コラム②:台風第1号の発生が遅いことについて 先月号では、この夏(2016年6月~8月)の沖縄地方の気温が高い見込みであることについて述べました。 主な理由の1つとして、インド洋熱帯域での海面水温の高い状態が続くことを挙げました。インド洋熱帯域で の海面水温はエルニーニョ現象の発生より2~3か月遅れて高くなる傾向があります。 今月号ではこのインド洋熱帯域の海面水温の影響について解説します。昨年(2015年)11月から12月にか けて強いエルニーニョ現象がピークを迎え、この春(2016年3月~5月)に終息したと見られますが、インド洋 熱帯域の海面水温は高い状態が続いており、今後、秋(9月~11月)にかけて次第に通常の常態に戻ると 予測されています。『①インド洋熱帯域で海面水温が高い→②インド洋全域で海面気圧が低めになり赤道 に沿って西太平洋まで気圧の低い領域が伸びてくる→③そこに向かう北東風が発生しやすくなる→④フィリ ピン付近を中心に下降流が発生しやすく積乱雲の活動が不活発(対流不活発)になる→⑤沖縄・奄美地方 では太平洋高気圧の張り出しが強くなる』といった仕組みで、沖縄地方ではこの夏は高温になると予想して います(図)。 沖縄 ⑤ ③ ① ④ ② 気象庁マスコット キャラクター はれるん 図 インド洋熱帯域の海洋変動が日本の天候に及ぼす影響(模式図) http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/data/elnino/learning/faq/whatiselnino3.html#3 表 台風第1号の発生の遅い年とその発生日 上位10位、1951~2015年の統計 順位 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ 年 1998 1973 1983 1952 1984 1964 2001 2006 2011 2000 発生日 7月9日 7月2日 6月25日 6月10日 6月9日 5月15日 5月11日 5月9日 5月7日 5月7日 さて、台風第1号の発生日の平年値は3月18日(1981~ 2010年の平年値、平年並の範囲は2月16日~4月14日 ) ですが、今年(2016年)は台風第1号の発生が遅くなってい ます。6月30日現在、台風第1号の発生はまだありません。 これは、上記のように、インド洋の海面水温が高いことの 影響で、台風の発生しやすいフィリピン付近の対流活動が 平年に比べ不活発となっていることが、大きな要因の1つと して考えられます。 台風第1号の発生の遅い年とその発生日を左の表に示し ます。台風第1号の発生が遅かった記録は、①1998年(7月 9日)②1973年(7月2日)③1983年(6月25日)で、いずれも 強いエルニーニョ現象が最盛期を迎えた翌年でした。今年 (2016年)も強いエルニーニョ現象が最盛期を迎えた翌年 であり、7月ごろまでは、フィリピン付近の対流活動が平年 に比べ不活発であると予想しています。 沖縄気象台提供
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