情報化社会と人間第2章

明治大学情報科学センター編
人間と情報
情報化社会を生き抜くために(2)
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目次
第2章 情報の処理と意図
1. 計算は情報を捨てている
2. 私たちはありのままを見ているか
3. 錯覚がないと生きていけない
4. 図形の文脈
5. 見えてないのに見える
6. 見ることも学んでいる
7. ストラットンの眼鏡
8. コンピュータが見る世界
9. 道具としてのコンピュータ
10. 情報伝達における意図
11. 電子メールで意図は伝わるか
12. オフラインミーティング
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第2章
情報の処理と意図
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計算は情報を捨てている
2+3=5
計算は情報を生成するのではなく捨てている
結果に置き換えられる=重要な情報を残す

コンピュータの役割=人間にとって有効な情報の提示
何が重要な情報か
何が人間にとって有効な形式か
★人間がコンピュータに予め教えておく必要
情報処理=人間にとって意味のある情報の抽出

単なるデータの変換過程ではない
背景となる知識が活用されている
「ものを見る」時にはどんな背景的知識が活用されるか
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私たちはありのままを見ているか
立体に見える図形の例
目の網膜に映る画像は平面的な二次元
生きている空間は奥行きのある三次元
二次元画像から脳で三次元空間を構成して生活
平面投影図形が立体に見える
前後関係が見える図形の例
輪郭線のないハート型が見える
内部の色は背景よりもさらに白く感じられる
脳が前後関係を作り出す
かけた円は何かに隠されていると解釈される
私たちはありのままを見てはいない
生活に便利なように拡大解釈
「空間はこうあるべきである」というイメージの構成

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錯覚がないと生きていけない
ミューラー・リヤーの矢の錯視図形
矢の長さが違って見える
積極的に三次元空間を見ようとした結果起きる
教室の写真で立体的に把握できることへの応用
錯覚がないと空間の遠近感を持つことができない
生活に支障が起きてしまう
箱型の人工物がない自然環境で生活する人にこ
の錯視が無いといわれる
夕日が大きく見える錯覚
遠近法と太陽
風景内の太陽
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
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図形の文脈
文脈におかれた図形
言語は状況や文脈によって決まる
図形にも該当する
フィッシャーの例
上段は男性の顔、下段は女性の姿
(実際には上段右端と下段左端は同じ絵)
★われわれは期待でものを見ている
内的に構成したイメージを外界の画像に写し重ねる
方向依存の図形
ウサギかアヒルか
笑い顔か怒った顔か
★多義的な図形の解釈には方向が影響を与える

普段よく見る方向が決まっておりその方向から見ると認識しやすい
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見えてないのに見える
• 「何がありそうか」という期待で見え方を再構成している
目でものを見ているというより脳で見ている
• 盲点の実験
黒いダイヤの中の星が消える位置がある
盲点=眼底の網膜上で視神経の束が脳に向けて配線
されている部分で、光を感知する細胞が無い
本当は視野のその部分に大きな穴があいている
通常は視野の穴を感じない
脳がその穴の部分を積極的に周辺の情報から埋める
• 仮現運動
視野の離れた2地点で光を交互に点灯させると2点間
を光が移動しているように見える
★空間的にも時間的にも一連の情報をまとめて解釈 8
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見ることも学んでいる
•眼球の濁って光を透過しない患者の例
開眼手術によって生理学的に見える状態になる
生活に支障が無いほどの視力の獲得に数年必要
開眼手術直後は視覚に関する距離や位置の感覚がない
数ヶ月でだんだんと視覚パターンが形成される
視覚刺激を自分のあるく速度と結びつけるのは困難
=目を頼りに歩けるのはずっと後になってからといわれる
生理学的に見えるようになっても視覚を使おうとしない患者
•視覚は単なる受身の感覚ではない
•知識と経験に裏付けられた働きかけを要する能動的感覚
•人間には自分の感覚に合わせて世界を開拓していく力が
備わっている
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ストラットンの眼鏡
•健常者が見ることを学び取る過程を体験する
ストラットンの逆さ眼鏡(上下左右が逆転)
右手を上げると左上から手が下がってくる
見える身体と、内的に感じる身体が分離して混乱
頭を動かすと視野が動きと同方向に激しくゆれる
数週間で外界が安定して正常に見えて来る
その途中過程では、倒立のものと正立のものとが
視野の中に混在する時期がある
手元の本、近くの木などは正立に見え始める
遠景が倒立に見えて混在する
運動の調和は視野の見えの調和よりも早く学習
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コンピュータが見る世界
•人間は「ものを見る」時にも背景的知識を動因
•コンピュータは世界を「見る」ことができるか?
•パソコンにカメラをつけても外界を認識できない
•認識のためのソフトが必要
•認識する対象の物体を動かさないとどこまでが一つか
判別できない
•物体が区別できても使ってみないと何だかわからない
★外界の認識・理解にはその世界に働きかけることが
必要
コンピュータが人間にとって意味があることを学ぶこと
は困難(一緒に社会生活を営むロボット)
人間にとって役に立つロボットは存在
プログラムされており、決まりきった動作を行い、画一的
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で融通はきかない
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道具としてのコンピュータ
•コンピュータを過信してはならない
•現在のコンピュータは人間の代わりをするには
ほど遠い
•コンピュータがアイディアを作り出すことは無い
•アイディアらしきものがでてきてもそれは設計者
が予め意図したもの
★コンピュータが道具であるという感覚が不可欠
•きわめて自由度の高い、有益な道具ではある
•目的をはっきりさせないと道具として立ち表れて
こない
★コンピュータを何に使うのかという意図をもた
ねばならない
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情報伝達における意図
•情報伝達において文脈・状況が大切
•情報伝達では意図を伝えることが最終の目標
•受けては伝達されたデータに文脈・状況を加味したうえ、
さらに送り手の意図に注意を集中する必要
•「オナカガスイタ」
普段料理をする配偶者の外食への誘い
長時間の会議における休憩の提案
•いかに意図を汲み取るかが社会生活を円滑に進める鍵
•意図は表面的内容より感情表現やボディ/ランゲージによ
く表れる
•海外でタクシーの運転手がにこやかに話しかける
乗客を装った強盗を恐れ、乗せたお客が怪しい人物でな
いことをはやめに確認して安心したいため
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電子メールで「意図」は伝わるか
•電子メールを電話と同じように考えてはいけない
•相手の反応がすぐにわかる通信方式ではない
•送り手が想定していなかった解釈を受け手が独自に行う
•誤解が生じてもその場では確認もできす訂正もできない
•言外の意図を伝えるのはなおさら難しい
•顔文字(スマイリーマーク)の利用=限界がある
•文章が証拠として残るので微妙な言い回しになる
•電子メールでつねに正しく相手の意図を汲み取るのは相
手のことをよほどよく知っていない限り無理
•メーリングリストの例
一面識も無い人がたびたび論争になる
相手の様子もわからず単なる想像に基づいた論争
同じような興味を持った人が集まっていても各人の意図
はさまざま=意図を知らずに議論を続けると不毛な議論
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オフラインミーティング
•メーリングリストなどの議論を正常化し、盛り上げるため
にメンバー同士が実際に会う
•「オンライン」通信媒体上
•「オフライン」通信媒体を離れて物理的に会う
•実際に会うと想像とずいぶん異なることが多い
•相手の人となりがわかるとMLでの発言の意図も理解し
やすい
•電子メールの普及により国際会議は減ると考えられた
•実際には増える傾向
•国際共同研究は文化や風習の違う国の研究者が協力
•双方の理解が成り立っていないと議論がかみ合わない
•国際会議がオフラインミーティングの場として活用
•研究発表自体はオンライン化
•国際会議がより実質的な国際交流の場へと変化する
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