[リサーチTODAY]ドル安で世界はハッピー、日本だけ円高で困る四面楚歌

リサーチ TODAY
2016 年 6 月 29 日
ドル安で世界はハッピー、日本だけ円高で困る四面楚歌
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
年初来急速に円高が進み、6月に円は1ドル100円台前半にまで達し、円売り為替介入論も生じた。さら
に、先週はBrexit(英国のEU離脱)が決まり、一時100円割れの円高になった。筆者が為替について長らく
ストーリーラインとしてきたのは、「達磨さんが転んだ」に例え、トレンドの転換は常に「鬼」である米国サイド
に因るとした。今年2月以降、TODAYでは米国の為替政策がドル安に転じたとした。それに、今はBrexitが
加わり、円の独歩高になった。この円独歩高状況を、日本以外の国々は「心地よい」と思っている可能性が
強い。下記の図表は主要4通貨の実効為替レートの推移である。米国のドル安誘導策で、それまでのドル
高トレンドが転換し年初からドルは減価した。一方で人民元は事実上、ドルにペッグしていたため、年初か
ら減価傾向にある。米国のドル安誘導のなか、本来ならば上昇すべきユーロはBrexitのため上昇していな
い。その結果、円だけが年初来独歩高だ。中国はドル高が転換したことにより人民元の連れ高不安が後退
したことに満足し、さらに、ドル高からの転換で原油安にも歯止めが掛かり、リスクオフに陥る不安が低下し
たことで新興国も満足だ。日本では為替介入論も生じるが、世界中にサポーター不在であることを認識す
る必要がある。
■図表:主要4通貨の実効為替レート推移
130
(2014/7/1=100)
125
120
ドル
115
円
110
105
人民元
100
95
ユーロ
90
85
2014/1/1
2015/1/1
2016/1/1
(注)1.円は日銀公表値(円インデックス、ただし 1 営業日後実績)。2016 年 6 月 24 日は、BIS ウェイトに基づき、
みずほ総合研究所が計算。
2.ドルは FRB 公表値。ただし 2016 年 6 月 20-24 日は FRB ウェイトに基づきみずほ総合研究所が計算。
3.人民元は Bloomberg による推計。
4.ユーロは ECB 公表値。
(資料)各種資料よりみずほ総合研究所作成
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リサーチTODAY
2016 年 6 月 29 日
米国、欧州、中国の事情を振り返ると、米国はドル安誘導の状態にあるため、ドル高抑制のインセンティ
ブを持たない。欧州は、そもそもマイナス金利で通貨安戦争をしかけた首謀者のため、本来米国のドル安
誘導でユーロ高に転じるべきところ、Brexitでユーロ高が抑制されたのをラッキーと思っている。最も現状に
満足しているのは中国だ。中国は昨年までのドル高トレンドのなか、事実上のドルペッグを続けてきたことで
生じた人民元連れ高による負担を強く意識してきた。その負担に耐え切れず、昨年8月と年初に人民元を
切り下げざるをえなかった。一方、米国がドル安政策に転じたことにより、中国ではもう一段の元切り下げ危
機を回避できるという意識が根強い。今年2月の上海G20では米中密約説が根強く語られた。それは、米
国がドル高へ転換することで、人民元の切り下げを抑制することだった。その結果、上海G20は世界経済は
リスクオフを回避して小康状態を生み出す転機となった。
下記の図表は名目実効ドルレートと原油価格(WTI)の推移である。名目実効ドルレートと原油相場の間
には高い相関があることが、市場では共通認識となっている。ドル高からの転換により原油相場が底入れし
たとの意識が生じやすかった。2月以降、世界経済がリスクオフを回避できたのには、ドル高の転換で原油
価格が底入れした面も大きかった。このように、ドル高転換を、米国はもとより、中国を筆頭に新興国も好感
した。さらに、資源価格の底入れの観点からドル安が好感された。欧州は特殊要因で困らなくなったので、
唯一困っている日本は四面楚歌の状態だ。
■図表:名目実効ドルレートと原油価格(WTI)推移
160
(ドル/バレル)
(2011年初=100)
95
100
140
ド
ル
110 安
105
120
100
120
WTI(左目盛)
60
ド
ル
130 高
125
名目実効ドルレート(右逆目盛)
40
20
11
12
13
←→
115
80
14
15
16
135
(年)
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
今後を展望すれば、「達磨さんが転んだ」の鉄則からみて、「鬼」であるアメリカが円安を好まない以上、
日本がいくらマイナス金利幅を拡大させても円安にはなりにくい。しかし、1ドル100円割れは日本に深刻な
影響をもたらしやすいため、Brexitを理由とする介入は、「ファンダメンタルズに反する世界不安への対応」
との理屈で絶好の介入機会でもある。しかも、機関投資家は円投の外債投資を待ち構えているために、介
入があればドル買いに動きやすく、この点からもBrexitは絶好の機会だ。Brexitにより攻防ラインは105円か
ら100円まで推移した。今回、特例で介入があるにしても四面楚歌の日本は円高を覚悟する必要がある。
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