労働経済学 第2週 パートの「103万円の壁」 安部由起子 © Yukiko Abe 2016 All rights reserved 1 労働供給 • • • • • 大森『労働経済学』日本評論社2008年、19-37ページ 労働供給の最適な決定: 消費者の効用最大化 労働供給の基礎は、「消費-余暇」の決定 無差別曲線を用いた分析 2財モデルにおける消費者の最適化について予算制約・ 選好・無差別曲線・限界代替率・最適点の性質などが解 説される(授業でも扱う)。 © Yukiko Abe 2016 All rights reserved 2 パートの労働供給への応用 • 配偶者控除 • 配偶者特別控除(平成16年に大幅改正) • 最近では、配偶者控除の廃止が話題になってい る。 • 最適な労働供給はどのように影響を受けるか? とりわけ、予算制約はどうなるか? © Yukiko Abe 2016 All rights reserved 3 所得控除 • 課税所得=収入ー控除 – 控除の例 基礎控除 老年者控除 給与所得控除 配偶者控除、配偶者特別控除 その他 © Yukiko Abe 2016 All rights reserved 4 控除の役割 • 稼いだ所得のうち、控除される分には、課税され ないと考えることができる。例:シンガポールのメ イドへの支出が控除できる。 • たとえば、給与所得控除の最低額は65万円であ り、基礎控除が38万円であるとすると、65+38= 103万円までの収入に対しては、他の控除が何も ないとしても、所得税はかからない(ただし、住民 税はかかる場合もある)。 © Yukiko Abe 2016 All rights reserved 5 配偶者控除・配偶者特別控除 • 一方の配偶者(典型的には妻)の所得が低い場 合、もう片方の配偶者は、収入から、所定の金額 を控除できる。 • 以前は、専業主婦である妻について、夫は76万 円を控除できた。しかし、2004年(平成16年)から、 この額は38万円に縮小。 • 当時の状況は、今後の制度変更の方向(配偶者 控除の廃止)と類似する可能性が高い。 © Yukiko Abe 2016 All rights reserved 6 税制についての情報は? • 国税庁タックスアンサー – この点については、 – https://www.nta.go.jp/taxanswer/index2.htm © Yukiko Abe 2016 All rights reserved 7 パートで働く妻の収入分布(Abe 2009, Figure 2) データは全国消費実態調査2004年 Age: 40-49 0 0 1 2 3 .1 .2 Age: 50-59 類似の収入の 集中は、2010 年の国民生活 基礎調査でも 確認されてい る(男女共同 参画白書) 0 Fraction .1 .2 Age: 30-39 0 1 2 3 wives' earnings (in million yen) © Yukiko Abe 2016 All rights reserved 8 国民生活基礎調査(2010年)から集計さ れた収入分布(出所:平成24年版男女共同参画白書) © Yukiko Abe 2016 All rights reserved 9 103万円の壁 • 有名な問題:20年以上問題になっている。 • しかし内実・制度の詳細は結構複雑(税・社会保 険・配偶者手当) • 103万円に“合わせる”人が多数いる。 • しかし、合わせることは合理的か(所得税・社会 保険、配偶者手当)?・・・これを考えるのが経済 学 • 合理的でないなら、なぜそれに気づいて行動を 変える人が(多数)出てこないのか? © Yukiko Abe 2016 All rights reserved 10 配偶者控除・配偶者特別控除の改正(2004年)と予 算制約 妻のパート就業と家計の予算制約線(平成16年配偶者控除・配偶者特別控除の改正) 760 740 720 消費(10000円) 700 改正前 改正後 680 660 640 620 600 1500 2000 2500 3000 3500 4000 余暇時間 © Yukiko Abe 2016 All rights reserved 11 制度変更と労働供給 • 制度変更の影響を考えるためには、控除 額の変更が家計の(税引後)可処分所得 をどのように変えるかを把握する必要があ る。 • 控除額をDとし、税引き前の夫の収入をYと して、夫の税額がどのように変化するのか を考える。 © Yukiko Abe 2016 All rights reserved 12 税額の計算と近似 • 税額は、課税所得に応じて決まり、日本では累 進課税がとられている。 • 以下の記号を用いる。 – – – – 課税所得:TB 税引き前の夫の収入:Y 夫の控除額合計:D 税額:T • 課税所得に関して、以下の関係が成り立つ TB=Y-D © Yukiko Abe 2016 All rights reserved 13 税金の関数と限界税率 • 税額は以下の税金の関数によって決まる T=T(TB) • 累進課税であれば、TはTBに比例的にはならな い(非線形の関数になる)ことに注意。 • 限界税率とは、収入が1単位増えたときに税金が どれだけかかるかを指す。多くの場合には、これ はT(.)関数の傾きになる。 © Yukiko Abe 2016 All rights reserved 14 控除額の変化と税額の変化 • 税制の変更により、控除額が変化したとしよう。 変化前の控除額をD0、変化後の控除額をD1とす る。いま、配偶者控除・配偶者特別控除の額が 縮小したことを念頭に置いて、 D0 >D1とする。このとき、課税所得TBは Y-D0からY-D1へと変化するが、 Y-D0<Y-D1 が成り立つ。 © Yukiko Abe 2016 All rights reserved 15 制度変更と労働供給 • 配偶者特別控除の縮小は、女性の(もしく は、男性の)労働供給にどのような影響を 与えるか? • 所得効果はどのように作用するのか? © Yukiko Abe 2016 All rights reserved 16 その他の部分での“調整” (Abe, 2009) • パートの労働供給は、長期間続くのではないか ?とりわけ、退職年齢は高く、いったん入職した 後の就業継続も長いのではないか? • 1年間で収入を103万円以下に抑えるとしても、退 職(および入職)のタイミングが内生的であること を考慮すると、退職が遅くなる可能性がある • より多くの年数を働くことで、1年間に103万円に 抑える行動から生ずる「ロス」の埋め合わせをす る。 © Yukiko Abe 2016 All rights reserved 17 資料の出所 • Abe, Yukiko. “The Effects of the 1.03 million yen Ceiling in a Dynamic Labor Supply Model,” Contemporary Economic Policy 27:2, pp.147–163 (2009). • 男女共同参画白書 – http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepap er/h24/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-02-13.html © Yukiko Abe 2016 All rights reserved 18 授業の最後10分 • 今日の授業の内容の重要な部分について 、まとめて記述してください。 • 今日の授業でわからなかった点・わかりに くかった点について、記述してください。 © Yukiko Abe 2016 All rights reserved 19
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