第8章 痛みとプロスタグランジン なぜ、ヒトは痛みを感じるのでしょうか

第8章
痛みとプロスタグランジン
なぜ、ヒトは痛みを感じるのでしょうか?
例えば、ケガをした場合、最初に皮膚にある痛みを感じるセンサーが反応し
ます。このセンサーは末梢神経線維の末端に存在し、切り傷や針で刺された刺
激、45 ℃以上の熱さ、15 ℃以下の冷たさ、酸やアルカリなどの化学に反応し
ます。
このセンサーが感じた情報は、末梢神経を通って脊髄神経に伝えられ、最終
的に、脳で「痛み」として認識されます。脳はその情報から、痛みの部位、鈍
痛・鋭い痛みの質、痛みの強さを判定します。画ビョウを間違って踏んだ時に、
反射的に足をはねのける逃避行動を起こしたり、鈍く重い痛みを苦々しく感じ
たりすることも、この情報伝達がもととなっています。
次に、「痛い」と感じている傷の場所では、どういう現象が起こっているの
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でしょうか?
1.傷や熱、酸・アルカリの刺激を受けると、細胞が傷つきます。
2.傷ついた細胞から、カリウムが放出されます。それがきっかけとなり、痛
みを感じやすくするプロスタグランジンやロイコトリエンといった、体の働き
を調節する物質が作られます。
3.神経からは、サブスタンス P という痛み増強物質が放出されます。サブス
タンス P によって、傷の痛みや腫れ、赤みなどが増強します。
4.また、血液中の肥満細胞からはセロトニン、血小板からはヒスタミンとい
った、さらなる痛み物質が誘発されます。
5.痛みセンサーはますます興奮し、痛みが拡大します。
拡大した「痛み」情報は、体の損傷や不具合を脳に伝えられ、その対策を立
てるよう脳に促します。痛みがある時には、自然と安静を取り、冷やして炎症
を抑えようとするのは、痛みを感じ取った脳が傷を癒すアクションを起こして
いるからなのです。
組織が損傷を受けた時、細胞膜にあるリン脂質はアラキドン酸に変わり、シ
クロオキシゲナーゼ(COX)の作用によってプロスタグランジンが生成されま
す。このプロスタグランジンの作用によって引き起こされる「痛み、熱、腫れ」
などの症状が引き起こされる現象を炎症といいます。
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一方、組織損傷時に血漿から遊離したブラジキニンは、知覚神経を興奮させ
ることにより、痛みを発生させます。
プロスタグランジンは、ブラジキニンと比較して直接的な発痛作用は弱いの
ですが、ブラジキニンによる発痛を増強させます。
このように疼痛は両者の関わりから起こります。
発痛物質には、ブラジキニン、セ
ロトニン、ヒスタミン、アセチルコ
リンなどがありますが、その中で最
強とされるのはブラジキニンです。
セロトニンは皮膚や筋肉に分布する痛覚受容器に作用して痛みを起こしま
す。
セロトニン濃度が低いと、物理的刺
激や他の発痛物質(たとえばブラジキ
ニン)の発痛作用を増強します。
セロトニンの濃度を急に低下させる
ものはすべて頭痛を起こし、その際、
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絶対的な濃度よりも、減少のスピードが重要となってきます。
プロスタグランジンの合成量を左右しているのは細胞膜にある脂肪酸(リン
脂質)からのアラキドン酸の遊離の程度によります。
細胞に物理的な刺激が加わった場合や炎症などはアラキドン酸が遊離するき
っかけとなるため、いったんプロスタグランジンが産生され、炎症が起きると、
アラキドン酸の遊離が促進され更にプロスタグランジンが産生されるという悪
循環が生じることになります。
これは雪球を坂の上からころがした時にたとえる事が出来ます。、はじめは
小さな雪球でもころがっていくうちにだんだん大きくなっていきます。おそら
く、小さなうちには簡単に止めることが出来るのでしょうが、大きくなり勢い
のついた状態では止めようとしても逆に押し潰されてしまうかもしれません。
炎症の初期にプロスタグランジンの産生をしっかりブロックすることは、痛
みを悪化させないための重要なポイントです。
プロスタグランジンの原料になるのは食物の中に含まれる脂肪です。
プロスタグランジンの原料となる脂肪が多くなる食事
kaolune さんは、ブログ「kaolune の Sweet Days 」で、「生理痛」と「月経時片
頭痛」の異同のなかで、以下のように述べています。
あまり自覚がない女性も多いですが、女性は脂肪分が多いものが好きなので
す。たとえばケーキです。これにはたくさんの脂肪分が含まれているので、1
個食べただけでも相当な脂肪分を体に入れることになります。このほか日常的
に食べるものでも脂肪分が多いのが菓子パンやサンドウィッチなどのパン類で
す。
菓子パンにもサンドウィッチにも油が多い食品が使われているので脂肪分が
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とても多いので、しかも、こういいった食事に含まれている脂肪は質が悪いで
す。
良質な脂肪としては、魚に含まれる油や
アーモンドに含まれる脂分が有名です。
これらの良質な脂肪は体にも必要なもの
なので適量を食べるのが望ましいですが、
市販のケーキやサンドウィッチ・菓子パン
等に含まれる脂肪分はたいていが天然の脂
肪分ではなく合成された質の悪い脂肪分な
ので、体に必要な脂肪分とはとても言えない成分になります。
ですから、市販のパン類全般を常食し、間食はケーキのようなクリーム系の
脂肪分が多い食事が多い現代女性の食事中の脂肪分は過剰になっています。
といっても脂肪分も多く食べても、体の中できちんと消費されるか、食物繊
維が絡め取って便と一緒に体外へ出れば問題ありません。でも、パン類中心の
食事はサラダを食べていたとしても食物繊維が圧倒的に少ないので体外に出す
量も少なく、実際は過剰になってす。中性脂肪としてたまってしまっているの
が現状です。
そして、体の中で消費されずにたまって脂肪分は、プロスタグランジンの原
料になります。体の中には脂肪分があまっていますから、プロスタグランジン
も多くつくられてしまいます。
そのため、多く作られたプロスタ
グランジンは、生理のときに必要以
上に出すぎて、子宮内膜に収縮しな
さいと命令をたくさん送ってしま
い、生理痛がひどくなってしまうの
です。
ですから、脂肪分の多い食事にならないように調整すると、生理痛をやわら
げることにつながります。
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プロスタグランジンとは?
必須脂肪酸であるオメガ3とオメガ6は、全身のさまざまな生理機能を調節
する局所ホルモンの原料になります。この脂肪酸からつくられる局所ホルモン
はエイコサノイドと言われ、「プロスタグランジン」「ロイコトリエン」「トロ
ンボキサン」などの種類があります。
そうした調節物質を、ここではまとめ
て「プロスタグランジン」と呼ぶことにします。
従来のホルモンが特定の内分泌腺でつくられ、全身を支配しているのに対し
て、プロスタグランジンは個々の細胞でつくられ、細胞レベルでの調節を行っ
ています。しかし、その働きはきわめて重要で、身体全体の機能に関係してい
ると言ってもよいほどです。
プロスタグランジンの生成過程と種類
プロスタグランジンは、次のようなプロセスで生成されます。
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図で示したように、必須脂肪酸であるオメガ3とオメガ6が体内で化学変化
を繰り返し、各種の「プロスタグランジン」が生成されていきます。(※食物
として体内に吸収されたオメガ3・オメガ6の大部分は、他の脂肪酸と同じく
燃焼に回されますが、細胞膜からピックアップされた一部がプロスタグランジ
ンに変換されます。)
プロスタグランジンは原料である脂肪酸の違いによって、3つのグループに
分けられます。そして、そのグループ内でさらに複雑な変化をして数十種類の
プロスタグランジンがつくられます。
プロスタグランジンによる生理調節作用
ここで大切なことは、プロスタ
グランジンは大きく3つのグルー
プに分かれ、グループごとに異な
る働きをしているということで
す。なかでも「オメガ3系のEP
A」からつくられるプロスタグラ
ンジンと、「オメガ6系のアラキ
ドン酸」からつくられるプロスタ
グランジンは、相反する働きをし
て細胞機能のバランスをとってい
ます。
もう少し詳しく見てみると、オメガ6系からは2つのグループのプロスタグ
ランジンがつくられ、互いに相反する働きをしています。現在、その材料とな
る「オメガ6」は大量に摂取されています。そのうえ大半の人々は、肉・乳製
品・卵などの動物性食品を多く摂っていますが、そうした食品には直接「アラ
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キドン酸」が含まれています。そのためアラキドン酸由来のプロスタグランジ
ンが大量につくられることになります。つまり1グループ目に比べ、2グルー
プ目のプロスタグランジンだけが過剰に生成され、細胞機能のバランスを欠く
ことになります。
2グループ目のプロスタグランジンと、オメガ3系からつくられる3グルー
プ目のプロスタグランジンも、相反する働きをしています。しかもこの2つは、
オメガ6系のグループ同士より強力な競合関係にあり、一方が大量につくられ
ると、他方はその分だけつくられなくなります。ということは、現在のような
「オメガ3欠乏」の状態では、圧倒的に「アラキドン酸」由来のプロスタグラ
ンジンが生成されることになるのです。「オメガ6」と「動物性食品」の過剰
摂取から2グループ目のプロスタグランジンだけが異常に多く生成され、「オ
メガ3」の欠乏から3グループ目のプロスタグランジンが極端に不足してしま
っているということです。そのために細胞機能のバランスが大きく崩れ、さま
ざまな障害・病気が引き起こされているのです。
例えば“炎症”という作用の場合、それを抑制するプロスタグランジンが「オ
メガ3」からつくられるのに対して、アラキドン酸由来の「オメガ6」からは
炎症を激化させるプロスタグランジンがつくられます。このように―「血栓を
減らしたり、増やしたり」「発ガンを抑制したり、促進したり」「子宮を弛緩さ
せたり、収縮させたり」「血管を拡げたり、狭めたり」して、互いに相反する
働きかけをしています。車にたとえれば、アクセルとブレーキのようなもので
す。1つの生理作用に対して、それぞれ反対の働きかけをしながらコントロー
ルしているのです。多種類のプロスタグランジンが互いに関係をもちながら、
身体全体の機能を維持しているのです。
「オメガ3」と「オメガ6」の脂肪酸は、単なるカロリー源や組織の構成成分
となるだけでなく、細胞機能を調節するプロスタグランジンの材料となってい
ます。プロスタグランジンは、神経系・ホルモン系に続く「第3の調節系」と
言われ、油の中でも最新の研究分野となっています。1982 年には、欧州の3人
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の研究者がノーベル医学生理学賞を受けています。
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「酸化ストレス・炎症体質」と生理活性物質(エイコサノイド)の働き
・3 種類の生理活性物質が作られる道のり!
「酸化ストレス・炎症体質」は、次のような3種類の生理活性物質(エイコサ
ノイド)の働きによりコントロールされています。
①炎症を悪くするもの
②その炎症を調整するもの
③それら両方の働きを抑制するもの
そして、そのバランスが色々な場面において臨機応変に、非常に精密にコン
トロールされ、体の機能を調整しているのですが、このバランスが狂ってしま
った状態が「酸化ストレス・炎症体質」でもあります。
これら3種の生理活性物質が作られる道のりは、一般的に、次のように言わ
れています。
①炎症を悪くするオメガ-6炎症系経路(アラキドン酸カスケード)
②その炎症を調整するオメガ-6調整系経路(γ-リノレン酸経路)
③それら両方を抑制するオメガ-3抑制系経路(EPA経路)
①炎症を促進するオメガ-6炎症系経路(アラキドン酸カスケード)
この経路で作られる生理活性物質は炎症を悪くする、いわゆる「錆び体質」
を誘発するものですから、この経路での代謝をいかに抑制するかが重要です。
この経路の出発物質は「アラキドン酸」ですが、この「アラキドン酸」はお
もに 3 つの経路、
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①「リノール酸」が体内で変換されて「アラキドン酸」となり生成される、
②動物性の高脂肪高タンパク質食品から直接摂取される、
③体を構成する細胞膜の新陳代謝により生成されます。
しかし、その大部分の「アラキドン酸」は、体を構成する細胞膜の新陳代謝
や炎症により破壊された細胞膜から供給されます。
「アラキドン酸」は細胞膜の重要な構成成分の一つで、細胞の柔らかさや電気
信号の伝わりやすさにかかわっています。通常、細胞は新陳代謝(細胞の破壊
と再生の繰り返し)されていますので、「アラキドン酸」は常に生成され、新
たな細胞膜として再利用されています。体に炎症がおきますと、破壊される細
胞が多くなりますので遊離した「アラキドン酸」の量は増加することになりま
す。遊離したアラキドン酸はアラキドン酸カスケードという代謝経路を経て、
炎症性の生理活性物質(エイコサノイド)に変換されます。
炎症性の生理活性物質としては、2系のプロスタグランジン(PG)、2系
のトロンボキサン(TX)および4系のロイコトリエン(LT)などがありま
す。
これらの生理活性物質が生成する過程で強力な活性酸素であるヒドロキシラ
ジカル(・OH)が生成されます。ということは、この経路から片頭痛発症に
かかわる、「炎症性の物質」や「活性酸素」が作り出されるということです。
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そのため、この経路が活性化されますと、炎症作用が高まり、活性酸素の発
生も増加しますので「酸化ストレス・炎症体質」を益々悪化させることになり
ます。
アラキドン酸から合成される生理活性物質(エイコサノイド)には多くの種
類があり、その各々は異なった働きがあります。
たとえば、プロスタグランジンE2は胃粘膜を保護するという私達の健康に
とって好ましい作用がりますが、炎症を起こせば発熱を起こし、ブラジキニン
という生理活性物質とともに疼痛を起こし、腫脹(はれ上がる)を酷くするな
どの炎症促進作用を示します。
因みに、片頭痛の痛みはこのプ
ロスタグランジンE2やブラジキ
ニンなどの発痛物質により引き起
こされることになります。
また、この経路で生成されるト
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ロンボキサンA2は、血管を収縮させるとともに血小板を凝固させ、片頭痛発
症の引き金となる生理活性物質です。
このように、トロンボキサンA2は非常に悪い生理活性物質のようなイメー
ジがありますが、一方では怪我などで血管が破れ止血する際には必要不可欠な
物質でもあります。
同じ生理活性物質であっても、その場面によって、人にとって好都合にも不
都合にも働くのですが、この経路で合成される生理活性物質は、片頭痛をはじ
め多くの疾患に対して、炎症性、血管収縮、血栓促進、免疫力低下、アレルギ
ー病状増悪、癌化促進などの好ましくない作用が多くあることから、一般的に
「炎症性」または「悪性」として扱われます。
このオメガ-6炎症系経路(アラキドン酸カスケード)の代謝活性を抑制す
るためには、次のことが重要です。
・オメガ3系の油(α-リノレン酸、EPA,DHAなど)をとる
・軽い空腹感を作る(グルカゴンや副腎皮質ホルモンの分泌を促す)
・血糖値が上がり過ぎない食事をする(インスリンの過剰分泌を抑える)
・アラキドン酸の多い食品をとり過ぎない
また、副腎皮質ホルモンやアスピリンの服薬はこの代謝を非常に効果的に抑
制することができますが、いずれも副作用が強く体質改善には用いることはで
きません。
これら以外には、効果のほどは定かではありませんが、以下のものが有効で
あったという報告があります。
・共役リノール酸(牛乳・乳製品に含まれる)をとる
・エクストラバージンオリーブ油(有効成分:オレオカンタール)をとる
・ゴマ(有効成分:ゴマリグナン)を摂る
・赤ワイン(有効成分:レスベラトール)
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「酸化ストレス・炎症体質」が改善されれば、炎症細胞からのアラキドン酸
の生成が抑制され、さらに炎症体質が改善されるという、良い循環が起きるよ
うになります。
②炎症を調整するオメガ- 6 調整系経路(γ-リノレン酸経路)
この経路の生理活性物質は炎症作用が強くなりすぎないように調整するもの
ですから、この経路をいかに活性化させるかが「酸化ストレス・炎症体質」の
改善に重要となります。
この経路の出発物質は「リノール酸」ですが、体内酵素により「γ-リノレ
ン酸」(正確にはジホモγリノレン酸)に変換された後に、プロスタグランジ
ン1系、トロンボキサン1系、ロイコトリエン3系の調整系生理活性物質を生
成します。
いわゆる、先の「オメガ-6炎症系経路(アラキドン酸カスケード)」で生
成する生理活性物質が炎症作用を「活性化する働き」であったのに対し、この
「オメガ- 6 調整系経路(γ-リノレン酸経路)」で生成する生理活性物質は
生理作用全体をバランスさせるために、炎症作用を「調整する働き」をします。
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例えば、免疫系への作用としては、白血球の中でも抑制や調整作用のあるレ
ギュラトリーTリンパ球という白血球を活性化させ免疫系の過剰な暴走を抑制
しアレルギー疾患などを改善します。
また、アラキドン酸カスケ
ードの引き金である脂質分解
酵素の働きを阻害し、炎症性
の生理活性物質の生成を抑制
するなどの作用があります。
この経路を活性化すること
により、「アラキドン酸」の
代謝は抑制されるとともに傷
害性の強い活性酸素である
「ヒドロキシルラジカル」の
発生も抑制されますので「酸化ストレス」の状態を改善することができます。
また、この経路で生成する生理活性物質は炎症を引き起こすヒスタミン(片
頭痛の痛みの原因物質の一種)の放出を抑制するなどの抗炎症作用を示すこと
や血管拡張、血栓抑制、免疫力増強、アレルギー症状寛解、癌化抑制、血糖調
整などの作用があることから、この代謝経路で生成される生理活性物質は「良
性」として扱われています。
この経路の代謝を活性化するためには、次のことが重要です。
・オメガ-6系の植物油(リノール酸)をとり過ぎない
・トランス脂肪酸を摂取しない(精製植物油、マーガリン、ショートニングな
ど)
・腸内細菌を健全に保つ(ビオチン不足を起こさない)
・過剰ストレスを避け、アルコール、タバコ、牛乳・乳製品のとり過ぎない
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・ビタミンC、ビタミンB3(ナイアシン)の不足を起こさない
リノール酸は通常の食事をしているかぎり穀類や豆類から充分に摂取するこ
とができますので、さらなる植物油の摂取はリノール酸のとり過ぎになるとい
うことです。
また、マーガリンや精製植物油に含まれている「トランス脂肪酸」はリノー
ル酸がγ-リノレン酸への変換を抑制し、「良性」の生理活性物質の生成を妨
害します。
特に「トランス脂肪酸」は、「遊離脂肪酸」として体の組織を傷害するとと
もに「活性酸素」も発生させやすく、一般に市販されている加工・精製植物油
には注意が必要です。
昔ながらの圧搾製法で造られた植物油はトランス脂肪酸を含みませんのでと
り過ぎでなければ健康上の問題となることはありません。
加工・精製植物油植物油は、パンやクッキー、ケーキ、マヨネーズ、ドレッ
シング、チョコレート、レトルトカレー、・・・・・・などにも含まれます。
また、リノール酸は体内で非常に酸化されやすく過酸化脂質の生成原因とも
なりますし天ぷら等で加熱されたリノール酸はヒドロキシルノネナールという
有毒な物質を生成しますので、天ぷら油のリサイクルは絶対に行はないことが
重要です(特に、アルコールの代謝の悪い下戸の方や子どもは気をつける必要
があります)。
③炎症経路を抑制するオメガ-3抑制系経路(EPA経路)
この経路の代謝はオメガ-6系経路の代謝と競合しますので、結果的にオメ
ガ-6炎症系経路の代謝を抑制することになります。オメガ-6系の生理活性
物質はかなり生理作用の強いものばかりですので、その作用を鎮めるのがおも
な役割ということもできます。
オメガ-3系の経路は「α-リノレン酸」からスタートし、体内酵素により
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「EPA」に変換されます。EPAはさらにDHAに変換されますが、DHA
は必要に応じてEPAにも変換されます。
この「EPA」
からオメガ-3系
の抑制系の生理活
性物質である3系
プロスタグランジ
ン、3系トロンボ
キサンおよび5系
ロイコトリエンが
作られます。
このオメガ-3
系EPA経路を活
性化することにより、炎症性のアラキドン酸カスケードの代謝を抑制し、「酸
化ストレス」を弱めることができます。このようなことから、この経路で産生
される生理活性物質は「良性」として扱われています。
「酸化ストレス・炎症体質」の改善ため
にはこのオメガ-3系EPA経路の代謝
を活性
化させることも重要となります。
そのためには、次のことが重要となり
ます。
・オメガ-3系の油分(α-リノレン酸やEPA,DHAなど)の摂取量を増
やす
・トランス脂肪酸を摂取しない(精製植物油、マーガリン、ショートニングな
ど)
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「α-リノレン酸」を多く含むシソ油(エゴマ油)や亜麻仁油は、そのほとん
どが工業的に造られたものではなく、圧搾製法で造られた植物油ですので「ト
ランス脂肪酸」は含まれません。
青魚に多く含まれ、また同時に、体内でα-
リノレン酸からも変換される「EPA」は体内
でのアラキドン酸の生成を抑制し、アラキドン
酸が炎症性の生理活性物質を生成することを抑
制する作用があります。オメガ-3系脂肪酸は、
今日の平均的な食生活でむしろ不足しがちな脂
肪酸ですので、積極的にとることをお勧めします。
・自然界に存在しない有害なトランス脂肪酸!
トランス脂肪酸は構造がトランス型(直鎖状の構造)になった脂肪酸のこと
をいいます。
トランス脂肪酸は自然界に存在しない有害物質が、工業的に油脂を精製した
り、加工している時にできてしまったというものです。
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昔ながらの圧搾法による植物油や、天然の植物、魚や家禽などの油脂分に含
まれる脂肪酸は全てがシス型(折れ曲がった構造)という構造をしています。
牛などの反芻動物は胃の中で草や藁(わら)を消化する際にバクテリアによっ
てトランス型(直鎖状の構造)をした構造の脂肪酸ができますが、これはバク
セン酸や共役リノール酸(ルーメン酸)という構造も明らかな、人体に害を及
ぼすことのない脂肪酸です(むしろ、健康サプリメントとして利用されている)
。
工業的に副生される有害なトランス脂肪酸は、おもに次の2つの生成過程を
経て生成されます。
①植物油からマーガリンやショートニングを作ることや揚げ油として「持ち」
の良い油を作るために、植物油に水素を添加するなどして、油を加工する際に
副生物として生成されます。
本来、室温で液状であった植物油に水素を添加することにより、マーガリン
やショー
トニングのように常温でも固形油脂状にすることができ、長時間の使用に適し
た酸化劣化の少ない揚げ油を製造することができます。からっと揚がる油もこ
のようにして造られます。
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ショートニングの中には50%を超えるトランス脂肪酸を含むものあるといわ
れています。また、これらのマーガリンやショートニングを使用したビスケッ
ト、パン、ケーキ類などの加工食品にも有害なトランス脂肪酸は含まれること
になります。市販のフライドポテト、フライドチキンなどに使用される揚げ油
の中にも有害なトランス脂肪酸は多く含まれていますので、これらの揚げ物に
もトランス脂肪酸は含まれることになります。
②植物種子などを圧搾して製造した植物油は、その植物油に含まれる不純物な
どにより
腐敗や変色などの品質劣化をおこすため、市販されているほとんど
すべての植物油は工業的に精製・脱臭されています。脱臭工程では高温・高真
空下で水蒸気を吹き込むなどの処理がおこなわれますが、この精製・脱臭工程
でトランス脂肪酸が副生されます。
市販のサラダ油などのほとんどの精製植物油には有害なトランス脂肪酸が含
まれています。
・ダイオキシン類にも似た、トランス脂肪酸の有害性!
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植物油とともに体に取り込まれた有害なトランス脂肪酸はある程度はエネル
ギーに転換(異化)されます。しかし、生理活性物質など体の重要な構成成分
となることは起こりえません。体のもとなる細胞や生理活性物質の生成などの
代謝は非常に緻密に特定された構造のものだけが酵素反応にかかわりますの
で、自然界にあるシス体とは異なり自然界に存在していないトランス体が体の
一部となることはありません。
しかし、体は無理にでも代謝し続けようとしますので代謝酵素を誘導し続け、
補酵素やビタミン、ミネラルを無駄に消費してしまうことになると考えられま
す。人間が新たに作り出したダイオキシンやPCBのような残留性環境汚染物
質を代謝できないのと同じようなことが体内で起きるのです。
代謝されない脂肪酸は遊離脂肪酸として血流を通して全身の組織・器官に達
し、他の重要な代謝にかかわる酵素の働きを妨害するとともに、脂肪酸毒とし
て組織・器官に傷害(又は障害)を与えることになります。
実際には、血液中に放出された遊離脂肪酸は血液中のたんぱく質(アルブミ
ン)と結合し、その毒性の悪影響が抑制されるのですが、許容限界量(閾値)
を超えてしまうと脂肪酸毒として作用することになります。片頭痛や花粉症、
アレルギーなどの症状が現れている場合は既にこの閾値を超えた状態であると
考えられます。
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また、トランス脂肪酸はエネルギーに転換されることはあるにしても代謝速
度は遅く、一部は血流中や組織・器官の細胞内、脂肪組織(皮脂、内臓脂肪、
皮下脂肪)などに遊離脂肪酸として蓄積されると考えられます(一部は母乳と
してや皮脂腺などを通して排出されると思われます)。
トランス脂肪酸は、一般的な
急性毒性や亜急性毒性的なリス
クの心配はほとんどありません
が、心臓病や脳梗塞を始め多く
の病気の原因物質として疫学的
にも世界的に証明されている有
害な物質なのです。心臓病や脳
梗塞の影響が明らかなことから、
日本を除く先進国ではトランス脂肪酸に対し何らかの規制や含有量の表示義務
などが課せられています。
しかし、日本ではこのような規制などは全くないため食品に含まれるトラン
ス脂肪酸の量さえ知ることさえ出来ないのが現状なのです。マーガリンやショ
ートニングなどの硬化油や硬化油を使用した菓子類などの食品や市販の精製植
物油、マヨネーズ、ドレッシングなどには必ずトランス脂肪酸が含まれていま
す。これらの食品を極力摂取しないこと。
家庭で植物油を使用する場合はエクストラバージンオイルや圧搾法による植物
油を用いることにより、トランス脂肪酸の摂取は避けられます。
・植物油(リノール酸)の摂取を控え、オメガ3系脂肪酸を摂る(オメガ6/オ
メガ3比を1.0以下に)!
植物油のとり方が生理活性物質のバランスを整えるために重要な要因である
ことは理解できたところで、どの程度の割合が最も良いのかということをご説
明します。
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オメガ6系リノール酸は穀類や豆類、芋類、野菜類などに多く含まれていま
すので、通常の食生活をするかぎりにおいて摂取不足を起こすことはありませ
ん。
むしろ植物油をさまざまな形で摂
取する機会が多い今日では、オメガ
-6系脂肪酸のとりすぎが問題とな
ります。一方、オメガ-3系の油分
は魚介類を除く食品には極少量しか
含まれていませんので、魚をあまり
摂らない食生活では不足しがちな油分といえます。
オメガ-6系脂肪酸のとりすぎは「良性」の生理活性物質を抑制し、
「悪性」
の生理活性物質を活性化させます。オメガ-3系脂肪酸の摂取量が少ないと炎
症をより悪化させます。
簡潔に言い換えますと、オメガ-6系脂肪酸のとりすぎが炎症体質を悪化し、
オメガ-3系脂肪酸をとると炎症体質は改善されるということになります。
これらのことから、摂取する「オメガ- 6 系油とオメガ- 3 系油の比」を
もって炎症体質や酸化ストレス体質にならないための油脂の摂取量の目安量を
知ることができます。
いわゆる、オメガ-6系/オメガ- 3 系の比が大きな値を示すほど「酸化ス
トレス・炎症体質」は悪い状態に向かい、逆に小さな値であるほど「酸化スト
レス・炎症体質」は良好な状態に向かうということなのです。
厚生労働省では実経済への影響を考慮し、望ましいオメガ-6/オメガ-3の
比を4.0としていますが、日本脂質栄養学会では健康であるためにはオメガ
-6/オメガ-3の比は2.0以下を提案しています。
「酸化ストレス・炎症体質」の改善のためには、厚生労働省のオメガ-6/オメ
ガ-3の比4.0は論外としても、日本脂質栄養学会の提案する2.0以下であること
が好ましいように思われます。
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私は体質改善の開始当初は1.0以下を目標とし、体質が改善されてくれば2.0以
下を維持することを推奨しています。
そのためには、オメガ-3系のEPAやDHA含有量の高い青魚を積極的に
摂取するとともに、植物油の使用に際してはα―リノレン酸含有量が高いシソ
油(エゴマ油)を日常的に用いることを推奨しています。
ただし、オメガ-3系の油のとり過ぎは免疫系の活性を弱めますので、「酸
化ストレス・炎症体質」を改善するためには必須のオメガ-3系の油であって
もとり過ぎには注意が必要となります。またオメガ-3系の油は血液をさらさ
らにする効果はありますが、逆に出血した時には血が止まりにくくなってしま
うことがあります。内科医は EPA や DHA の摂取を薦めても、手術の機会の
多い外科医はそうでないかもしれません。
なお、エゴマ油(シソ油)は空気中での加熱安定性が良くありませんので、
加熱調理用としては適していません。ドレッシングやマヨネーズなど加熱しな
いものに限定するか、そのまま頂くことが好ましいでしょう。
また、オリーブ油の主成分であるオレイン酸はオメガ-9系脂肪酸であり、
生理活性物質の代謝には直接関与することはありませんので、加熱用や菓子類
の植物油として幅広く利用することができます。
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いずれにしろ、
「酸化ストレス・炎症体質」の改善には、マヨネーズ(卵黄、
植物油、酢)やドレッシング(植物油、酢)は有害なトランス脂肪酸を含まな
いシソ油やオリーブ油を用いた自家製に変え、加熱用としてはエクストラバー
ジンオリーブ油か圧搾法の植物油を使用するなどの工夫が必要だといえます。
また、リノール酸をとり過ぎると体内でのリノール酸の代謝が遅延するため
血中のリノール酸濃度が高まり、トランス脂肪酸と同様に血中の遊離脂肪酸濃
度を上げることになります。血中や組織の遊離脂肪酸の濃度が高くなれば器官
や組織の細胞を傷害するだけでなく、その結果として発生する活性酸素などに
より過酸化脂質などの過酸化物を生成しやすくなります。そのため、体は常に
酸化ストレスが増大した状態になってしまうのです。
片頭痛を起こしやすい体質、いわゆる活性酸素を生じやすく、血中の遊離脂
肪酸濃度の高い状態は、このようにして作られていくのです。
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