による大量生産。
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キーワード(「失敗の本質」”日本軍の組織論的研究”に学ぶ)
・不測事態、危機
・コンティンジェンシー・プラン(不測の事態に備えた計画)
・作戦の失敗は始まる前から予定されていた
・リスクの自覚不足/先入観へのとらわれ
・ダメージ・コントロール
・合理的議論
・白刃のもとに全軍突撃。壊滅。
・グランド・ストラテジー(大戦略)の欠如。
戦略的使命(ストラレジック・ミッション)の定義。
・戦略的グランド・デザイン(基本戦略)の欠如
・戦略的合理性
・豊富な選択肢。狭くて進化のない戦略オプション。
・戦略は進化すべきものである
・第一線部隊の自律性抑圧と情報フィードバックの欠如
・現場に出る
・少しも改められず。組織による学習の貧困。
先入観の根強さ。
組織に浸透したカルチャー(組織文化)。
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キーワード(「失敗の本質」”日本軍の組織論的研究”に学ぶ)
・統一指揮不在のもと任務を十分に把握しない自己認識の失敗
・整然たる共同動作と完全なタイミング
・高度の平凡性の欠如。日常的な思考・行動の延長の
範囲で活動できること。異常な行動。変形な作戦。
・アンバランスな戦闘技術体系
・学習を軽視した組織
・ダイナミックな人事システム
・意志決定のスピードアップ
・ローテーション;有能者の能力のフル発揮、
知的エネルギー枯渇予防、前線の緊張感維持
・リーダシップ
・シングル・ループ学習
・ダブル・ループ学習(ダイナミックなプロセス)
・自己変革力
・戦略原型(パラダイム:ものの見方や方法の原型)
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