小学部低学年の自閉症児が カードを手渡して要求を伝える ための支援 1 指導目標・標的行動 【長期目標】 自発的にカードを使って,三語文で要求を伝えること ができる。 【短期目標】 カードを使って,二語文で要求を伝えることができる。 【標的行動】 欲しいもののカードを教員に手渡す 2 「カードをボードに貼る」ABC分析 教室 休み時間 おもちゃ 教員 注目なし(↓) 遊べる(↑) カードをボードに貼る 友だちと同じこと ができる(↑) カード ボード 遊んでいる友だち 友だちの所へ 行ける(↑) 3 「カードをボードに貼る」ABC分析 誉められる(↑) 教室 休み時間 おもちゃ 教員 注目あり(↑) 遊べる(↑) カードを手渡す 友だちと同じこと ができる(↑) カード コミュニケーションブック 遊んでいる友だち 友だちの所へ 行ける(↑) 「○○(物・場所の名 前)」ことばかけ(-) 4 方法 【対象児】 小学部1年 女児 Bさん 知的障害・自閉症 PEP-R発達検査結果:1歳9ヶ月(平成22年5月) ○日常的な指示(簡単なことばかけ,指さしなど)に 従うことができる。 ○写真や絵カードと実物やその場所のマッチングも できる。 ○発音が曖昧な部分もあるが,音声模倣ができる。 ○独り言(テレビCBや歌,周りの人の会話などの 耳にした言葉)が多い。 5 方法 【指導場面】 休み時間 【般化場面】 担当者以外の人 家庭・施設 遊びの時間以外の時間 【教材】 コミュニケーションブック 、カード 6 手続き(ベースライン) 【カードをボードに貼る】 (1)トランジッションエリアの近くに,遊びの選択ボード を設置して,本児の好む遊びのカードを貼っておく。 (2)遊びの時間に選択ボードから,遊びを選んで,ボー ドの横に貼るように促す。 (3)カードを貼ったら,遊びに行くことを許可したり,その カードのおもちゃを渡したりする。 7 手続き(ステップ1) 【カードを1枚手渡して要求する】 (1)トランジッションエリアの近くに,遊びの選択ブック(コ ミュニケーションブック)を準備して,本児がよく選ぶ遊 びカード(広場・砂場)とトイレカードを貼っておく。 (2)遊びの時間にコミュニケーションブックからカードを選 ぶように指さす。 (3)選んだカードを近くにいる教員に手渡すように,別の 教員が手を添えながらカードを手渡すのを支援する。 (4)受け取った教員は,カードの名称を読み(「わくわく」な ど),Bさんが模倣したら誉めて,遊びを許可する。 ※指導が進んだら、おもちゃ(しゃぼん玉・ポンポン・なわと びなど)を追加する。 8 手続き(ステップ2) 【カードを1枚手渡して要求する】 (1)コミュニケーションブックにおもちゃ(しゃぼん玉・ポン ポン・なわとびなど)を追加する。 (2)受け取った教員は,カードの名称を読み(「しゃぼん だま」など),Bさんが模倣したら誉めて,おもちゃを渡 す。 9 手続き(ステップ3) 【文カードを手渡して二語文(○○いきます)で要求する】 (1)コミュニケーションブックに文カードと,「いきます」 カードを準備する。あらかじめ「いきます」カードは文 カードに貼っておく。 (2)教員が手を添えながら,「広場」などのカードを文カー ドに貼り,手渡すのを支援する。 (3)文カードを受け取った教員は,「広場,いきます」と カードを読み,Bさんが模倣したら誉めて,遊びを許可 する。 10 手続き(ステップ4~5) 【文カードを手渡して二語文(○○いきます)で要求する】 (1)コミュニケーションブックに「いきます」カードと貼って おく。 (2)遊びの選択のときに,Bさんが場所カードと「いきま す」カードの2種類を文カードに貼るよう指さしで促す。 (3)文カードを受け取った教員は,「広場,いきます」と カードを読み,Bさんが模倣したら誉めて,遊びを許可 する。 ※指導が進んだら、「ください」カードを追加して、同様の 指導を行う。 11 記録方法・条件移行基準 (1)自発的にカード・文カードを手渡すことができた (2)相手の方を向いていた (3)自発的にことばでも要求することができた ※正反応比率(自発的にカードを手渡すことができた)を 次の式で算出した 自発的にカードを手渡した回数/全要求回数×100 ※正反応比率が3日連続で80%以上であるとき,次の段 階にステップアップする。 12 結果(1) カードを手渡す (追加:ポンポン・ しゃぼんだま・なわとび) ベースライン (カードをボードに貼る) 文カードを手渡す ※「広場」+「いきます」を貼る 文カードを手渡す ※「かたな」など+「ください」を貼る 100 80 正 反 応 比 率 ( % 60 カードを手渡す (広場・砂場) 文カードを手渡す ※「いきます」は貼っておく 40 ) 20 0 10/11 10/18 10/25 11/1 11/8 11/15 11/22 11/29 12/6 12/13 12/20 日付 100 相 手 の 方 を 向 い て い た 割 合 ( % 80 60 40 20 ) 0 10/11 10/18 10/25 11/1 11/8 11/15 日付 11/22 11/29 12/6 12/13 12/20 10/18 10/25 11/1 11/8 11/15 日付 11/22 11/29 12/6 12/13 12/20 こ 100 と ば で 80 自 発 的 に 60 要 求 で 40 き た 割 合 20 ( % ) 0 10/11 13 結果(2) ○ベースラインでは,カードをボードに貼ってから相手 が気付くまでうろうろしていたり,別のことをしたりす ることがあった。ことばの要求も独り言であった。 ○カードを相手に手渡すという方法に変更して,2日 目には自発的に渡せるようになった。 ○要求するときも相手の方を向いて,カードを渡すこと もできるようになった。 ○ことばで伝えることは,カードの手渡しに変えてもで きた。 ○近くに相手(担任)がいない状況でも,ろう下や広場 にいる教員に手渡すこともみられるようになった。 14 考察(1) ○カードを伝える相手に手渡すという方法は、Bさんに とっても分かりやすく、伝わりやすい方法であったの で、強化されやすかったと思われる。 ○カードを相手に手渡すため,要求していることに気 付いてもらえやすく,要求がすぐにかなうという点が よかった。 ○教員にとっても伝えていること(体の向き,態度),内 容(要求物)が分かりやすく,お互い良かったと思わ れる。 ○文カードにカードを2種類貼ることで,二語文で伝え られるようになり,パターン的に覚えてしまいがちな Bさんにとって,ことばの学習としてのメリットも大き いと思われる。 15 考察(2) ○要求するものが限定されたり,Bさんが要求した くなるような環境設定が必要であった。 (友だちが遊んでいる場面,欲しい物が目に入る 環境,一緒に遊びたくなるような状況など) ○今後,いろいろな物や状況,人に対して自発的 に要求していけるように機会や状況を設定して いくことが必要である。 16 コミュニケーションブック 17
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