挑戦する企業

産業廃棄物の処理をめぐる社
会的な課題は、この数十年で大
きく変化した。公害問題が発生
した高度成長期には、産業廃棄
物の適正な処理を社会に浸透さ
せることが最も重要だった。その後、資源
のリサイ クルが重視される 世の中となり、
循環型社会を目指して企業も家庭もリサイ
クルに務めるのが当たり前になっている。
建設系産業廃棄物処理・リサイクル事業
で首都圏トップの実績を誇る株式会社タケ
エイは、こうした社会の変化を敏感に読み
取り、新たな事業を立ち上げ、成功に導い
てきた。
大きな転機が 回あり、その都度、大胆
な先行投資で業容を拡大させてきた。最初
は他社に先駆けて廃棄物の一貫処理体制を
度目となる大胆な
築いたこと。 度目はリサイクル事業への
進出。現在、創業以来
投資を進めており、その対象はバイオマス
発電などの再生可能エネルギー事業だ。環
境に配慮したエネルギー事業を拡大させる
年には神
こ と で、 同 社 は﹁ 総 合 環 境 企 業 ﹂へ の 転 換
県千葉市に最終処分場を建設、
収益性の面を含めて、これで会社を発展さ
て廃棄物の収集から最終処分までの一貫体
工場を完成させた。こうして他社に先駆け
ら求められていた。廃棄物処理法によって、
切に対応できる廃棄物処理会社が産業界か
実際、収集から最終処分まで一貫して適
せることができるという成算があった﹂
制を敷き、多くの中小の業者がひしめく業
産業廃棄物を出す事業者は、自らの責任で
奈川県横浜市と川崎市に廃棄物の中間処理
界で同社が抜きん出ることができた。
廃棄物を適正に処分することが義務づけら
搬﹂
、
﹁中間処理﹂
、
﹁最終処分﹂という
つ
つの段階ごとに
つの工程を別々の会社が担う
の段階があるが、当時の産業廃棄物処理の
業界では、
ことが多かった。
このため排出事業者は
20
2016 July SMBC マネジメント+
株 式 会 社タケエイ
を図っている。
いち早く
一貫処理体制を確立
同社は 1967年に土木工事の会社とし
倍に相
れた。しかし当時の事業者にとって、それ
億円の
当する思い切ったものだった。同社の代表
は簡単ではなかった。
投資額は当時の売上高
棄物が山積みされることが多かったという。
取締役社長、山口仁司氏はこれだけ大きな
てスタート。当時の建設現場には大量の廃
この光景にヒントを得て、同社の創業メン
投資ができた理由をこう語る。
﹁一般的な財務の感覚からすれば、売上高
廃棄物の処理は、大きく分けて﹁収集運
バーは廃棄物の処理事業を開始した。 年
に廃棄物処理法が制定され、産業廃棄物の
倍を超える投資は常軌を逸するほど大
の
きなものと思えるかもしれない。しかしこ
の 投 資 は﹃ 廃 棄 物 を 適 正 に 処 分 す る ﹄と い
う社会のニーズにしっかりと応えたもので、
廃棄物処理会社が適正な処理をできる会社
なのかどうかを調査しなければならず、そ
の確認作業の負担が大きかった。収集から
最終処分までの一貫体制を整えれば、排出
事業者側に歓迎され、たくさんの新規顧客
を獲得できるに違いない。これが大型投資
http://www.takeei.co.jp
3
2
処理に明確なルールが導入されたことで同
事業に参入する会社が相次いだ。
転機となったのは 年代後半から 年代
2
取材・文/安達正志 次ページの写真/陶山 勉
21 SMBC マネジメント+ 2016 July
に踏み切った同社の読みだった。
社にも必要性を粘り強く
この投資では金融機関だけでなく、顧客
の大手ゼネコン
廃棄物処理・リサイクル事業、
再生可能エネルギー事業
70
90
3
説明し、資金を融資してもらった。山口社
1,222人(連結:2016年5月末)
事業内容
首都圏トップの企業に成長。次の飛躍を目指して、再生可能
はじめにかけての大型投資だ。 年に千葉
「企業が存続するには大胆な投資が欠かせない。今は創業以来3度
目の大きな投資に取り組んでいる」
と語る山口仁司代表取締役社長
3
長 は、
﹁大手ゼネコンの協力を得られたこ
285億6,000万円(連結:2016年3月期)
従業員数
バイオマス発電施設の敷地内に
ある貯木場
5
とが、会社としての認知度や信頼を高める
1977年3月
売上高
エネルギー事業に乗り出す。
87
3
うえで大きなプラスになった﹂と語る。
東京都港区芝公園2-4-1
設立
91
2
産業廃棄物処理の一貫処理体制を他社に先駆けて構築し、
80
タケエイグループの津軽バイオマス
エナジー平川発電所(青森県平川
市)
。地元の森林の間伐材や津軽
特産りんごの栽培で発生する剪定
枝を燃料として利用する
本社
3
40
大胆投資で業容を拡大
次の挑戦は再生可能エネルギー
挑戦 する
企業
Corporate Profile
代表取締役社長 山口仁司
ソーラーパーク成田」。埋立てが完了した最終
千葉県成田市にある太陽光発電所「タケエイ
処分場の跡地を利用して建設された。写真左
上の稼働中の最終処分場に隣接している
の破砕機。木くずは異物を除去した後、破砕機
川崎リサイクルセンターに導入されている木くず
海外からの視察者も多い
現在、グループ全体の会社数は約
社にの
年に廃棄
ぼる。M&A にはリサイクル事業をさらに
強化する狙いがある。例えば、
基本法﹂が制定され、地球環境に負荷をか
2000年には、循環型社会を目指す基
本的な枠組みである﹁循環型社会形成推進
社会への対応である。
大するきっかけとなったのが、リサイクル
こうして建設系産業廃棄物処理の首都圏
トップにまで成長した同社の業容が再び拡
ている。廃石膏ボードから作る石膏ボード
グループのリサイクル事業に早くも貢献し
に剥離する選別機械を開発して、タケエイ
エイグループに加わった。同社は石膏ボー
る﹁ 環 境 エ ン ジ ニ ア リ ン グ ﹂の 会 社 が タ ケ
イクル工場に導入する機械や設備を開発す
物処理設備やごみ収集車などを開発する富
けない、環境重視の時代が始まった。リサ
原料の品質が向上し、その販売条件が良く
タケエイグループは今、創業以来 度目
の事業の変革に取り組んでいる。その新し
新たなるチャレンジ
再生可能エネルギー事業
ドで使われている石膏と表面の紙をきれい
士車輌株式会社を買収。これにより、リサ
イクル関連の法律も順次整備されたことか
なったという。
年には東京都大田区に建設廃棄
年には川崎市に
日本最大規模のリサイクル施設﹁川崎リサ
東京エコタウン工場﹂
、
物 の リ サ イ ク ル 施 設﹁ リ サ イ ク ル・ピ ア 設した。
そこで、当時の年間売上高に匹敵する資
金を投じて、大規模なリサイクル施設を建
新たな経営課題として浮上してきた。
ら、リサイクル事業にいかに取り組むかが
リサイクル社会の到来で
業容を再び拡大
20
14
い挑戦が再生可能エネルギー事業だ。
年
月には千葉県成田市の最終処分場の跡地
で廃棄物は土木資材、バイオマス発電燃料、
を利用した太陽光発電施設﹁タケエイソー
月には青森県平川市で木質バ
ラーパーク成田﹂で売電を開始。発電量は
年
鉄 や そ の 他 の 金 属 原 料、 石 膏 ボ ー ド 原 料、
また、
一 般 家 庭 の 消 費 電 力 の 450世 帯 分 ほ ど。
%に達している。
万 4000世帯分の電力を賄っている。
使 命 で あ る﹃ 地 球 環 境 の 保 全 ﹄に 合 致 し て
﹁山林に放置された間伐材を利用して発電
するバイオマス発電は、われわれの会社の
イオマス発電に利用されている。
んごの栽培で大量に発生する剪定枝も、バ
森林の整備や育成に役立つ。津軽特産のり
に放置さ れがちだった間伐 材を使うため、
プ﹂を燃やして発電を行うこと。従来、山
木質バイオマス発電とは、山林の間伐で
発生する未利用材などを使った﹁木質チッ
株式会社が行う。そして平川市とタケエイ
が中心になって出資する津軽バイオチップ
者が担い、木質チップへの加工は地元企業
な協力関係を築くこと。実際に、その通り
山口社長が伝えた希望とは、山林の所有
者、林業関係者、タケエイグループが密接
なれば、
やらないわけにはいかなくなった﹂
こちらの希望を全部かなえてくれた。こう
と考えていたが、市長は市議会も動かして
になった。原材料の供給は地元の林業従事
た。おそらく希望はかなえられないだろう
いる。事業を通じて、持続可能な社会を目
青森での発電事業は難しいだろうと思った。
首都圏中心の事業者なので、正直なところ
ただ最初に話をいただいたときは、当社は
外でも、お役に立てないかと考えてはいた。
も平川市を訪問して、廃棄物処理の仕事以
平川市でバイオマス発電事業を始めたい
き さ つ を 山 口 社 長 は こ う 語 る。
﹁私も何度
ネルギー事業への協力要請があった。
事上の関係で平川市から同社に再生可能エ
会社の本社が青森県平川市にあり、その仕
廃棄物等の調査・分析をする環境保全株式
理を担ったこと。タケエイグループで有害
かけは、同社が東日本大震災後の廃棄物処
をつくっておこう﹂との思いがある。
事業に投資して、彼らが活躍するチャンス
変革を担うのは若い社員たち。今、新しい
資 に 取 り 組 む 山 口 社 長 の 胸 に は、﹁ 会 社 の
投じる見通し。創業以来
半分を占め、
ギー事業への投資額は、同社の投資全体の
同 社 自 身、 平 川 市 で の 経 験 を 生 か し て、
岩手県花巻市など他の地域でも再生可能エ
目されている。
とから、地域活性化の事業モデルとして注
出した。地域への経済的な貢献が大きいこ
バイオマス発電所を新設したことで、林
業従事者も含めて新たに 人の雇用を生み
スエナジーが発電所を運営する。
そこで、市長にいくつかの希望をお伝えし
平川市でのバイオマス発電事業の立ち上
げには、官民一体で取り組んできた。きっ
グループが出資する株式会社津軽バイオマ
は
イオマス発電の営業運転を開始し、こちら
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指すことができる﹂︵山口社長︶
。
並行して、2000年代後半から力を入
れ て い る の が M&A︵ 合 併・買 収 ︶戦 略 だ。
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製 紙 原 料 な ど に 加 工 さ れ、 再 資 源 化 率 は
イクルセンター﹂を新設。リサイクル施設
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06
3
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度目の大胆な投
年度までに約 200億円を
ネルギー事業を展開する。再生可能エネル
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2016 July SMBC マネジメント+
23 SMBC マネジメント+ 2016 July
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川崎リサイクルセンター。日本で最大規模のリサイクルセンターである
にかけられ、木質チップに整形されて紙製品の
原料や発電用の燃料として利用される
川崎リサイクルセンターの工場見学の風景。
挑戦 する企業