media_history_20150506_a

図書館とメディアの歴史
担当:後藤嘉宏
第4回(くらい)配付資料(4-2古代
ローマ)
2016/7/8
図書館とメディアの歴史
1
ローマ時代の読書(1/14)
• BC2-3世紀は、書物はほとんどギリシア語の
もの。しかも喜劇作家のネタ本(C20)
• BC2-1世紀、戦利品としてのギリシアの書物
• 捕ってきた将軍の私邸に置かれ、教養階層
がそこに寄りつく私的な図書館(C21)
• 帝政期、識字率の向上(C21)
• CODEX(冊子本)の登場・・・読書の民主化に
照応(C21)
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図書館とメディアの歴史
2
ローマ時代の読書(2/14)
• キケロ(BC106-BC43)の蔵書(C78)
• 整理の際、ギリシア語の書物とラテン語の書
物とを分ける。
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キケロ(BC106-BC43)について
• キケロはローマの演説家、政治家、哲学者。
カエサル暗殺を支持し、カエサル没後はオク
タビアヌスを支持し、アントニウスに暗殺され
る。
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4
キケロ像
•
•
http://www.worldlyphilosophers.com/may20_cicero.htm
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/40/Cicero__Musei_Capitolini.JPG
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キケロ著『友情について』
(岩波文庫)より
• 「友情に値する者とは、愛される理由を備え
ている人のことである。これが稀なのだ。実際
素晴らしいものは全て稀だし、その範疇の中
でどこから見ても完璧なものを見つけること
ほど難しいことはないのだ。/ それなのに大
方の人は人間の問題でも、善きものといえば
利益をもたらすものしか思いつかず、友人も
家畜を見るのと同じで、最大の利益を得られ
そうな人を最優先で愛するのだ」(66)。
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キケロ著『老年について』
岩波文庫、より(1/2)
• 「わしも昼となく夜となく、国の内外で大層な
苦労を引き受けたが、もしもわしの誉れがわ
しの人生と同じ終わりで限られるはずのもの
なら、そこまでしたと思うかね。・・・しかしどう
いうわけか、わしの魂は背伸びをして、この
世から立ち去った時にこそ初めて真に生きる
ことになるとでもいうかのように、絶えず後の
世を見つめてきた」(75)。
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キケロ著『老年について』
岩波文庫、より(2/2)
• 「実際、魂が不死であるという事情がもしない
のであれば、最も秀れた人の魂こそが不死の
誉れを求めて最大限の努力をする、というこ
ともないであろう」(75)。
• 「しかし仮りに、われわれは不死なるものにな
れそうもないとしても、やはり人間はそれぞれ
ふさわしい時に消え去るのが望ましい。自然
は他のあらゆるものと同様、生きるということ
についても限度を持っているのだから」(78)。
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8
キケロ著『弁論家について』
• 「鉄筆(ステイルス)こそ弁論の最も優れた、
最も卓越した創造者であり、教師なのである
。・・・なぜなら、即席のその場その場の弁論
は考え抜かれ準備の行き届いた弁論には容
易に屈するからである。しかし、この考え抜か
れ準備の行き届いた弁論もかならずや入念
細心に推敲された書き物には凌駕されること
であろう」(上巻90-91)。
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岩波文庫のキケロの著作の数々
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個人所有図書館(書庫)としての
キケロの蔵書
• フォルシュティウスほかは、ローマの個人所
有図書館のうち最も重要なものをキケロの図
書館並びにキケロ周辺に求めている。「もっと
も重要なのは、この時代の文学界につき貴重
な記録を書翰として残したキケロの私有図書
館、キケロ、ヴェルギリウスおよび古代ローマ
が生んだ真に偉大な最初の学者ヴァロの友
人でこれらの著作を公開しているアッティクス
の図書館である」(『図書館史要説』8)。
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奴隷の司書労働に支えられた
キケロの蔵書1/2
• 「彼や友人のアッティクスがもっていた蔵書群
は非常に大きくて錯綜としていたから、熟練し
た者による組織づけと専門のスタッフによる
維持管理が必要だった。・・・キケロやアッティ
クスは、高度に訓練されたギリシア人奴隷を
、自分の図書館員として使っていたのである
。彼らの多くは写本作りに熟達していた。・・・
例えばキケロの抱える人員は、キケロが友人
や同僚たちに配布する彼の著作の写本を生
産した」(カッソン『図書館の誕生』105)。
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奴隷の司書労働に支えられた
キケロの蔵書2/2
• 書店はあったが、書籍を入手する最後の手
段であった。「借用した本から自分のスタッフ
が製作した写本であれば、正確であることを
チェックすることが可能だった。しかし書籍商
から入手した写本はそれができなかった。・・・
(キケロは弟に書簡で語る)「・・・写本は間違
いだらけで作られ、売られているのだ」」(カッ
ソン116)。
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ローマ時代の読書(3/14)
• 共和制時代(BC509-BC27)の言語別の分業
ギリシア語の蔵書 エピクロス派の哲学が
ほとんど・・・専門的な性格
ラテン語の蔵書 娯楽的な要求に応える
(C79)→中世のラテン語と逆の位置。
• 帝政時代(BC27-AD285)
質の高いラテン語の巻子本
AD1~2世紀、ローマで読者層が増大
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ローマ時代の読書(4/14)
• 公共図書館(この訳語が図書館学的に適切か疑問ですが。「公衆浴場」に併
せて「公衆図書館」が適訳か)の増大
• 制度的に全ての人に開かれていた点でギリシア
の図書館とは違う。
• しかし学者の利用がほとんど。私的な蔵書を持
つ人々が図書館に通う→読者層の増大に繋が
らない。
• 皇帝の側の公共図書館、建築理由・・・記念碑的
な建造物、歴史的な記録の保存(古文書館を兼
ねていた)、文学作品を篩いにかけて遺産として
残す(C22)。
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ローマ時代の読書(5/14)
• アポロン図書館・・・アウグストゥス(在位
BC27-AD14)パラティヌス丘に(C84)
• ウルピア図書館・・・トラヤヌス帝(在位AD98117)トラヤヌス広場に
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アポロン図書館のあった
パラティーノの丘
http://blog-imgs-14.fc2.com/a/l/s/alsa/2007_0427stras0536.jpgよりパラティーノの丘
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ウルピノ図書館のあった
トラヤヌス広場
•
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4e/Trajan_Forum.jpgよりトラヤヌスの広場
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ローマ時代の読書(6/14)
• 公共図書館の選択が、権力側が望ましくないと
考えるオヴィディウスなどの書物に対する、事実
上検閲的機能を果たすこともあった(C23)。
• しかしそういう作品こそ、人々が買い続け、転写
し続け、作品を逆に長持ちさせた(C23)。
• オヴィディウス(BC43-AD12)の『恋愛術』第3
巻・・・女性のみを読者層に・・・女性読者が増え
ていた証拠(C24)
• また娯楽やゲームの方法についての書物が出
ていたことを、オヴィディウスは伝えている→読
者層の増大と変化(C24)。
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(補足)オヴィディウス(BC43-AD12)について
ウィキペディア情報
• エロティシズム溢れる恋愛詩を多く残し、ラテン
文学の黄金期を代表する詩人の一人に数えら
れる。しかし同時代人であるウェルギリウスやホ
ラティウスたちがアウグストゥス、マエケナスの庇
護の元で詩作を行なったのに対して、オウィディ
ウスは終始そうした庇護を受けることはなかった。
• その後彼は『愛の歌』をギリシア神話を参考に書
いたが、あまりに露骨な性的描写が多かったた
め、実際に読んだアウグストゥス帝が激怒し、紀
元8年、黒海沿岸の僻地であるトミス(現在のコ
ンスタンツァ)へ流されそこで没した。
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図書館とメディアの歴史
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オヴィディウスの画像
•
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/bb/Publius_Ovidius_Naso.jpg
http://www.romaniatabi.jp/cities/constanta/constanta05.jpg
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(補足)オヴィディウスの
中世への伝達
• このようなアウグストゥスを怒らせたオヴィディウス
であるが、中世の修道院で後世に伝えられた。「遠
いむかしのこの時代の修道士たちが、今日では消
え失せてしまった原本を書き写しておかなかったな
らば、われわれが今日もっている、古代ローマ以来
の蓄積拡大された知識も、ほとんど伝えられてはこ
なかったことであろう。ルクレティウスやオヴィディウ
スの原本を書き写しながら、修道士たちはどんな感
情を抱いたことだろうか。この生々しい官能に満ち
た叙述は、彼らをさぞかし刺激したに違いない」(マ
ソンほか『図書館』クセジュ文庫、20-21)。
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図書館とメディアの歴史
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オヴィディウス『恋愛指南』
岩波文庫より(1/3)
• 第1巻より「誰も邪魔だてする者がいないの
だから、気に入った女性の隣に座りたまえ。
その女の脇腹にできるだけ君の脇腹をくっつ
けるのだ」「よくあることだが、お目当ての助
成の膝に塵が落ちかかるようなことがあった
ら、指で払い取ってやらねばならぬ。たとえも
し塵など全然落ちかかってこなくても、やはり
ありもせぬ塵を払い取ってやりたまえ」(15)。
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オヴィディウス『恋愛指南』
岩波文庫より(2/3)
• 第2巻より「愛のいとなみそのものについても
、それが気持ちよかったと褒め称えてもいい
し、夜ひそかに味わった喜びを褒めてもいい
。・・・ただこんな具合にことばをあやつってい
るうちに、それが君の本心ではないことがば
れないように、用心することだ」(70)。
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オヴィディウス『恋愛指南』
岩波文庫より(3/3)
• 第3巻より。「ここから先は教えるのが恥ずか
しい。・・・女たるもの、それぞれがおのれを知
らなくてはならぬ。姿態は、からだつきに応じ
て確かなものをとるがいい。・・・美貌が目に
立つ女は、仰向けに寝るがよかろう。背中に
自信がある女は、後ろから見てもらうがよい。
・・・脚がきれいなら、こういう姿勢で脚を見せ
なければならない」(141)。
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オヴィディウス『恋愛指南』の岩波文庫解
説より
• 詩法になぞらえた、恋愛法
• 教訓詩の形式を採っていて、当時の人々に
はパロディ効果があった。
• 本書の刊行後10年経て、アウグストゥスが、
これを理由にオヴィディウスを流刑に。
• 中世に大きな影響。なぜだか、中世的愛の一
つの源流に。
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オヴィディウスの著書、岩波文庫・
表紙
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ローマ時代の読書(7/14)
• 当時の一般的読書・・・場合によって立って身振りや
身体の動きを伴い得る音読(C84)。
• 他方、公共図書館での読書・・・みつけにくい作品を
探したり、照合確認したり、断片的にそそくさと読む
ためのもの。(→断片読みがこのとき既に一般的?)
(音読=ストーリーということからすると、たとえ黙読
であっても音読の影響の強いこの時期にしては不
思議)
• 待ち合わせの場、都市の生活空間としての図書館
機能
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図書館とメディアの歴史
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ローマの図書館についての
補足情報
• 「図書館は、そこへ写本を調べにくる学識者
たちのたまり場でもあった。しかしまた資料を
家に借り出すこともできた。アウルス・ゲリウ
スはティポリの友人の家で夕食をとりながら、
たまたま食卓に出された水の性質について
論争が展開された。招待客の一人はテーブ
ルを立って、町の図書館に行き、アリストテレ
スの本を持ち帰り、その論争に決定的な一節
を読み上げた」(マソンほか『図書館』クセジュ
文庫、19)。
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図書館とメディアの歴史
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ローマ時代の読書(8/14)
• 公共図書館の利用者は私的な書物の所有者
• 大浴場付属のマイナーな図書館・・・娯楽書
• 蔵書・・・西暦0年頃から、読めなくても所有す
る者増える・・・ステータスシンボル。
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図書館とメディアの歴史
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ローマ時代の読書(9/14)
• ルキアノス(歴史の項で授業で取り上げた)
• 読む能力、理解力がないと、買っても無意味
な財としての書物。演奏技術と高価な楽器と
の関係に喩える。
• (他の財は買えば身に付く、本は買ってもチッ
プスと違って脳に組み込めないという違いを
指摘するジャック・アタリの先駆?)
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図書館とメディアの歴史
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ルキアノスの肖像
•
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/90/Lucianus.jpgより17世紀のルキアノ
ス像www.ostia-antica.org/photo/sculpt10.jpgよりローマ国立博物館のルキアノス(推定)像
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ルキアノス「無学なる書籍収集家に与ふ」
(岩波文庫『神々の対話』所収)1/2
• 「もし、君が、あれだけ多くの古人の書物を包蔵する
書庫そのものが教養があると考えないなら、君は何
のために本を買うのだ」(281)
• 「我々の間にだって、ストア派の哲学者エピクテート
スの土で出来て居る燭台を十万円ほどで買った人
があったのだし・・・。その人は恐らく夜その燭台の
下で読書をしたら、忽ち眠っている間にエピクテート
スの智恵を授かり、あの尊敬すべき老人と同じよう
になると信じていたのだ」(286-7)。
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ルキアノス「無学なる書籍収集家に与ふ」(岩波
文庫『神々の対話』所収)2/2
• 「禿頭の人が櫛を、盲人が鏡を、聾が笛吹を
、大陸に住む者が櫂を買うのと少しも変りな
いのだからね。まさか君のしていることは君
の富を証明するためで、君にとって全然用の
ないものにまで、有り余る財産の中から金を
使うのだということを、世の中の人々に見せ
たいのではあるまいね」(289)。
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図書館とメディアの歴史
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ローマ時代の読書(10/14)
• 書物の生産の場・・・貴族の邸宅
• 書店の存在・・・学問的な会話の場でもある
• BC2-3世紀・・・本を読む=書台で巻子本を読
む
• この時代は読むことの前に書くことが学ばれ
た(C87)。
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ローマ時代の読書(11/14)
• 巻子本から冊子本への流れ
• 特にキリスト教関連の書物が冊子本として現れる
(C24)
• 巻子本・・・奴隷労働、高価な職人の工房、エジプトか
ら輸入したパピルス
• 冊子本・・・羊皮紙(どの地域にも羊はいた)、専門的
な手仕事を必要としない。販売のための輸送も楽。新
たな販路の開拓。
• 参照によって読まれる法律文献や、集中して読まれる
べきキリスト教文献に適合した形態(C25)。
• 読者層の変化・広がりと形態の変化が照応(C25)。
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ローマ時代の読書(12/14)
• 冊子本と書き込み(C110-111)
• 冊子本・・・巻子本と異なって、片手が空く。→
その手で書くことが可能に→読むと同時に余
白に書き込みが出来るように。
• カシオドルス(480-570)による、読書註解を書
き並べる方法の理論化→中心を成す本文と
附属のテクストを同時に関連付けながら読む
読みを課す
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カシオドルスの肖像
(カシオドルスの経歴等は中世の方で)
http://www.italicapress.com/Cassiodorus.jpg 及びkjc-ws2.kjc.uni-heidelberg.de/.../zurich-list
2016/7/8
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ローマ時代の読書(13/14)
• 冊子本と断片読み・・・巻子本に較べ全体を
見通せない・・・ページで視線が区切られる→
最初、ページ毎の読み、ついで、テクストの区
分ごとの読み→読者にとっての意味を明確に
する作用(C111)
2016/7/8
図書館とメディアの歴史
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ローマ時代の読書(14/14)
• 区切り入り写本codices distincti「テクストの受
容を個人次第のものではなくし、一定の解釈
法-承認された権威による解釈法-によって
規制する」
• 区切り(distinctiones)-句読点や区切り記号
が意味に至る道と、カシオドルス(C112)
• →こういった装置は中井流には中世の写本
時代の解釈の独占といえる?
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図書館とメディアの歴史
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ローマ時代の書物1/2
• ローマ時代の作家の収入はパトロンの保護。パ
トロンは献辞の名宛人〔G20〕
• 出版はローマも中世も図書館が担う。(有力者の
私邸というシャルチエらと食い違うが、私邸→蔵
書→図書館)アレクサンドリアのムーセイオン、
ペルガモンの図書館(羊皮紙の説明で先述)など
〔G20〕。言語学者が多数の手写本からテキスト
を校訂する。各テキストについて唯一の手本(前
原型本)が定められ、これに基づいて、販売用写
本が作られ、全グレコ-ローマに販売される。
2016/7/8
図書館とメディアの歴史
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ローマ時代の書物2/2
• ウィキペディアによると、ムセイオン(ギリシャ
語:Μουσείον、ラテン文字表記:Mouseion)
musiumの語源。アレクサンドリア図書館もそ
このムセイオンの所属。
• ローマ人 皮紙 教科書や法律書に
•
パピルス 文学に 〔G23〕
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図書館とメディアの歴史
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