現場からのオピニオン - 全国老人保健施設協会

現場からのオピニオン
∼介護現場はいま∼
現場からのオピニオン
∼介護現場はいま∼
アクティブな老人介護
〜老健はまなすの取り組み〜
まっては、認知症状が軽快することはありま
せん。
「なぜこのヒトは騒ぐのだろう…?」
傍に寄り添いしっかりお世話をしていると、
理由がわかることがあります。それまでは殴
られたり暴言を吐かれたりすることも多いの
ですが(私も何度も殴られました)、目をそ
らさずしっかり相手をさせてもらえばいつか
心は通じます。“ はまなす ” は開設以来 14年間、
身体拘束ゼロを貫いています。
夜間入浴のススメ
全老健山梨県支部長、介護老人保健施設はまなす施設長
りっ か
福田六花
「介護老人保健施設はまなす」は、平成 14
年 11月に富士山北麓の富士河口湖町にオープ
ンしました。元々が消化器外科医であった私
は、ひょんなことで施設長を引き受けること
になり、まったくの未経験&手探りで老人介
護の仕事を始めました。当初は 2 〜 3年のつ
もりで引き受けたのですが、老人介護の魅力、
そして重要性に惹かれて、気がつくともうす
ぐ 14年の歳月が過ぎようとしています。
この 14年間は、お年寄りとそのご家族が安
心して穏やかに暮らせるように、施設職員が
胸を張って活き活きと働けるように、そのふ
たつのことだけを考えて老健施設の仕事に邁
進してきました。そのなかの取り組みのいく
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つかを紹介させていただきます。
身体拘束ゼロ
富士北麓エリアで唯一の認知症専門棟(40
床)を持つ当施設には、近隣の施設や病院で
対応困難となった認知症の方が多数入所され
ています。暴言、暴行、不穏、徘徊、介護拒
否など強い周辺症状のみられるケースが多い
のですが、“ はまなす ” では身体拘束は一切行
いません。強い向精神薬の投与も行いません。
認知症の方の行動にはすべて理由が存在しま
す。その理由を探ることもせず拘束してし
当施設では開設以来 “ 夜間入浴 ” に取り組ん
でいます。マンパワーの必要な施設での入浴
は、昼間に行われることが多いのですが、日
本人の生活習慣は夕食→風呂→就寝が一般的
です。本来の生活リズムを重視したお世話を
することで、熟睡される方が多くなり、体調
も食欲も向上し、睡眠薬も必要なくなります。
夕食後の 18時から 20時の入浴タイムに一定の
職員数を確保出来るように、勤務シフトを工
夫しています。
トイレ誘導のススメ
お年寄りが尿意や便意を感じなくなり失禁
が始まると、オムツでの対応を余儀なくされ
るのが一般的です。当施設にもオムツを使用
されているお年寄りが多く入所されてきます。
そういった方が “ はまなす ” に入所されてきて、
一番最初にするお世話はトイレにお連れする
ことです。1日数回、毎日根気よくトイレに
お連れすると、排便排尿に成功することも少
なくありません。
カンファレンスの充実
老健施設においてお年寄りに安心して生活
していただくためには、ご家族との関わりが大
切です。そのために半年毎を目安にご家族との
カンファレンスを行います。施設側は医師、看
介護職、リハビリ職、管理栄養士、相談員が
出席し、入所されているお年寄りの体調、リハ
ビリの進行具合、栄養状態などの説明を行いま
す。その上で今後の在宅復帰の可能性を話し
合い、面会、外出、外泊のお願いをします。
認知症に対する理解が乏しく関わりを避け
ようとするご家族には、長い時間を割いて病
気の説明を行い、家族の役割を認識していた
だきます。その後にも面会が少ない場合は、
定期的に相談員から電話連絡を行います。時
にご家族から迷惑がられてしまうこともある
のですが、すべてはお年寄りに安心して生活
していただくために、そしてご家族があとか
ら後悔しないためにと思っています。
その他にも各種季節の行事の充実、ターミ
ナルケア中の自宅への一時帰宅など様々な取
り組みを行っています。こういった取り組み
は、すべてに真心と根気と体力が必要です。
施設で働く職員たちが、熱心に取り組んで
くれていることが “ はまなす ” のアクティブ
な老人介護を支えており、私は職員のがんば
りに心から感謝し、常に尊敬の念を抱いてお
ります。
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