リサーチ TODAY 2016 年 6 月 28 日 英国のEU離脱、次はどこ?これは終わりの始まり? 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 英国は6月23日のEU残留・離脱を問う国民投票でEU離脱という歴史的決断をした。みずほ総合研究所 は24日に英国のEU離脱の結果を受けたリポートを発表し1、加えてみずほ銀行産業調査部と共同レポート も発表している2。今回の結果を、そもそも自らを欧州と思ってこなかった英国の特殊事情と捉えるか、それ ともEU分断に向かうターニングポイントとみるかについては議論があろう。既に市場では今後の離脱国の候 補として、フランス(Frexit)、オランダ(Nexit)、スウェーデン(Swexit)、デンマーク(Danexit)等が語られている。こ の背景には、これらの国の国民の間に移民、失業、反グローバル化等への不満があり、下記の図表のよう に、EU懐疑政党の勢いは過去最高水準に達していることがある。今回の英国の決定がこうした潮流を一層 強めることは間違いない。 ■図表:各国下院選挙でのEU懐疑政党の得票率推移 18 (%) 16 14 12 10 8 6 4 2 0 1980 85 90 95 2000 05 10 15 (年) (注)各国下院選挙における EU 懐疑政党の得票率の単純平均値。対象とした政党は次の通り。イタリア:イタリア社会 運動、国民同盟、北部同盟、五つ星運動。フランス:国民戦線、ベルギー:ブラームス・ブラング、オーストリア: 自由党、オランダ:自由党、デンマーク:国民党、フィンランド:真のフィン人、ノルウェー:進歩党、スウェー デン:民主党、ギリシャ:シリザ、黄金の夜明け、ハンガリー:ヨッビグ、英国:独立党。選挙の結果のみを反映 し、各選挙の間の期間の得票率は同率としている。2 回投票がある場合は初回投票、比例と小選挙区並立の場合は 比例部分。 (資料) INTER-PARLIAMENTARY UNION PARLINE Database、European Election Database、Wikipedia より、 みずほ総合研究所作成 次ページの図表はEU離脱後のプロセスを示したものだ。6月の国民投票で離脱が選択されたことで英 国にはEUや他国との間での長い交渉過程が待ち受ける。まずEUとの交渉、次いで他国との交渉が行われ ると予想され、その交渉は最終的に2020年代後半まで続く長丁場となる。1990年代から始まったEUへの統 1 リサーチTODAY 2016 年 6 月 28 日 合は、2000年代に現実となったが、四半世紀が経過し、当初の高揚感は消滅し、離脱に向けたプロセスの 1ページが始まったと考えることもできる。不確実性の高まりからリスクプレミアムの上昇、先行き期待の引き 下げから、英国のみならず欧州地域の潜在成長率の低下リスク、世界経済の不安要因が浮上した。 ■図表:EU離脱のプロセス 2016/6/23 国民投票 2017/9月 英EU議長国? 50条通告 <EU脱退協定の締結> ・欧州委員会による提案 ・欧州議会による同意 ・EU理事会にて可決 2020年代? 他国とのFTA 交渉終了? 2020/5月 英議会選挙 2017/9~10月 独議会選挙 2017/4~5月 仏大統領選挙 2017/3月 蘭議会選挙 ・EU条約 2018/6月 EU離脱交渉期限 (全28カ国の同意があ れば期限延長可。無けれ ばEU法は失効) <EUとの新協定の締結> ・欧州委員会による提案 ・欧州議会による同意 ・EU理事会にて可決 ・各国議会による批准 <他国とのFTA交渉> <EUとの新協定交渉継続?> ・経過的にはWTOルール? (資料)英政府、各種報道等よりみずほ総合研究所作成 下記の図表は各国のEUに対する見方と、EU懐疑政党の一覧である。2017年はオランダの議会選挙、フ ランス大統領選、ドイツの議会選挙を控え、いずれもEUやユーロに懐疑的な政党が勢力を伸ばすだろう。 26日のスペイン再選挙の結果も不満の高さを示すこととなった。英国のEU離脱は歴史の歯車を動かした可 能性がある。 ■図表:EUに対する見方 主なEU懐疑政党 (%) 国名 政党名 ドイツ ドイツのための選択肢 フランス 国民戦線 肯定的 否定的 (Favorable) (Unfavorable) イタリア 北部同盟 イタリア 五つ星運動 ギリシャ 27 71 フランス 38 61 英国 44 スペイン オランダ 自由党 オーストリア 自由党 48 ベルギー フラームス・ベランフ 47 49 フィンランド 真のフィン人 ドイツ 50 48 ギリシャ シリザ オランダ 51 46 ギリシャ 黄金の夜明け ノルウェー 進歩党 スウェーデン 54 44 スウェーデン 民主党 39 デンマーク 国民党 ハンガリー ヨッビグ イタリア 58 ハンガリー 61 37 ポーランド 72 22 ポーランド 法と正義 英国 英国独立党 (注)2016 年春季調査。 (資料)Pew Research Center よりみずほ総合研究所作成 1 2 吉田健一郎 「英国民は EU 離脱を選択」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 6 月 24 日) 「英国国民投票の結果と今後の展望」(『MIZUHO Research & Analysis』 2016 年 6 月 24 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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