マイナス金利政策が導入された今期、どのような影響が表れ

金融資本市場
2016 年 6 月 27 日
全 12 頁
資金循環統計(2016 年 1-3 月期)
マイナス金利政策が導入された今期、どのような影響が表れたか?
金融調査部1
[要約]

日本銀行(以下、日銀)から 2016 年 1-3 月期の資金循環統計(速報)が公表された。
マイナス金利政策が導入された今期、各主体の投資行動にどのような変化をもたらした
のかが注目される。

家計の金融資産残高は、株式等、現預金、投資信託を中心に減少した。マイナス金利政
策導入の影響による預金金利の引き下げ後も家計資産のポートフォリオに占める現預
金の割合は微増となっている。

預金取扱機関(銀行等)は、これまで同様に国債の売却を進める一方、貸出や対外証券
投資といったリスク資産を増やして(買い越して)いるが、依然として現預金の積み上
がる状況が続いている。マイナス金利政策の導入当初の段階としては、ポートフォリオ
リバランスの促進効果は発現していないと言える。

生命保険の金融資産残高は、金利低下による国債やその他債券の時価上昇を要因に増加
した。前期に引き続き、対外証券投資は残高・フローともにプラスとなった。

年金(年金基金と公的年金の合計)の金融資産残高は、株価下落の影響により減少した。
一方、フローの動向からは、債券を売却し、株式等や対外証券などのリスク資産を買い
増す動きが引き続き確認された。

事業会社(民間非金融法人企業)の金融資産残高は、株価下落と円高進行により減少に
転じた。一方、現預金残高は 3 四半期連続で過去最高を更新している。資金調達を見る
と、借入、事業債、株式等いずれもマイナスであり、マイナス金利政策が導入されたも
のの、企業の資金需要は盛り上がりに欠けていることがうかがわれる。

海外部門の金融資産残高は、株価下落による評価額減少の影響を受けて、減少した。フ
ローでは、株式等、国債、その他債券が売り越しとなった一方、貸出、現預金が買い越
しとなっている。
1
執筆者は、中里幸聖、佐川あぐり、菅谷幸一、中田理惠、森駿介。
株式会社大和総研 丸の内オフィス
〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号 グラントウキョウ ノースタワー
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1.
主体別動向
(1)家計
家計金融資産は株式を中心に減少
家計の金融資産残高は、1,705.5 兆円(前期比▲34.7 兆円)となった(図表 1)。残高が減少
した主な項目は株式等(同▲15.3 兆円)、現預金(同▲9.3 兆円)、投資信託(同▲4.3 兆円)で
ある。株式等および投資信託に関しては、フローは各々+0.7 兆円、▲0.1 兆円となっているこ
とから、残高の減少は主に年初からの中国の景気減速懸念等を受けた国内外の市場の動揺によ
る株価の値下がりに起因するものであろう。
現預金に関してはそもそも、賞与月が含まれない 1-3 月期は残高が前期比で減少しやすい時
期である。なお、今年 1 月よりマイナス金利政策が導入され、大手行による預金金利の引き下
げが発表されたが、家計金融資産全体に占める現預金の割合は前期比+0.5%pt の微増となって
いる。
図表 1
家計の金融資産の状況(2016 年 1-3 月期)
(左図:フロー等、右図:残高)
(兆円)
-40
金融資産残高
-30
-34.7
現金・預金
-20
-10
0
0.5
-0.2
-15.3
株式等
0.7
-4.3
-0.1
-0.6
投資信託
保険・年金・定型保証
対外証券投資
-19.0
(参考)投資計
残高増減
残高
構成比
前期差
(兆円)
(%)
(%pt)
1,705.5
100.0
現金・預金
893.6
52.4
(0.5)
債券
22.0
1.3
(0.1)
株式等
152.9
9.0
(▲0.7)
投資信託
92.0
5.4
(▲0.1)
保険・年金・定型保証
509.4
29.9
(0.6)
9.3
0.5
(0.0)
合計
-13.4
-9.3
-9.3
債券
10
0.4
0.2
0.6
1.1
フロー(資金純投入)
対外証券投資
その他
26.4
1.5
(▲0.3)
(参考)投資計
276.2
16.2
(▲0.8)
(注)残高増減は前期比で価格変動を含めた数値(以降の図表において全て同じ)
。債券は国債・地方債・政府
関係機関債・金融債・事業債を含む。投資計は債券・投資信託・株式等・対外証券投資の合計。
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
(2)中央銀行(日銀)
マイナス金利政策の影響により、国債残高は前期比で過去最大の増加額
中央銀行の金融資産残高は、貸出(前期比▲2.5 兆円)、株式等(同▲0.3 兆円)が減少した
一方、国債2の増加(同+33.1 兆円。うち国債・財投債同+28.8 兆円、国庫短期証券同+4.3 兆
円)を主因に、全体で前期比増加額が過去最大の+29.8 兆円となり、430.7 兆円となった(図
2
国債は国債・財投債と国庫短期証券の合計値。
3 / 12
表 2)。国債残高増加の背景には、一連の緩和政策に加え、マイナス金利政策導入による金利低
下(債券価格の上昇)が挙げられる。金融資産残高も過去最高を更新した。
なお、2016 年 6 月 10 日時点における日銀の資産構成(日本銀行「営業毎旬報告」による)は、
長期国債 323.3 兆円、国庫短期証券 50.6 兆円、貸付金 32.2 兆円、信託財産指数連動型上場投
資信託(ETF)8.2 兆円、信託財産不動産投資信託(J-REIT)0.3 兆円、総資産 429.3 兆円とな
っている。
図表 2
中央銀行の金融資産の状況(2016 年 1-3 月期)
(左図:フロー等、右図:残高)
-5
0
5
10
15
金融資産残高
(兆円)
25
30
20
21.5
29.8
貸出 -2.5
-2.5
4.3
4.3
国庫短期証券
28.8
国債・財投債
その他債券
株式等
対外証券投資
-0.3
-0.3
-0.3
19.1
0.0
-0.2
-0.0
残高増減
フロー(資金純投入)
残高
構成比
前期差
(兆円)
(%)
(%pt)
金融資産残高
430.7
100.0
貸出
35.4
8.2
(▲1.2)
国庫短期証券
47.3
11.0
(0.3)
国債・財投債
317.1
73.6
(1.7)
その他債券
5.1
1.2
(▲0.2)
株式等
2.6
0.6
(▲0.1)
対外証券投資
4.4
1.0
(▲0.1)
その他
18.7
4.3
(▲0.3)
(注)その他債券は地方債・政府関係機関債・金融債・事業債・居住者発行外債・CP の合計(以降の図表におい
て全て同じ)
。
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
(3)預金取扱機関(銀行等)
貸出・対外証券投資などが増加する一方、依然として現預金の積み上がりが続く
預金取扱機関の金融資産残高は、前期比+32.6 兆円の 1,837.6 兆円となった(図表 3)
。資産
残高の増加は、現金・預金(同+20.1 兆円)、貸出(同+15.1 兆円)、国債(同+2.2 兆円)、そ
の他債券(同+2.5 兆円)
、対外証券投資(同+0.9 兆円)などが増加に寄与した。一方、株式
等は、株価下落の影響を受けて、同▲8.3 兆円の残高減少となった。
国債(239.4 兆円。国債・財投債(232.3 兆円)および国庫短期証券(7.1 兆円)の合計)に
ついては、日銀の買い入れオペにより、フローでは▲7.0 兆円の売り越しとなった。一方、マイ
ナス金利政策の導入の影響により、金利低下が一層加速したことから、それに伴う時価上昇分
が売り越し分を上回る形で、残高は 12 四半期ぶりに増加に転じた。なお、国債の売却代金は、
日銀当座預金に積み上がっている
(日銀預け金は前期比+22.4 兆円増加で、
16 四半期連続増加)。
これにより、現金・預金残高は、14 四半期連続で増加している。
貸出は、前期比+15.1 兆円と 3 四半期連続で増加した。貸出のフローは+18.7 兆円であるこ
とから、海外向けの貸出のうち外貨建てが円高により目減りしたものと考えられる。また、海
4 / 12
外部門への貸出残高について、海外部門における負債を見ると、民間金融機関からの借入残高
は 66.5 兆円(同▲6.4 兆円)と減少に転じ(図表 4)、フローでも▲3.6 兆円の流出超(借入減
少)となった。
以上のように、預金取扱機関は、これまで同様に日銀の買いオペに応じて国債の売却を進め
る一方、貸出や対外証券投資といったリスク資産を増やして(買い越して)いるが、現金・預
金が積み上がる状況が依然として続いている。マイナス金利政策の導入からわずかしか経って
いないため、その効果を見極めることはできないが、導入当初の段階としては、ポートフォリ
オリバランスの促進効果は発現していないと言える。
図表 3
預金取扱機関の金融資産の状況(2016 年 1-3 月期)(左図:フロー等、右図:残高)
-10
0
10
20
30
40
(兆円)
50
金融資産残高
43.3
現金・預金
20.1
20.2
貸出
15.1
18.7
2.2
国債
-7.0
2.5
2.5
その他債券
-8.3
株式等
0.1
0.9
対外証券投資
4.0
残高増減
残高
構成比
前期差
(兆円)
(%)
(%pt)
1,837.6
100.0
現金・預金
431.3
23.5
(0.7)
貸出
740.2
40.3
(0.1)
国債
239.4
13.0
(▲0.1)
その他債券
123.7
6.7
(0.0)
株式等
28.2
1.5
(▲0.5)
対外証券投資
113.3
6.2
(▲0.1)
その他
161.5
8.8
(▲0.2)
項目
32.6
金融資産残高
フロー(資金純投入)
(注)国債は国債・財投債と国庫短期証券の合計値。
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
図表 4 海外部門の民間金融機関からの借入残高推移
(兆円)
80
70
60
50
40
30
20
10
0
1997/12
2000/12
2003/12
2006/12
2009/12
2012/12
2015/12
(年/月末)
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
5 / 12
(4)生命保険
マイナス金利政策導入により、対外証券投資への資金シフトが加速していく可能性
生命保険の金融資産残高は、前期比+10.0 兆円の 367.3 兆円となり、2 期連続の増加となっ
た(図表 5)
。金融資産残高が増加した主な要因は、国債(同+10.4 兆円)およびその他債券(同
+3.2 兆円)の増加である。ただし、これらをフローで見ると、国債は+0.4 兆円、その他債券
は+0.6 兆円の取得超にそれぞれ留まることから、金利低下による時価上昇の影響が大きかった
ことがうかがえる。なかでも国債については、金融資産全体における構成比が 45%超と高く、
さらに国債金利が長期ゾーンに至るまでマイナスを付けるなど金利低下が急速に進んだことで
残高を大きく押し上げたと言える。
この他の資産では、対外証券投資(前期比+1.6 兆円)や現金・預金(同+1.6 兆円)が増加
した一方、貸出(同▲3.8 兆円)や株式等(同▲2.7 兆円)は減少となった。対外証券投資につ
いては、フローでは+3.2 兆円の取得超であることから、円高による時価下落の影響により残高
の増加を一部相殺したと思われる。また、株式等については、フローでは+0.1 兆円と、わずか
ながら流入超となっており、残高減少は株安によるものと考えられる。
以上のように、急速に進んだ金利低下を受けて、国債やその他債券の時価上昇を主な要因に
金融資産残高は増加したが、一方でインカムゲインをより期待しづらい状況になってきたと言
える。対外証券投資は、為替リスクまたはそのヘッジコストなどを伴うものの、国内債券に比
べて相対的に高い運用利回りを期待できることから、近年は増加(取得超)の傾向が見られた。
今後もこのような動きが継続する可能性が考えられるが、金利低下や円高がさらに進めば、こ
うした傾向が強まることも考えられよう。
図表 5
生命保険の金融資産の状況(2016 年 1-3 月期)
(左図:フロー等、右図:残高)
-5.0
0.0
5.0
金融資産残高
現金・預金
-3.8
貸出
-3.9
国債
その他債券
株式等 -2.7
対外証券投資
(兆円)
15.0
10.0
10.0
2.0
金融資産残高
残高
構成比
前期差
(兆円)
(%)
(%pt)
367.3
100.0
現金・預金
6.0
1.6
(0.4)
貸出
40.0
10.9
(▲1.4)
国債
166.6
45.3
(1.6)
0.6
その他債券
43.4
11.8
(0.6)
0.1
株式等
17.8
4.8
(▲0.9)
対外証券投資
67.5
18.4
(▲0.1)
その他
26.1
7.1
(▲0.3)
1.6
1.6
10.4
0.4
3.2
1.6
3.2
残高増減
フロー(資金純投入)
(注)国債は国債・財投債と国庫短期証券の合計値。
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
6 / 12
(5)年金
リスク性資産への資金流入が続くが、株価下落の影響により金融資産残高は減少
年金基金と公的年金を合わせた年金計の金融資産残高は 364.2 兆円(前期比▲1.2 兆円)とな
った(図表 6)
。なお、フローは+1.7 兆円であった。
残高増減の内訳は、財政融資資金預託金(同+3.3 兆円)、国債・財投債(同+1.7 兆円)等
が増加した。一方で、株式等(同▲2.8 兆円)、投資信託(同▲0.6 兆円)が減少し、残高全体
では減少となった。フローでは、国債・財投債(▲1.6 兆円)、その他債券(▲0.5 兆円)がマ
イナスとなった。一方で、財政融資資金預託金(+3.3 兆円)、株式等(+1.6 兆円)、対外証券
投資(+1.4 兆円)などがプラスとなり、全体のフローは+1.7 兆円となった。
残高については、株価下落による資産価格変動の影響を受け、株式等の残高が減少したが、
金利低下による債券価格の上昇により、
金融資産残高の減少幅は 1.2 兆円に留まったと言える。
また、フローの動向からは、2016 年 1-3 月期も、債券を売却し、株式等や対外証券などのリス
ク資産を買い増す動きが続いていたことが読み取れる。ポートフォリオの再構築が、引き続き
進められていたと言える。
図表 6
年金の金融資産の状況(2016 年 1-3 月期)
(左図:フロー等、右図:残高)
-4
-2
金融資産残高
0
2
(兆円)
4
1.7
-1.2
0.1
0.1
現金・預金
3.3
3.3
財政融資資金預託金
0.5
0.5
貸出
国債・財投債
1.7
-1.6
その他債券
株式等 -2.8
投資信託
対外証券投資
残高増減
0.0
-0.5
1.6
-0.6
0.0
0.3
1.4
フロー(資金純投入)
項目
残高
(兆円)
構成比 前期差
(%)
(%pt)
金融資産残高
364.2
100.0
現金・預金
14.0
3.8
(0.0)
財政融資資金預託金
11.9
3.3
(0.9)
貸出
8.8
2.4
(0.2)
国債・財投債
87.1
23.9
(0.5)
その他債券
32.6
8.9
(0.0)
株式等
53.1
14.6 (▲0.7)
投資信託
10.8
3.0 (▲0.2)
対外証券投資
92.1
25.3
その他
53.8
14.8 (▲0.9)
(0.2)
(注)年金基金と公的年金を合わせた年金計。
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
(6)民間非金融法人企業(事業法人)
株価下落と円高進行により金融資産残高が減少、資金需要は盛り上がりに欠ける
民間非金融法人企業の金融資産残高は 1,093.7 兆円(前期比▲17.8 兆円)と減少となった(図
表 7)
。残高減少の主な要因は株式等(同▲28.5 兆円)の減少であり、その他、企業間・貿易信
用(同▲1.8 兆円)
、対外直接投資(同▲1.3 兆円)が減少している。株式等はフローでは+0.2
7 / 12
兆円であり、前期末比で株式相場が下落したことが残高減少の主因である。企業間・貿易信用
はフローで▲4.8 兆円、対外直接投資は+3.2 兆円となっている。対外直接投資の残高減少は、
この期間の円高による評価減によるものである。現金・預金の残高は 261.4 兆円(前期比+16.6
兆円)と 3 四半期連続で過去最高を更新しており、高水準の現金・預金を保有している状態が
続いている。
金融負債(資金調達)を見ると、フローで借入が▲0.9 兆円(うち民間金融機関からの借入
+0.4 兆円)
、事業債が▲1.5 兆円、株式等は▲2.2 兆円となった。資金運用と資金調達の差(資
金過不足)は 17.5 兆円の資金余剰となった。マイナス金利が導入されたものの、2016 年 3 月時
点までの企業の資金需要は盛り上がりに欠けていることがうかがわれる。
図表 7
民間非金融法人企業の金融資産の状況(2016 年 1-3 月期)
(左図:フロー等、右図: 残高)
-30
金融資産残高
-20
-10
0
10
(兆円)
20
残高
構成比
前期差
(兆円)
(%)
(%pt)
1,093.7
100.0
現金・預金
261.4
23.9
(1.9)
貸出
50.4
4.6
(0.4)
株式等
276.3
25.3
(▲2.2)
対外証券投資
52.9
4.8
(0.3)
対外直接投資
108.1
9.9
(0.0)
企業間・貿易信用
223.3
20.4
(0.2)
その他
121.3
11.1
(▲0.6)
項目
-17.8
1.1
金融資産残高
16.6
16.6
現金・預金
3.6
4.1
貸出
-28.5
株式等
0.2
2.2
1.8
対外証券投資
対外直接投資
-1.3
企業間・貿易信用
-1.8
残高増減
3.2
-4.8
フロー(資金純投入)
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
(7)海外
海外主体の金融資産残高は、株価下落の影響から減少
海外部門の金融資産残高は、576.9 兆円(前期比▲22.8 兆円)と、減少に転じた(図表 8)
。
なお、フローは+3.8 兆円であった。
残高増減の内訳は、株式等(前期比▲34.8 兆円)が減少したが、その他(未収・未払金やそ
の他対外債権債務等。同+10.7 兆円)
、国債(同+1.2 兆円)と増加し、全体として同▲22.8 兆
円の減少となった。また、一方で、フローでは、株式等(▲6.1 兆円)がマイナスとなったが、
その他(+6.0 兆円)
、貸出(+3.9 兆円)、現金・預金(+1.1 兆円)がプラスとなり、金融資
産全体で+3.8 兆円とプラスであった。なお、国債は▲0.4 兆円の処分超となったが、その内訳
を見ると、国庫短期証券が▲1.8 兆円のマイナスとなった一方、国債・財投債は+1.5 兆円のプ
ラスとなっている。
8 / 12
金融資産残高が減少した主な要因は、株式等が減少(前期比▲34.8 兆円)したことである。
株式等のフローが▲6.1 兆円であったことから見ても、株価下落による評価額の減少が大きく影
響したと言えよう。株式市場の投資部門別売買状況(二市場一部・二部等(東証と名証)、出所:
東京証券取引所)を見ると、外国人投資家は、2016 年 1-3 月の 3 ヵ月間で 5.0 兆円を売り越し
た。4-5 月は、4 月が 0.9 兆円の買い越し、5 月が 0.3 兆円の売り越しと、売買が交錯している。
英国の欧州連合(EU)からの離脱問題などを背景に、国内外の株式相場が大きく変動する中、
外国人投資家の売買動向は、方向感の欠けた状況と言えるだろう。
図表 8
海外部門の金融資産の状況(2016 年 1-3 月期)
(左図:フロー等、右図:残高)
-40
-30
-20
-10
-22.8
金融資産残高
現金・預金
貸出
-0.2
国債
-0.4
-0.9
-0.9
その他債券
株式等
-34.8
0
10
(兆円)
20
3.8
0.8
1.1
金融資産残高
3.9
1.2
-6.1
0.4
0.1
投資信託
その他
残高増減
10.7
6.0
フロー(資金純投入)
残高
構成比
前期差
(兆円)
(%)
(%pt)
576.9
100.0
9.9
1.7
(0.2)
貸出
158.0
27.4
(1.0)
国債
109.6
19.0
(0.9)
その他債券
16.2
2.8 (▲0.0)
株式等
176.0
30.5 (▲4.6)
現金・預金
投資信託
その他
2.6
0.4
(0.1)
104.5
18.1
(2.5)
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
2.
金融資産別の動向
(1)国債・財投債
預金取扱機関は引き続き売り越しだが、マイナス金利突入で残高は増加
国債・財投債の残高は 955.0 兆円(前期比+45.1 兆円)で、11 四半期連続で増加し、過去最
高更新が続いている(図表 9)
。主体別保有残高を見ると、中央銀行(同+28.8 兆円)が引き続
き残高を大きく増やし、保険(同+12.2 兆円)、海外(同+3.0 兆円)も残高を増やしている。
これらの主体はフローでもプラスとなっており、特に中央銀行は+19.1 兆円と大きく買い越し
ている。一方、預金取扱機関(前期比+3.6 兆円)
、年金計(同+1.7 兆円)なども残高が増え
ているが、フローでは預金取扱機関▲5.6 兆円、年金計▲1.6 兆円と売り越しており、マイナス
金利政策導入による金利低下(債券価格は上昇)の影響が大きいとみられる。日銀の一連の緩
和政策を受け、中央銀行は継続して国債買い入れを行っており、預金取扱機関を中心にその他
の主体が売り手となっている状況が続いてはいるが、マイナス金利突入という金利低下の一層
の進行により、時価ベースの残高は全体として増加傾向となった。
中央銀行の保有残高の増加は 2010 年 3 月末から 25 四半期連続であり、特に 2013 年 6 月末以
9 / 12
降は毎四半期 10~20 兆円台の増加が継続している。2013 年 4 月に量的・質的金融緩和を導入す
る直前(2013 年 3 月末時点)の中央銀行の保有シェアは 11.6%であったが、2015 年 9 月末時点
に預金取扱機関を抜いて保有シェアトップとなり、2016 年 3 月末は 33.2%となった。一方、預
金取扱機関は 2013 年 3 月末の 38.9%から 2016 年 3 月末の 24.3%へと保有シェアを大幅に低下
させている。
図表 9
国債・財投債の主体別保有状況(2016 年 1-3 月期)
(左図:フロー等、右図:残高)
-20
0
20
国債・財投債計
年金計
その他金融機関
非金融法人企業
一般政府(除く公的年金)
家計
45.1
海外
残高増減
前期差
(%pt)
317.1
33.2
(1.5)
預金取扱機関
232.3
24.3
(▲0.8)
保険
210.2
22.0
(0.2)
年金計
87.1
9.1
(▲0.3)
その他金融機関
31.3
3.3
(▲0.7)
非金融法人企業
5.8
0.6
(▲0.0)
0.1
一般政府(除く公的年金)
2.5
0.3
(▲0.0)
0.2
家計
13.8
1.4
(▲0.1)
海外
50.8
5.3
(0.1)
その他
4.2
0.4
(▲0.0)
19.1
-5.6
-0.3
保有シェア
(%)
中央銀行
3.6
0.0
残高
(兆円)
100.0
28.8
-1.6
-4.5
-5.3
-0.1
-0.3
項目
955.0
7.9
保険
(兆円)
60
国債・財投債計
中央銀行
預金取扱機関
40
0.4
1.7
12.2
3.0
1.5
フロー(資金純投入)
(注)国債・財投債計は、国庫短期証券を含まない。年金計は、年金基金と公的年金を含む。その他金融機関の
数値は金融機関合計から中央銀行・預金取扱機関・保険・年金基金を減じたもの。
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
(2)株式
海外部門は 5 兆円の売り越し
株式(ここでは上場株式に限定し、出資金は含まず)の残高は、前期比▲72.7 兆円の 517.2
兆円となった(図表 10)
。各主体の減少額を見ると、海外(同▲27.9 兆円)、民間非金融法人企
業(同▲13.4 兆円)
、家計(同▲10.7 兆円)、国内銀行(同▲8.5 兆円)等、全主体において残
高が減少している。
フローを見ると、全体では▲1.0 兆円となっており、残高の減少は主に株価の下落に起因して
いる。主体別では海外(▲5.0 兆円)が統計改訂値で遡ることのできる 2005 年 4-6 月期以降最
大の売り越し額を記録した。その他、国内銀行(▲0.7 兆円)、民間非金融法人企業(▲0.5 兆
円)等が売り手となっている。一方で、年金計(+1.7 兆円、うち公的年金+1.0 兆円)、その
他金融機関(+1.5 兆円)
、家計(+1.5 兆円)等が買い手となった。なお、年金計の約 6 割は
公的年金によるものであることから、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が株式保有を
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増やしている可能性が示唆される3。
2016 年 4-6 月期においては、外国人投資家は買い越しに個人投資家は売り越しに転じる可能
性がある。株式市場の投資部門別売買状況(二市場一部・二部等(東証と名証)、出所:東京証
券取引所)によれば、2016 年 4 月から 6 月第 2 週までの間、外国人投資家が+6,120 億円の買
い越し、個人が▲6,230 億円の売り越しとなっている。なお、年金は明らかではないが、年金等
から株式売買を受託している信託銀行の売買状況は+4,574 億円の買い越しとなっている。
図表 10
株式(上場)の主体別保有状況(2016 年 1-3 月期)
(左図:フロー等、右図:残高)
-80 -70 -60 -50 -40 -30 -20 -10
上場株式計 -72.7
国内銀行
生命保険
損害保険
年金基金
公的年金
投資信託
その他金融機関
民間非金融法人企業
家計
海外
0
(兆円)
10
-1.0
-8.5
-0.7
-2.7
0.1
-1.0
-0.0
-2.0
0.7
-0.8
1.0
-1.5
0.4
-1.5
1.5
-13.4
-0.5
-10.7
1.5
保有シェア
前期差
(%)
(%pt)
株式計
国内銀行
生命保険
損害保険
年金基金
公的年金
517.2
15.6
17.5
7.1
11.9
39.8
100.0
3.0
3.4
1.4
2.3
7.7
(▲1.1)
(▲0.0)
(▲0.0)
(▲0.1)
(0.8)
投資信託
31.9
6.2
(0.5)
その他金融機関
27.8
5.4
(0.4)
民間非金融法人企業
101.8
19.7
(0.1)
家計
88.2
17.0
(0.3)
海外
158.0
30.6
(▲1.0)
-27.9
残高増減
残高
(兆円)
-5.0
フロー(資金純投入)
(注)主要な主体を取り上げた。「公的年金」は金融機関に含まれないが、便宜上、年金基金の次に表示した。
なお、文中の「年金計」は、年金基金および公的年金の合計。
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
図表 11
株式(上場)の主体別保有シェア推移
(%)
35
海外
30
25
民間非金融
法人企業
家計
20
年金計
15
生保・損保
10
国内銀行
5
投資信託
0
2005/3
2007/3
2009/3
2011/3
2013/3
2015/3
(年/月末)
その他
(注)年金計は、年金基金と公的年金の合計。
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
3
公的年金は年金保険を運営する公的年金として、国の特別会計の一部等(年金特別会計・厚生年金勘定、同・
国民年金勘定、同・基礎年金勘定、年金積立金管理運用独立行政法人<総合勘定、承継資金運用勘定>)
、共済
年金(共済組合の長期計理)
、農業者年金基金(旧年金勘定)
、石炭鉱業年金基金が集計対象となっている。な
お、公的年金部門が保有する上場株式は、2015 年 12 月末時点で 40.6 兆円だが、年金積立金管理運用独立行政
法人の同時点の国内株式運用資産額は 32.6 兆円であり、その大半を占めている。
11 / 12
(3)対外証券投資
対外証券投資は非金融法人企業、保険、預金取扱機関で増加
対外証券投資残高は 548.5 兆円(前期比▲2.8 兆円)と減少となった(図表 12)。残高の減少
は前期末比で為替が円高になったことや、証券価格の下落等の影響によるものとみられ、フロ
ーで見ると対外証券投資は合計+11.9 兆円の取得超である。主体別に見ると一般政府の対外証
券投資残高が最も大きく減少しており(前期比▲7.0 兆円)、次いで証券投資信託(同▲1.1 兆
円)となっている。
各主体がどのような資産に投資をしたか、国際収支統計(対外証券投資)の資産別(株式・
投資ファンド持分、中長期債、短期債)の資金フローから確認したい4。2016 年 1-3 月期におい
ては、預金取扱機関は中長期債(+3.7 兆円)を、証券投資信託(投資信託委託会社等)は株式・
投資ファンド持分(+1.6 兆円)を、年金基金と公的年金(国際収支統計では年金という分類
は設けていないため、ここでは信託銀行の信託勘定の数値を用いる)は株式・投資ファンド持
分(+1.4 兆円)と中長期債(+0.9 兆円)を、生命保険は中長期債(+3.3 兆円)への投資を、
それぞれ増やしたようだ5。
図表 12
対外証券投資の主体別保有状況(2016 年 1-3 月期)
(左図:フロー等、右図:残高)
(兆円)
-10
-5
0
10
-2.8
合計
保険
年金基金
-1.1
証券投資信託
-0.7
-0.5
その他金融
非金融法人企業
-7.0
-1.5
家計
残高増減
残高
(兆円)
15
11.9
0.9
預金取扱機関
一般政府
5
4.0
2.4
3.9
0.4
1.5
2.2
2.2
1.8
0.2
0.6
構成比
(%)
前期差
(%pt)
対外証券投資計
548.5
100.0
預金取扱機関
113.3
20.7
(0.3)
保険
77.1
14.1
(0.5)
年金基金
32.7
6.0
(0.1)
証券投資信託
79.7
14.5
(▲0.1)
その他金融
7.2
1.3
(▲0.1)
非金融法人企業
53.1
9.7
(0.4)
一般政府
176.2
32.1
(▲1.1)
9.3
1.7
(0.0)
家計
フロー(資金純投入)
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
4
5
資金循環統計と国際収支統計の数値は、集計方法の違いなどから完全に一致するものではない。
いずれもネットの数値。
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<参考図表>
主体別金融資産残高
① 家計
(兆円)
2,000
その他
②中央銀行
(兆円)
500
450
1,800
対外証券投資
1,600
1,400
株式等
350
1,200
投資信託
300
1,000
その他債券
800
150
400
貸出
100
現金・預金
2007/09
2010/03
2012/09
2015/03
(年/月)
0
2005/03
④ 生命保険
(兆円)
2,000
(兆円)
400
1,600
1,400
1,200
2010/03
2012/09
(年/月)
2015/03
350
その他
300
対外証券投資
株式等
250
株式等
国債
600
貸出
400
現金・預金
その他債券
200
国債
150
貸出
100
現金・預金
50
200
2007/09
2010/03
2012/09
2015/03
(年/月)
⑤ 年金計
その他
(兆円)
400
対外証券投資
350
投資信託
300
株式等
0
2005/03
2007/09
2010/03
2012/09
2015/03
その他
1,000
企業間・貿易信用
対外直接投資
対外証券投資
その他債券
200
国債
150
100
50
2007/09
2010/03
2012/09
2015/03
株式等
600
その他債券
貸出
400
財政融資資金
預託金
現金・預金
200
(年/月)
(年/月)
⑥民間非金融法人企業
(兆円)
1,200
800
250
0
2005/03
2007/09
対外証券投資
800
0
2005/03
貸出
その他
その他債券
1,000
国債
50
③ 預金取扱機関
1,800
その他債券
200
国債
0
2005/03
対外証券投資
250
600
200
その他
400
0
2005/03
国債
貸出
現金・預金
2007/09
2010/03
2012/09
2015/03
(年/月)
⑦ 海外
(兆円)
600
500
その他
株式等
400
投資信託
300
その他債券
国債
200
貸出
現金・預金
100
0
2005/03
2007/09
2010/03
2012/09
2015/03
(年/月)
(注)2008SNA ベース。国債は国債・財投債と国庫短期証券の合計。その他は主体ごとに、金融資産残高の合計
から各記載項目の残高を減じた値となっている。
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成