図書館とメディアの歴史 担当:後藤嘉宏 第4回(くらい)配付資料(4-2古代 ローマ) 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 1 ローマ時代の読書(1/14) • BC2-3世紀は、書物はほとんどギリシア語の もの。しかも喜劇作家のネタ本(C20) • BC2-1世紀、戦利品としてのギリシアの書物 • 捕ってきた将軍の私邸に置かれ、教養階層 がそこに寄りつく私的な図書館(C21) • 帝政期、識字率の向上(C21) • CODEX(冊子本)の登場・・・読書の民主化に 照応(C21) 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 2 ローマ時代の読書(2/14) • キケロ(BC106-BC43)の蔵書(C78) • 整理の際、ギリシア語の書物とラテン語の書 物とを分ける。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 3 キケロ(BC106-BC43)について • キケロはローマの演説家、政治家、哲学者。 カエサル暗殺を支持し、カエサル没後はオク タビアヌスを支持し、アントニウスに暗殺され る。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 4 キケロ像 • • http://www.worldlyphilosophers.com/may20_cicero.htm http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/40/Cicero__Musei_Capitolini.JPG 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 5 キケロ著『友情について』 (岩波文庫)より • 「友情に値する者とは、愛される理由を備え ている人のことである。これが稀なのだ。実際 素晴らしいものは全て稀だし、その範疇の中 でどこから見ても完璧なものを見つけること ほど難しいことはないのだ。/ それなのに大 方の人は人間の問題でも、善きものといえば 利益をもたらすものしか思いつかず、友人も 家畜を見るのと同じで、最大の利益を得られ そうな人を最優先で愛するのだ」(66)。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 6 キケロ著『老年について』 岩波文庫、より(1/2) • 「わしも昼となく夜となく、国の内外で大層な 苦労を引き受けたが、もしもわしの誉れがわ しの人生と同じ終わりで限られるはずのもの なら、そこまでしたと思うかね。・・・しかしどう いうわけか、わしの魂は背伸びをして、この 世から立ち去った時にこそ初めて真に生きる ことになるとでもいうかのように、絶えず後の 世を見つめてきた」(75)。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 7 キケロ著『老年について』 岩波文庫、より(2/2) • 「実際、魂が不死であるという事情がもしない のであれば、最も秀れた人の魂こそが不死の 誉れを求めて最大限の努力をする、というこ ともないであろう」(75)。 • 「しかし仮りに、われわれは不死なるものにな れそうもないとしても、やはり人間はそれぞれ ふさわしい時に消え去るのが望ましい。自然 は他のあらゆるものと同様、生きるということ についても限度を持っているのだから」(78)。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 8 キケロ著『弁論家について』 • 「鉄筆(ステイルス)こそ弁論の最も優れた、 最も卓越した創造者であり、教師なのである 。・・・なぜなら、即席のその場その場の弁論 は考え抜かれ準備の行き届いた弁論には容 易に屈するからである。しかし、この考え抜か れ準備の行き届いた弁論もかならずや入念 細心に推敲された書き物には凌駕されること であろう」(上巻90-91)。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 9 岩波文庫のキケロの著作の数々 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 10 個人所有図書館(書庫)としての キケロの蔵書 • フォルシュティウスほかは、ローマの個人所 有図書館のうち最も重要なものをキケロの図 書館並びにキケロ周辺に求めている。「もっと も重要なのは、この時代の文学界につき貴重 な記録を書翰として残したキケロの私有図書 館、キケロ、ヴェルギリウスおよび古代ローマ が生んだ真に偉大な最初の学者ヴァロの友 人でこれらの著作を公開しているアッティクス の図書館である」(『図書館史要説』8)。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 11 奴隷の司書労働に支えられた キケロの蔵書1/2 • 「彼や友人のアッティクスがもっていた蔵書群 は非常に大きくて錯綜としていたから、熟練し た者による組織づけと専門のスタッフによる 維持管理が必要だった。・・・キケロやアッティ クスは、高度に訓練されたギリシア人奴隷を 、自分の図書館員として使っていたのである 。彼らの多くは写本作りに熟達していた。・・・ 例えばキケロの抱える人員は、キケロが友人 や同僚たちに配布する彼の著作の写本を生 産した」(カッソン『図書館の誕生』105)。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 12 奴隷の司書労働に支えられた キケロの蔵書2/2 • 書店はあったが、書籍を入手する最後の手 段であった。「借用した本から自分のスタッフ が製作した写本であれば、正確であることを チェックすることが可能だった。しかし書籍商 から入手した写本はそれができなかった。・・・ (キケロは弟に書簡で語る)「・・・写本は間違 いだらけで作られ、売られているのだ」」(カッ ソン116)。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 13 ローマ時代の読書(3/14) • 共和制時代(BC509-BC27)の言語別の分業 ギリシア語の蔵書 エピクロス派の哲学が ほとんど・・・専門的な性格 ラテン語の蔵書 娯楽的な要求に応える (C79)→中世のラテン語と逆の位置。 • 帝政時代(BC27-AD285) 質の高いラテン語の巻子本 AD1~2世紀、ローマで読者層が増大 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 14 ローマ時代の読書(4/14) • 公共図書館(この訳語が図書館学的に適切か疑問ですが。「公衆浴場」に併 せて「公衆図書館」が適訳か)の増大 • 制度的に全ての人に開かれていた点でギリシア の図書館とは違う。 • しかし学者の利用がほとんど。私的な蔵書を持 つ人々が図書館に通う→読者層の増大に繋が らない。 • 皇帝の側の公共図書館、建築理由・・・記念碑的 な建造物、歴史的な記録の保存(古文書館を兼 ねていた)、文学作品を篩いにかけて遺産として 残す(C22)。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 15 ローマ時代の読書(5/14) • アポロン図書館・・・アウグストゥス(在位 BC27-AD14)パラティヌス丘に(C84) • ウルピア図書館・・・トラヤヌス帝(在位AD98117)トラヤヌス広場に 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 16 アポロン図書館のあった パラティーノの丘 http://blog-imgs-14.fc2.com/a/l/s/alsa/2007_0427stras0536.jpgよりパラティーノの丘 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 17 ウルピノ図書館のあった トラヤヌス広場 • http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4e/Trajan_Forum.jpgよりトラヤヌスの広場 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 18 ローマ時代の読書(6/14) • 公共図書館の選択が、権力側が望ましくないと 考えるオヴィディウスなどの書物に対する、事実 上検閲的機能を果たすこともあった(C23)。 • しかしそういう作品こそ、人々が買い続け、転写 し続け、作品を逆に長持ちさせた(C23)。 • オヴィディウス(BC43-AD12)の『恋愛術』第3 巻・・・女性のみを読者層に・・・女性読者が増え ていた証拠(C24) • また娯楽やゲームの方法についての書物が出 ていたことを、オヴィディウスは伝えている→読 者層の増大と変化(C24)。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 19 (補足)オヴィディウス(BC43-AD12)について ウィキペディア情報 • エロティシズム溢れる恋愛詩を多く残し、ラテン 文学の黄金期を代表する詩人の一人に数えら れる。しかし同時代人であるウェルギリウスやホ ラティウスたちがアウグストゥス、マエケナスの庇 護の元で詩作を行なったのに対して、オウィディ ウスは終始そうした庇護を受けることはなかった。 • その後彼は『愛の歌』をギリシア神話を参考に書 いたが、あまりに露骨な性的描写が多かったた め、実際に読んだアウグストゥス帝が激怒し、紀 元8年、黒海沿岸の僻地であるトミス(現在のコ ンスタンツァ)へ流されそこで没した。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 20 オヴィディウスの画像 • http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/bb/Publius_Ovidius_Naso.jpg http://www.romaniatabi.jp/cities/constanta/constanta05.jpg 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 21 (補足)オヴィディウスの 中世への伝達 • このようなアウグストゥスを怒らせたオヴィディウス であるが、中世の修道院で後世に伝えられた。「遠 いむかしのこの時代の修道士たちが、今日では消 え失せてしまった原本を書き写しておかなかったな らば、われわれが今日もっている、古代ローマ以来 の蓄積拡大された知識も、ほとんど伝えられてはこ なかったことであろう。ルクレティウスやオヴィディウ スの原本を書き写しながら、修道士たちはどんな感 情を抱いたことだろうか。この生々しい官能に満ち た叙述は、彼らをさぞかし刺激したに違いない」(マ ソンほか『図書館』クセジュ文庫、20-21)。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 22 オヴィディウス『恋愛指南』 岩波文庫より(1/3) • 第1巻より「誰も邪魔だてする者がいないの だから、気に入った女性の隣に座りたまえ。 その女の脇腹にできるだけ君の脇腹をくっつ けるのだ」「よくあることだが、お目当ての助 成の膝に塵が落ちかかるようなことがあった ら、指で払い取ってやらねばならぬ。たとえも し塵など全然落ちかかってこなくても、やはり ありもせぬ塵を払い取ってやりたまえ」(15)。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 23 オヴィディウス『恋愛指南』 岩波文庫より(2/3) • 第2巻より「愛のいとなみそのものについても 、それが気持ちよかったと褒め称えてもいい し、夜ひそかに味わった喜びを褒めてもいい 。・・・ただこんな具合にことばをあやつってい るうちに、それが君の本心ではないことがば れないように、用心することだ」(70)。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 24 オヴィディウス『恋愛指南』 岩波文庫より(3/3) • 第3巻より。「ここから先は教えるのが恥ずか しい。・・・女たるもの、それぞれがおのれを知 らなくてはならぬ。姿態は、からだつきに応じ て確かなものをとるがいい。・・・美貌が目に 立つ女は、仰向けに寝るがよかろう。背中に 自信がある女は、後ろから見てもらうがよい。 ・・・脚がきれいなら、こういう姿勢で脚を見せ なければならない」(141)。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 25 オヴィディウス『恋愛指南』の岩波文庫解 説より • 詩法になぞらえた、恋愛法 • 教訓詩の形式を採っていて、当時の人々に はパロディ効果があった。 • 本書の刊行後10年経て、アウグストゥスが、 これを理由にオヴィディウスを流刑に。 • 中世に大きな影響。なぜだか、中世的愛の一 つの源流に。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 26 オヴィディウスの著書、岩波文庫・ 表紙 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 27 ローマ時代の読書(7/14) • 当時の一般的読書・・・場合によって立って身振りや 身体の動きを伴い得る音読(C84)。 • 他方、公共図書館での読書・・・みつけにくい作品を 探したり、照合確認したり、断片的にそそくさと読む ためのもの。(→断片読みがこのとき既に一般的?) (音読=ストーリーということからすると、たとえ黙読 であっても音読の影響の強いこの時期にしては不 思議) • 待ち合わせの場、都市の生活空間としての図書館 機能 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 28 ローマの図書館についての 補足情報 • 「図書館は、そこへ写本を調べにくる学識者 たちのたまり場でもあった。しかしまた資料を 家に借り出すこともできた。アウルス・ゲリウ スはティポリの友人の家で夕食をとりながら、 たまたま食卓に出された水の性質について 論争が展開された。招待客の一人はテーブ ルを立って、町の図書館に行き、アリストテレ スの本を持ち帰り、その論争に決定的な一節 を読み上げた」(マソンほか『図書館』クセジュ 文庫、19)。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 29 ローマ時代の読書(8/14) • 公共図書館の利用者は私的な書物の所有者 • 大浴場付属のマイナーな図書館・・・娯楽書 • 蔵書・・・西暦0年頃から、読めなくても所有す る者増える・・・ステータスシンボル。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 30 ローマ時代の読書(9/14) • ルキアノス(歴史の項で授業で取り上げた) • 読む能力、理解力がないと、買っても無意味 な財としての書物。演奏技術と高価な楽器と の関係に喩える。 • (他の財は買えば身に付く、本は買ってもチッ プスと違って脳に組み込めないという違いを 指摘するジャック・アタリの先駆?) 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 31 ルキアノスの肖像 • http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/90/Lucianus.jpgより17世紀のルキアノ ス像www.ostia-antica.org/photo/sculpt10.jpgよりローマ国立博物館のルキアノス(推定)像 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 32 ルキアノス「無学なる書籍収集家に与ふ」 (岩波文庫『神々の対話』所収)1/2 • 「もし、君が、あれだけ多くの古人の書物を包蔵する 書庫そのものが教養があると考えないなら、君は何 のために本を買うのだ」(281) • 「我々の間にだって、ストア派の哲学者エピクテート スの土で出来て居る燭台を十万円ほどで買った人 があったのだし・・・。その人は恐らく夜その燭台の 下で読書をしたら、忽ち眠っている間にエピクテート スの智恵を授かり、あの尊敬すべき老人と同じよう になると信じていたのだ」(286-7)。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 33 ルキアノス「無学なる書籍収集家に与ふ」(岩波 文庫『神々の対話』所収)2/2 • 「禿頭の人が櫛を、盲人が鏡を、聾が笛吹を 、大陸に住む者が櫂を買うのと少しも変りな いのだからね。まさか君のしていることは君 の富を証明するためで、君にとって全然用の ないものにまで、有り余る財産の中から金を 使うのだということを、世の中の人々に見せ たいのではあるまいね」(289)。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 34 ローマ時代の読書(10/14) • 書物の生産の場・・・貴族の邸宅 • 書店の存在・・・学問的な会話の場でもある • BC2-3世紀・・・本を読む=書台で巻子本を読 む • この時代は読むことの前に書くことが学ばれ た(C87)。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 35 ローマ時代の読書(11/14) • 巻子本から冊子本への流れ • 特にキリスト教関連の書物が冊子本として現れる (C24) • 巻子本・・・奴隷労働、高価な職人の工房、エジプトか ら輸入したパピルス • 冊子本・・・羊皮紙(どの地域にも羊はいた)、専門的 な手仕事を必要としない。販売のための輸送も楽。新 たな販路の開拓。 • 参照によって読まれる法律文献や、集中して読まれる べきキリスト教文献に適合した形態(C25)。 • 読者層の変化・広がりと形態の変化が照応(C25)。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 36 ローマ時代の読書(12/14) • 冊子本と書き込み(C110-111) • 冊子本・・・巻子本と異なって、片手が空く。→ その手で書くことが可能に→読むと同時に余 白に書き込みが出来るように。 • カシオドルス(480-570)による、読書註解を書 き並べる方法の理論化→中心を成す本文と 附属のテクストを同時に関連付けながら読む 読みを課す 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 37 カシオドルスの肖像 (カシオドルスの経歴等は中世の方で) http://www.italicapress.com/Cassiodorus.jpg 及びkjc-ws2.kjc.uni-heidelberg.de/.../zurich-list 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 38 ローマ時代の読書(13/14) • 冊子本と断片読み・・・巻子本に較べ全体を 見通せない・・・ページで視線が区切られる→ 最初、ページ毎の読み、ついで、テクストの区 分ごとの読み→読者にとっての意味を明確に する作用(C111) 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 39 ローマ時代の読書(14/14) • 区切り入り写本codices distincti「テクストの受 容を個人次第のものではなくし、一定の解釈 法-承認された権威による解釈法-によって 規制する」 • 区切り(distinctiones)-句読点や区切り記号 が意味に至る道と、カシオドルス(C112) • →こういった装置は中井流には中世の写本 時代の解釈の独占といえる? 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 40 ローマ時代の書物1/2 • ローマ時代の作家の収入はパトロンの保護。パ トロンは献辞の名宛人〔G20〕 • 出版はローマも中世も図書館が担う。(有力者の 私邸というシャルチエらと食い違うが、私邸→蔵 書→図書館)アレクサンドリアのムーセイオン、 ペルガモンの図書館(羊皮紙の説明で先述)など 〔G20〕。言語学者が多数の手写本からテキスト を校訂する。各テキストについて唯一の手本(前 原型本)が定められ、これに基づいて、販売用写 本が作られ、全グレコ-ローマに販売される。 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 41 ローマ時代の書物2/2 • ウィキペディアによると、ムセイオン(ギリシャ 語:Μουσείον、ラテン文字表記:Mouseion) musiumの語源。アレクサンドリア図書館もそ このムセイオンの所属。 • ローマ人 皮紙 教科書や法律書に • パピルス 文学に 〔G23〕 2016/7/8 図書館とメディアの歴史 42
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