Forest tree genomics: growing resources and applications David B. Neale and Antoine Kremer Neture reviews February 2011 造林学研究室4年 小倉俊治 目次 • はじめに • 樹木の遺伝子資源 ・なぜ遺伝的研究の進歩は遅れたか ・樹木において遺伝子を調べる意義 • 林木育種事業 ・林木育種事業の目標 ・海外の林木育種 ・日本の林木育種 ・林木育種事業における育種効率改善の取組 • 自然資源の保全・保護・管理 ・樹木の地理的変異 • まとめ はじめに • 森林資源は人類にとって必要不可欠なものである。(建築 材料、紙製品、燃料etc...) • 森林は陸上のバイオマスの82%を占めており、生物多様 性の50%以上を占めている。 • 森林は人類にとって原料だけでなく生態系サービスを提供 する重要なものである。 しかし、森林に関する遺伝的な研究は作物種などに 比べてあまり進んでいない。 なぜ遺伝的研究の進歩は遅れたか (why the genomics research at forest tree delays) • 樹木が長寿であるから • 資金が少ないから •ゲノムサイズが大きいから •遺伝子の変異体がよくわかっていないから 表1:Species, genome properties and genomic resources in seven genera of forest trees used in genomic research programmes 樹木の遺伝子量(genomics size of tree) 針葉樹のゲノムサイズは大きく、それに比べると広葉樹は小さい。 表2:樹木におけるゲノムサイズ 塩基対の数 針葉樹 マツ科 マツ属 トウヒ属 トガサワラ属 21~37Gb 31~40Gb ~37Gb 表3:他の植物におけるゲノムサイズ (参考:Wikipedia) 塩基対の数 シロイヌナズナ 0.13Gb 塩基対の数 A.thaliana ~0.485Gb イネ 広葉樹 ヤナギ科 ポプラ属 Oryza sativa フトモモ科 ユーカリ属 ~1.1Gb コナラ属 クリ属 ~1.14-2Gb ~1.53-1.63Gb ブナ科 0.39Gb 変異体を用いた実験 (experiment using mutants) •花成にかかわる遺伝子の変異体を持つシロイヌナズナ (A.thaliana)は花成が遅れたり、花成が起きなかった 図1:左側が野生種 右側が花成促進遺伝子変異体 参考:京都大学大学院 生命科学研究科 分子代謝制御学分野 (http://www.lif.kyoto-u.ac.jp/labs/plantdevbio/res_flower2.html) 樹木において遺伝子を調べる目的 (the purpose of researching in the gene of tree ) ①短いサイクルの中で高密度の栽培が可能となるように 遺伝的に改良すること ②今後の環境変動への適応性や、病虫害への抵抗性を高 めること ③樹木の形質などを、遺伝的に改良をすることによって 木材製品の質と生産性を向上させること ④遺伝子の機能を理解し、その機能と表現型とがどう関 係しているかを知ること 林木育種事業や自然資源の管理などに 応用することを目的とされている • はじめに • 樹木の遺伝子資源 ・なぜ遺伝的研究の進歩は遅れたか ・樹木において遺伝子を調べる意義 • 林木育種事業 ・林木育種事業の目標 ・海外の林木育種 ・日本の林木育種 ・林木育種事業における育種効率改善の取組 • 自然資源の保全・保護・管理 ・樹木の地理的変異 • まとめ 林木育種事業(forest tree breading) ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ 天然林から遺伝型や表現型を基に個体を選抜する 選抜した木から種や穂木を集める 育種樹木園の設立 選抜した木の次代検定 検定を基に、親か次代検定林から選抜する 収穫や接ぎ木を行う 図2:林木育種の流れ 林木育種事業の目標 (purpose of forest tree breeing ) •選抜と検定を繰り返すことで ① 形質の良い個体を得ること ② 予期せぬ生物、非生物によるストレスに対して強い集 団を作る。 海外の林木育種事業 (forest tree breeing in abroad) • 歴史 導入されて100年に満たないうえに、樹木は生育期間が長い ため、少数の種しか行われていない。 • 現状 南アメリカのマツにおいて、早いところでは3代目の検定と育 種に入っている 日本の林木育種 (forest tree breeing in Japan) • 歴史: 昭和27年(1952年)にスウェーデンの教授によって精英 樹育種選抜の考え方が導入された。 • 海外との違い 海外:単位時間当たりの改良度合いを大きくすること 日本:選抜の確実さ 海外:8~15年で検定(伐期は40~80年) 日本:20~30年、最大50年(伐期)で検定 •日本の採種園では改良第一世代、精英樹ではようやく第2世代 参考:森林技術 No.820 2010.7 「林木育種の高速化」 繁殖周期の短縮(reducing of breeding cycle) •繁殖周期を早めることで効率の良い育種が可能 •強制着花技術によって早期に種子を作ることでより効率 が良くなる •近年、シロイヌナズナなどのモデル植物において、花成に関 する遺伝的経路がわかってきている。 •樹木における花成に関する遺伝的背景の理解により強制着 花技術は進歩する可能性がある。 シロイヌナズナにおける花成の経路 (flowering pathway in A.thaliana) 春化や光周性によって促進される経路など 様々な事がわかってきている • 図3:シロイヌナズナにおける花成経路 引用元:Flowering: a time for integration(Int. J. Dev. Biol. 49: 585-593 (2005)) マーカー利用選抜 (Marker assisted selection) • DNAを抽出してDNAマーカーの遺伝子型を調査することによ り選抜固体を特定する • 幼苗期に葉からDNAを抽出してDNAマーカーの遺伝子型を 調査することにより早期に選抜固体を特定することが可能と なる マーカー利用選抜の欠点 (defect of marker assisted selection) • 選抜を目的とする形質と密接に関連するDNAマーカーがわ かっている時のみしか使えない • 病虫害抵抗性などの質的形質においては遺伝子の発現(遺 伝子型)と形質(表現型)の関係が分かっているものがある。 しかし、樹高などの量的形質においては、遺伝型と表現型の 関係が複雑なので、あまり利用が進んでいない 図4:林木育種の流れ 自然資源の保全・保護・管理 (conservation, restoration and management of natural resources) • 樹木において遺伝的研究が進められてきたのはほとんどが 経済的価値のある種である • 地理的変動や生物間相互作用を知るためにも生態系にとっ て重要な種について研究がなされていない(熱帯雨林など) しかし、近年、気候変動などにより、自然資源の環境適応性 などについての関心が高まってきた 自然資源の保全・保護・管理 (conservation, restoration and management of natural resources) 1. 過去に起きた環境変動において、樹木がどのように適応し たか 2. 地理的な変異から生じる環境の変異に樹木がどのように適 応しているか この2点についての遺伝的情報を知ることにより、将来起こりうる環 境変動から自然資源を保全する 樹木の地理的変異① (geographic variation in forest tree) • 樹木がどのような地理的変異を持っているか、産地試験によ って調べられてきた しかし • 産地試験のデータの信頼性は実験期間や産地の種類の数 や集団の遺伝的多様性に依存するため、莫大な資金と時間 が必要であった 樹木の地理的変異② (geographic variation in forest tree) • 地理的変異によって遺伝的構造の違いがあることが発見さ れたことで、樹木の動態や定着のパターンがより簡単に分か った。 • GISなどによる地誌的情報と遺伝的情報を組み合わせること により、過去に起こった個体の移動について現在研究が進 んでいる。 まとめ • 遺伝子の解析技術がより進歩することで、更なる発展が期 待される分野である • 経済的価値のある種ばかりだけでなく生態系価値のある種 において研究が進められる必要があり そのためにも多くの関心と資金が提供されるべきである 参考文献 • Forest tree genomics: growing resources and applications(Nature Review Genetics 12:111-122) • Flowering: a time for integration(Int. J. Dev. Biol. 49: 585-593 (2005)) • 京都大学大学院 生命科学研究科 分子代謝制御学分野 (http://www.lif.kyoto-u.ac.jp/labs/plantdevbio/res_flower2.html) • 森林技術 No.820 2010.7 「林木育種の高速化」
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